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《TAKARAZUKA NEWS PICKUP!》その5 宝塚大劇場4ヶ月ぶりに再開!柚香光率いる新生花組幕開け!

「たとえ遠く離れても心はすぐそばに」と紡がれた『はいからさんが通る』

2020年7月17日。宝塚花組新トップスター柚香光と、トップ娘役華優希コンビのお披露目公演『はいからさんが通る』の幕が宝塚大劇場で開きました。当初3月13日に開幕するはずだったこの公演は、新型コロナウィルスの感染拡大を受けた、4ヶ月あまりの公演休止期間を経て、遂にこの日を迎えることができたのです。

もちろんその為に宝塚歌劇団は、インフルエンザウイルスやノロウイルス等への効果が数年間持続することが確認されている、抗ウイルス・抗菌剤を宝塚大劇場内の座席や手すり・ドア・化粧室へ吹付加工。基本的に劇場に義務付けられている、劇場内の空気が十分に外気と入れ替わる空調システムを完備しているうえに、更に外気取込を増やし、最大限の換気強化をはかることにはじまる、数々の取り組みを進めてきました。

客席も間隔を前後左右1席ずつ空け、最前列は空席に。舞台上でも、元々が出演する人数が多く、迫力の人海戦術が魅力の宝塚歌劇ですが、その全員が舞台に揃うことや、客席に降りる演出は避ける。本来の醍醐味であるオーケストラの生演奏も録音に切り替えるなど、あらゆる方策が立てられ、劇場にこられないファンの為に初日は宝塚歌劇専門チャンネル「タカラヅカ・スカイ・ステージ」でフィナーレ生中継。二日目には「Rakuten TV」宝塚歌劇の動画配信サービス「タカラヅカ・オン・デマンド」での史上初の全編ライブ生配信と、万端の準備を経ての開幕です。

劇場に向かう導線も限られ、まず建物内に入る前に、検温のための赤外線による体温検知機器を通過し、アルコールで手指を消毒。チケットも係員との手渡しは避け、観客が自分で読み取り機に差し入れる処置がとられていました。もちろん全員マスク着用。本来は上演時間以外には客席でも飲食ができるのが宝塚歌劇の長い伝統ですが、最低限の水分補給以外は禁止とし、私語も控える為、客席は水を打ったように静まり返っています。観客の側にも折角この日に漕ぎつけた宝塚の舞台を、観客側から再び閉じさせるようなことが万に一つもあってはいけないという、並々ならぬ決意が伝わってくるようでした。

けれども、不思議なほどにその空間にものものしさはなかったのです。こうして対策を書いていくと、如何にもピリピリした空気感が生まれそうに思うのですが、4ヶ月ぶりにやっと宝塚歌劇の幕が開く! 新トップコンビが披露を果たす! そのことへの期待感が、全てのこれまでと違う事態を上回って劇場中を包んでいました。それはまさに熱い沈黙で、開幕までの時間がはちきれそうに高揚していきました。

だからこそ、初日だけにあった花組組長・高翔みず希によるアナウンスで改めて知らされた、宝塚歌劇が130日ぶりに上演されることや、新トップ柚香光の「心待ちにしておりました」という、ただでさえも感動するトップスターの証の開演アナウンスに更に加えられた特別の言葉が胸にせまります。そして開幕。歓声をあげられない客席がただひとつ舞台に感動を伝える手段である拍手は、キャパが半減していることが信じられないほどの大きさと熱量で、まるで頭上から降り注いでくるように感じられました。宝塚歌劇を愛する誰もがこの日を待ち望んでいたことが、この拍手に込められていました。

そんな待ちに待った舞台で繰り広げられたのは、少女漫画の金字塔として輝き続ける、大和和紀の不朽の名作『はいからさんが通る』の宝塚歌劇バージョン。眉目秀麗な笑い上戸の陸軍少尉・伊集院忍と、恋も人生も自らの手でつかみとる「はいからさん」花村紅緒との波乱万丈の運命の恋を描いたこの作品は、2017年に柚香光と華優希で、梅田芸術劇場シアタードラマシティと日本青年館で上演され、壮絶なチケット難の嵐を呼び大好評を博しました。そんな主演の二人が初めてコンビを組んだ、今となっては記念碑的作品が、大劇場公演としてスケールアップされて蘇るのですから、企画発表当初からそれは大きな期待が寄せられていました。その舞台が遂に全貌を表した感動に大きなものがあったのも、思えば当然のことでした。

