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帝国劇場に初登場!『VOICARION 帝国声歌舞伎 信長の犬』開幕直前ゲネプロレポート!

超豪華キャスト×生演奏と、独創的なSTORYによる贅沢な音楽朗読劇として愛され続けている藤沢文翁原作・脚本・演出による「VOICARIONシリーズ」帝国劇場の大舞台に初登場となる話題作『VOICARION 帝国声歌舞伎 信長の犬』が、9月5日に初日の幕を開ける(13日まで)。

「VOICARIONシリーズ」は、2016年にスタートした劇作家・演出家藤沢文翁による音楽朗読劇シリーズ。物語を朗読で表現することによる、演劇的想像力を存分に残しながら、生演奏と豪華なセット、多彩な照明、役柄そのもののキャストの扮装など、視覚的効果もふんだんに取り入れた、ここにしかない「藤沢朗読劇」として高い評価を得て上演を重ねてきた。

中でも『信長の犬』は、日本最初の軍用犬の実話を基にした藤沢文翁版戦国絵巻で、傑作揃いのシリーズの中でも特に人気が高い作品。今回は「VOICARIONシリーズ」帝国劇場初登場にあたり、ノンストップ2時間15分の「帝国声歌舞伎」として更にスケールアップ。『南総里見八犬伝』の八つの霊玉「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」にちなんで命名された、豪華キャストチームが日替わりで登場することも大きな話題を呼んでいる。

そんな魅力的なプログラムの中で、真琴つばさ、紫吹淳、彩吹真央、凰稀かなめが揃い踏みを果たす9月8日昼夜公演の、宝塚OG Specialとも言えるteam「智」のゲネプロが、9月2日に帝国劇場で行われ、信長の犬役の凰稀、織田信長役の紫吹、豊臣秀吉役の真琴、太田資正役の彩吹に、野口多門役の緒方恵美、明智光秀役の甲斐田ゆき、老犬瑠璃丸と千利休役の井上和彦の人気と実力を兼ね備えた声優陣が登場。本番さながらの熱気あふれるステージが展開された。

【STORY】
本能寺の変で織田信長が明智光秀に討たれ、世を去ってから数ヶ月のち。武蔵の国で巨大な白い犬(ボルゾイ)が保護された。犬好きの田舎大名である太田資正は、喜んでこの犬を飼うことにする。

犬の言葉はわからぬが、伝えようとしていることを感じ取れる資正のもとには、老犬・瑠璃丸をはじめ百頭からの犬が保護されていて、資正の軍師・野口多門は、信長亡きあと再び戦乱の世が訪れること必至の世情に目もくれず、犬と戯れる資正を案じながらも、その穏やかな器量に惚れ込んでいた。

やがて多門が憂いた通り、資正の城は天下を争う戦に巻き込まれかけるが、それを救ったのは戦場を駆け抜けた巨大な白い犬だった。そんな噂を聞きつけた太閤・豊臣秀吉がなんと自ら資正の城を訪れる。秀吉はその犬がかつて信長に愛された「信長の犬」だと確信していて……

帝国劇場の大舞台に組まれた二階建てのセットに、映像、ライト、ボーカルも入る生演奏等々の効果が駆使されながら、ドラマは展開されていく。しかも登場するのは織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、千利休といった、日本の歴史の中でもおそらくは最も多く取り上げられ、数多の作品を生み続けている、戦国乱世の大スターたち。まずこの設定の求心力が、老若男女問わず誰にでも楽しめるはずの作品世界を提示して惹きつける。

しかもここに「日本初の軍用犬」=「信長の犬」がクローズアップされることによって、ドラマは実に見事な二転三転の彩を織りなしていく。しかも、この時代や日本の歴史に詳しい人はもちろん、仮に日本の歴史にほとんど興味がないという人でも、全く無理なく人間関係が理解でき、物語の行く手に興味を持ち続けることができる、誰にでも楽しめる脚本が展開されているのが素晴らしい。多くのキャストが主要な役柄だけでなく、別の登場人物も演じるが、声優陣が瞬時にして全く別人になれる声の力は言うまでもなく、宝塚の元男役という存在が軽々と性を超える様も生かされ、犬と人とが会話していることにも全く違和感を与えない。

物語全体を通しても時間軸が自在に行き来するが、基本的にキャストが立ち位置を変えることがない中でも、照明の切り替えや様々に施された視覚効果で混乱を与えない、流れるような物語展開に魅了される。特に心を打たれるのは、殺し殺される戦国乱世を舞台にしていながら、どの人物も単純な悪役になっていないことで、それぞれの見つめているもの、信じているもの、互いへの深い愛や信頼、時に憎悪さえもが美しく、よく知っているつもりの戦国時代が、新たな世界として目の前に広がっていくのに深い感動を覚えた。これまで東京ではシアタークリエの濃密な空間の中で、作品の世界観にすっぽり入り込んだような感覚が魅力だった「VOICARIONシリーズ」が、帝国劇場の大舞台で大きなスケールで描かれることで、更なる魅力が発信されたのには、演出の藤沢文翁の豊かな才能を改めて感じる。

そして、この日のteam「智」のキャストは、前述したように宝塚OGが多く登場している。宝塚歌劇のファンなら、真琴つばさと紫吹淳が、かつて月組を共に支えた盟友同士だということや、彩吹真央と凰稀かなめが雪組時代に、「AQUA5」と命名された男役ユニットでCDデビューも果たした濃い縁を持つ間柄だということが、まず深い感懐をもたらすだろう。だがもちろんそうした懐かしさがない人にも、アーティストとしての彼女たちが如何に豊かに役柄を演じているか、声で演じる、けれどももちろん役としての姿も見えているという、藤沢朗読劇の醍醐味を体現しているかが十二分に伝わるはずだ。

