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unrato#8『薔薇と海賊』霧矢大夢・多和田任益・田村芽実 インタビュー

三島由紀夫作の異色のファンタジー『薔薇と海賊』が、株式会社アイオーンとぴあ株式会社によって、本年3月に東京芸術劇場シアターウエストと大阪・茨木クリエイトセンターで上演される。

三島由紀夫作品については思想的で高尚というイメージを持たれがちだが、『薔薇と海賊』は虚実の夢と純愛が詰め込まれた異色のファンタジーで、三島曰く「世界が虚妄だ、といふのは一つの観点であつて、世界は薔薇だ、と言ひ直すことだつてできる(以下略 原文ママ)」と語っている。また、今回演出を手がける大河内直子は「虚構と現実がひっくりかえり、世界が薔薇となったものがたり。」だと語る。

【あらすじ】
童話作家の楓阿里子邸。そこに、阿里子の童話のファンで30歳の松山帝一が訪ねてくる。帝一は、自分を童話の中の主人公・ユーカリ少年だと信じている知的障害の青年で、後見人の額間に付き添われてやってきた。
楓邸は童話の世界のように仕立てられ、阿里子は19歳の娘・千恵子にも登場人物のニッケル姫の扮装をさせていた。帝一はこの家にずっと住みたいと言い出し、阿里子と帝一の夢の世界のような純愛が始まる。
千恵子は額間と出会い、押し込めていた本音があふれ出て来る。帝一の登場で、阿里子の夫の重政、その弟の重巳との館での生活にもひずみが生まれていくのだが…。

この作品について、童話作家の楓阿里子役の霧矢大夢、童話ファンの青年・松山帝一役の多和田任益、阿里子の娘・千恵子役の田村芽実に、作品世界や役柄について話してもらった。

田村芽実 霧矢大夢 多和田任益

今まで出会った三島戯曲とは違う感触の作品

──まずはこの作品に出演しようと思った理由から伺いたいのですが。

霧矢 私は、大河内直子さんが演出されるunratoプロデュースの作品には、これまで何度も出演させていただいているのですが、いつもチャレンジさせていただけることばかりで、私にとって修業の場だと思っています。また、三島由紀夫さんの作品はいつか挑戦してみたいと思っていました。三島さんはその生涯も含めて興味深い方ですし、描かれる世界は美しかったりピュアだったりする方で、その方が紡いだ作品にやっと出会えた!という気持ちです。

多和田 僕はも三島さんの作品にはあまり触れたことはなかったんですけど、名作をいくつも書かれている方というのは知っていましたし、すぐに挑戦してみたいと思いました。それに、この作品の帝一という役は僕にぴったりだとマネージャーに言われたんです。普段あまりそんなことを言わない人なので、これは何がなんでも出るべきだなと思いました。

田村 私もお二人がおっしゃったように、三島さんの作品に初めて挑戦できることが嬉しかったです。私は最近ミュージカルへの出演が続いていて、それは有り難いことなのですが、お芝居をすることが大好きなのでストレートプレイへの憧れも強くありました。ですからこの作品は絶対に挑戦させていただきたいと思いました。不安も少しはあるのですが、その何倍も楽しみな気持ちでいっぱいです。

──作品の内容については皆さん、今の段階でどんなことを感じていますか?

霧矢 文字だけ読んでいる段階では、自分の役柄の阿里子についても、この物語がどんな世界となって舞台に現れるのかも想像がつかなかったのですが、帝一役の多和田さんや娘の千恵子役の田村さん、それに演出の直子さんとお会いしていろいろお話ししていると、イメージがどんどん立体化していく感じがあります。きっと楽しい稽古場になるにちがいないと思っています。

多和田 僕は最初に読んだとき、帝一は僕にぴったりという言葉の意味が「ああ、わかるかも」と思いました。そこから三島さんの作品へのハードルみたいなものは一旦取り払って、すっと物語の中に入って行くことができました。この作品は今まで三島さんの戯曲に感じていた難しさとは違う感触があって、ファンタジックなところもあるし、人間くさい人も出てくるし、わかるなと思うところが沢山あります。それに登場人物がみんなクセモノで(笑)、でも気になる人が多くて、そういう人たちの中で一番真っ直ぐな人が帝一なのだと思っています。

田村 私は小説を初めて読んだときは、自分の役については置いておいて、ただ作品を楽しむという感覚で読んだのですが、とても楽しく読むことができました。そして台本になったものをいただいたとき、そこに田村芽実=千恵子と名前が入っているのを見て、急に恐ろしくなってしまったんです。「この台詞を私が発するんだ!」と。でも今は、そんなふうに頭で考え過ぎないで、できるだけ最初に読んだときの感覚を大事しようと思っています。

物語を書くことでバランスをとっている阿里子

──それぞれの役について伺います。霧矢さんが演じる阿里子という女性ですが、これまで演じてきた中で近い役はありますか?

