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新国立劇場『エンジェルス・イン・アメリカ』水夏希インタビュー

新国立劇場では、上村聡史の演出でトニー・クシュナーの超大作『エンジェルス・イン・アメリカ』二部作を一挙に上演する。この公演は小川絵梨子芸術監督が、その就任とともに打ち出した支柱の一つ、「フルオーディション企画」の第5弾で、21年10月より公募を開始し、12月に約1ヵ月かけて開催したオーディションを経て、8名の出演者が決定した。一部と二部それぞれ約4時間、計8時間の上演を、4月18日~5月28日の約2か月に渡って届ける。

物語はエイズ禍が拡大していた1980年代半ばのニューヨークが舞台となっていて、エイズという苦難と政治の抑圧の中で、愛、政治、偏見、死といった問題に直面する人間の姿は、コロナ禍に脅え、政治の混乱に苦しめられ、マイノリティへの理解が進まない、2023年の日本をそのまま写しとる鏡とも言える。

登場人物は、エイズに苦しむゲイの青年プライアー(岩永達也)とその恋人でユダヤ系のルイス(長村航希)、モルモン教徒で法廷書記官のジョー(坂本慶介)と妻のハーパー(鈴木 杏)、弁護士ロイ・コーン(山西 惇)、プライアーの親友で看護師兼ドラァグクイーンのベリーズ(浅野雅博)、ジョーの母ハンナ(那須佐代子)、そして天国からプライアーに遣わされた天使(水 夏希)。これら主要な8役を演じる俳優たちが、それぞれ複数の役を演じるのも見どころとなっている。

この公演で、天使、看護師エミリー、不動産セールスのシスター・エラ、ホームレスの女性などを演じる水夏希に、今回のフルオーディションでの経験や演劇への思いなどを話してもらった。

カーテンがあいたら、8人の顔写真が貼ってあった

──今回のフルオーディションに応募したいきさつから聞かせてください。

新国立劇場の「フルオーディション企画」が始まったときから、一度は受けてみたいと思っていたんです。まず、新しい出会いをしたかったこと、そして御一緒した事がない方から見て自分はどう見えるのか、それも知りたかったんです。でも、これまではオーディションの時期や稽古、公演期間などが他の公演と重なって、スケジュール的に参加できなかった。今回はたまたまスケジュールが大丈夫で、しかも作品がぜひ出演したいものだったので、これは受けないわけにはいかないと思いました。

──オーディションは天使の役を希望して受けたのですか?

第一志望はハーパー役で受けました。その日のうちに連絡をいただいて「(第二希望の)天使役で選考を受けてもらえませんか?」と言われて、その選考の中で「ホームレス役も演じてもらえませんか?」と。そのとき、会場で那須佐代子さんと一緒になり、初めてお芝居をさせていただいて、「那須さんとお芝居できる日がくるなんて!」と感動して、めちゃくちゃテンションがあがりました(笑)。そして、審査が終わったところで劇場の方が稽古場のカーテンを開けたら、そこにキャスト8人の顔写真が貼ってあって。「水さん、決定です。これで全員です」と。もう号泣でしたね(笑)。

──すごいサプライズで素敵ですね。結果的にオーディションでは3つの役柄を演じたわけですが、そのための用意はたいへんだったでしょうね。

たいへんでした! 2週間ぐらいでそれらの役を演じなくてはいけなかったので。しかも他の作品の稽古中だったので。でもがんばって良かったです(笑)。

──天使はまさに水さんにぴったりな役ですね。両性具有的なところとか、異次元的な要素があって、男役での経験が生かせそうです。

周りからも天使はぴったりと言われることが多いのですが、自分としては受かる可能性の少ないハーパーのような役にチャレンジしてみたい気持ちがあったので、ハーパーを第一志望にしたんです。ちょっと精神を病んでいて、強さと弱さというか脆さとか儚さがある、そういう役にチャレンジしてみたかったので。でも今回のキャスティングが決定して、読み合わせを何回かしたとき、この役はこの方以外あり得ない、という方々ばかりだなと改めて思いました。

──確かに全員がイメージにぴったりの方が選ばれています。

宝塚を退団してから10年以上女優という仕事をしてきましたが、今回、やはり自分にないものを求めるよりは、自分が持っている持ち味を生かして他の人が出来ないようなキャラクターを作っていくことが、私のこれからの女優としての人生では大事なのだろうなと。役者ですからどんな役でも出来ないといけないのは勿論ですが、私はハーパーみたいな役は出来ないんだとマイナスに受け止めるのではなく、天使役がふさわしいキャラクターなんだとプラスに受け止めていく、それが私が演劇という世界で生きていくためには大切なのだとよく分かりました。

