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凰稀かなめが鮮やかに造形した新たな『グッバイ・チャーリー』 本日開幕!

元宝塚歌劇団宙組トップスターで、現在女優として活躍中の凰稀かなめが、情事のもつれで命を落としたあと、女性として転生してしまったプレイボーイ、チャーリーを、全く新しい翻訳と解釈の上演で演じるロマンティックラブコメディ『グッバイ・チャーリー』が、銀座博品館劇場でいよいよ本日から開幕する。

『グッバイ・チャーリー』はジョージ・アクセルロッドの名作戯曲。女性を泣かせ続けたプレイボーイが、天罰として男性の心を持ったまま女性としてこの世に転生してしまう、というファンタジー要素を含んだロマンティックな恋物語で、性を超越していく主人公チャーリーの設定から、越路吹雪をはじめ、宝塚歌劇団男役出身の役者たちがこれまでにも多く演じ続けてきた作品だ。今回の上演でチャーリー役を演じる凰稀かなめ自身も、2018年に『さよなら、チャーリー』のタイトルで同役を演じ、第73回文化庁芸術祭新人賞を受賞している。だが、そんな記念すべき作品を、今回の博品館劇場公演では、樫田正剛の新翻訳・演出のもと全く新たな方向性で捉え直し、可笑しくも切なく、愛に溢れた舞台が展開されている。

【STORY】
数々の女性を虜にするプレイボーイで、売れっ子の脚本家チャーリー・ソレル(凰稀かなめ)。彼が新たに作り上げた舞台の大成功を祝って、親友で映画監督を目指しているジョージ(細貝圭)、その恋人のジェニファー(花乃まりあ)、チャーリーのマネージャー・アーヴィング(瀬下尚人)、チャーリーに憧れ、いつかはチャーリーのようなりたいと願っている青年サルツマン(千田京平)、プロデューサーのアレックスの妻・ラスティ―(なかじままり)ら、仲間たちが集いチャーリーを讃えていた。だが、大盛り上がりのパーティに、突然プロデューサーのアレックス(城咲仁)が現れる。チャーリーと自分の妻ラスティ―がただならぬ関係になっていることに気づいていたアレックスは、いきなりチャーリーに銃口を向け、説得を試みるチャーリーの言葉も空しく、嗚り響く銃声と同時にチャーリーは凶弾に倒れた。

突然の親友の死を受け止められず、落ち込みながらも葬儀を取り仕切ったジョージは、悲しみの中強い疲労感に襲われ、ソファで眠ってしまう。だが、目覚めたその時彼が目にしたのは、なんと在りし日のままのチャーリーの姿だった!信じ難い思いのまま、再会を喜び合う二人。だが突然チャーリーは自分の身体に起きている異変に気付く。なんと彼は世の女性を泣かせてきた天罰で、神から女性として再びこの世に送り返されたのだ。事態の不思議さと、突き付けられた現実にパニックになりながら、二人はなんとかこの状況から前に進もうとしはじめるのだが……

当初この舞台の企画の一報を耳にした時には、凰稀かなめが宝塚歌劇団退団後の活動の中で、演技者として高い評価を受けたチャーリー役を再び演じるのだな、受賞記念の再演なのだろう、とストレートに思ったものだったが、実際の舞台は、凰稀自身がキャスト座談会で「新作と考えて頂いて大丈夫だと思います」と語っていた通りの、同じ戯曲からここまでテイストの異なる作品を生み出すことができるのか、という嬉しい驚きを抱く舞台になっていた。

