【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】08 鈴木里美
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.08 鈴木里美
(2018年12月取材/撮影)
わりと好きに やらせてもらってます(笑)。
南信州、駒ヶ根市にある劇団サムライナッツ。年一回大劇場で行われる公演は、チャンバラエンタテインメントを志向し、質の高い舞台を創り続けて、地域の人々を中心に広く愛されている。 その中で、今夏の公演では主演女優として『幕末マクベス』の真玖部(まくべ)の奥方役を好演、さらには衣裳担当として出演者全員34人分の衣裳をデザインから作製までと、大車輪の活躍を見せた鈴木里美に「女優」「衣裳」「サムナツ」への思いを聞いた。
この土地で観てもらうということを考えて。
――少し時間が経ってしまいましたが今夏の公演『幕末マクベス』では、リアリティのある真玖部の奥方になったかなと思うのですけど、いかがですか?
舞台が日本の幕末というのもあって。海外の女性とはちょっと違うかなと思いました。どちらかというと叩いて煽っていくよりも、愛情の部分を強くしたいなっていうのは、作っていく中で感じていました。どうしたら、夫を動かせるのかなって。すごい考えて。怒るだけじゃ、普通、男の人はショボンとなるだけじゃないかと思うんですよね。
――いきなりそこで男の人って。
経験上(笑)。
――はい(笑)。
たぶん、ねぇ…。よくは分かんないですけど。やっぱり「あなたはすごくできるのよ! 天下を揺さぶる能力があるのよ!」って夫の気持ちを上げていって、その上で、上司の殺害をそそのかす。
――それはかなりうまくいきましたね。
まぁ、そう、です、ね。うーん…。夫に、なかなか踏み出せない部分を決断させる流れは作れたのかなとは思います。
――6人の花式神たちを引き連れているシーンも印象的でした。鈴木さんとは一緒にいることが多くて。場面の雰囲気が変わりますよね。
あれはどっちかと言うと、私はお母さんみたいな感じですね(笑)。
――いくら真玖部の奥方がきついこと言っていても、彼女たちの存在で妙に場面が和らいだり。
かなり苦労しましたけど、よかったです。最後まで彼女たちがわたしの感情の象徴?
――みたいな雰囲気で受け取っていました。
身の回りのことをしてもらったりもするんですけど、結局、彼女たちはわたしの分身みたいな感じもあったので、稽古でもコミュニケーションはしっかり取りましたね。
――鈴木さんならではの立ち位置みたいなのが見えて、とても楽しいシーンでした。ほかに気をつけていたことなどはありますか?
やっぱり基の話は有名な作品なので、その中で、サムライナッツらしさを。この土地で見てもらう中で、どういう女性になれるかなっていうのは、考えていました。
――全体としてはいかがですか、鈴木さんがちゃんとしてれば、みんなもちゃんとする?
わたしはちゃんとしてないですよ(笑)。
――(笑)。
わたしはいつもわりと問題児ですから。周りの高校生とかの方がよっぽどちゃんとしてます(笑)。わたしはそんなに何もしてないんですけど。毎年、成長して行きたいとは思っていて、劇団員もそれぞれそういう意識が強いので、公演だけでなく稽古場の雰囲気作りも一緒に、みんなで察して作って行こうっていう気持ちが高まっているとは思いますね。
演劇はつまらない と思っていた。
――鈴木さんのプロフィールなんですが。まず、ここに入る前は?
えーと、農協職員ですね。
――お芝居はしてない?
わたしは25歳まで演劇という世界に興味を持たずに来ました。むしろちょっと、演劇はつまらないと思ってました。
――はい。
見たら寝てしまうものじゃないかって(笑)。25歳のときに、勤め先の先輩に誘われて、剛也(松崎/劇団主宰者)さんが演出した市民ミュージカル『八犬伝』を、そんな期待せずに観に行きました。観たら、なんか、役者さんたちのオーラっていうか、キラキラしている姿に圧倒されたんです。「あ! こんな世界があるんだ! なんてかっこいいんだ!」って。わたしは元から歴史が好きで、「刀を持ちたい!」って思っていたので(笑)。 わたしも戦えるのかなぁって。そのときに、悪の集団がいて、衣裳もきらびやかでステキだし歌ったり踊ったりしていて「悪、楽しそうだな!」って。これは、次の年募集があったら、申し込もうってもうその時にすごく思いました。
――で、1年後に劇団に入る?