天使はプライアーの妄想が生み出したもの

──作品の中で、天使のほかに看護師エミリー、不動産セールスのシスター・エラ、ホームレスの女性、そして人形の母親などを、天使役の俳優が演じると上演台本には書いてあります。ある意味、天使がそれぞれの役の体を借りて喋っているとも捉えられますが。

「天使は自分の信念が生み出すもの」とハンナの台詞にあるように、天使はプライアーの妄想が生み出したものなので、そういう意味では、看護師のセリフにギョッとするシーンも全部プライアーの妄想から生まれたのだろうなと。すべての根源はプライアーが無意識下で捉えているものではないかと。

──そうなるとプライアー役の岩永(達也)さんとの関係性が重要ですね。

そうなんです。岩永さんの稽古には全部立ち合いたいと思っています。

──今回の共演者の方々とは初共演ですか?

初めての方ばかりです。那須さんは先ほどもお話ししたように、とにかく尊敬している方なので共演できて本当に嬉しいです。鈴木杏さんはいつもお芝居を観るたびに天才肌だなと思う方で、私はどちらかというと頭で考えながら作っていくほうなので、「杏さんはどういう思考回路でこういう演技になったんだろう?」といつも思っていたのですが、今回はそういう創作過程を目の前で見られるので。毎日の演技の変化とか、このチョイスにしたんだとか、上村さんの言った言葉をこうキャッチしたんだとか、そういうことがわかるのではないかと楽しみです。

シュールな笑いが沢山入っている作品

──作品の内容についても伺いたいのですが、最初に読んだときどんな感想を抱きましたか?

私は以前、このオーディションに関係なく「面白いから」とすすめられてナショナル・シアター・ライブで観たんです。そのときは内容がよくわからないままでしたが、オーディションを受けようと思って改めてHBO版のドラマを観たとき、すごく身近な話だなと。作品の背景にあるエイズが猛威をふるっているという状態が、コロナ禍に観たことでとてもリアルに響いてきたんです。コロナも収束に向かっていますが、今だからこそ、ぜひ観ていただきたいと思っています。

──コロナも初期は世界中で多くの死者が出ましたから、この作品に出てくる不治の病と言われた頃のエイズ患者の絶望感はリアルですね。

そこはすごく感じてもらえると思います。ただ、アメリカならではの宗教や人種の問題とか当時の政治状況、それにすごくシュールな笑いが沢山入っているので、そこを日本のお客様にもわかってもらえるようにすることが大事かなと思っています。

──たしかに笑える箇所が沢山あります。

天使なんかコメディそのものみたいなところがありますからね(笑)。

──出現のしかたも派手で、喋り方も詩的で厳かなようで乱暴だったり、いろいろ面白いですね。

そうなんです! でも、宝塚時代に『エリザベート』でトート(死)を演じていた私を知っている方は、絶対に笑ってくれないんじゃないかと(笑)、すごく心配なんです。言ってみればちょっと間抜けなトートなので(笑)。最大の課題です。

──水さんは、コメディは宝塚時代も退団後もわりと得意ジャンルですよね。

でも今回のようなちょっとブラックとかシュールな笑いは初めてです。初めてといえば人生初のフライングもあるんです!

──それはまさに見どころですね。演出の上村聡史さんの舞台は何か観ていますか?

「シアター風姿花伝」で上演した那須さんや岡本健一さんが出演されていた『終夜』(2019年)を観ました。会話劇で4時間近くある濃密な作品でした。それと岡本健一さんと真矢ミキさんの出演した『正しいオトナたち』。これはコメディ風の作品で、いろいろ幅広く演出されている方なんだなと思いました。

──稽古場ではどんな演出なのか聞いていますか?

以前、上村さんのワークショップがあって、私は参加できなかったのですが、参加した人から分析とか指導の仕方が面白くて勉強になったという話は聞きました。しかも最後に1人1人にメッセージをくださったと聞いて、「ああ、出たかったな」と。オーディションのときの印象では、自分で考えてどんどんやらないとズバッと言われる感じがありました。これから稽古場でいろいろ試していこうと思っています。

生きていくこと、自分の身体を見捨てないこと

──水さんは先ほど、自分は頭で考えるタイプと言っていましたが、女優になって13年目の今、ミュージカルやストレートプレイで幅広く活躍しています。それはたぶんいろいろな現場で学んで貪欲に吸収してきたからでしょうね。女優になって良かったなと思うことは?