霧矢 今まで演じてきた中では見つからないですね。ですから自分の中で新たな部分を打ち出していければと思っています。阿里子はある過去を背負っていますが、その傷というか過去の出来事と一緒に生きていて、でも精神を保てている。それは童話作家として物語を書くことでバランスをとっているのかなと。そういう女性は私にとっては新たな境地です。それに阿里子は夫と特殊な関係性ですし、帝一との間柄も純愛という言葉でまとめてはいけない何かを感じていて、そういう言葉にできなかったり1つの定義に収まらない男女の関係や愛というのがあるのだろうなと。そういうことがこの作品にはいっぱい詰まっているのを感じています。

──この戯曲が書かれた昭和33年は戦後間もない時代で、まだほとんどの女性は古いモラルの中で生きていました。その中で阿里子という女性はある負い目を持ちながら、それをはね返すような自立した生き方をしていて、とても現代に近い女性という気がします。

霧矢 童話作家なのでとても豊かな想像力を持っているし自分の考えもちゃんと持っている人ですよね。経済的にも自立していて、夫との特殊な関係にも彼女なりのきちんとした考えがあるのがわかります。でもその強さの奥にある儚さみたいなもの、そこが出せたらいいなと思っています。

──とても知的で奥の深い女性で、だからいろいろな男性に愛されてしまうのでしょうね。

霧矢 そうなんです! 困っちゃいます(笑)。

多和田・田村 (笑)。

──多和田さんの帝一は自身に近い部分があるということですが、以前演じた『ソラオの世界』(2016)でも夢の中で迷う青年で、そういう役が似合いますね。

多和田 ソラオもそうですし、清水邦夫さんの戯曲の朗読劇『ぼくらが非情の大河をくだる時─新宿薔薇戦争─』(2017)でも、自分を詩人と思い込んでいる青年でした。どちらも最初は苦戦していたんですが、立ってみてわかったことや本番でわかったことが多かった役で、自分にとって忘れられない演劇的な経験になりました。役者としても一歩前に進めたという記憶があります。この帝一役も、また自分の中の知らない自分に会えたり、新しい演劇体験になるんじゃないかと思っています。もう一つ自分を高められるようにがんばります。

日本人としての感覚を生かして演じられる世界

──田村さんが演じるのは阿里子の娘の千恵子役ですが、この役をどんなふうに感じていますか?

田村 私は何よりもまず、こういう古い日本、大正とか昭和の日本が好きなので、その時代の日本の女性を演じられるのがとても嬉しいんです。私は海外のミュージカル作品に出演することが多いのですが、海外の女性を演じるときにはその土地の文化や宗教を知って、できるだけその国の人になって演じようと思っていて、それはとても勉強になることなのですが、今回はこのまま私の肌や髪の色、日本人としての感覚を生かして演じられるのが嬉しいし、楽しみなんです。とくに私の好きな少し古い時代、昭和の女性なので、本当にどんぴしゃの役をいただきました(笑)。

──千恵子は生まれに秘密がある人で自分もそれを知っていますね。そういう意味では童話の姫のような外見とは違う内面を持っているのかなと。

田村 千恵子についてはまだわからないことも多いのですが、言葉こそあの時代の女性ですが、感覚としては現代の女性に近い感じもします。そのへんもこれから演出の大河内さんや、共演の皆さんとお話しをさせていただく中で考えていければと思っています。今、台本を読みながら一番感じるのは、登場人物1人1人の剥きだしにされた感情が台詞に乗っかっているということで。愛とか美しさとか温かさも感じるのですが、それよりも1人1人の生の感情がぶつかり合う、その愛と憎しみを強く感じています。

──剥きだしの生の感情という点では、阿里子はそういうものを超越しているようにも見えます。

霧矢 そうですね。誰が何を言っても自分の世界は侵されないだけの強さがあると思います。帝一に対してだけは家族たちとは別の感情を持っているようですが、果たしてそれも本当の愛なのかどうかわからない。阿里子は孤高の人ですが、人間的な温かみや愛情などを本当に捨て去ってしまったのかどうかもよくわからない。自分で選んだその境地に立って、それとともに生きていこうという覚悟がある人だと思います。

──多和田さんは、帝一が阿里子さんに惹かれる部分はわかりますか?

多和田 わかります。憧れみたいなものも含めて阿里子さんを好きで、自分がこうと思ったら貫き通すのが帝一なんだと思います。阿里子さんの童話に描かれたユーカリ少年は自分だと思い込んでそのまま会いに行ってしまう。その気持ちをすぐに行動に移せるところが彼の魅力だし、それが彼を強くしていると思います。阿里子さんと帝一は2人にしか理解できないことがきっとあって、それを僕たちが演じることで届けたいなと思っています。

1つの定義に収まらない男女の関係とか愛

──今回初共演ということで、お互いの印象を聞かせてください。まず多和田さんから。

多和田 初めての現場って緊張するんですけど、霧矢さんはなんとなくホッとする方だなと。気持ち的に実家にいるような居心地の良さで(笑)、たぶんお互いに関西出身ということもあるのかなと。それだけでなく、話されることもなるほどと思いますし、もっといろいろな話を聞きたいという気持ちになります。そこは阿里子さんへの帝一の気持ちとも重なるので、自然に物語に通じる関係性を作っていけそうな安心感があります。田村さんは僕より年下なのに日本の古いものが好きというのを聞いて、現代的なキラキラだけではないものを感じたのは、そういうことなんだなと。ホワホワしているようで(笑)、気持ちがあがるとガッと熱弁されるところも素敵です。