従来この作品は、プレイボーイのチャーリーが情事のもつれで亡くなった後の、寂しい葬儀の場からはじまっていて、そこに女性として転生してくるチャーリーも、本人の心はチャーリーのままだが、迎えたジョージは誰だかわからない女性が現れたと思っているという流れで展開されるものだった。その明らかに美しい女性なのに、立ち居振る舞いは男性という設定が、宝塚歌劇団男役出身の女優たちが数多く演じる根幹になっていたのだが、今回の樫田正剛による新翻訳・演出での『グッバイ・チャーリー』は、チャーリーが凶弾に倒れるパーティのシーンからスタートしている=男性としてのチャーリーが冒頭の舞台に登場する形になっているのがまず非常に斬新だった。これによって、身も心も男性のチャーリーが舞台上に存在することになるし、更に、女性として転生してくるチャーリーも、洋服を着ている見た目は男性だった時の姿と全く変わらないことになり、より演者のハードルが高い設定となっていた。

だが、宝塚歌劇団栄光の創立100周年を牽引したトップスターの一人である凰稀かなめの、在団当時から世に言う宝塚メイクをしなくても、男役の衣装がすんなりと着こなせていた美貌と、稀有なプロポーションが、この設定を可能にしていて、リアルな男優陣の中で、プレイボーイのチャーリーとして凰稀が位置していることに全く無理がないのに驚かされる。常々思っていることだが、世に汗臭さのない綺麗な男の子たちが数多あふれるようになった現代と、男役との差異は日に日に縮まっていて、あくまでも宝塚歌劇という幻想世界の様式美の中に存在する「男役」としてではなく、女優が普通に男性を演じることさえもこうして可能になっている時代が来ていることを、改めて感じさせられた。

こうなってくると、チャーリーが女性の身体を持って生まれ変わったからには、と奮闘していく姿にもより切実さがにじみ、その変身の妙味も高まってくる。だが、何よりも今回の翻訳・演出で秀逸だったのは、女性となったチャーリーが起こす騒動、様々な行動原理が、親友であるジョージのまだ世に出てない才能を周囲に認めさせたいという思いから発していることだった。それは一度亡くなったからこそチャーリーが気づいた周りからの愛情や、ジョージへの信頼と、敬愛あってこそのことで、全てが愛によって展開されていくのだ。この根幹がきっちりと据えられたことによって、女性を泣かせ続けた男性が女性に生まれ変わってしまう天罰による大騒動という、ファンタジー性の濃いシチュエーションの面白さが主軸となっていたロマンティックラブコメディに、全く異なる、切なくも美しい色合いを加えたのは樫田の見事な仕事で、今回新たに作品に触れる人にはもちろん、これまで上演されてきたこの作品を観たことがある人にも、是非、視点によって作品の見え方がかくも鮮やかに変わることを、確かめて欲しいと思う。

その変化の鍵となるチャーリーの凰稀かなめは、冒頭の堂に入ったプレイボーイぶりから、男性のままだと信じている転生直後、女性として生まれ変わってきてしまったと気づいてからの混乱と立ち直り、更にそこからのチャーリーの人間的な成長を細やかに演じている。元々ビジュアルの美しさが第一に取り上げられる傾向にある人だが、実は芝居をとことん突き詰める深い役者魂を持ち合わせている人でもあり、特に今回のチャーリー像が、おそらく本人の中でも腑に落ちるものだったのだろう。コケティッシュな可笑しみも十二分に加えながらも、チャーリーが何を思い、何を願い、何に気づいていくのかが、非常に鮮明に舞台に現われ、観ていて心から応援したくなるチャーリーが具現されている。この芝居を是非観て欲しい、必ず開幕して欲しい、と願う気持ちを強くするチャーリーがここに存在していたことを喜びたい。

親友ジョージの細貝圭は、今風に言うなら自己肯定感低めの男性像を、優しさと適度な不安感の中に描き出している。映画監督として身を立てたいと願い、売れっ子の脚本家となったチャーリーへの羨望を抱きながらも、厚い友情は決して損なわれていない。けれども自分の才能にはもうどこかでは見切りをつけなければ、と惑っている青年像が非常にリアルだし、細貝の豊かな演技力がその惑いを巧みに表現している。エキセントリックで強い役柄も楽々と演じる細貝が、こうした繊細で気弱な面もある男性像を的確に描き出したことも大きな見どころになっている。