タイトルロールである「信長の犬」の凰稀かなめは、信長の死に傷つき心を閉ざしているところから、資正や瑠璃丸の慈愛に触れ変わっていく心情の表現が巧み。宙組6代目トップスターとして一時代を画した人だが、この宝塚OGメンバーの中では最下級生にあたることもあって、信長への忠義を貫く忠犬の一途な真っ直ぐさが、少年のような香りを引き出していて新鮮味がある。台詞のトーンをやや高めに保っていて、深いアルト発声の紫吹との調和も抜群だった。

織田信長の紫吹淳は、その魅力あるアルト発声に加えて、魔王とも恐れられた信長のカリスマ性の表現が群を抜く。元々こうした色濃い役柄は宝塚時代から紫吹の独壇場で、テレビのバラエティ番組等での天然ぶりが親しまれている紫吹が、ひとたび役柄に憑依した時の沸点の高さを改めて示した格好。台詞がない時に椅子に座って台本をめくる、水を飲むといった一挙手一投足までが役に入っていて、この作品に於ける信長のスケール感に相応しい演じぶりだった。

豊臣秀吉の真琴つばさは、非常にクレバーで柔軟なトークに定評のある本人の資質が、「人たらし」と称される秀吉の立ち回りの上手さに生きている。更に作品の中で徐々に陰影を深めていく秀吉像に、クールで都会的と謳われていた男役時代の個性もふんだんににじませて、二面性の大きい役柄を自在に表出している。舞台のセンターに位置していることがしっくりくるのも真琴の真琴たる所以で、作品の重要な要になっていた。

太田資正の彩吹真央は、心から犬を愛し、多門を信頼し、戦国の世にただ真っ直ぐに生きる武将を彩吹らしい誠実さで表現している。宝塚時代も、更に女優としても、色の濃い役柄も十二分にこなす抜群の芝居巧者だが、やはり彩吹真央の真骨頂が最も現われるのは、こうした信じるに足る誠実な役柄。キラキラと輝く瞳や、温かな笑顔といった、彩吹の魅力全開だったのが嬉しい。

彼女たち宝塚OGと共に舞台に立った声優陣の実力も素晴らしく、野口多門の緒方恵美は、資正に心酔し彼の為に生きることを己の全てとしている男の純粋が、舞台に迸るよう。更に軽妙さと軍師としての鋭さや重みの配分も抜群で、観ていて何度も「あぁ、上手いな」と心でつぶやかされる快演だった。

明智光秀の甲斐田ゆきは、優れた才覚を持つが故に立場を難しくしていく光秀のある意味の不器用さ、保身のために立ち回ることの苦手な武将が追い詰められていく様を、柔らかな声の中で演じている。もうひと役、非常に大きな登場人物も演じるが、ひと声出しただけで「あっ!」と耳目を惹きつける演じ分けの妙味を、是非堪能して欲しい。

そして、作品を根底から支えるのが瑠璃丸と千利休の井上和彦。おそらく「声優」という存在には全く興味がないという人でも名前には覚えがあり、更に確実にどこかで声は聞いているはずの、声優界を代表する大ベテランなだけに、二役の演じ分けは言わずもがな、共に大きな役柄のそれぞれの心根が胸に迫る。team「智」の中では唯一の男性ということになるが、声だけでなく視覚でも魅せる「藤沢朗読劇」でもすんなりとチームに溶け込む姿が頼もしかった。

この宝塚OGを多く集めたteam「智」だけでなく、それぞれに異なる毎日のキャストの顔ぶれも魅力あふれる陣容で、人が代わることでドラマから立ち上る香りもまた変わってくることだろう。その各チームの仕上がりも楽しみだし、人と人、人と犬、犬と犬、そうした区別なく誰もが己の信念を持ち、信頼によって深く結ばれていくドラマが、帝国劇場の大舞台から届けられる醍醐味と尊さを感じる。各バージョンに配信も用意されていることが嬉しい、新たな「VOICARIONシリーズ」の開幕に期待の高まるSTAGEだ。

【公演情報】
『VOICARION 帝国声歌舞伎 信長の犬』
原作・脚本・演出◇藤沢文翁
作曲・音楽監督◇村中俊之
出演◇
team仁◇諏訪部順一 朴璐美 平田広明 安元洋貴 梅原裕一郎 松岡禎丞 井上和彦
team義◇諏訪部順一  朴璐美 平田広明 安元洋貴 梅原裕一郎 島﨑信長 井上和彦
team礼◇諏訪部順一  朴璐美 山口勝平 小野友樹 梶裕貴 大河元気 井上和彦
team智◇凰稀かなめ 紫吹淳 真琴つばさ 彩吹真央  緒方恵美  甲斐田ゆき 井上和彦
team忠◇諏訪部順一  朴璐美 山路和弘 水田航生 梶裕貴  大河元気 山寺宏一
team信◇諏訪部順一 紫吹淳 石井正則 水田航生 下野紘 保志総一朗 井上和彦
team孝◇中井和哉 朴璐美 平田広明  水田航生 豊永利行 内田雄馬 山寺宏一
team悌◇諏訪部順一 紫吹淳 山口勝平 浪川大輔 置鮎龍太郎  大河元気 山寺宏一
(※各teamの出演回は公式サイト参照)

●9/5~13◎帝国劇場
〈料金〉S席13.500円 A席8.000円
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(10時~17時半)
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/voicarion/2020nobunaga/index.html

【配信情報】
スカパーオンデマンドで各回LIVE配信
〈視聴料金〉3.800円
配信開始日時:各回開演時刻の30分前
配信終了日時:各回終演時刻から48時間後 ※アーカイブ配信
〈お問い合わせ〉https://vod.skyperfectv.co.jp/inquiry/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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