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自分を生きる旅として生れ出た新演出版! ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』上演中!

神童と謳われ、生涯に600以上に及ぶ楽曲を書いた天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが実は女性だった、という発想から生まれたミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』が、宝塚歌劇団花組トップスターとして一時代を画し、退団後も積極的に表現活動を展開している明日海りおを主演に迎え、池袋の東京建物Brillia HALLで上演中だ(31日まで)。

ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』は福山庸治の同名コミックスを原作に、日本オリジナルミュージカルを牽引してきた音楽座により、1991年に初演され大ヒットとなった作品。以降改訂を加えながら上演が重ねられ、音楽座ミュージカルを代表する名作として知られてきた。今回の上演は初演からちょうど30年となる2021年東宝製作のもと、独特の美学と世界観でミュージカルシーンに確固たる地位を築いている小林香演出、明日海りお主演での、新たな『マドモアゼル・モーツァルト』の創出となっている。

【STORY】
天から与えられた音楽の才能に恵まれて生まれた少女エリーザ(明日海りお)は、女性が音楽家になれなかった時代故に、父レオポルト(戸井勝海)から少年“アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルト”として育てられ、神童と呼ばれ、瞬く間に時代の寵児となり宮廷でもてはやされるようになる。宮廷作曲家サリエリ(平方元基)はそんなモーツァルトの音楽に否定的ではあったが、目をそらせない存在にある不審を抱き、恋人のカテリーナ(石田ニコル)に身辺を探るよう頼む。

そんなモーツァルトが下宿しているウェーバー家の母親は、その成功にあやかろうと娘のコンスタンツェ(華優希)と無理矢理結婚させるが、当然ながら女性であることを隠しきれるはずもなく、モーツァルトを愛していたコンスタンツェは大きなショックを受け、いつしかモーツァルトの弟子のフランツ(鈴木勝吾)と惹かれ合い、子供を授かってしまう。自責の念にかられ生まれる子供を自分の子として育てようと決心するモーツァルトだったが、移り気な貴族たちはその音楽に飽き、演奏会にも人が集まらなくなってしまう。

折も折、父・レオポルド逝去の報せがモーツァルトの元に届く。父によって男として育てられたモーツァルトは、今こそ本当の自分“エリーザ”として生きようと、ドレスを着てサリエリの演奏会へ向かう。美しいエリーザに出会ったサリエリは一目で恋に落ち、エリーザもまたサリエリに惹かれるものを感じるが、偽りの夫婦でいることに葛藤しながらも、自分を支えようしているコンスタンツェの思いを知り、再び自分と自分の音楽を見つめようとする。そんな中、劇場支配人のシカネーダ―(古屋敬多)から大衆の為のオペラの作曲依頼を受けたモーツァルトは、新しい音楽を生み出そうと、コンスタンツェの心配をよそに一心不乱に作曲を続けるが……

天才モーツァルトの一生を描いた作品は数多いが、なかでもやはり飛びぬけて知名度が高いのが、1984年に公開されたピーター・シェイファーの戯曲によるアメリカ映画版だろう。彼を妬む宮廷音楽家サリエリの視点から、モーツァルトの天才故の奇矯な振る舞いも含めた35年の人生を描いたこの映画がのちの世に与えた影響力は計り知れず、いつしかモーツァルトとサリエリは、創作の世界において切っても切れない関係にすらなっていった。この作品の原作となった福山庸治のコミックス『マドモアゼル・モーツァルト』にもその影が色濃く投影されていて、改訂が重ねられてきた音楽座ミュージカルのなかでも、二人の関係性は陰に陽に入り組んで変遷してきたものだ。だがその一方でやはり、女性が作曲家になれなかった時代故に男性として生きたモーツァルトは、実は女性だったという作品が提示した大胆な仮説が、何よりも大きな特徴であることは揺るがない。

その骨子を踏まえた今回の小林香による新演出版は、モーツァルトが女性であることを隠して、自分のなかから生まれる音楽に没頭するあまりに、周りを無意識に振り回す様はきちんと描き出して尚、その先の解釈へと明確に踏み出していたのに目を瞠った。それは、このミュージカルは音楽の為に男性を装った女性の物語ではなく、性別に捉われず自分は自分、モーツァルトはモーツァルトであり、その音楽は永遠であるというテーゼだった。この視点が、作品をある意味でとてもシンプルに、2021年の現代に落とし込むことに成功している。

思えば、1991年のこの作品の初演では、天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを葬り去ることで、エリーザは女性としての別の人生を歩んだのではないか?というミステリアスな要素がクローズアップされていたものだ。そこから30年、音楽座ミュージカルとしても様々な解釈を経てきた作品がいま、主人公たるモーツァルトの性別にこだわらず、私は私で、モーツァルトはモーツァルトだ、という境地に到達しているのには深い感慨を覚えた。日本で生まれたオリジナルミュージカルでなければ、このように新たな視点、新たな解釈を加えることは容易ではなかっただろう。もちろんそれが成り立ったのは音楽座の懐深さと、小林の原典への深いリスペクトがあってこそだ。特に、『フィガロの結婚』『ドン・ジョバンニ』『魔笛』の、モーツァルトの三つのオペラが作中のドラマと絶妙にリンクしていく構成をはじめ、「トルコ行進曲」「きらきら星変奏曲」「ソナタkv.545」など、耳に親しんだモーツァルトの有名楽曲をモチーフにしたナンバーと、1度聞いたら容易には忘れられない印象的なテーマ曲をはじめとした、書き下ろしの数々の名曲を融合させた小室哲哉、高田浩、山口琇也の優れた仕事が、作品の普遍性を担って、モーツァルトの名曲は永遠に生き続けるというメッセージは変わらずに伝え続けてくれることに、改めて日本発のオリジナルミュージカルの貴重さを感じた。