1年後に市民ミュージカルで、『早太郎』の芝居をやるっていう募集を見つけて、申込みしました。それがおそらく、チャンバラ劇じゃなかったら、わたしは申し込まなかったですね。わたしはやっぱり、戦いたかったんです。
――お芝居をやるのにそんなすごい動機の人がいるんですね(笑)。
戦いたかったんです(笑)。侍になれる場所なんだって、本当にその世界で生きれるんだって思っていました。
――で、それから今年で何年目ですか?
市民ミュージカルからは8年ですね。劇団は7年。結局まぁ、チャンバラはそんなにわたしは上手にできなくて(笑)。
――え、やってるでしょ?
もう、疲れちゃって(笑)!
――では、どうすれば?
やっぱり役者としては全然満足できてなくて。むしろやればやるほど、悩みますね。お客さんの目も肥えてきて。今までの鈴木里美のお芝居ではいけないんだろうなって思ったり。うーん。すごく難しいですね。年齢によって感じることも違ってくるし、できる役の幅も違ってくるから。どこまで真剣にできるか。きっと地域の方たちも役者たちやスタッフの真剣な思いを感じてくれるからこそ応援してくれる。それでここまで続けて来れたんだろうなって思いますので。
うーーーん。悩んでます。
――主演女優で衣裳も兼ねてるっていうのは、かなり大変なことだと思うんですけど、いかがですか?
いや、そうですね、もう…。とりあえず、衣裳を優先にしがちですね。だけど、もちろん、芝居の方の稽古も着々と進んでいくわけですから、そっちも作っていかなきゃいけないんですけども。わたしが衣裳を作らなかったら、みんな丸裸になってしまうので(笑)。まず衣裳は作らないといけないと思っています。
――以前、2016年の公演『八犬伝NEXT』のお話を伺ったときに、台本がなかなか進まない中で、みんなのモチベーションをキープするために、出演者全員のデザイン画をバーッと出したっていう話が印象に残っています。
台本がまだ来てなくて、自分登場してないけども大丈夫かみたいなところで。『八犬伝』だったので、おおよそ登場してくる役は予想がつくので。3日くらいですごい勢いで描き上げた気がします。それをバンッ! と出して、「大丈夫、衣裳の方はもう決まってるゾ!」って(笑)。
――普通、そういうことはしないですよね。
逆に、今回の『幕末マクベス』は衣裳プランを出さなかったんですよ。
――え?
下書きまでは描いたんですけど。これもう、わたしの頭の中にある! っていうのだけでいっちゃえと思って。
――(笑)。
わたしの頭の中ではすごく組立ったので、色塗りも真玖部だけ。デザイン画も描いてないです。作ってもらう人とかには下書きで見せて説明はしましたけどね。早い段階で着れる人は着てもらって動きに慣れるように、殺陣とかできるようにって。今回は、本が順調に書けてたからかもしれないですね。
――わりと自由というか、決まり事はないんですね。
わりと好きにやらせてもらってます(笑)。
――これからも女優と衣裳はずっと続くわけでしょ?
実は衣裳に専念しようかなって思ったりもしてるんですよね。
――どうして?
やっぱり、中途半端になりたくなくて。どっちも。うーん。やっぱり今回、数が多かったので、役としてもすごく大きい役をいただいていたから。けっこう葛藤があったんですけれど、やっぱりわたし衣裳の仕事がすごく好きで。みんなもすごく頼りにしてくれるし。うーーーん。悩んでます。
――困りましたね。たくさん悩んでよい結論がでますように。女優の鈴木里美さんも楽しみにしてますので。
【鈴木里美プロフィール】
すずきさとみ○2012年劇団旗揚げから参加。以降ほぼ全ての公演に出演、中心的な女優として活躍。柔らかい笑顔のうちに秘めた闘志が凜々しく舞台にみなぎる。衣裳デザインも手掛け劇団員たちの信頼も厚く、女優と衣裳の狭間で現在葛藤中。カルビーポテトチップスうすしお味を好む。
【出演予定】
「えんぶ」雑誌でもレビューをいただいた作品の再演です!
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【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
【構成◇矢﨑亜希子 文◇坂口真人 撮影◇スギノユキコ】
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