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シアタークリエへの見事な凱旋で輝くミュージカル『レベッカ』上演中!

2018年に開場10周年を迎えた東京日比谷のシアタークリエで、10周年記念公演ファイナルとなるミュージカル『レベッカ』が上演中だ(2月5日まで)。

ミュージカル『レベッカ』は、20世紀前半から活躍した小説家ダフネ・デュ・モーリアが1938年に発表した長編小説「レベッカ」を、『エリザベート』『モーツァルト!』『マリー・アントワネット』『レディ・ベス』等々の大ヒットミュージカルを生み出したミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイのゴールデンコンビがミュージカル化した作品。サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックによる映画版が殊の外有名だった作品を、全編歌で綴るミュージカルとしてサスペンスフルに、更にロマンの香りも高く創り上げた舞台は2006年のウィーン初演以来、大好評を博した。そんな作品を世界で2番目の上演国として発信したのが、2008年に開場したシアタークリエで、その後、10年間に海外の新作のいち早い上演や、埋もれていた幻の作品に光を当てるなどの様々なチャレンジを続け、演劇界に大きな足跡を残してきたシアタークリエの歩みを象徴する、記念碑的作品が、満を持して10周年記念ファイナル公演として帰ってきた。

大塚千弘

【STORY】
天涯孤独の身の上で、アメリカ人富豪ヴァン・ホッパー夫人(森公美子)の世話係を務める「わたし」(大塚千弘/平野綾/桜井玲香 トリプルキャスト)は、モンテカルロのホテルで、イギリスのコーンウォールに大邸宅と広大な土地“マンダレイ”を所有する上流紳士マキシム(山口祐一郎)に出会う。先妻レベッカの事故死の影を引きずるマキシムは、忘れていた心の安らぎを与えてくれた「わたし」を見初め、「結婚して欲しい」とプロポーズする。身分も階級も異なるマキシムに惹かれる心を押し隠してきた「わたし」も、愛を信じマキシムのプロポーズを受け入れるが、ヴァン・ホッパー夫人はマキシムの先妻レベッカはイギリスでも評判のレディであり、「わたし」にマンダレイの女主人が務まるはずがないと警告する。果たして、ハネムーンも終わりマンダレイに着いた二人を出迎える召使いたちの中には、レベッカに幼少時から仕え、彼女亡き今も家政婦頭として屋敷を取り仕切るダンヴァース夫人(涼風真世/保坂知寿 ダブルキャスト)がいて、レベッカが生きていた時と何ひとつ変わらぬままに屋敷を維持していた。ダンヴァース夫人の威圧的な態度に気圧されながら、マンダレイの管理をするマキシムの友フランク(石川禅)、マキシムの姉ベアトリス(出雲綾)、その夫ジャイルズ(KENTARO)に温かく迎え入れられた「わたし」は懸命にマキシムの良き妻になろうとするが、マキシムに隠れて屋敷に出入りするレベッカの従兄弟ファヴェル(吉野圭吾)、入江のボートハウスで出会ったベン(tekkan)等の言動からも、屋敷の至るところ、更に人々の心の中にもレベッカの存在が色濃く残ることを意識せずにはいられなかった。やがてそんな今はいないはずのレベッカによって、二人の結婚生活にも次第に影がさしていき……。

平野綾

ゴシック・ロマンとして名高い『レベッカ』は、やはりなんと言っても「サスペンス映画の神様」とも称されたアルフレッド・ヒッチコックの手による映画版が著名で、特にダンヴァース夫人を演じたジュディス・アンダーソンの怪演とも呼びたい強烈な演技が強い印象を残している。ヒロインに固有名詞がなく、観る者が「わたし」を通して物語に入っていく道筋がつけられていることもあって、ヒロインがマンダレイで追い詰められていくサスペンス感が強烈で、端的に言って夜1人で鑑賞するのは恐ろしいと思える世界観が広がっている。
そこからすると、このミュージカル版にはぐっと情緒的で、ロマンティックな色合いが濃い。それには恐怖感以上に、個々の人間心理に深く踏み入ったミヒャエル・クンツェの脚本・作詞と同時に、複雑でありながら耳に残る美しいメロディーを数多く書いたシルヴェスター・リーヴァイの音楽の力が大きく寄与している。冒頭に歌われる「夢に見るマンダレイ」が、特にその効果を発揮していて、レベッカというあまりにも強大な影に「わたし」が愛の力で対峙していく物語の、ロマンの香りを強く際立たせている。作品中最も有名な楽曲と言って間違いないだろう、ダンヴァース夫人のナンバー「レベッカ」が繰り返し歌われることによるサブリミナル効果や、マキシムの懊悩を描く「神よなぜ」「凍り付く微笑み」等のビッグナンバーと、ベアトリスとジャイルズの「親愛なる親戚!」ヴァン・ホッパー夫人の「アメリカン・ウーマン」等、軽やかでリズミカルなナンバーが共存することで、物語の色彩が格段に豊かになった。
このミュージカルならではの醍醐味は、アンサンブルメンバーが歌う数々の楽曲の面白さにもあふれていて、山田和也の演出が出演者1人1人の個性を丁寧にすくい取っているのも目に耳に愉しい。何よりサスペンスフルな物語展開の緊迫感に、シアタークリエの濃密な空間がピッタリで、クリエ発ミュージカルのスタートを切った作品が、栄えある10周年記念の掉尾を飾ったことの意義を改めて知らしめていた。