原作者の大和氏も見守る中、「生き少尉」との異名も取った柚香の少尉が大劇場のセンターに現われます。2017年にもピッタリだと思わせた役柄ですが、やはりこの期間で柚香光というスターが獲得した大きさが、少尉の文字通りの「少女漫画の王子様」感を更に見事に具現していきます。特に印象的だったのは、宝塚大劇場の間口の広い舞台を駆け抜ける少尉のスピード感。全体に様々な演出変更はありつつ、敢えて幕前芝居も多く取り入れている、小柳奈穂子のノスタルジックな演出が、宝塚歌劇と少女漫画の『ベルサイユのばら』から続く伝統を想起させるだけに、疾走する少尉が舞台にもたらした新鮮な風は、まさに新生花組を象徴するかのようです。

その柚香の大きな翼の前で竹刀片手に躍動する紅緒の華優希も、ドラマの芯を担う芝居力の高さと愛らしさ全開で魅了します。攻めるヒロインと受けるヒーローというのは、実は宝塚歌劇の作品ではあまり多くない、少女漫画ならではの王道ですが、その世界観に芝居心も、ビジュアルも完璧なコンビがピタリとハマる爽快感には、この作品でコンビの披露をという歌劇団の企画力の高さを感じました。

更に、基本的に2017年の公演に出演していたキャストは、組替えや退団で既に花組生ではない場合以外は、演じた役を踏襲していて、これはスターランクがハッキリしている宝塚歌劇としては難しさもある配役だったでしょうが、やはりその温かさが作品に相応しく感じられます。中でも女嫌いの編集長・青江冬星を新たに瀬戸かずやが演じたことで、役柄の男気がより前に出たのが新鮮でしたし、それが忍の部下の戦友・鬼島軍曹の水美舞斗の骨太さと決してかぶらないのも面白いです。忍の親友でバンカラ作家の高屋敷要は、雪組から組替え後花組生としての大劇場デビューになる永久輝せあの為に台詞や場面が増え、後半の展開をより深める効果になりって漫画世界への永久輝の親和性の高さを示しました。紅緒の幼馴染の歌舞伎役者・藤枝蘭丸の聖乃あすかの適役ぶりもやはり光ります。

他にも二枚目男役として非常に振り切った芝居を見せた印念中佐の優波慧、車引きの牛五郎の飛龍つかさの役者魂に感服しましたし、忍と浅からぬ縁のある芸者・吉次の朝月希和が雪組で培った高い経験値による力量。紅緒の親友・北小路環の音くり寿の達者さ。大役を更に深めたラリサの華雅りりか。ベテラン勢では、伊集院伯爵夫妻の英真なおき、美穂圭子。反政府主義者リーダーの組長高翔みず希。紅緒の父・花村政次郎の新副組長冴月瑠那。漫画そのまま!の如月の鞠花ゆめなど、語り出すと大変なことになるので、それは東京公演時での公演レビューに譲りますが、新生花組の総力の結集が煌めいています。絣の着物をモチーフにした衣装が、銘々背中で腕を組むのではなく、手をつなぐ形のラインダンスにも違和感を与えず、忍と紅緒の結婚式のイメージで踊られる新トップコンビのデュエットダンスの美しさまでを一気呵成に見せてくれました。

何より素晴らしかったのが、このコロナ禍の中キャパが半減しているだけでなく、様々な事情で劇場に駆けつけることの叶わない、専門チャンネルなどで全国から見守ったファンに向けて柚香が、忍と紅緒のデュエット曲「風の誓い」の歌詞から引用して「たとえ遠く離れても心はすぐそばに」と、思いを語ってくれたことで、忍のブロンドの髪にマッチしたゴールドの大羽根が美しい、「トップスター柚香光」の存在を、更に大きく際立たせていました。立ち上がっていいものかどうか明らかに迷っていた客席も、最後は総立ちになり、熱い、大きな拍手と愛が劇場中を包んだ光景は、この新型コロナ禍によって当たり前だと思っていたものが決して当たり前ではなかった、これからもまだ困難は多くあるだろう日々に、確かに希望の光を灯してくれるものでした。科学的でないと言われるのは承知の上で、ここには免疫力が上がらないはずはないだろうと思える、温かい愛の循環がありました。

幕間の化粧室の列も、広いロビーに互いの距離を取る足型が細かく設置されて、足型から足型に飛び移っている(もちろん歩いていいのですが!)間に、子供の頃に興じた「○○鬼」を思い出すなど、やはり全てが夢の国だった宝塚歌劇。この温かく美しい世界の幕がつつがなく開き続けてくれますように。今はただそう願い続けながら、私達観客もより一層の感染予防と体調維持に努めていきたいと改めて思わせてくれた、この日々に立ち向かう勇気をもらった、宝塚歌劇の再開でした。

【公演情報】
宝塚歌劇花組公演
ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』
原作◇大和和紀『はいからさんが通る』(講談社KCXデザート)
脚本・演出◇小柳奈穂子
出演◇柚香光 華優希 他花組
●7/19~9/5◎宝塚大劇場

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