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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】『椎茸と雄弁』岸田國士

植本 2回目の登場、岸田國士さんです。前回は2013年9月なので10年前。『沢氏の二人娘』という作品を取り上げたんですけど、今回は『椎茸と雄弁』。
坂口 まず、タイトルに惹かれました。今風な意味ありげなタイトルかなと思ったんですけど、実は真逆で。まんまの・・・
植本 タイトルが気に入ったから読んでみた?
坂口 そうです。そうしたら、椎茸の会社と、雄弁な人が出て来るお芝居でしたね。思い切りのよい、清々しい戯曲でした。
植本 岸田國士は、男女の恋愛の心のひだとかを描く物とかもたくさんあるんだけど、これはまったく恋愛が絡んでこない。喜劇ですよね。

坂口 クサビ式とオガクズ式という2種類の椎茸栽培キットを、2つの会社が農民向けに競って販売しています。で、その間に入ってくるのが、
植本 主役の「色眼鏡」っていう役の人ですね。
坂口 椎茸ネタで講演をしている研究者とも言えないような、何かちょっと怪しい人物ですね。
植本 簡単に言うと詐欺師まがい。
坂口 でも一応椎茸に関するそれなりの知識があってね。で、2つの会社とその人「色眼鏡」のやりとりが描かれています。

 

【ト書き】
舞台は全体を通じ黒無地の幕を背景とし、人物の動きを規定する最小限の小道具を暗示的に配置する。
各場面の転換は暗転式とし、装置にはなんらの変更を加へず、時間の無意味な断絶を避ける。
ファンタスチックな伴奏音楽を使つてもよい。
人物の扮装は、できるだけ様式化したものでありたい。
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

植本 上演を考えた上での本なので、最初のト書きが面白いです。リアルなことは目指してないんですね。
坂口 で、内容になるとリアルな話なんですよね。最初に椎茸会社の社長がいきなり出て来て、
植本 昭和農産工業社のアカハラ社長。最初っから長ゼリでおおまかな状況がわかります。
坂口 やさしくて上手なセリフ、当たり前だけど(笑)。
植本 (笑)岸田國士ですよ。
坂口 とても上手。耳障りがよいというかね。小池朝雄とかがやったらいいかもね。
植本 ちなみに昭和25年に書かれた作品で、26年に俳優座で上演されてるんだけど、小沢昭一、千田是也、東野英治郎さんが出てますね。
坂口 たいへんなメンバーですね(笑)。
植本 三越劇場で上演されてます。

 

【ト書き】
昭和農産工業社の社長室。
アカハラ、考へ込みながら登場。室内をぶらぶら歩きまはる。
【本文】
アカハラ すべてやり方を変へなけれやならん。政治も教育も、今までは、まるであべこべのことをやつてゐたやうなもんだ。商売もその通り、目前の利益ばかり考へて、いつたい何ができる? しかし、問題は、損をして得をとる機会がいつ来るかといふことだ。損はこつち、得は向うではなんにもならん。昭和農工創立二十年、おれも来年は五十九だ。便々として靴のかゝとを擦りへらしてゐる年ぢやない。市会議員当選の夢もいまだに夢のまゝ残つてはゐるが、郷土産業発展の捨て石になる覚悟をきめた以上、名をとるか、実をとるか、こゝが思案のしどころだ。(後略)
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

坂口 アカハラっていう社長が何ともいえず、とぼけた感じで。愚痴でもない・・・、
植本 自分の会社や世の中の状況とかね。「名を取るか実を取るかここが思案のしどころだ。」(笑)。
坂口 ちょっとかわいい(笑)。
植本 とにかく経費がかかり過ぎていてっていうので、接待費を何とか抑えたいとか。相談に来た取引相手にもお茶を出すか出さないかみたいな(笑)。
坂口 地方のちょっと大きな会社なんですかね。
植本 地元に根ざしたね。
坂口 このあとノロミという名の制作部長や営業部長が出て来ますね。そのやりとりもコミカルなんだけど、妙にリアリティがある感じですよね。

 