桜井玲香

そんな作品を彩る出演者の多くが初演以来の持ち役を深めているのも、やはりこの企画の重みを感じさせるし、新たなメンバーが吹かせる風もまた更なる見どころを生んでいる中で、マキシム・ド・ウィンターを演じる山口祐一郎が、変わらずに作品の芯を担っている安定感には大きなものがある。スラリとした長身と甘いマスクとどこまでも伸びる歌声で、唯一無二というほどミュージカル界にとって貴重な存在だった山口が、経験と年輪を重ね、尚このマキシム役が無理なく演じられるだけでなく、役柄の苦悩や揺れ動く心情をよりリアルに表出する深みを加えた姿は圧巻。今回「わたし」役にトリプルキャストが組まれたことで、それぞれに対する山口のマキシムの表情が異なってくるのも、なんとも魅力的だった。

そのトリプルキャストの「わたし」は、日本版オリジナルキャストの大塚千弘が、帝国劇場再演バージョンから8年の時を経て同じ役柄を演じ、瑞々しさを失わずにより感情の襞を深めているのが頼もしい。観客が彼女の目線で物語を観る「わたし」というヒロインの在り方に、当然でもあるだろうがやはり一日の長があり、緩急の豊かな歌唱力がマキシムやダンヴァース夫人との掛け合いのナンバーに際立った。

一方平野綾は「わたし」役そのものこそ初役だが、近年ミュージカル界で次々に大役に挑んできた経験値が生きて力強い。制作発表や囲み取材で見せるむしろおっとりした佇まいが、舞台に立つと燃えるようなパッショネイトに変換する、平野綾という表現者の魅力がそのまま「わたし」にも投影されていて、愛故に強さを兼ね備えていく「わたし」の変化に見応えがあった。

この二人に並んで、翻訳ミュージカル初挑戦の桜井玲香が「わたし」を演じるプレッシャーには、果てしもないものがあっただろうと思うが、それだけに役柄に体当たりする桜井の懸命さが、新たな人生に飛び込んだ「わたし」の心許なさと、怯え戸惑いながらも姿なきレベッカとの戦いに挑んでいく様にストレートにつながったのが、予想以上の効果を生んでいる。可憐な容姿も加わり無条件に応援したくなる「わたし」像はこの作品の本質を突いていて、発展途上の歌唱も美しい声質に伸びしろを感じさせた。経験を重ね花開いている同じ「乃木坂46」の生田絵梨花に続く、ミュージカル界での今後の活躍にも期待したい。

そしてこの作品全体の色を決めていると言って間違いない存在であるダンヴァース夫人は、再演バージョンに続いての出演となる涼風真世が、亡きレベッカがそのまま憑依したかのような威厳と位取りの高さを示せば、初役の保坂知寿がレベッカへの狂信的な崇拝を緻密に表現して興味深い。片や元宝塚歌劇団のトップスター、片や元劇団四季のヒロイン女優と、日本のミュージカル界にとって欠かせないカンパニーを出自に持つ二人が、やはりそれぞれの生まれ育った場所を想起させる表現で役柄にアプローチしているのが、何よりの興趣を生んでいた。

他に初演からの続投キャストでは、マンダレイの管理を任されているフランクの石川禅が、この年月でより役柄に相応しい味わいを身にまとっているのが大きな効果を生んでいる。近年アクの強い役柄でもヒットが多い人だが、やはり本来の持ち味がひたすらに誠実なフランク役に合っていて、「わたし」を励ます「誠実さと信頼」の持ちナンバーが滋味深く耳に残った。レベッカの従兄弟ファヴェルの吉野圭吾は、逆にアクの強い役柄をどんなに色濃く演じても、徹底的に下品にはならない魅力が活きている。このミュージカル全体の色彩からも、吉野のファヴェルの匙加減は絶妙で、良いアクセントになっていた。非常に難しい役柄であるベンの動物的な判断を純粋に見せるtekkan、マキシムの義兄ジャイルズを軽妙洒脱に演じるKENTAROも味わい深い。

また、初役の面々では、ジュリアン大佐の今拓哉が、マキシムへの友情と、冷静な裁判官であろうとする職業倫理の狭間で揺れ動く心情を巧みに表現しているし、マキシムの姉ベアトリスの出雲綾の、宝塚時代から定評ある歌唱力と共に、温かみのある声質そのものがマキシムと「わたし」の絶対的な味方である役柄をよく生かしている。更にヴァン・ホッパー夫人の森公美子が、この女性の世話係はどれほど大変だろうかと、冒頭「わたし」に観客が肩入れするに十分な居丈高さを表わして尚、どこかで憎めないものを残すのが森ならでは。これによってヴァン・ホッパー夫人の警告が、単に「わたし」への嫉妬から出たものではなく、作品にとって重要な一言になることに、説得力を与えていた。

他に前述したように、アンサンブルの面々の働き場も極めて多く、館の召使いたち、イギリスの上流階級の人々、群衆へと早変わりしていく様も鮮やかで、コーラスの魅力も満載。シアタークリエ10周年の掉尾であり、新たな10年への出発でもある作品を輝かせる力になっていた。改めて、折に触れて上演を重ねて欲しい作品だと感じさせたミュージカル『レベッカ』が、日本版誕生の舞台に見事な凱旋を果たしたことを喜びたい。

〈公演情報〉
ミュージカル『レベッカ』
脚本/歌詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲◇シルヴェスター・リーヴァイ
原作◇ダフネ・デュ・モーリア
演出◇山田和也
出演◇山口祐一郎、大塚千弘/平野綾/桜井玲香(トリプルキャスト)、石川 禅、吉野圭吾、今拓哉、tekkan、KENTARO、出雲綾、森公美子、涼風真世/保坂知寿(ダブルキャスト)ほか
●1/5~2/5◎日比谷・シアタークリエ
〈料金〉12,500円(全席指定・税込)
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半~17時半)
公式ホームページ https://www.tohostage.com/rebecca/

【取材・文/橘涼香 舞台写真提供/東宝演劇部】

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