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大地真央主演で花開く名作の新たな魅力!明治座『ふるあめりかに袖はぬらさじ』上演中!

舞台を中心に数々の作品でヒロインを演じ続けている唯一無二の女優・大地真央が、自らの出自でもある宝塚歌劇団気鋭の若手演出家原田諒とタッグを組み、好評を博した音楽劇『ふるあめりかに袖はぬらさじ』再演の舞台が、日本橋浜町の明治座で上演中だ(27日まで)。

『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は昭和47年文学座での初演以来、度々再演が重ねられてきた有吉佐和子の名作。平成29年明治座にて、これまで多くの大女優が演じてきた主人公の、お人好しで飲んべいな三味線芸者・お園を大地真央が演じ、宝塚歌劇団の作・演出家原田諒が新たに「音楽劇」として構築した舞台は、大地の熱演と、珠玉の書き下ろし楽曲により大きな話題を呼んだ。

今回の上演はそんな作品の待望の再演で、大地以下初演から続投するメンバーに、矢崎広をはじめ新たに加わるメンバーとが、更に深みを増した舞台を繰り広げている。

【STORY】
幕末。開港間もない横浜・港崎遊郭にある「岩亀楼」の三味線芸者・お園(大地真央)は、旧知の花魁・亀遊(中島亜梨沙)を看病している。労咳の疑いで誰も近寄ってこない粗末な部屋に押し込められている亀遊だったが、お園のあたたかい励ましと、留学して医学を学ぶという夢を抱く通訳・藤吉(矢崎広)が用意してくれた薬のおかげで、どうにか生色を取り戻すまでになっていた。
だが、久しぶりにつとめたお座敷に居合わせたアメリカ人・イルウス(横内正)に見初められてしまった亀遊は、岩亀楼の主人(佐藤B作)によって、法外な値段で身請けを決められてしまう。藤吉への恋が叶わぬことを儚んだ亀遊は、自らの手でその命を絶ってしまった。

数日後、亀遊の死の真相を偽って伝える出所不明の瓦版が現れる。そこには、紅毛碧眼に身を汚されることを潔しとせず、懐剣で喉を突いた天晴れな武家の娘として亀遊が紹介されており、「露をだに いとふ倭の女郎花 ふるあめりかに 袖はぬらさじ」 という辞世の句までが添えられていた。
亀遊の亡骸をはじめに見つけたお園は、亀遊は武家の娘などではないし、懐剣ではなくカミソリで命を絶ったのだと言い立てるが、商売上手な岩亀楼の主人はお園に客が喜ぶ話をするように命じ、やむなくお園は亀遊の悲劇的な話を客たちに語り聞かせ始める。

その話は瞬く間に真実として広がり、「攘夷女郎」にまつりあげられた亀遊を婦女子の鑑と崇めた攘夷派の志士たちによって、岩亀楼は聖地同然となり、連日お園の座敷には客が押し寄せる。亀遊の死を最初に見つけた生き証人として、一躍花形芸者になったお園は語るごとに尾ひれがついていく亀遊の死に様を、望まれるままに披露し続けていくが……

別に虚言癖がある、というほどの大袈裟な話ではなく、ふと場を盛り上げる為に起きたできごとをちょっと盛って話してしまった経験は誰にだってあるのではないだろうか。それは決して単なる見栄でも、ましてや悪気でなどではさらさらなく、ほんの小さなサービス精神が発露になっていることがほとんどで、その場さえ盛り上がれば、笑いあった全員が綺麗に忘れてしまうといった類のことだった。

けれどもSNSが発達し、軽い気持ちで盛った話が瞬く間に拡散され、全く訂正も、ましてや消去することもできないまま、本人の手に負えない大きさに肥大していってしまうことが珍しくなくなってしまったのが現代社会の在りようだ。このネットの海の中では嘘も100回言えば真実になるという、空恐ろしい出来事が日々起こっていて、しかも、真実さえも自分に都合の悪いものなら、あれは嘘だ「フェイクニュース」だと喧伝してはばからない人が堂々と現れるといった、ひと昔前には想像もできなかった事態がまかり通っている。いったいこの溢れかえる情報の中から、何を真実と信じれば良いのかさえ危うくなっているのが、「今」の時代の実情に違いないだろう。