【本文】
ノロミ (前略)オガクズ式がわりにひろまつたといふのは、あれは、土地土地の有力者を直接つかまへるといふ手を最初に打つたからだと思ひます。ですから、大量に、一万本二万本といふ注文が、個人名義で来てゐるさうです。
アカハラ  待ちたまへ。だから、そこをこつちは逆にだ、一般農家の副業としてさ、小規模の、誰にでもできる小遣取りを兼ねた楽しみといふ立前で押さうとしてるんだ。むろん、これまでの大口は逃がしちやならん。だが、新しく開拓すべき方面は、なんといつても、農民大衆さ。本県の農家を六万七千戸と押へて、君、一戸当り毎年百本の売込みに成功してみたまへ。
ノロミ  それや、厖大な数字です。
アカハラ  さうさ、それみたまへ。君のやうに、茶ばかり注がして鼻毛を抜いてるんぢや、どうにもならんよ。
ノロミ  いや、鼻毛はとにかくとして、社長もそのへんのところは考へていたゞかんと困ります。県会議員も、農務省の課長も、それや結構です。しかし、本社の事業に関係のまつたくない方面への諒解運動に、万といふ饗応費は……。
アカハラ  黙りなさい。社の高等政策は、一使用人である君の容喙すべき範囲ではない。
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

植本 そこに、色眼鏡がやって来ますよ。
坂口 この人は椎茸のことを研究をしていて、それを講演することで生活の道を付けたいっていう。唐突に「自分はそういう人間だから、講演をしてたいんで面倒見てくんない?」って。
植本 椎茸のために頑張るんだけども、今日食べる物もない、泊まるところもないみたいなね。
坂口 彼は別に宣伝をするっていう立場ではなくて。自分が講演をする中で、椎茸を農民たちが作ることでプラスになるっていう話をするから、お金を少し出さない?っていう提案を遠回しに言いますが。社長は断ります。植本 君に払うくらいの金があったら、とっくにやってるよ!宣伝とかね(笑)。

 

【本文】
色眼鏡 (前略)ご相談といふのは、僕のこの仕事をですな、まつたく、輸出産業といふ国家的事業の立場から、いくぶんでも援助していたゞきたいといふことです。なに、自由に動ける旅費だけ、無条件で出していたゞけると都合がいいんです。
アカハラ  大義名分、まことに明らかで、一言反対すべき理由はありませんが、それならむしろ、県当局の方へご相談になるべき筋合です。
色眼鏡  どうしてもダメですか? では、もし僕が、当会社の宣伝を専ら引受け、場合によつては、菌種の販売に努力するといふ条件ならどうでせう?
アカハラ  それだけの費用が出せるなら、今までにやつてゐます。それに、さういふ方法は、あまり効果がないとみてゐる。つまり椎茸をやつてみようといふ気を起すだけではなんにもならん。続けてやるといふことが肝腎です。それには、一人でも成功を目のあたり見ること、これがなによりの宣伝です。その一人を得るために、わしどもは苦労をしてゐるんだ。では、ご苦労さん。出口はこちら……。
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

坂口 社長はとぼけかたが上手、さすがは・・・。
植本 わははは!
坂口 いやいやだってさ、椎茸のことだけなんだよ、このお芝居って。それだけでこれだけ豊かでおもしろい会話のやり取りができるってね。もう、大人の芝居だよね。
植本 そうだね。
坂口 椎茸のキットをどうやって売るのか、っていうワンテーマでこれだけリアルに、しかもコミカルに、世の中のうまく行かない歯車をうまく見せていくっていうのは、
植本 俺も褒めるけど、登場人物少ないのに、その町の、村の人たちが見えるんだよね。
坂口 このあとで出てくるけど、農民とかね。宮澤賢治の戯曲を思い出しましたね。あの農民の愚痴と突っ込み、ボケとフォローとかもね。結局、農民は色眼鏡の講演に対して最初は興味を持って聞くけど、だんだん農民らしい、自分たちの生活感覚に基づいた意見をどんどん言い出すでしょ。この場面はもう少し後ですね。話がすこし飛んじゃいました。

 