まずは男役ではない自分を知ることができたこと。男役のときには全くわからなかった自分の感情とか感覚を知ることになって、でも女優としてはそれを知らないと演じられないわけです。それは身体や声も同じで、男役とは全然違うアプローチで使わないといけない。そこが面白くもあり、大変でもあるところですね。

──そういう意味では発見があって楽しいのでは?

そうですね。使わなかった高い音域が出たり、出来なかった表現ができるのは嬉しいです。ただ、男役では経験の1つ1つがそのまま理想像への積み重ねになっていたんですね。たとえば下級生の頃は写真のポーズが決まらなかったのが退団直前になるとほとんどNG無しになる。自分の理想に確実に近づいていけたし、その理想の頂点みたいなところで退団したという実感がありました。でも女優になってお芝居の世界で生きていると、出来ることも増えていきますが、同時に出来ないことも増えていくんです。新しい役はどんな役でも似て非なる役なので、それまでの引き出しでは出来ないし、新しいチャレンジ、違うアプローチを考えないといけない。それはダンスも同じで、たとえばタンゴなら、何となく振りを覚えてその世界を知っていったけれど、その先に踏み込むためには今までとは違うアプローチをしないといけないんです。やればやるほど、どんどん出来ないものが増えていくという(笑)。

──それは技術力と発想力がより必要になる、みたいなことですか?

そうですね。男役は理想像が1つだったから違う役だったとしてもそこへ向かって積み上げていけば良かったのですが、お芝居での女優の役というのは無限に幅広くて、しかもそのどこが来るか分からない。毎回違う壁にぶつかって毎回違うチャレンジをして、毎回違う答えを得て、でもそれは積み上げたことにはならなくて、また次の役は一から作らなくてはいけない。そうやって毎回いろいろな人間を生きるために、さまざまな想像をして、言葉の言い方や、動きをチョイスしていく、その連続です。そして、答えはないけれど、でも考え続けていかないといけないということを学んでいます。

──そんな水さんが作り上げる天使が楽しみです。最後に観にいらっしゃる方へのアピールを。

どんな世の中になっても生きていくエネルギー、変化を受けいれるパワー、それを感じていただけたら。こんな状況でもプライアーは生きていくこと、自分の身体を見捨てないことを選んだ。病に負けて死して安らぎを得る道もあったけれど、苦しみと共に生きる道を選んだ。その信念とか勇気を感じにきていただければと思います。苦悩や葛藤とともに自ら変化を選んだその先には、新しい何かが、希望があるんだと思います。

■PROFILE■

みずなつき○千葉県出身。1993 年、宝塚歌劇団に入団。宝塚の代表作『ベルサイユのばら』で、オスカル・アンドレなど主要人物 4 役を演じ、2007 年、雪組トップスターに就任。雪組男役スター5人によるユニット「AQUA5」も結成し、世界陸上大阪大会にてデビュー曲を初披露。これまでの宝塚歌劇の枠を超えた外部活動で新しい宝塚ファンの開拓にも力を注いだ。10 年、宝塚歌劇団を退団。その後はミュージカル、ストレートプレイ、ダンス等さまざまなジャンルの舞台で活躍中。【主な舞台】『8人の女たち』『奇人たちの晩餐会』『ソーホー・シンダーズ』『スタンディングオベーション』『17 AGAIN』『アルジャーノンに花束を』『細雪』『キス・ミー・ケイト』『ラストダンス-ブエノスアイレスで』『聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』など。

【公演情報】
新国立劇場
『エンジェルス・イン・アメリカ』
第一部「ミレニアム迫る」/第二部「ペレストロイカ」
作:トニー・クシュナー
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
出演:浅野雅博 岩永達也 長村航希 坂本慶介 鈴木 杏 那須佐代子 水 夏希 山西 惇
●4/18~5/28◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉A席7,700円 B席3,300円 1部・2部通し券(A席のみ)13,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.nntt.jac.go.jp/play/angels-in-america/

《全国公演》
●6/3◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
第一部 11:30、第二部 17:00
●6/10◎兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
第一部 12:00、第二部 17:30

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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