【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】04 糸井幸之介
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.04 糸井幸之介
(2020年4月取材/撮影)
ユニバーサルな視点から愛を
パッションで熱気ムンムンだった時代を経て、 徐々に大人のムードも取り入れながら、 時に時空や万物を超えて、変わらず描き続ける、大きな“愛と死”。 女優・プロデューサーの深井順子率いるFUKAIPRODUCE羽衣で、 作、演出、音楽を手がける糸井幸之介の過去・現在・未来!
古いロックと 工作が好き
――いきなりですが、表現とかに興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?
どっぷり浸かったのは、中学生のときでしたね。
――どんな?
ビートルズ、ボブディラン、ストーンズとか。小学生の時にTMネットワークにハマり、だんだん当時の洋楽に興味を持って、徐々に古い方がかっこいいなってなりました(笑)。
――ご自分でもやったりしたんですか?
ギターをちょっとやってみたりはしたんですけど、そこまで練習もせず。部屋で聴いてる感じでした。
――高校で演劇部に入るんですよね?
中学は帰宅部だったので、少しは何かした方がいいんじゃないかと思って。吹奏楽部に入ろうとほぼ決めてたんですけど、一応、演劇部も見学に行ったら、ちょうど舞台美術を作っていて。工作とかの作業が好きだったから、まずそれに惹かれ、作業をしていた男の先輩が長髪だったんですよ。私立高校だから校則があって男子の髪は耳にかかっちゃいけないのに、役の関係で免除されていると聞いて。しかもラジカセからジョンレノンが流れてたんですよ。ここだ! と思って(笑)。演劇に興味があったとかはまるでなかったんですけど、演劇部に入りました。
――それなりに軽率な(笑)。聞くところによると顧問の先生は大変厳しい方だと。
そうなんですよ。本当に大変でしたけど、おかげで、演劇は苦労しないと作れないんだなってことを学びました。
アルバイトは 週4日まで
――そこで深井順子さん(FUKAI PRODUCE羽衣主宰)と同級生だったんですね。
そうです。仲良くしてて、日大の付属だったので2人とも日大の演劇学科演技コースに行きました。
――じゃあ解放された感じですね。
大学1年生で劇団劇団っていう名の劇団を始めて(笑)。深井さんも一緒に。
――どんな作品だったんですか?
深井さんも、僕も唐(十郎)さんの作品が大好きだったから。素朴にアングラっぽい感じかな。それにちょっと歌や音楽が多くなってるみたいな。
――確かに! 状況劇場とか唐組って「妙ージカル」ですね。じゃあ楽しい大学生活を送っていた?
大学自体には行かなくなっちゃって。定期的に公演をやってたんですけど、…本当に身内だけでやっていて。バイトと公演の繰り返しでした。当時は僕が主宰者をやってたんですけど、主宰業務も全くうまくできないし。個人的な話ですけどアルバイトも週5日以上やったらただの仕事になると思って、週4日までにしてたらどんどん借金が膨らみ(笑)。
――(笑)。
首が回んなくなっちゃったり。主宰業務も嫌だし、あの~~~お客さんも増えるわけでもなければ、みたいな事で、劇団劇団を解散しました。
――その時、おいくつですか?
26、27くらいですね。10代から始めたので、5、6年やりましたね。
台本と演出だけなら 嫌なことはまったくない
――深井さんが責任者になったのはいつ頃から?
解散から1年くらい経った頃、深井さんが「またやろうか。今度は私が主宰でやってみましょう」と言ってくれて。僕は台本書いて、演出すればいいという。それだったら嫌なことはまったくないので、やり始めて。で何回かやって、いわゆる演劇の世界に、知られて行けたきっかけはアゴラ劇場でやらせてもらえたのが大きかったですね。
――アゴラ劇場でやって自信もついてきたという感じですか?
そ、う、です、ね(笑)。うーん、自信なのか…わかんないですけど…。
――とにかく作品を作る自信は、あるような感じがしますが。
むしろ最近、自信がなくなってきちゃって。大人になったってことなのかもしれないですけど、変な反省癖がついちゃった。昔は自信が必要だとすら思ってなかったんですけど…。ある程度調子に乗らないと、エネルギーも出ないじゃないですか。でもなかなか調子に…。
音楽や歌とドラマの バランス
――僕らは結構、遅れてきた観客なんですよ。矢﨑が吉祥寺シアターの『耳のトンネル』の再演を観て、ものすごく興奮して帰ってきたのが始まりで。僕はその次の公演『イトイーランド』から見せていただいて魅入られて。あの前から、ああいう傾向の作品を作られてる?
