芸能生活30周年記念の二つの作品に臨む湖月わたるインタビュー
元宝塚歌劇団星組トップスターで、宝塚退団後も舞台を中心に活躍を続ける湖月わたる。その芸能生活30周年を記念して、全く趣向の異なる二つの作品が連続上演される。
VOL.1は、7月5日に開幕した『ドキュメンタリー・ミュージカル わたるのいじらしい婚活』。放送作家として山田孝之の出演作品を多く手掛ける竹村武司が脚本、若手演出家として頭角を現す永野拓也が作詞と演出を担当し、2019年1月から6月まで“婚活”をテーマに、湖月わたるが過ごした半年間のドキュメンタリー映像と、実際にミュージカルとして上演される舞台が融合するというというチャレンジ精神溢れるコンセプトの作品。共演には、ファンの間では“ゴールデン・コンビ”として名高い朝海ひかるが登場するほか、廣瀬友祐、迫田孝也等、人気・実力共に折り紙付きのメンバーが揃っている。
また、Vol.2オリジナルショー『Song&Dance』は、湖月得意のダイナミックなダンス、はもちろん、宝塚時代の楽曲や本人が選曲した珠玉の名曲を歌い綴るシーンなど、宝塚時代から今日まで進化し続け、これからも前進しつづける「湖月わたる」の魅力満載のステージとなっていて、湖月に所縁の深い、元宝塚歌劇団男役トップスター紫苑ゆう、真琴つばさ、姿月あさと、水夏希が日替わりのスペシャルゲストとして駆け付ける豪華な内容となっている。
そんな記念の二作品に臨む湖月が、両作品への意気込み、更に『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来へ』の出演で改めて感じた宝塚歌劇団への想いなどを語ってくれた。
30周年記念公演をお祝いだけにはしたくなかった
──芸能生活30周年記念公演として全く異なるタイプの二作品が用意されていますが、中でもVOL.1は『ドキュメンタリー・ミュージカル わたるのいじらしい婚活』はタイトルからして、とてもチャレンジングな作品ですね。
私自身もこの「ドキュメンタリー・ミュージカル」というものがどう進められていくのか?には、謎めいていたものもあったのですけれども(笑)まず半年かけて、竹村武司さんとドキュメントの部分の映像撮影をさせて頂きました。台本がなく、撮り直しもなく、色々なシーンをワンカットで撮っていくのですが、そういう経験は初めてでしたし、「婚活」がテーマですので、食事会のシーンや、デートシーンや、皆で相談するシーン等を撮らせて頂きました。基本的に構成と言いますか、入口と出口だけは決まっているのですが、決められた台詞は全くないので、自分で言葉を紡いでいくことが自分にできるんだろうか?と最初は正直不安な部分も大きくありました。でも自分自身を演じるということで、結果としてはとても楽しく、気負うこともなく各シーンに向き合えたのかなと思っています。そこが竹村さんのマジックなんだなと思ったのですが、実際にはじめての方とお食事をしながらカメラの前で話させて頂いているうちに、自然と感情が動いてきて、自分で自分を演じているのだけれども、その演じているという境界線がわからなくなってくる、とても不思議な感覚があり、貴重な経験をさせて頂いたと思っています。その映像部分が、台詞、音楽、ダンスがある舞台とどう融合していくのか?は私も楽しみですし、おそらくお客様には客席に座っていらして、カメラのレンズの中から私の心を覗いているような感覚を持って頂ける作品になるのではないかと思っています。
──とても斬新な作りだなと感じますし、宝塚バウホールも舞台と客席が近い劇場ですが、特に東京のDDD青山クロスシアターは更に舞台と客席が近いので、一層ドキュメンタリー感があるでしょうね。
本当に舞台と客席が近いですから、今ここで起きていることというような感覚で、作品をご覧になって頂けるだろうと思います。
──そんな非常に新しい挑戦の舞台になっているこの公演ですが、少しお話を戻してまず企画が発表になった時には「婚活」がテーマというところに驚きもありましたが、そのテーマが決まっていった過程で湖月さんご自身の心境はいかがでしたか?
