まもなく開幕!『サイドウェイ』藤重政孝・壮一帆・古川貴義 インタビュー
2000年代のバディ・ロードムービーの代名詞ともなったアカデミー賞受賞映画『サイドウェイ』。原作者レックス・ピケット本人が手掛けた戯曲で舞台化されたこの作品が、「箱庭円舞曲」の演出家・劇作家、古川貴義の日本語上演台本・演出によって、3月20日~25日、東京芸術劇場シアターイーストで上演される。
世界中にカリフォルニアワインとピノ・ノワールの魅力を伝え、ワイン産業に多大な影響を与えたと言われる作品で、初主演でマイルス役を務める藤重政孝、藤重演じる主人公に大きく関わる女性マヤ役の壮一帆、そして古川貴義が、作品や互いの魅力と稽古の様子を語り合ってくれた。
「ここしかないよね」を一緒に見つけていく
──日本語上演台本を書かれるにあたって、意識されたことはありますか?
古川 例えば藤重さん演じる主人公のマイルスは、物事を率直に言わず、比喩表現などで遠回しな言い方をしたりする。面倒くさいけど、可愛いと言えば可愛いんですね。外から見ていると、彼の面倒くささに振り回される人たちが面白く見えるんです。友達にはなりたくないけれど(笑)。そんな面倒くさいマイルスに、壮さんが演じる、同じくらいこじれているマヤや、ジャックやテラといった面倒くさい人たちが絡む。原作のそういうひねくれたところが、ただのコメディやストレートな恋愛ものとは違って面白いと思ったので、登場人物の人間の弱さや、ダメな部分を、苦笑いしながら「あるよね」と感じていただけるように書き上げました。
──そんな日本語版上演の中で、改めて役柄についてどう感じ、何を大切に演じたいと思われていますか?
藤重 ひと言で言うと煮え切らない中年男です。物事をハッキリ自分で決められない。でも夢というか、あるビジョンは常に持ち続けていて、そこに向かって必死にしがみつこうとしているマイルスを演じます。まず男同士のなんとも言えない雑な愛をベースに、そこから派生していく恋愛や夢、日常の中で熱くなったり、冷めきっていたりといった、色々な心情変化を、平熱の芝居で表現していきたいと思っています。お客様に対して熱く汗だくに訴えるというのではなくて、そっと寄り添うように演じていけたらいいなと、いま頑張っております。
壮 今回の作品に関しては最初に台本を読ませていただいた時から面白いな~と思って。
藤重 そう言ってたよね。
壮 大笑いしながら読んだんですが、お稽古に入って実際に演じていくうちに、時代的なものもあると思うんですけれど、ものすごく男性中心の目線で書かれているんだと感じまして。本当に身勝手な男どもの話なので、今の時代だと怒る人もいると思うんです。
藤重 すいません!(笑)
壮 それに振り回される女性って、という部分もあるのですが、こういう時代もあったわけですし、テラとマヤ二人の女性が被害者に見えないように。振り回されることも恋愛や人生においての経験や引き出しのひとつだと思うんです。テラに関してはハッピーエンドではないのかも知れないけれども、その先の人生があるし、女性側のそれぞれの落としどころに共感していただけるように創り上げていけたらいいなと思っています。重さん(藤重)とは二回目の共演で、初めてガッツリお芝居させていただきますので、どう作っていきたいのか?を見ながら、自分自身もちゃんとそれを受けてお返し出来るように、とやっているところです。でも考えてみたら年齢的なこともあると思うのですが、今まで私は母親や花魁、また男装の麗人など、色濃い役を多く演じてきていて、等身大の女性を演じる機会って実はすごく少なくて。今これを言ってしまうと不安がらせてしまうかも知れないんですが、女心がよくわからない!
藤重 そこ!?(笑)
壮 「そのままでいいんだよ!」とよく言われるんですが、やっぱり舞台で役を演じるのに、私のままというわけにはいかないと思った時に、にっちもさっちもいっていない!という気がするのを、なんとか形にしたいとあがいているところです。私、初日まで一週間を切るとうだうだ言い出す方で(笑)、すごく不安になる時期が必ずくるんですけれど、まさにいまがその時期で。でも古川さんが「もう1回やってみようか?」とか「じゃあ今度はこういう形でやってみようか?」と、色々な提示をして下さるので、いまはそこに甘えさせていただいています。もう百本ノックじゃないですけど、重さんにもお付き合いしていただいて、頭で考えるだけではなく、稽古場で実践して、「身体の細胞から言葉が出るように」を意識してやっています。
──いま、お二人のお話を聞かれてどうですか?