劇団劇団のときから歌ったり踊ったりはしてたんです。羽衣もその流れで始めたんですけど、だんだん音楽と歌が、有機的に作品に絡むように変化して。アゴラ劇場でやり始めた頃は、音楽とパフォーマンスと俳優の熱量と、エロにまみれていて。愛とか、芸術とか、性とか、ちょっと得体の知れない概念に、すっごいエネルギーでぶつかっていくみたいな。それはそれで面白かったんですけど、そこから大人になっていく変化もあって。ちょっとドラマを入れていく感じに変化していったのが『耳のトンネル』です。再演した頃は、その方法も板についてきて、ただ逆に音楽の使い方としては普通になっちゃったという感じもしていて…。これからはまたちょっと前のように、ドラマを少し置いといて、作りたいなって気持ちがあります。
大好きな俳優との 二人芝居
――ちょっと上演できるか微妙な時期ですが、5月に個人ユニットぐうたららばいの公演がありますね?
ぐうたららばいでは、男と女の二人芝居ということと、妙ージカルなんだけど熱量たっぷりに歌うわけではないということだけ決めているんです。今回は羽衣のキムユスと伊東沙保さんの二人芝居。
――内容がチラシに書いてありますけど、子供を亡くしたご夫婦の話ですね。結構しんどそうですが…。
『海底歩行者』というタイトルで、イメージ先行なんですけど。2人とも大好きな俳優さんで、なんか2人が夫婦だったら、素敵そうだなとか。ちょっと暗めの海底を2人で歩いてるような感じとか。救いはないけれども、でも静かに生きて行く感じの雰囲気とか…。そういうのを2人でやったらどうかなと思い。ただまぁ、ちょっと、あらすじ通りになるかも分かんないんですけど…。
演劇を作る上で、 不可欠な存在
――8月には、劇団の新作公演もありますね。
これは、ちょっとゴツッとした表現にもう一回挑戦してみようと思っています。デビューアルバムをもう一度、作る感じです。羽衣デビューし直すぞ! みたいな(笑)。皆も年を重ねてきて、疲れもたまってきてますから、ちょっとここで「いつまでも若くいこうぜ!」みたいなつもりで。
――皆さん、まだ老け込む年ではないですから。激しい運動はともかくとして(笑)。最後に、深井さんと出会ってからもう何年?
出会ってからは26、7年。
――お二人の共同作業が多かったと思うのですが?
社会的に演劇を作る上で、いてもらわないと、なんか、もう、僕、何もできないかもしれない、と思う。深井さんとは似てる面や性格が合うという面もありますけど、持ち味が丁度ズレて違った面もあり。相性がよかったんでしょうね。あとやっぱり兄弟みたいというか、兄弟以上の長い年月一緒にいますし。舞台上で深井さんが楽しそうにやってると嬉しい。そういうことも重要です。
――作品を作っていく大きなモチベーションになっているんですね。
そうですね。面白い人ですよね(笑)。
※『海底歩行者』の公演は、中止(延期)となりました。
【糸井幸之介プロフィール】
いといゆきのすけ○1977年生まれ、東京都出身。2004年の旗揚げより、FUKAIPRODUCE羽衣の全作品の作、演出、作詞、作曲を担当し “日常のありふれたあれこれを、ありふれない歌と踊りと人間力で表現する音楽演劇”「妙〜ジカル」作品を発表している。
【活動予定】
FUKAIPRODUCE羽衣 『スモール アニマル キッス キッス』
プロデュース◇深井順子
作・演出・音楽◇糸井幸之介
出演◇深井順子 日髙啓介 鯉和鮎美 高橋義和 澤田慎司 キムユス 新部聖子 岡本陽介 浅川千絵 他
8/28〜9/7◎吉祥寺シアター、 9/12・13◎三重県文化会館 小ホール
https://www.fukaiproduce-hagoromo.com/archives/play/スモール-アニマル-キッス-キッス
9月24日(木)
グッドディスタンス第三楽章 FUKAIPRODUCE羽衣LIVE-ディスタンスverー
https://www.gooddistance.net/blank-3
糸井の上演台本・演出・音楽として、
ロームシアター京都 レパートリー作品『糸井版 摂州合邦辻』
http://kinoshita-kabuki.org/gappo20
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【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/
【インタビュー◇坂口真人 構成・文◇矢﨑亜希子 撮影(人物)◇スギノユキコ】
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