【ト書き】
色眼鏡の男を前に、七、八人の男たちが集つてゐる。いづれも中年以上の、まちまちの服装をした山村の住民。
【本文】
(前略)デン  おい、おい、いゝ加減によさねえか。この先生は、なにもてめえたちに喧嘩を売りにござつたんぢやねえ。
キン  そんなら、なんのためにござつたんだ。
ノブ  そこがわしにもわからんのだ。
サタ  椎茸の速成栽培とその利廻りについて、だよ。わしや、椎茸には見きりをつけた。
デン  どんなもんでせう、先生。このへんでひとつ、ざつくばらんに今夜の宿のことをみんなにご相談になつちや……。実はな、みなの衆、この先生の今夜のお宿だがなあ、わしのところは、知つての通り、餓鬼が多くて、ゆつくり眠《ね》てもらふ場所もないしなあ……。
サタ  どら、わしは、まだ薪切りを終へてないから、お先へ失礼するよ。(退場)
ノブ  しまつた。山羊をおつぽり出したまゝ、すつかり忘れてゐた。(退場)
キン  おれのところの嬶は、ちつと気が変になつてな、お客とみると、鎌もつて飛びかゝるんだ。(退場)
(中略)
カマ  さて、明日の天気は、どんなもんかな。(退場しようとする)
デン  天気の心配はこつちでしてやるから、てめえの家で、先生をお泊めしろ。
カマ  おれの家で? だつて、おれの家は嬶と二人つきりで、夜具は上下二枚だ。
デン  てめえさへよかつたら、間へへえつてもらへ。
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

坂口 このシーンはとぼけた会話が続きます。書いている人が楽しそう。
植本 話を戻すと、色眼鏡は体よく社長に断られて退場します。
坂口 そうだけど、部下たちはそんなにむげに断ってもいいの?って言ってますね。
植本 口出ししたかったんだよね、「あの色眼鏡の人、ライバル会社に行くんじゃない?」ってね。
坂口 それを後で引き受けるシーンがあるからね。で、色眼鏡は追い返されちゃうわけだよね。
植本 社長が色眼鏡を帰しての最後のシーンがおもしろいですね。
坂口 一気にギャグに走ってる。

 

【本文】
アカハラ  あんなヘチマの皮に何を言つたつてわかるもんか。向うへ行つたら行つたでいゝさ。オガクズ式が、いつたい、あのイタチつ屁にいくら出す? せいぜい、気前を見せて、煙草銭だ。味を覚えて、また行く。オガクズ社長、しまひに、ガンといくさ。まあみてろ、おだやかに返した方が得といふ結果になるよ。あ、忘れてゐた。女房の手術に立ち会ふ時間だ。ハイヤーを呼べ。いや、歩いた方が早い。
ノロミ  えゝと、奥さんは、どちらの奥さんで?
アカハラ  うるさい。椎茸に似た方だ。
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

植本 そして、色眼鏡くんはライバル会社、東亜産業に行きます。社長はアオガサキさん。赤と青です。
坂口 色眼鏡が少しでも金出さない?っていう言うと、押したり引いたりで拒否する会話のやり取りが、いかにもな狡賢い社長っていう感じがします。でも妙なユーモアも持っていてね。これも岸田さんの手練手管なんでしょうね。
植本 ねー。あとうーん、何なんだろうね。
坂口 椎茸キットを売る二つのライバル会社の間に、人をひとり立たせてお芝居を作ろうっていう発想が、かっこいいですもんね。
植本 色んな物を書くから・・・こういうものを書けるのかなぁと思うんですよ。こういう物だけ書くっていうのはなかなか難しいと思うんですけど、さっき言ったように、色恋の話だったり夫婦の話だったり、不倫の話だったりを書いているから、何かこういうのも書けちゃうのかなって。
坂口 あー、そうかもしれないですね。色恋の話だとけっこういい加減でもいいですもんね。これはとっても新鮮ですね。
植本 そう!ムダがないしね。

 

【本文】
(前略)
アオガサキ  ご家族は?
色眼鏡  家内をもらつたばかりです。忽ち二人の口が、乾上りさうなんです。
アオガサキ  ご戯談。ほんとにいゝ仕事は、ひとの褌をあてにしてゐちやできません。私財をなげうつとは、儲け仕事のために用ひられてはならない言葉です。
色眼鏡  せめて、自由に動ける乗物代でもあれば……。
アオガサキ  まつたく、当節はうつかり汽車にも乗れませんからなあ。社員の出張も、本年度からぐつと締めてかゝつてゐます。
色眼鏡  講演料は、まさかこつちから請求もできませんし……。
アオガサキ  呉れるといふものは、とつておおきなさいよ。
色眼鏡  手弁当で歩くにしても……。
アオガサキ  それやさうですとも……宿賃だつて馬鹿になりませんよ。主催者側で、なんとか心配はするでせうが……。
色眼鏡  万一の用心に、多少は……。
アオガサキ  おほきに、おほきに……だが、田舎でも旅は油断がなりませんよ。わたしは、ある村の協同組合で、ちよつと話し込んでゐる隙に、靴とコウモリをさらはれちまつた。懐中は、必ず、二たところに分けて……。(後略)
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