田村 霧矢さんは憧れの方です。私が子どもの頃から大好きだった宝塚歌劇のトップスターさんなので、今回ご一緒できて本当に幸せです。多和田さんとは初めてお会いしたのですが、持っている空気が柔らかくて、まったく緊張しないでお話しできたんです。共通の知り合いからも、「すごく優しい人」と聞いていたのですが、実際にお会いしたら、ここまで温かさが滲み出るんだ!という方で、たぶん一緒にいるだけで癒やしになりそうな方だと思っています。阿里子さんも帝一さんもお二人にお会いしたらイメージがすぐ湧いてきて、稽古が今から楽しみです。

霧矢 私もお二人とも「はじめまして」なのですが、多和田さんは本当に好青年ですし、芽実ちゃんもピュアで、それぞれ物腰が柔らかで、お話ししている感じが素直だなと。とにかくお二人とも若いので、稽古が始まったらどんどん吸収して、初日から千秋楽までどれだけ成長していくか楽しみです。私もベテランですがベテランなりの成長を見せたいので(笑)、演出の直子さんにびしびしと鍛えてもらって、新しい自分をこの作品で見つけたいと思っています。

──では最後に霧矢さんから改めて作品のアピールをいただけますか。

霧矢 三島由紀夫さんが書かれた『薔薇と海賊』という作品は、異色のファンタジーと言われるように、1つの定義に収まらない男女の関係や愛が、三島さんならではの美しい言葉で紡がれています。そこをどこまでお客様に受け入れていただけるか、こんな愛の形があるんだという、そういうものを共演の方々と一緒にお客様に届けられたらと思っています。ぜひ劇場でこの素敵な世界を感じてください。

田村芽実 霧矢大夢 多和田任益

■PROFILE■
きりやひろむ○大阪府出身。元宝塚歌劇団月組トップスター。2009年、文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。2012年、宝塚歌劇団退団。舞台を中心に活動を続けている。退団後の主な出演舞台は、『マイ・フェア・レディ』『ラ・マンチャの男』『THE LAST FLAPPER』『この熱き私の激情』『タイタニック』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』『LULU』『ピピン』『ビッグ・フィッシュ』など。2015年『I DO! I DO!』で第22回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。最近の舞台は『メアリー・ステュアート』ミュージカル『悪魔の毒毒モンスター』朗読集『ヴィヨン』『東京原子核クラブ』ミュージカル『ThePROM』『ニュージーズ』など。

たわだひでや○大阪府出身。2012年から2014年にかけて「ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン」で手塚国光役を演じる。2015・2016年に放送されたスーパー戦隊シリーズ『手裏剣戦隊ニンニンジャー』ではスターニンジャー/キンジ・タキガワ役を務めた。主な出演舞台は、SHATNER of WONDER #4『ソラオの世界』『Take me out』『熱海殺人事件 NEW GENERATION』ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』、「舞台PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice」シリーズ、『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロイリュージョン』『新・熱海殺人事件』など。2020年に梅棒に加入。梅棒EXTRAシリーズ『ウチの親父が最強』『風桶』などに出演。

たむらめいみ○2011年、ハロー!プロジェクト、スマイレージ(14年、アンジュルムに改名)としてデビュー。高い歌唱力と表現力で、グループの中核を担うメンバーとして活動。16年、同グループを卒業。18年にはソロアーティストとしてメジャーデビュー。女優・ソロシンガーとして精力的に活動している。主な出演舞台は、ミュージカル『GREASE』ミュージカル『ジェイミー』『IN THE HEIGHTS』ソロミュージカル『ひめ・ごと』『秒速5センチメートル』『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2、『ラヴズ・レイバーズ・ロスト-恋の骨折り損-』『京の螢火』など。1月19日~23日、新宿シアタートップスにて『Equal-イコール-』の出演が控える。読売新聞夕刊popstyleでコラム「ひめごと」連載中。

【公演情報】
unrato#8『薔薇と海賊』
作:三島由紀夫
演出:大河内直子
音楽:阿部海太郎
出演:霧矢大夢 多和田任益 田村芽実 須賀貴匡 鈴木裕樹 大石継太 飯田邦博 羽子田洋子 篠原初実 松平春香
●2022/3/4~13◎東京公演:東京芸術劇場シアターウエスト
〈料金〉一般 6,800円/学生 3,800円/高校生以下 2,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※学生、高校生以下は一般発売日から当日引換券での発売。公演当日、要学生証提示。
〈一般発売日〉2021年1月15日(土)10:00~
〈お問い合わせ〉チケットぴあ   https://w.pia.jp/t/baratokaizoku/
●2022/3/25・26◎大阪公演:茨木クリエイトセンター
〈お問い合わせ〉072-625-3055

 

【取材・文/榊原和子 撮影/中村嘉昭】

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