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『五番目のサリー』で多重人格者を演じる!彩吹真央インタビュー

「アルジャーノンに花束を」で知られる米国の作家ダニエル・キイスの、ミステリー小説として多重人格、解離性同一性障害を主題に描いたもうひとつの代表作「五番目のサリー」が、10月『五番目のサリー』~The Fifth Sally~としてよみうり大手町ホールで上演される。

ニューヨークで働く平凡なウェイトレス、サリー・ポーターが、自分のなかにデリー、ノラ、ベラ、ジンクスという四つの異なる人格が存在することを知り、葛藤しながら分裂した人格を統合して「本当の自分」になろうとする物語だ。
そんな作品でヒロイン・サリーを演じる彩吹真央が、作品に向けた思いを語ってくれた「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。

触れれば触れるほど深い感情に陥る役柄

──多重人格、解離性同一性障害を扱ったパイオニア的作品でもある『五番目のサリー』の舞台化作品で、主演でされることになりましたが。

役者という職業は本名の部分がまずあり、私で言えば芸名の「彩吹真央」として存在した上に、自分ではない人格を演じる訳です。その時役柄の心理を考え、悩み、深みにハマっていって、自分ではない人格として思考することをいつもやっているんですね。通常はひとつの作品で演じるのはひと役なところが、今回は一人の人物の中で、主人格であるサリー以外に別人格の四人も担うということで、役者冥利に尽きるかも知れませんが、実際に演じるのはかなりハードルが高い役だなと思いました。この作品自体はフィクションですが、ドキュメンタリーなども拝見して、実際に多重人格、解離性同一性障害を患っている方々が、日本にも世界中にもたくさんいらっしゃって、人格が共存していることに悩みながらも、病に向き合って生きていかれる姿を目の当たりにしました。これまでにも病気にかかる役柄、病気で亡くなる息子の母親役なども演じていますが、そうした実際にその病気で苦しんでいる方の役は決して上辺の想像だけで演じてはいけないと思っています。いまは原作を繰り返し読みながら、サリーの想いや感情をどんどん掘り下げているところです。

──単純に何役も演じるというのとは、また全く異なるわけですよね。

脚本・演出の荻田(浩一)さんがいま色々と構築されている最中ですが、基本的には主人格のサリーを私が演じて、それ以外の人格、デリー、ノラ、ベラ、ジンクスは別の役者が演じるという形なんです。でももちろん私自身が別人格も担ってはいて、他の役者の方と共有しながら演じていく。例えばサリーとデリーが会話をするなどの場面もあると思うので、そこを荻田さんがどのように脚本にまとめて演出されるのかが楽しみです。特に今回ミュージカルではなくストレートプレイ、台詞劇なので。より濃密なものになっていくと思います。

──正直、荻田さん脚本・演出で、彩吹さんをはじめとしたキャストの方々の顔ぶれを拝見した瞬間は、ミュージカルになるんだと思い込みました。

そうですよね(笑)。でももしミュージカルとして表現したとしたら、解離性同一性障害がややファンタジックに振れてしまうような気がするんです。それを芝居で表現することによって、お客様の心にも、物語がスーっと沁み込みやすくなると思いますから、じっくり芝居だけで、きちんとエンターティメントとしてお伝えしていきたいです。

決して難しくなく自分を見つめ直せる作品

──共演者の方達も多彩ですね。

お顔ぶれを拝見したときに、なんと心強い方達なのだろう!と思いました。胸をお借りして皆様と共に作っていけたらと思っています。駒田一さんと小野妃香里さんとはこれまで何度も共演させていただいていて、私の良いところも悪いところもご存知な方がいらしてくださることに安心感があります。中河内雅貴さんと大山真志さんもご一緒していて、元気で明るい存在にいつも助けられていたので、今回も共演が楽しみです。また、はじめてご一緒する仙名彩世さんは宝塚の下級生ですが、とても芸達者な娘役さんというイメージを持っていて、歌も踊りも素晴らしいのできっと舞台にそれが生きるのではと期待しています。藤田奈那さんも数多くの舞台に立たれているので頼もしいですね。荒井敦史さん、井澤勇貴さん、小寺利光さんとも初めて共演させていただきますが、皆さんそれぞれに舞台でも映像でも活躍されている方なので、どういうお芝居をされるのかが今からとても楽しみです。

──ひとつ別の角度から、彩吹さんご自身、人格が変わるということではないまでも、我を忘れる瞬間はありますか?

テンションが上がる瞬間ということですよね? いつも言っているのでつまらないかも知れませんが(笑)、猫を見た時です! 例えばCMでも猫が出た瞬間に気持ちを持っていかれるんです。きっと私、前世では猫だったんだろうと思うくらいです! でもいつも猫のことばかりだから(笑)何か他にないかな。

──いえいえ、きっと彩吹さんを応援されている方達は「やっぱり!」と思っていらっしゃると思います! では改めて、荻田作品の幻惑性が噴出するだろう舞台への意気込みをお願いします。

この一年半ほど世界中の誰もが、これまで経験したことのない生き方をしてきたと思いますし、本来ならばできたはずのことができなくなったことも山ほどありますよね。誰もが一度立ち止まらざるを得なかったからこそ、普通に生きていられたことがどれほどありがたかったのかを感じ、考えた時間だったと思います。私自身も確かに自分を見つめ直せたなと感じているなかで、めぐり会ったこの作品がまさに、「人間とは?」を決して難しくなく見つめられるものなんです。ですから観てくださる方にも、この作品を通して生き辛い世の中をどう生きていこうかを考えるだけでなく、これからの日々を輝かしく生きていく為の力が得られる作品だと思っています。人と人とのつながり、場面と場面のつながりを素敵に構成されながら、観ているお客様に自由に感じてくださいと提示される「荻田ワールド」で『五番目のサリー』を具現化することを私自身もとても楽しみにしていますので、是非観にいらして下さい!
■PROFILE■
あやぶきまお〇大阪府出身。94年宝塚歌劇団入団。繊細な演技力と豊かな歌唱力を持つ男役スターとして様々な作品で活躍。2010年に退団後は舞台を中心に、ライブ・コンサートやオーディオドラマなど多岐にわたって活動している。主な出演作に、『シラノ』『ラブ・ネバー・ダイ』『End of the RAINBOW』『フリーダ・カーロ』『マリー・アントワネット』等のミュージカル作品、『アドルフに告ぐ』『イヌの仇討(こまつ座)』等のストレートプレイ作品や、『VOICARION Ⅸ「信長の犬」』『ラヴ・レターズ』等の朗読公演他、ジャンル問わず多数出演。作品ごとに幅広いキャラクターを演じ分ける。

【公演情報】
『五番目のサリー』~The Fifth Sally~
原作◇ダニエル・キイス著「五番目のサリー」(ハヤカワ文庫)
脚本・演出◇荻田浩一
音楽◇TAKA
出演◇彩吹真央 仙名彩世 小野妃香里 藤田奈那
中河内雅貴 大山真志 荒井敦史 井澤勇貴  小寺利光  駒田一
●10/21~30◎よみうり大手町ホール
https://music-g-h.com/stage/sally

 

【取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭】

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