そんな現代に音楽劇として蘇った『ふるあめりかに袖はぬらさじ』から立ち上る同時代性には、改めて驚かされる想いがした。話好きで、飲んべえで、ちょっと口が立ち過ぎるけれども人の好いお園は、決して自分から亀遊の死を飾り立てたのではない。彼女は常に真実を言おうとするのだが、聞く者がその真実を自分の聞きたい話ではないと受け付けず、そこに店主の商売心が絡んで、お園の弁舌は次第に名調子になっていく。その顛末の描き方はテンポも良く、たぶんにコメディチックで笑わせられるが、その最後にスッと背筋が寒くなるものが残り、作品の深い綾を生み出した。有吉佐和子の鋭い視点と、更に2019年の社会とが、この作品の凄味を際立たせている。

その中で、宝塚歌劇団所属の新進気鋭の作・演出家として注目を集める原田諒が、作品に音楽劇の形態を持ち込んだことが生きている。あくまでもミュージカルではなく音楽劇なので、お園をはじめとした芸者衆が歌い踊ったり、お園、亀遊、藤吉がそれぞれの想いを吐露したりといった形で、音楽が物語を進めるのではなく、音楽が入った芝居として作品が進んでいく。それによってやはり舞台に格段の華やかさが増したのが目に耳に楽しい。更に、生と死を分けたものが共に舞台で歌うという幻想性も支える力になっていて、この作品を音楽劇でという原田の発想の勝利が感じられた。

その舞台の中心に大地真央がいることが、作品の揺るぎない要になっている。宝塚歌劇団の歴史の中で、10年に一人と言われた、時代が生んだというよりは時代を作った数少ないスターの一人である大地は、退団後女優としての歩みの中で、舞台の上では常に主演女優であるという、稀有な経歴を誇っている。ミュージカル女優としてはもちろん、コメディエンヌとして、更に女王や王妃といった歴史に名を残す女性たちを演じる歴史もののストレートプレイなど、様々なジャンルの作品に軽やかに舞い降りながら主演を続けているが、そのいずれもが演じる時々の、その時代の大地に似つかわしい作品になっているのが実に見事だ。そんな自己プロデュース力にも天才的な才を見せる大地が、2017年に『ふるあめりかに袖はぬらさじ』のお園を演じることを選んだこともまた、そう来たか!と膝を打つマッチングだと感じられた。実際大地のお園は、いささかおせっかいにも通じるこの女性の言動に全く嫌味を加えない、軽妙洒脱な演じぶりが卓越していて、作品に新たな輝きをもたらしている。三味線も弾けば歌も歌うが、その発声に凛とした芯があるのが舞台を引き締める効果にもつながり、特に今回の再演で、台詞発声がより深みを増し、心地よく立て板に水の名調子を聞ける醍醐味が生まれたのが爽快だった。

初役で藤吉を演じる矢崎広は、持ち前の爽やかさだけではなく、このところ役者として長足の進歩を遂げている芝居力が、役柄の不器用さをじれったいではなく、頑張れ!に変換させることに成功している。亀遊をイルウスに身請けさせたくない一心で、通訳として岩亀楼の主人とイルウスの会話を精一杯妨げようとしたり、お園に責められたと感じた怒りを内に秘める場面など、ストレートに感情を出していない中で、ひと捻りある想いの発露に見応えがあった。

亀遊の中島亜梨沙も元宝塚歌劇団で美貌の娘役として注目を集めていた人だが、その美しさと、儚げな雰囲気が、2017年の初演から持ち役にしている亀遊に打ってつけ。亡くなった後もずっとこの人を中心に物語が進んでいくドラマに相応しい存在感で、中島が女優としての当たり役を得ているのが嬉しい。

岩亀楼のやり手として通っているお咲の未沙のえるは、大地の同期生で「宝塚歌劇に未沙あり!」と謳われた名バイプレイヤー。今も未沙が出演していた作品が宝塚歌劇で再演される度に、この人が如何に上手い役者だったかが強烈に想起されるほどだが、今回のお咲役は2017年に演じたマリア役以上に未沙の芝居巧者ぶりが堪能できる。遊女たちを次々に紹介する場面の、張りのある発声も小気味良かった。

