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美弥るりか宝塚退団後初主演作品開幕!『SHOW-ISMS』「Version マトリョーシカ」

独特の世界観で魅了する作・演出家小林香の『SHOW-ism』シリーズに連なる『SHOW-ISMS』「Version マトリョーシカ」が、7月28日日比谷のシアタークリエで開幕した。

『SHOW-ISMS』は2010年から小林香が手掛けてきた『SHOW-ism』シリーズの集大成と位置付けられた作品。本来は『SHOW-ism』シリーズ最新作『マトリョーシカ』が上演予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止の為公演は中止を余儀なくされていた。だが、緊急事態宣言解除後に、シアタークリエが再び幕を開ける公演として、7月20日からまず「Version DRAMATICA/ROMANTICA」が開幕。これまでの『SHOW-ism』シリーズから、『DRAMATICA/ROMANTICA』を中心に、『ユイット/∞』、『マトリョーシカ』の世界観が、ショー形式で観客に届けられた。

今回の「Version マトリョーシカ」は、2019年惜しまれつつ宝塚を退団後、神秘性とキュートさを併せ持つ個性を、コンサートやファッションの世界で提示してきた美弥るりかの退団後初主演作品でもある新作『マトリョーシカ』をミュージカルスケッチ形式で上演。更に、『SHOW-ism』シリーズの『Underground Parade』、『TATTOO14』、『ピトレスク』からの歌唱披露で、『SHOW-ism』シリーズの過去、現在、そして未来を描く公演となっている。

その新作ミュージカルスケッチ『マトリョーシカ』は、現代日本の、更に、新型コロナウイルスと戦う、まさに今、この時の東京都にある「野原高校」の夜間コースを舞台に繰り広げられる物語。

都内屈指の進学校としての名声を高めたい「野原高校」では、更なるイメージアップを図る為に夜間コースの廃止が内々に検討されている。だが、そんな夜間コースにロンドンから、謎めいた新任教師バンビ先生(美弥るりか)が赴任してドラマは動き出す。

リアルに集まることのできない生徒たちは、銘々パソコンやタブレット、スマートフォンを通じたリモート授業で、バンビ先生と初対面する。学習障害があり、中卒で建設作業員をしていて、覚えが悪いことから人に馬鹿にされがちだが心優しいヌーボ(平方元基)。バレリーナになることを夢見ていたが、16歳で妊娠した為親に勘当されたのち、今はシングルマザーとして働きながら、夜間コースで高卒の資格を得て今より収入の良い仕事に就き、子供を大学に進学させたいと希望するモモ(夢咲ねね)。元暴走族で前科があり、現在は夫からDVを受けているものの、自分が犯した罪を償う為にも、その環境から抜け出す為にも仕事に就きたいと願う番長(樋口麻美)。歌手を目指して高校を中退して上京。音楽事務所の受付をしながら歌手になる夢を捨てきれず、一方でその困難も自覚していて夜間コースに通うマイコー(塚本直)。貧しい漁師の家に生まれ、家業の手伝いでほぼ学校に通えなかったことから読み書きがほとんどできず、野原高校の普通コースに通う成績優秀な実の娘、のぞみ(下村実生)にさえ母親であることをひた隠しにされている主婦のりちゃん(保坂知寿)らが、バンビ先生に自粛期間中の課題である日記を読んで自己紹介をしていく流れがスムーズだ。


その中で、酒癖が悪い為に失職し、重篤の病の妻を抱えて家も失い、住まいにしていたネットカフェが閉鎖になったことと、スマートフォンを所持していないことでリモート授業には出られないおやっさん(今拓哉)の描写や、父親の葬儀で韓国に一時帰国したまま、日本に戻れなくなったクラスメイトの話が出る等、このミュージカルスケッチ『マトリョーシカ』が、コロナ禍の中、一度中止になったからこそ生まれた、新たな物語であることがひしひしと伝わってくる。

そこから、バンビ先生の「現代社会の授業の一環」と称した型破りな授業がはじまる。生徒たちは、端から夜間コースが出場するなどとは思ってもいなかった合唱コンクールに挑戦し、卒業間近の2月に行われる「野原祭」で自作のショーを創ることになる。もちろんそれぞれが抱える問題は深刻で、やすやすと解決されるものではない。彼らはしばしば衝突もし、バンビ先生に反発もする。おそらくそれらは本来もっと細かく描写されていたのだろうなという、作品がミュージカルスケッチだからこその断片的な暗喩も多い。