古川 やりたがってくださるのが嬉しいです。もちろんこちらからも色々と提案させてはいただきますが、ただ考え込んでしまうのではなくて、「それをやってみたい」と言って何度でも演じてくださるお二人なので、健全な稽古だなと思っています。藤重さんが「平熱の芝居」とおっしゃり、壮さんが「等身大」とおっしゃる日常会話ってとても難しいので。
壮 本当に難しい!
古川 たとえば36.5度から36.7度になった瞬間の揺らぎがグッとくる芝居を作りたいんです。難しいけど、「これしかないよね!」を見つける瞬間がくるのを、一緒に探していくのを楽しんでいます。この台詞で関係性が逆転したと思っていたけど、実はその前の台詞で逆転していたんだ!というものが見つかったりして。
──とても細かい機微なのですね?
古川 まさに!
もう可愛くてしょうがない
──その中で、先ほど壮さんもお話し下さいましたが、藤重さんと壮さんは『深夜食堂』以来の共演ということに?
藤重 そうです、そうです。
──ただ『深夜食堂』ではあまり絡みのある役どころではなかったですよね?
壮 ほとんど絡んでないね。
藤重 楽屋通路で絡んでいたくらいですね!
壮 勝手に絡んできた!(笑)。
──そんなお二人がお互いに感じている魅力を教えて下さいますか?
藤重 前回の現場の頃はまだコロナとかも全く流行していなかったので、何回か皆で食事に行ったりもしていたのですが、本当にキュートな女性で!
壮 太字でお願いします!(笑)
藤重 そのキュートさがマヤとして芝居の中で見え隠れする瞬間がすごく可愛くて!その印象があるので、この現場は個人的にもとても楽しいです。どうぞ!
壮 私は重ちゃんと呼ばせて頂いているのですが、すごく魅力的な方です。『深夜食堂』の時からとても素敵なお芝居をされていたので、今回こういう形でご一緒できることをすごく楽しみにしていました。私がどんなに「わからない、わからない」と言って百本ノックしている時にも、重ちゃん自身が受け身の芝居をしながら、「こうしたらわかるかな?」という表情や雰囲気を出して下さるのがとてもありがたいです。だからこそなんとか自分の中で答えを出そうとしてあがいているのですが、「えっ?ここでキスしないの?」とかおどける割には、リアルに見つめ合う芝居しているとどんどん照れていくの!
藤重 うるさい!(笑)
壮 そこがとてもキュートで私の萌えポイントなんですが、そういうところが「愛してる、愛してる」と素直に言えないマイルスとマヤの関係に、上手くつなげて行くことが出来たらいいなと思います。
──演出家さんから見た俳優としてのお二人の魅力はどうですか?
古川 もう可愛くてしょうがないですね。ラブシーンがないのにラブシーン以上のことをしたりしているのが、本当に可愛いです。1幕のとあるシーンとかね。
壮 あー(笑)。
古川 藤重さんはとても視野が広くて、作品の中においてどういうポジションに在るのが一番しっくりくるのか?を探しながら、役そのものとして存在しようとして下さるのがありがたいです。その居所が決まらない時の「いま、気持ち悪いんだよな・・・」が演出席からも分かるので、一緒に「どうしたらしっくりくるか?」を探しています。壮さんは、立ち姿が魅力的なので、役をつかんだ状態でハマったシーンは、もう完璧にそれしかないという芝居が見られるのが嬉しいです。そしてお二人とも、「もう少し考えさせてよ」ではなく、百本ノックにガンガン乗っかって下さって色々なアプローチを試して下さるので、もっと探したい!という気持ちになります。
──役者のお二人から、演出家の古川さんの魅力はどうですか?