薬問屋大種屋の主人の温水洋一も初参加だが、とにかくこの人の強烈でいて温かい個性が、ただ座っているだけでも役柄を引き立てて、その存在感に改めて目を瞠った。台詞のないところでも役がちゃんと立ってくることで、悲劇の引き金になる岩亀楼の場面に厚みを加えていた。

その岩亀楼の主人佐藤B作の、抜け目のなさに同居する適度な可笑しみはやはり得難い。大地のお園との掛け合いも丁々発止で盛り上がり、それでいてきちんと締めるところは締める、緩急の塩梅が絶妙でこちらも余人に代えがたい演じぶりを示している。

悲劇の鍵を握るイルウスの横内正は、まずきちんと外国人に見えるビジュアルの作り込みと演技力で魅了する。台詞はほとんど英語ながら、イルウスが何を考えているかが表情や仕草から全て伝わってくるし、彼が抗議していることももっともと言えばもっとも…と、つい感じさせられてしまうのは、横内の役者としての魅力によるところに違いなかった。

彼ら外国人を相手にする「唐人口遊女」はそもそも成り手がなかなかいない、という設定で奇妙奇天烈な風体で登場してくるが、その筆頭マリアの久保田磨希が、テレビドラマでお馴染みになったコメディセンスと共に、近年ミュージカルの舞台にも進出している大きな演技で、作品の良いアクセントになっている。他にも唐人口の遊女役では、桜一花、羽咲まな、美翔かずきの宝塚出身の女優たちや、樋口綾、石原絵里らミュージカルの舞台で活躍している人材が、個性豊かにエキセントリックに場を盛り上げ、桜の歌唱力も光った。

また、攘夷派の志士たちに扮した面々の、兄貴格の大沢健はもちろん、篠田光亮、林田航平、榊原徹士、瀬戸啓太が、いずれ劣らぬ甘いマスクでありつつ、日本物をきっちりと自分のものにしていて、特にいずれも台詞発声の口跡が良く、むしろシビアな部分を受け持つ芝居にきちんと伍していたのが印象的だった。こうした若手の人気俳優たちが、歴史ある作品を支えている姿が頼もしい。

総じて、大地真央を中心に古典が新たな形で花開き、再演につながる作品へと成長している力強さが感じられ、折に触れて上演を続けて欲しい舞台となっている。

初日を無事に終えた明治座で、囲み取材が行われ、大地真央、矢崎広、中島亜梨沙、未沙のえる、久保田磨希、温水洋一、佐藤B作、横内正が公演への意気込みを語った。

【囲み取材】

──演じる役について一言ずつお願いします。

大地 三味線芸者の、お園役を演じさせて頂きます。東京・吉原から横浜へ流れてきて、亀遊さんをとても可愛く思っているのですが、とにかくお喋り、のん兵衛、そして、お人好の面白い人です。やればやるほど楽しくなっております。27日の千秋楽まで大切に演じたいと思っています。

横内 私一人だけが外国人の役です。普段は時代劇が多いので、ちょんまげの方が楽なのですが、孤独感に苛まれながらやっております(笑)。普段なら袖で軽くリラックスして、温水さんとジョークでも飛ばしてから舞台に出るのですが、今回は緊張していて、間違えたら、トチったらどうしようという思いでやっておりまして、皆さんともコミュニケーションもあまりとれていないので、申し訳ないと思っています。ただ、それだけこの舞台に対する思いがあるということでご理解下さい(笑)。千秋楽まで頑張ります。

佐藤 岩亀楼という横浜一のお店という設定の店の旦那役でございます。それなりの大きな構えのお店なので、太っ腹の感じを出したいと思っておりますが、なかなか私は小物でございますので、それが大きな壁となっておりまして、千秋楽まで…無理でしょうね(笑)。面白い役でございますので、精一杯作品に奉仕しながら、自分でも楽しみながら頑張りたいと思います。