坂口 ライバル会社に行きますけど、ここでも同じように断られてます。
植本 前の会社よりはいくらかちゃんと接待されてるようですけど。
坂口 結局、言いくるめられて「まぁ、必要ないよね」っていうようなことになりますよね。
植本 この色眼鏡さんは2つの会社の援助を得られないまま、とにかく講演をするんですね。
坂口 ここまでは、あくまでも椎茸の栽培について、フラットな意見を持っている人ですね。
植本 どっちかの肩を持つっていうことではなくて、椎茸全般についての講演をするっていうことですね。

坂口 両方の会社に振られてしまった彼は、山村の住民に、7、8人ということだから、少数ですよね。講演をしているんですよね。
植本 そうなんです(笑)。
坂口 そこでさっき言った宮澤賢治の戯曲に出てくるような農民たちが出て来て、「自分もやってみたいけど、あんたの話を聞いてるとけっこう割に合わない仕事なんだね」とかって言ったりしてますよね。
植本 それでなんか、椎茸栽培を止める人たちが増えて来ちゃうんですね。どうにかせにゃならんっていうことで、ライバル会社が結託し始めます。
坂口 色眼鏡くんを懐柔しようとして、昭和農工の社長の代理で営業部長ノロミと部下が折衝に来ます。
植本 講演を止めさせるとか。
坂口 彼の講演が「営業妨害だ」みたいなことでね。おまわりさんまで連れてきて、談判してますけど暖簾に腕押しみたいで。
植本 しかも彼らはご酒肴料を中抜きしてたんですね。
坂口 今もあるでしょう中抜きって。
植本 ある!

 

【本文】
ノロミ  (前略)いえ、別に、これでもつてどうかうといふんぢやございません。このへんの温泉へでもご案内すればよろしいんですが、却つてわれわれがお伴してはご窮屈だらうと存じまして……ほんの、ご酒肴料のしるしで……。
色眼鏡  困りますね。こんなことされちや……。僕は、度々言ふとほり……。(受取る)
ノロミ  いや、いや、それはもう重々わかつてをります。会社も、もうちつと羽根を伸ばすやうになつてゐれば、なに、先生方のお一人やお二人……。
色眼鏡  (そつとのし袋の紙幣を引き出してみて)折角だが、これは、君、お返しします。
ノロミ  え? ま、ま、さうおつしやらずに……。
アブタ  (ノロミの肱をつゝく)
ノロミ  弱つたな。でも、先生……。
色眼鏡  なぜ返すか、おわかりでせう。
ノロミ は? それが、ちよつと……。
アブタ  ねえ部長、多分間違ひないと思ふんですが、一度、念のため中味を調べさせていたゞいたら?
ノロミ  あ、さうね。なにしろ旅先だし、物騒な世の中だからね。まことに失礼ですが、ひよつとすると……。(のし袋を受取り、中味をしらべる風をする)
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

植本 このあと色眼鏡の長ゼリが出て来ますよね。
坂口 椎茸情勢全般を言ってますよね。
植本 栽培するのはいいけど温度管理とかずっと見てないといけないとかね(笑)。
坂口 でも大丈夫、世間の義理を欠こうが弱い者いじめをしようが、女癖が悪かろうが全然構わない。温度管理さえ、温度と湿気の管理だけできれば大丈夫だから。そこさえクリアできれば大丈夫って言ってます。皮肉が効いてますね。まるでどこかの誰かさんみたいです(笑)。