壮 宝塚歌劇団には「生徒を育てる」というコンセプトがあるので、演出家の方が何度も、何度もやらせるという稽古の仕方も多くあったのですが、外の世界に出たら皆さんプロである以上、1回でできて当然というところが結構あるんです。それを古川さんは「僕、しつこいんで」と言いながら何回もやって下さる。私はそれがすごく性に合っているので、もちろん頭でも考えますが、そこに精神が伴う、身体が伴う為に、回数をこなせるのは嬉しいです。ケンカするシーンなどは声がなくなるくらい何回もやらせていただけて、本番は一発勝負ですから、今の内に声を嗄らしてでもやっておきたいです。あとは、一緒に喜んだり、一緒に悲しんで下さったりするんです。そこは失礼ながら「愛おしいな」と感じます。
藤重 一番最初に泣いてますからね!「あれ?古川さん泣いてる?」って(笑)。
古川 だって良かったんですもん!
──それは俳優さんにとっても嬉しいことですよね?
藤重 センターで見て下さる方が感動してくれるんですから、それは嬉しいです。(涙ぐんだ古川に)ほら、今もこうして思い出し泣きをしている!
壮 もう、好い人で!
藤重 演出家の目線とお客様の目線を持った人がいてくれるのはありがたいですね。
壮 しかも古川さんの中に答えが確実におありだから。ハマらなかった時には「違う、そうじゃない」って。明快なんです。
古川 キャストそれぞれが確証を持って演じられて、演出的にも「これが観たかった!」というものが全員に共有された、更にその先が観たいなと思うんです。その先に何が観えるのかはわからないんですよ。自分のなかでこれが正解、というラインは確かにありますが、その先の、わからないものが見たいなといつも思います。
──ご自身が描いているものを超える瞬間がある?
古川 僕が初めてこの稽古場でグッと来ちゃった瞬間がそれでした。「それか!」っていう。もうその時には言葉もないという感覚なので、それに出会いたいですね。
人生に寄り道なんてない
──人生には寄り道も必要というテーマですが、皆さんご自身にはこの寄り道が必要だったなと思うエピソードはありますか?
藤重 これ真面目に答えちゃっていいですか?(笑)僕は人生には近道も寄り道もないと思っています。どこに進んでいようともこれが行くべき道だったと思っていたいし、違うのかもしれないけれども、そう思って生きていきたいというものがすごくあります。芸能の仕事をさせてもらっていますが、食っていかなければならないし、家族もいるので深夜にトイレ掃除などのアルバイトをした時期もありますし、これから先にもするかもしれない。それはとてもしんどいことだけれども、でもそれこそが人前に出る時に生きる瞬間が絶対あるんです。トイレ掃除をする役が来たら誰にも負けない自信があるし、カウンターでバーテンの役をやった時に、実際に経験があるかないかでは絶対に違います。芝居について言えばそういうことなんだけれども、全てにおいて寄り道はなくて、通るべき道なんです。これは確信があります。今日このインタビューを受ける為に、トイレ掃除が必要だった。全部つながっているんですよ。ですから寄り道は絶対にないと今のところ信じています。
壮 表現の違いなんですけれども、私は寄り道こそ人生だと思っていて。
藤重 それ一緒だ!
壮 一緒です。特にこういう職業をやっていると、全部が経験になっていて、それをアウトプットする瞬間が必ずあるんです。だから面白いので、そういうキャッチできるアンテナを常に張っていたいです。
古川 戯曲を書く時に、宇宙人や特殊なキャラクターではなくて、リアルな人間を描きたいと思っているので、どれだけ色んな人と出会ってきたかが糧になるんです。だからやっぱり、寄り道は一つもないです。どこかに行けばそこには人がいて、その人の人生を生きていて、その人生をちょびっと覗かせてもらっているというか。出会った人の数だけ自分の本道が豊かになっていくので、本筋や寄り道というよりは、太い幹とたくさんの枝葉のある、一本の木になっていく感覚です。だから「寄り道なんてない」。
ワインのように人生の甘味と苦みを感じられる作品
──いまのお話は、やりたいことが見つからないとか、やりたいことはあってもそこに行く道がまだ見えないという人たちにも、とても力になるものだなと感じますが、そんな皆様が今回の舞台の見どころや、ここは見逃さないでというポイントを教えて下さい。
古川 舞台上で消費されるワインの量はひとつの見どころですね(笑)。
壮 出ずっぱりの重ちゃんたち以外の人たちも早替わりで出ずっぱりなので、それぞれのキャラクターを演じている様が私は個人的に大好きです。
古川 面白いですよね。
壮 それが生かされる脚本にもなっているので、是非楽しみにしていただきたいです。
藤重 エンディングの壮ちゃんの居方ですね。
壮 すごいピンポイント!(笑)
藤重 すごく可愛いんです。ファンの人たちには申し訳ないんだけれども「可愛いな~」と思って見ています。
壮 まだ私が迷っているのを、ふふんと見てるんでしょ?(笑)
藤重 一生懸命見てます!(笑)一生懸命見ちゃいけない役なんですけれども、一生懸命見てる!