けれどもだからこそ、ここには演劇の力を信じている小林香のハッとさせられるほど純なものがストレートに噴出している。合唱コンクールで歌われる「翼をください」。修学旅行がコロナ禍で中止になり、想像の力でどこにでも行こうと説くバンビ先生が、ロンドンに誘う「ロンドン橋落ちた」。同じ学習障害だったというレオナルド・ダ・ヴィンチに憧れるヌーボが物語るイタリアの「フニクリ・フニクラ」。バレリーナを夢見たモモがいつか行きたいと願うロシアの「白鳥の湖」。韓国から帰れないクラスメイトに想いを馳せる番長の「アリラン」、おやっさんの「砂山」から、のりちゃんがついに感情を爆発させて熱唱する「ソーラン節」と、わかりやすいと言えばここまでわかりやすい選曲もない展開が、“ベタ”だとか、ありがちだとか言われてしまう恐れを内包していることにも、小林はひと時も怯まない。怯まないどころか、音楽の力が抽象的なセットの中にまるで華やかなショーのように、各国の情景が浮かびあがることを疑わないのだ。この演劇の力そのものに対する純粋な作者の「愛」が、開けても、開けてもまた同じ人形が出てくる入れ子細工の「マトリョーシカ」の最後に残るものを「希望」だと説くドラマを成立させている。それがそのまま、コロナ禍に揺れる「演劇」そのものへの希望を表出したことに胸が熱くなった。

そんな創り手の無心な情熱を、実力派のキャストたちが体現していく。バンビ先生の美弥るりかは、謎めいた経歴の新任教師に相応しいたたずまいをまずその存在感で醸し出すことに成功している。物言いもサバサバしている上に、時に所謂“塩対応”もするこの教師の言動が、生徒たちに明日の一歩を踏み出す為の、希望を植え付けたいと願う想いから生まれていることを、美弥が見事に表現したことは、新作『マトリョーシカ』の核になった。独特の個性を十二分に活かし、決してスーパーヒーローではない、だが十分にカリスマ性のある役柄を、深く提示した美弥の主演デビューを喜びたい。

ヌーボの平方元基は、バリバリの二枚目役も楽々とこなす長身で甘いマスクの中に、常に宿る温かな優しさを、役柄に極自然に生かしている。その優しさが根底にあるからこそ、世の不平等を訴える切なさが倍化するし、バンビ先生の言葉に心動かされていく素直さがより明白になった。

モモの夢咲ねねは、厳しい現実に立ち向かっている時と、憧れに夢を馳せた時の変化がくっきりと立ち現われて、モモという女性の揺れる想いを表している。何より踊る夢を取り戻していく描写の美しさが圧巻で、美弥との元宝塚歌劇出身者同士ならではの、相性の良さも際立った。

番長の樋口麻美のパッショネイトが役柄をよく支え、非常に厳しい状況に置かれている女性の苦悩と、そこから尚立ち上がって行く強さに真実味がある。特にこの人の個性にそもそも明るさがあることが、作品全体にとっても大きな力になっていた。

平方同様、貴族や、重責を担う地位にある役柄など、スッキリとした紳士ぶりに定評のある今拓哉が、自分が先だったあとの夫を案じる妻の為に、生活に困窮しながらも夜間コースに通う男の心根を、やさぐれた雰囲気をきちんと出しながら演じる姿に経験値の高さと力量を感じる。

そして、漢字が読めないことを自ら恥じ、なんとか自分を変えようともがくのりちゃんの保坂知寿が、おどおどと自信なさげにふるまう表現が的確だからこそ、この女性が殻を破る「ソーラン節」の魂の熱唱に心打たれる。やはり同じ劇団四季出身の樋口と並ぶと、芝居のピースに徹しようとする役者としての姿勢が共振し、二人の相乗効果が絶大だった。

のりちゃんの娘、のぞみを演じる下村実生が、母親を恥ずかしいと思っている思春期真っただ中の少女が成長していく様をきちんと描いただけでなく、このいずれ劣らぬ歌唱力のメンバーに入って聞き劣りがしない歌いっぷりに驚かされた。ミュージカル『リトル・ウィメン』の四女エイミーを演じてから、僅かの間のこの長足の進歩は目を瞠るもので、整った容姿と共にミュージカル界での今後の活躍に期待したい。