そんな、性別の呪縛から解き放たれた2021年版『マドモアゼル・モーツァルト』の主人公として明日海りおが登場したのは、だからどこかで必然のように感じる。宝塚歌劇団でトップスターとして経験を積んだのちに、更には宝塚を退団したのちにさえも永遠の少年である『ポーの一族』のエドガー・ポーツネルを演じることが可能な明日海の、稀有な透明感とふとした仕草にもただよう浮遊感が、今回のモーツァルト像に合致した様は比類がない。これは宝塚歌劇の元男役であれば誰でもが持つというものではなく、明日海独自の個性で、浮かんでくる音楽のスピードに書き留める手が追い付かなかったという逸話がある天才作曲家が、目の前の舞台に立ち現われてくる感覚が強烈だった。一方これは元男役経験者の常として、高音域のナンバーの発声は発展途上だが、初日から回を重ねた上演期間の間にも進歩が見えているし、深い芝居心がそうした困難も昇華していく、私は私だという作品のテーマを伝える姿がただ美しかった。

宮廷音楽家サリエリの平方元基は、モーツァルトを訝しく思っている前半、モーツァルトの従姉妹だと紹介されたエリーザを愛してしまってからの後半の困惑、そして、モーツァルトをモーツァルトとして認めていく終幕に向かうサリエリの変化に、芯を通して乖離させない安定した演技力が光る。明日海との体格差がまず作品にとって非常に効果的だし、エリーザに恋してしまった戸惑いはもちろん、カテリーナに対している時の色気にも平方が根底に持つあたたかさが生きていて、宮廷や貴族が顧みなくなったモーツァルトの音楽を、心から認める姿に説得力を与えていた。

モーツァルトの妻コンスタンツェの華優希は、宝塚歌劇団花組のトップ娘役として明日海の最後の相手役を務めた人で、これが退団後の初舞台。明日海のどこかこの世の者ならぬ感と華奢な体躯を前にしても、モーツァルトを本当の男性だと思い込み真剣に恋をするという設定に、やはり華の出自と二人が紡いできたドラマが大きな効果になったのは明白。特に様々な葛藤を越えて、モーツァルトに献身していく姿に真実味があり、愛らしい容姿も生きた女優デビューになった。

劇場支配人シカネーダ―の古屋敬多は、ほぼ二幕のみ、しかも終盤に差し掛かっての登場という非常に贅沢な配役が生きて、初登場時のインパクトに絶大なものがある。持ちナンバーの音域や、楽曲のカラーが古屋の個性にベストマッチしたことも手伝い、舞台の色を一気に変える存在感がなんとも鮮やか。今回のテーマ故に、サリエリとの立ち位置がやや重なることも本人の力で跳ねのけ、終幕の感動につなげたのは一重に古屋の功績。シャープなダンスも併せて魅力的だった。

サリエリの恋人カテリーナの石田ニコルは、豪華なドレス姿の堂々とした押し出しと、美しいビジュアルでディーヴァを表現。ポップなナンバーの歌唱は聞かせるし、クラシック発声にも果敢にチャレンジした意気を買う。サリエリへの愛を胸に収めて、エリーザに深く礼を取る誇り高い凜とした佇まいも目に残った。

モーツァルトの弟子フランツの鈴木勝吾は、天才の近くにいるが故の苦悩とコンスタンツェへの真っ直ぐな愛情をストレートに表現している。自分に才能があるのか、なりたい自分になれるのか?という、多くの人が共感を覚えるだろうフランツの抱える不安の表出に深みがあり、そのフランツを否定しないモーツァルトとの師弟関係も美しかった。

物語をそもそも動かすきっかけを作るモーツァルトの父レオポルトに、戸井勝海が登場していることも作品の贅沢さにつながっている。わけてもレオポルドの行動がただ自分勝手ではなく、音楽への敬意と才能を見抜く目を持った故のやむにやまれぬ決心に見せたのは、作品の根底を左右するもので、戸井の経験値の高さを感じた。

そして、ダ・ポンテの鍛冶直人、コンスタンツェの母の徳垣友子ら、作品の重要なアクセントになる役柄を好演したメンバーをはじめ、モーツァルトのオペラの登場人物たちをモチーフに物語を運び、モーツァルトの深層心理も視覚化する存在である精霊たちに扮した面々が紡ぎ出す世界観が、永遠の命を持つモーツァルトの名曲を際立たせた効果も見逃せず、傾斜のある八百屋舞台での難しいダンスシーンも全員が支えて見事だった。シンプルだからこそ抑制の効いた映像効果も生きる伊藤雅子の装置も象徴的。総じて、多様な生き方を求める現代に、性別でも、他者との比較でもない、自分が自分であるための旅路、或いは一生たどりつけないかも知れないが、だからこそ尊い道程に光を当てた新しい『マドモアゼル・モーツァルト』の誕生を喜びたい。

 

【公演情報】
ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』
原作◇福山庸治『マドモアゼル・モーツァルト』
演出◇小林 香
出演◇明日海りお
平方元基 華優希
古屋敬多(Lead) 石田ニコル
鈴木勝吾 戸井勝海 ほか
●10/10~31◎東京建物Brillia HALL
〈料金〉S席13.800円 A席9.500円 B席4.500円
〈お問い合わせ〉※A席(見切れ注釈付き)含む当日券情報
https://tickets.kyodotokyo.com/mm-tsuika
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/mm/index.html

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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