壮 もう~それプレッシャー以外のなにものでもない!(笑)
──では是非そこも楽しみにというところで、改めて皆様にメッセージをお願いします。
古川 いい大人たちのダメだったり、自信がなかったりする部分を、笑ったり共感したり、自分の過去を振り返ったりしながら、人生の苦いところと甘いところをワインのように味わって頂ける作品になるかと思います。ご来場お待ちしています。
壮 関東は未だに厳しい状況が続いていますが、劇場にお越しになれない方には配信もありますので、ワイン片手にご覧頂くこともできます。いまは色々なところに出向いて刺激を受けることが難しい状況だからこそ、この作品を観て心が動いてくださったらいいなと思います。本当にワインを飲みたくなる作品ですし、ご覧になる方の世代によって捉え方、感じ方が違う作品になると思うんです。ですからこの舞台が皆様にとっての良いスパイスになるといいですし、カリフォルニアを舞台にしたお話なので、カラッと晴れ渡った空や太陽も感じていただけたらと思います。
藤重 まだまだ厳しい世の中で、どこか煮詰まっていたり、煮え切らない部分が我々もそうですが皆さんにもあると思います。そういうものを一瞬でも忘れていただける瞬間があったら幸せです。劇場でも配信でも、クスッと笑ってもらったり、涙してもらったり、共感してもらえる瞬間が絶対にあると思いますから、その瞬間の為に頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!
■PROFILE■
ふじしげまさたか○山口県出身。1994年6月「愛してるなんて言葉より…」でミュージシャンとしてデビュー。「激しく激しい情熱」「FOREVER」「rainy night」など数々の楽曲をリリース。現在はシンガーソングライターとしてイベントやLIVEに出演する他、テレビや映画、舞台など俳優としても精力的に活動中。2019年には舞台の演出家としてもデビューを果たす。舞台『RENT』 『モーツァルト!』 『深夜食堂』、ドラマ『龍馬伝』 『相棒』、映画『みとりし』 『彼岸島』 『表と裏』など。2020年にはバンドMSTK(ミステイク)を結成。
そうかずほ○1996年に宝塚歌劇団に入団。『CAN-CAN』で初舞台。2012年より雪組トップスターを務める。14年の退団後は、ミュージカル、ストレイトプレイ、朗読劇など様々なジャンルの舞台に挑戦する一方、「SO BAR」シリーズ等ライブ活動も精力的に行っている。近年の主な出演作に、『プラネタリウムのふたご』『Now. Here, This.』『BETRAYAL 背信』、『冬の時代』『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 –case.剥離城アドラ-』『THE CIRCUS! -エピソードFINAL-』『大悲』『Le Père 父』『深夜食堂』『マリーゴールド』『戯伝写楽 2018』『アダムス・ファミリー』などがある。
ふるかわたかよし○高校時代の演劇部入部をきっかに芝居を志す。2000年、日本大学芸術学部に入学。同年9月に「箱庭円舞曲」を旗揚げ。以降、代表として全ての作品の脚本・演出を務める。その発展形として、日常会話に潜む、ズレたコミュニケーションの可笑しみをベースにした会話劇を展開。極めて日常的な人間関係を細微に描くリアリズムと、生きた人間たちから発されるやるせない感覚が好評を博す。戯曲の本質を読み解き俳優の個性を活かす細やかな演出と、思い切りの良いダイナミックな空間演出の双方の手腕を買われ、脚本提供のほかに外部演出でも活躍中。2015年~日本大学芸術学部演劇学科非常勤講師。
【公演情報】
『サイドウェイ』
原作・脚本:レックス・ピケット
日本語上演台本・演出:古川貴義
出演:藤重政孝 神農直隆 壮一帆 富田麻帆 江浦優大
●3/20~25◎東京芸術劇場シアターイースト
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
[配信視聴券]
●3カメ配信:3300円
●1カメ配信:2500円
〈配信チケット販売 conSept movie〉https://consept-movie.myshopify.com/
〈公式サイト〉https://www.consept-s.com/sideways/
【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】
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