他にも、歌手を目指した女性であることをすんなり納得させるマイコーの塚本直をはじめ、神谷直樹、池田美佳、井上真由子が歌にダンスに大活躍。平方、今、保坂はそれぞれ見事に二役も務めていて、実際に出演しているキャストの数以上に、大人数で作品を作っているかに思わせる役者の力も絶大。小林の想いを具現したこの物語は、千秋楽まできっと進化していき、それが「SHOW-ism」シリーズの未来を拓くことを予見させていた。

そんな『マトリョーシカ』のパフォーマンスに続いて、歴代「SHOW-ism」キャストによる思い出を語るトークと劇中歌の披露が。

まず、2012年、2013年に上演された“血のつながらない姉妹”7人によるロードムービー物語『TATTOO 14』から、水夏希とシルビア・グラブが登場。「お互い変わらないね!」と言い合いつつ、シルビアが当時宝塚を退団して間もなかった水が「お姉ちゃんではなく兄貴だった」と語ると、水があまりにキャストが個性的でフリーダムで、集団美の統率が取れた宝塚との違いに実は「怯えていた」と語って笑わせる。そうしたフリーダムな5人で歌った「Quiet Your Mind」を今回は二人で堂々と披露。作品世界を立ち上がらせていた。

東日本大震災直後の2011年に上演された『Underground Parade』の場面には彩吹真央が登場。『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』出演のため中川晃教と藤岡正明が不在のゲネプロで、たった一人で二人の分もトークし、中川の歌稽古中に起きた東日本大震災と、その後に続く余震と不安の中で、演劇の力を信じて稽古を積んだ日々が、2020年の今に重なるという心にしみる言葉を伝えてくれた。歌われた「Again and again」には鎮魂と再生が描かれ、彩吹の表現力に感嘆すると共に、三人が揃った初日の見事さに期待が膨らんだ。

そして最後は、2014年上演の『ピトレスク』で、クミコ、J Kim、保坂知寿が登場。ナチスドイツ占領下のパリで、迫害を受けながら生きる人々を描いた痛切な作品で、三人のトークが和気あいあいとしているだけに、歌唱披露の凄味が際立つ。

公演中に納得のいく歌唱ができなかったという自戒の言葉ひとつからも、歌に対する真摯な姿勢が際立ったクミコの「群衆」の、誰をも納得させるだろう迫力。タイトル曲であり、オリジナル曲である「ピトレスク」と、ベートーベンの「歓喜の歌」を基にした「自由の歌」と続いたクミコ、保坂、J Kimの互いの個性を生かしながらの絶妙なハーモニーが自由への希求を感じさせていた。ここにも初日からは中川が加わる。

こうして休憩なしに一気呵成に進む舞台は、『マトリョーシカ』以降の場面は日替わりになる。座席券は全日程完売となっているが、一部公演はStreaming+でのライブ映像生配信が実施される。貴重な機会に相応しい、一回、一回の進化に期待したい熱量の高い公演だ。

【公演情報】
『SHOW-ISMS Version マトリョーシカ』
作・演出◇小林香
出演◇
『マトリョーシカ』美弥るりか / 平方元基 夢咲ねね 樋口麻美  下村実生 今拓哉 保坂知寿 / 塚本直 神谷直樹 池田美佳 井上真由子
『Underground Parade』中川晃教 彩吹真央 藤岡正明
『TATTOO 14』シルビア・グラブ 保坂知寿
『ピトレスク』クミコ 中川晃教 JKim 保坂知寿
(『Underground Parade』『TATTOO 14』『ピトレスク』は日替わり出演。詳細は公式ホームページ参照)
●7/28~8/4◎シアタークリエ
※全日程座席券完売。
〈作品公式サイト〉https://www.tohostage.com/showism9/index.html

【配信情報】
日程:7月28日、8月1日、4日
イープラスの配信サービス・Streaming+でのライブ映像生配信を実施。
〈視聴料金〉4000円(税込)
〈視聴場所〉https://eplus.jp/showisms/
※生配信のみ。アーカイブ視聴なし

 

【文・撮影/橘涼香】

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