矢崎 遊郭「岩亀楼」の通訳、藤吉役を演じます。隣にいる中島さん演じる亀遊と恋に落ちるのですが、蘭学の医者を目指してアメリカに行きたい、という夢を持つ青年の役です。僕は再演からの参加なのですが、この素晴らしい作品に出会えたことを、すごく嬉しく思っていますし、この素晴らしさをお客様にも伝えていきたいなと思っています。千秋楽まで頑張ります。

中島 岩亀楼の花魁、亀遊役を演じます。毎日、大地さん演じるお園さんと濃密な時間を務めさせて頂いております。2年前同じ役を演じさせて頂いているのですが、毎日心が震えるような、お園さんのお芝居に触れて、亀遊として改めて生きていられるような心持ちで演じております。千秋楽まで、成長できるように、新鮮に演じられるように頑張りたいと思います。

温水 薬問屋大種屋の主人の役で名前はありません。すごく楽しんでやっています。明治座のような舞台に出るのは初めてなので、最初は不安がありました。和物のお芝居もやったことがなく、着物の帯の結びからも分からなかったので、大地さんはじめ、先輩方が教えてくださり、すごく素敵なカンパニーで良かったなと思っています。ただ嫌な奴というだけではなく、最後まで楽しんで演じていこうと思います。

未沙 横浜・岩亀楼のやり手ババアのお咲を演じております。初演の時には、今回久保田さんが演じているマリア役をやらせて頂いたのですが、その時の衣装の重さから考えたら、今回はものすごく楽です。またこの作品を違う角度から見ることができて楽しんでいます。

久保田 唐人口の遊女マリア役をやらせて頂いております久保田です。この顔はふざけているわけではありません!メイクの先生からの細かい指導の元に、当時の外国人専門の遊女の方が、女神様と天女様とか日本の良いところを取り入れだであろうメイクです。諸先輩方が「のびのびやったらいいんだよ」と言ってくだいますし、登場して出落ちにならないように、最後まで怪我なくやっていきたいと思います。

──再演が決まった時の気持ちはいかがでしたか?

大地 それは本当に嬉しかったですね。2年後という早い時期に再演させて頂けて、今回キャストの方が半分くらい新しくなって、この作品により深みが出たのではないかと思っています。

──改めて見どころは?

大地 今回音楽劇ということで、歌も踊りも、私は三味線の弾き語りもあり、とてもテンポが良くて見どころは満載だと思います。タイトルだけを聞くと堅いイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、笑って泣けて明日の活力源になる作品ではないかなと思っています。

──改めて、意気込みをお聞かせください。

大地 (矢崎に)じゃあ藤吉どん、意気込みを!

矢崎 はい!?私でいいのでしょうか? (大地がどうぞと促すので)この作品は、どの世代の方が観ても、どこか普遍的なところがあって楽しめる作品です。令和の時代にも繋がることがあるのではないかと思います。堅いイメージを持たれる方も多いと思いますが、決してそんなことは無く、ふらっと気軽に明治座に来て観て頂けたら嬉しいです。自分でも演じていて、とても幸せな作品です。

大地(矢崎に)よくできました(笑)。

矢崎 ありがとうございます!(笑)。

──では最後に大地さんから一言お願いします。

大地 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』初日を開けました。11月27日まで公演がありますので、ぜひ皆さま劇場にお運び下さい。お待ち申し上げております。

【公演情報】
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』
作◇有吉佐和子(「ふるあめりかに袖はぬらさじ」中公文庫)
潤色・演出◇原田諒(宝塚歌劇団)
音楽◇玉麻尚一
出演◇大地真央
矢崎広 中島亜梨沙
大沢健 篠田光亮 林田航平 榊原徹士 瀬戸啓太
未沙のえる 久保田磨希
桜一花 羽咲まな 美翔かずき 樋口綾 石原絵里 小林千花
鈴木章生 伊吹謙太郎 森山栄治 永島敬三
温水洋一 佐藤B作 横内正
●11/3~27◎東京・明治座
〈料金〉S席13,000円 A席9,000円 B席6,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666
https://www.meijiza.co.jp/lineup/2019/11/

 

【取材・文/橘涼香 写真提供/明治座】

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