今回「芸能生活30周年記念公演」をDDD青山クロスシアターでさせて頂くということがまず最初に決まったんです。今もお話に出ましたように、とても客席との距離が近い劇場での公演ということで、この空間でどんな作品を創って頂けるのだろう、と考えた時、私には「芸能生活30周年記念公演」をただ単にお祝いとしての公演に留めるのではなくて、折角の機会に役者として一皮むけたい、新しいものに挑戦して何かを掴みたいという想いが強くありました。その想いをくみとって頂き、演出家として大変な注目を集めておられるる永野拓也さんと大人気の構成作家の武村さんをご推薦頂けたのですが、お二人が揃って私のことを「チャーミングだ」と言ってくださって!「舞台の印象とは異なる普段のチャーミングな部分を是非生かした作品にしましょう、ついては30年間でやれなかったことはなんですか?」と訊かれたんです。もちろんやってみたかったけれども怪我につながる恐れから避けてきたことなども色々あったのですが「私は生来不器用な性質なので、舞台一筋に突き進んできた30年間、やはり「恋愛」にも真っ直ぐには向き合えなかったです…」とお話したところ「では婚活をテーマにしましょう!、そうすることで今までお客様が見たことがなかった湖月さんの色々な面をご覧頂けると思います!」というご提案を武村さんから頂いて!最初はもちろん驚きましたし、不安もあったのですが、永野さんからも「自分自身を演じることはとても勇気のいることだと思いますが、役者にとって大きな価値のあることだと思います」と真摯にお話を頂いて、これはお二人の才能に身を委ねよう!挑戦しようと思いました。
──その挑戦に飛び込んだ今はいかがですか?
自分でも非常に意外に感じる「私にこんな一面が?」と思うような、新たな発見がたくさんあるのがとても刺激的です。自分の中で確実に新しいものが動き出していることを感じるので、新たな扉を開ける作品になるという確信が持てていてとても楽しみです。特に朝海ひかるさんも「朝海ひかる」として登場してくれますので、そこにも注目して頂きたいです。
──朝海さんとは特に長いご縁のある間柄ですね。
共に宙組の発足メンバーで、彼女が雪組に組替えになり、私が専科に異動になった時に『月夜歌聲』という作品で初めて相手役として共演した時から、本当に長いご縁になります。ファンの方の間ではありがたいことに「ゴールデン・コンビ」とも言って頂けていますし、彼女はドキュメンタリー映像にも出てくれているんです!廣瀬友祐さん、迫田孝也さんをはじめ他の共演者の方達は「役」として舞台に登場してきてくださいますので、皆様と初共演でもありますし、こちらも是非楽しみにして頂きたいです。
30年間に出会った思い出の曲で歌い踊る
──そして、30周年記念公演Vol.2『Song&Dance』が10月に控えていますが、こちらはまた大変豪華なゲストの方達も揃われていますね!
こちらは私が30年間に出会った思い出の曲で歌って踊る、というステージをさせて頂きます。振付を川崎悦子先生につけて頂くのですが、私は宝塚時代のバウホール作品『テンペスト』で初めて川崎先生の振りに出会い、その時にちょっと力の抜けたカッコ良さと言いますか、私の中で新たな男役のダンス像を開拓して頂けたと感じた先生なんです。そして退団後もDANCE GALAXY vol.1『GILLE』、DANCE GALAXY vol.2『Rose Adagio ─眠れる森の美女』という作品で、宝塚を退団し、男性の中にいるにも関わらず私も男性として登場するといった、男役の経験を活かしながら、役者として私らしいダンス、自分のダンスを創り出していく過程を共に創り上げてくださった方ですから、今回久しぶりにご一緒させて頂けるので、今の私だからこそ踊れるマニッシュな部分や、女性らしい部分を引き出してくださるのではないか?と期待しています。またダンサーとして、とても爽やかで真摯で振付家としても大活躍しておられる三井聡さんが出演してくださるので、私を女性らしく見せてもらえる(笑)と思いますし、色々と助けていただけると頼りにしています。そしてゲストの方々が…!!
──どの方もお名前を拝見するだけで思い出がよみがえりますね!
もうゲストの方を語るとそれだけで1時間以上になってしまうので(笑)、ギュッと凝縮して申しますと、紫苑ゆうさんには新人公演時代からお世話になって、宝塚の男役としてだけではなく舞台人として、タカラジェンヌとして常に感謝の気持ちを忘れてはいけない、という大切なことを教えてくださった方です。今回も快く出演を引き受けてくださって本当に感謝しています。真琴つばささんとは宝塚在団中より、退団後に多くご縁を頂いて『愛と青春の宝塚』『DREAM LADIES』や、様々なコンサートでご一緒させて頂けていて。特に『愛と青春の宝塚』で同じリュータンという役を演じたのですが、真琴さんの役に向かうストイックさや、周りの方々への気配りをそばで学ばせて頂きました。『DREAM LADIES』はご自身がプロデュースされた公演で、そのプロデュース力や責任感の強さに感嘆していましたので、今回も「なんでもやるから!」とおっしゃってくださってとても嬉しいです。姿月あさとさんとは宙組時代からずっとお世話になり、退団後も『DIANA』やコンサート、更に『エリザベート スペシャル ガラ・コンサート』では宝塚退団後に再びトートとルキーニとして向き合うという経験もさせて頂いて。私が歌が苦手だとずっと悩んでいた時も「こんな歌を歌ってみると良いんじゃない?」と教えて頂いたり、発声や響きについても様々なアドヴァイスをくださいました。今回も「何を一緒に歌う?」と言ってくださって…。共に歌うことでまた勉強させて頂きたいと思っています。そして水夏希さんとは退団後DANCE LEGENDシリーズで共に汗を流し、筋肉痛を乗り越え(笑)という貴重な体験を一緒にしてきた、共に戦った同志という気持ちですし、最近では『Pukul~プクル~時を刻む愛の鼓動』もあり、彼女のダンスに向き合うストイックさには私も常に刺激を受けていますので、そんな彼女と何をしようかな?と楽しみです。
──本当に豪華ですが、つまり日替わりのゲストの方との場面は回替わりのその時だけのものということですね?