ジョージの恋人ジェニファーの花乃まりあは、ジョージに夢を追うことを諦めて、パパの会社に入り、安定した経済力を得て早く結婚したい!と願っている、恋に恋するお嬢様を、あくまでもキュートにチャーミングに演じている。大騒ぎしたり、自分の幸せではなくジョージの幸せをちゃんと考えているのか?と詰め寄られて動揺したり、ある意味でドライな割り切り方をしたり、と様々に変化する役柄をきちんと演じながら、全ての行動が嫌味にならない愛らしさが貫かれているのは花乃ならでは。宝塚宙組時代以来となる凰稀との丁々発止の共演も楽しく、場面に合わせた髪型の変化で同じ衣装でもガラリと雰囲気を変えるなど、さすがは元トップ娘役らしいこだわりの詰まった見せ方にも是非注目して欲しい。

チャーリーに憧れ、チャーリーのようになりたいと願う青年サルツマンの千田京平は、こうした美しき若手俳優の台頭が、女優が演じる男性と、男優との共演を可能にしていることを象徴した美しいビジュアルで魅了する。相当フェティッシユな行動も取る青年なのだが、それが決して粘着質ではなく、微笑ましい笑いにつながるのは、千田の適度に色気がありつつ爽やかな演じぶり故。この企画を成立させる、作品に欠かせない重要な存在となっていた。

物語を動かす鍵となる人物であるプロデューサー・アレックスの城咲仁は、冒頭のシーンが加わっていることで、更に作品にとっての重みを深めている。おそらくはこの重さと、ロマンティックラブコメディとしてのバランスを取る為だと思うが、相当にカリカチュアされた動きの演出がつき、実はかなりの難役になっていて、全体を見渡しているクレバーな目線の中で、果敢に役柄に飛び込んでいるのが素晴らしい。この辺りの表現は実際に観客の前で数をこなすごとにこなれてくると思うだけに、開幕が一層待たれる。

その妻・ラスティ―の、なかじままりは、思い切り振り切った演技と、豊かな表情変化が魅力。チャーリーにぞっこんになっている冒頭から、浮足立った様子が手に取るようにわかり、様々な場面で適度な可笑しみがあるだけに、ラスティ―もまた、チャーリーの死によって深く傷つき、罪悪感に苛まれながらも成長していくことを、あくまでも重くなり過ぎずに伝えることに成功していた。

そして、チャーリーのマネージャー・アーヴィングの瀬下尚人は、マネージメント力も高く、商機に対して頭の回転も速い人物像を、いやらしさを全く感じさせずに演じていて、こと改めて言うことではないと思いつつも、やはり確かな力量を感じさせる。ゲイであるという設定を、過度に表現しないながらも、アクセントにしているバランスも絶妙で、座組の貴重な重石となっていた。

全体に、神様のきまぐれによるドタバタではなく、チャーリーをはじめとした登場人物の愛による成長物語になった『グッバイ・チャーリー』で、それに相応しいラスト・シーンも含めて、この作品の幕が必ず開き、多くの人に届けられる日がくることを信じたい佳品に仕上がっている。

【公演情報】
ロマンティックラブコメディ『グッバイ・チャーリー』
原作◇ジョージ・アクセルロッド
翻訳◇演出:樫田正剛
出演◇
凰稀かなめ
細貝圭 花乃まりあ 城咲仁 千田京平 なかじままり 瀬下尚人
●3/19~22◎銀座 博品館劇場
〈料金〉S席9,500円 A席7,000円(全席指定・税込)
〈お問合せ〉ジェイロック 03‐5485‐5555(平日10:00~18:00)
〈公式ホームページ〉https://kaname.style/goodbye_c/

【取材・文・撮影/橘涼香】

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