*

坂口 結局、部下たちの折衝ではまとまらず、
植本 社長2人が出て来て懐柔しようと、色眼鏡に対してお金の話を持ちかけます。しばらく講演せずに半年くらい黙っててくれないかって。そうすると色眼鏡の方はね、「半年でこれくらいの金ですか?」みたいなね、居直るというか。
坂口 始めの頃とは立場が逆転してます。ちょっとうれしい(笑)。
植本 (笑)。
坂口 その社長たちと折衝の末にワイロ的な金額も決まって、じゃあ一杯みたいな話になって、みんなが退場するんですね。そこで色眼鏡が戻って来て。また一セリフあって、幕ですね。

 

【本文】
(前略)
アカハラ  なに、歴史だけと限らんでも、椎茸そのものの植物学的研究も結構です。たゞ、栽培の理論及び実地については、一切触れないといふ……。
色眼鏡  それで、たつた六ヶ月の生活費ですか?
アカハラ  いや、ご希望によつて、そこはもうすこし……。
色眼鏡  掛引はやめてください。いくら出せるんですか?
アカハラ  さあ、わたし一存では、ちよつとそれ以上のところは、ご即答いたしかねますが……。
色眼鏡  やめておきませう。
アカハラ  奮発して一年間、いかゞでせう。
(中略)
アオガサキ  (色眼鏡に)たいしたもんです。お手並感服のほかありません。今日はゆつくりご馳走にならうぢやありませんか。
【ト書き】
奥より女将風の女現れ、ていねいにお辞儀をする。
【本文】
女  では、お支度ができましてございます。どうぞ、こちらの広間の方へ……。
アカハラ  なんにもありませんが、円満解決のしるしに一コン差しあげます。さ、みなさん……。
【ト書き】
女の案内で、アオガサキ、色眼鏡、アカハラ、ノロミの順に、ぞろぞろと奥へはいる。色眼鏡、急に一人、後もどりして、見物席に向ひ、
【本文】
色眼鏡  いづれまた、椎茸の栽培にふれなければなりますまい。それまでどうかお待ちください。
【ト書き】
言ひ終つて、ちよつと見得を切り、大手を振つて退場。
(「椎茸と雄弁」青空文庫より引用)

 

植本 この話は戦争が終わって5年後くらいでしょー。何か詐欺ってその頃いっぱいあったんだろうなって。今もいっぱいあるけど、
坂口 今はほら、国全体が詐欺みたいなもんだから。
植本 引っかかるよね。
坂口 だから当時は普通にあったんじゃないですか。生きていくためには舌先三寸、この話は詐欺じゃないんだけどね。
植本 戦争が終わって5年、2つの会社はひたすら前を向いている感じもするし。ドンドンやって行かなきゃみたいな感じがすごいする。
坂口 そうですよね。戦争で日本の主要な都市は焼け野原になって、たった5年・・・ですから。
植本 ついこの間のことじゃない、5年って。
坂口 この話は戦争の被害をそんなに受けていない地域、だとは思うけどね。地べたを這ってるような話だけど、今読んでも全然古くさくない。けど、やるのは難しいかもしれないですね。このリアリティを見せるのは。
植本 絶対ト書き通りリアルセットじゃない方がいいと思うし。
坂口 ぼくもそう思います。
植本 衣装もね。たとえばみんなおそろいの何かを着ててもいいし。とは思いますね。
坂口 ただ出て来る人たちにすごくリアリティがないとダメだと思うんですよ。へんな格好をして、夢のようなあれだけど、出演者はもう本当にちゃんとやらないと。それはけっこう演技力というか、その人の存在自体が問われるのかな。
植本 台詞術も必要ですよ、相当。
坂口 そうですね。でもこれはちょっとええもんみっけちゃったかなと。宮澤賢治の戯曲とのつながりとかも思ったし。おもしろかったです。

植本 あと余談ですけど、うちの嫁がね、椎茸を育てるのが趣味なんですよ。
坂口 うそ!
植本 キットを買ってきて。これくらいの大きさ(30センチ四方くらい)の物に、ものすごくニョキニョキ生えてくるんですよ、めちゃめちゃ美味しいです。
坂口 焼いて、醤油ちょっと付けて。
植本 そう! 収穫した後、冷凍もできるし。
坂口 それは最高ですね。でもこの戯曲はそういう話じゃないんですよね(笑)。
植本 これも余談だけどさ、椎茸ってピンキリだよね。どんこってやつ、すごい高いじゃない。でもうまい!うまいんだよね。大好き!椎茸。

植本純米

 

 

 

 

 

 

 

うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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