はい、その方としかできない場面、ある意味では私の夢を叶えて頂く場面になるので!
──それはとても選べないですね!
全体の内容としても、宝塚時代の思い出の曲もたくさん歌いたいですし、退団してから創り上げてきた私のマニッシュなダンスを、宝塚時代の曲でご覧頂きますし、後半では女優として出会った様々な作品の曲で、歌も踊りも挑戦する盛りだくさんな内容になるので、是非全公演ご覧頂きたいです!
歴史を受け継ぎ、更に進化し続けたい
──全く異なるタイプの作品で芸能生活30周年の記念公演を行われることに期待が膨らみますが、ちょうどこうした大きな節目の年に『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来へ』という素晴らしいステージにも出演されました。宝塚を卒業されて、改めて男役として扮装もする舞台に立たれたことについてはいかがでしたか?
『ベルサイユのばら』という作品が宝塚歌劇にとってとても大きな作品である、ということは勿論わかっていたのですが、顔合わせの日に植田紳爾先生が「45周年にこれだけのメンバーが集まる記念公演をしてくれることが本当に嬉しい」と、感極まったご様子でおっしゃったのを拝見した時に、初演の時にどれだけの不安とプレッシャーを抱えながら初日を迎えられたのかを、改めて知る思いがしました。その時を共にされたレジェンドと呼ばれる先輩方から連綿と引き継がれてきた軌跡で、この45年という歴史が築かれてきているので、それを受け継がれた谷正純先生が「ここで再び扮装をしてくれる皆の勇気に敬意を払って、単なるお祭りではない公演にしたい」とおっしゃったことに気持ちが引き締まりました。客席には当然初演からこの作品をご覧になっているお客様も多くいらっしゃるでしょうから、その方々の夢を壊してはもちろんいけませんし、また新たなお客様にはこの作品の素晴らしさをお伝えしなければいけない。その責任をずっしりと受け留めてスタートしたので、特にコスチュームメンバーの団結力たるや!(笑)。なんとかこの作品のコスチュームバージョンを成功させなければと麻路さきさんから、97期生の子まで皆で手を取り合って1ヶ月みっちりと稽古をして臨んだので、ひとつのものに向かった時のタカラジェンヌの結束力を感じましたし、初風諄さんをはじめとしたレジェンドの方々、日向薫さんをはじめとした平成メンバーの方々が、コスチュームメンバーにひとつひとつアドヴァイスしてくださる言葉が本当に貴重で!例えばダンスナンバーで言えば、振付の喜多弘先生から直接ご指導を受けている方々が「ここはもっとこんな感情だった」と伝えてくださるのがありがたかったです。ですから全員が一丸となって創り上げていきましたし、舞台に行ってからも「わたる、ベルトをもうちょっと下げた方が良い」など、細かく、細かくみてくださるのが嬉しかったです。そして何よりも客席の皆様の笑顔が見える最後のご挨拶では胸がいっぱいになりましたし、東京国際フォーラムホールCというあの大きな劇場が連日超満員のお客様で埋め尽くされている光景を見ることができて、『ベルサイユのばら』がこれからも宝塚歌劇で愛され続ける作品であって欲しい、つないでいきたいと強く思えた瞬間でした。
──今幻想性のある作品が様々に増えている中でも、これだけの電飾が輝く様式美の舞台である『ベルサイユのばら』だけは、宝塚歌劇でしかできないものだなと痛感しました。
全員の宝塚に対する愛が溢れている舞台でしたし、現役の頃の若さや勢いは二度と戻ってはこないのですが、でもだからこそ退団してから培ったもの、人としての厚みと言えるようなものを加味して、今の皆が演じるオスカルもアンドレもマリー・アントワネットもフェルゼンも進化していると思って頂けることを目指しましたので、新しい発見がたくさんありました。特にフェルゼンの牢獄のシーンなどには、台詞の意味や思いの深さに改めて感じるものが多かったです。
──その中で、今芸能生活30周年を迎えられた湖月さんにとって「宝塚歌劇」とはどんな存在ですか?
私は小学校4年生の時にはすでに「宝塚の舞台に立ちたい!」と思っていて、宝塚の世界に魅了されて、夢中でそこを目指しました。その夢が叶って宝塚の舞台に立つことができましたが、宝塚は夢の世界ですけれども、現実にはもちろん厳しい部分もたくさんありました。でも宝塚に入れたことで、諸先輩方、同期の絆、下級生、スタッフの先生方など様々な出会いに恵まれましたし、何よりも「宝塚」を愛してくださるお客様に出会えて、本当に温かく、まるで育てるように応援してくださった。「宝塚歌劇」という世界が、如何に私達を守ってくれて、大切に育ててくださったのかということを退団してつくづくと感じています。作品を創っていく中での闘いはたくさんありますが、あの宝塚という街全体で、私達を「タカラジェンヌ」として見てくださることで、私達は本当に「タカラジェンヌ」なんだと自覚させてもらえた。学校生活を入れて宝塚で過ごさせて頂いた20年間は本当に青春そのものでした。しかも退団したらもう本当にお別れなんだと思ってとても寂しかったのですが、実は「元宝塚の生徒」として生きていくことで、退団してからもずっと宝塚とはつながっているんだと感じています。宝塚スカイステージでOG公演を紹介してくださるだけではなくて、昔の作品も放映してくださることによって「初めて宝塚時代の舞台を映像で観ました!」と新しい方からお手紙が頂けたりもしています。卒業した私達にも宝塚がどれだけ温かく手を差し延べてくださっているかを感じますし、宝塚歌劇団の生徒になれたからこそ今の私がここにいることができています。そんな全ての意味で宝塚には感謝しかないですし、『ベルサイユのばら45』で大先輩の方々とご一緒させて頂き、皆様が止まることなく進化されているのを目の当たりにして、私もまだまだ新しい自分を、新しいステージを目指して情熱を持って突き進んでいかなければと気持ちを新たにしています。これからも舞台に向き合い続けることで、宝塚歌劇団に何かひとつでも恩返しができたら良いですね。
──湖月さんの更なる挑戦を楽しみにしていますが、ではこの芸能生活30周年記念公演を楽しみにされている皆様にメッセージをお願いします。
Vol.1では私にとっても新たな挑戦ですし、新たな感覚で観て頂ける作品だと思いますので、是非劇場に足を運んで頂いて私の心を覗いて頂けたらと思います。Vol.2の方は「ザッツ・湖月わたる」で歌い踊り、私の舞台に懸ける情熱をお届けしたいと思いますので、両作品共に30年という記念の年を迎えられたことに対する感謝と愛をこめてお届けしますので、是非劇場に足をお運びください!お待ちしています!
こづきわたる○埼玉県出身。1989年宝塚歌劇団に入団。2003年星組トップスターとなり、『王家に捧ぐ歌』で文化庁芸術祭優秀賞を受賞。2005年日韓国交正常化40周年記念『ベルサイユのばら』では、宝塚歌劇団初の韓国公演を成功に導いた。2007年『DAMN YANKEES~くたばれ!ヤンキース』で女優デビュー。『カラミティ・ジェーン』、『愛と青春の宝塚』、『絹の靴下』、『クザリアーナの翼』等舞台を中心に活躍。女優としてはもちろん、ダンサーとして圧倒的な存在感を持ち、2015年『CHICAGO』アメリカカンパニー来日公演では唯一日本人女性としてヴェルマ役を好演。ダンス、ミュージカル、ストレートプレイと幅広く活躍中。
【公演情報】
Vol.1『ドキュメンタリー・ミュージカル わたるのいじらしい婚活』
脚本:竹村武司
作詞・演出:永野拓也(hicopro)
出演:湖月わたる、朝海ひかる、廣瀬友祐、迫田孝也
飯野めぐみ、可知寛子、高橋卓士、宮島朋宏
●7/5~15◎東京 DDD青山クロスシアター
●7/19~21◎兵庫 宝塚バウホール
〈料金〉11,000円(全席指定・税込)
Vol.2『 Song& Dance』
出演:湖月わたる
【スペシャルゲスト】紫苑ゆう(10/22出演)真琴つばさ(10/16出演)姿月あさと(10/17、22出演)水 夏希(10/17出演)
Dancer 三井聡(全日程出演)
●10/16~17◎東京 草月ホール
●10/22◎大阪 グランフロント大阪 北館4階ナレッジシアター
〈料金〉
【東京】S席11,000円、A席9,000円、B席8,000円(全席指定・税込)
【大阪】11,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 東京公演0570-077-039 兵庫・大阪公演06-6377-3888(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/795/
【取材・文・撮影/橘涼香】
Tweet