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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】楢原 拓(劇団チャリT企画)『それは秘密です。』


坂口 今回は劇団チャリT企画主宰、作・演出家の楢原拓さん。
植本 『それは秘密です。』特定機密保護法にまつわる話ですけど。これ初演のときは間もなく施行される直前の2014年だったみたいですね。
坂口 それから6年経ってるんですけどね。時間を感じさせないというか。
植本 どんどんタイムリーになっている感じですね。
坂口 いま日本では、皆の不幸にかこつけて自分達に都合のよい主張を更に固めていこうというような、汚らしいやり方がなされていると思うんですよね。そういう中でこういう作品があって、とても面白かったんですけど。僕は公演を観てますが、植本さんは観てないですよね。読んだ感想はどうですか?
植本 すごく面白かったです。チャリT企画さんは今こういう芝居をなさっているんだと思いましたし、新鮮なんだけど、ちょっと懐かしい感じもしました。早稲田劇研の流れをくむスピーディーでスタイリッシュな部分も感じましたね。
坂口 場面転換も上手に切り替わっていきますね。
植本 モノローグも多用されているんですけど、それも効果的だと思います。
坂口 お笑い芸人3人の話が中心になっていて、
植本 40歳位で売れない芸人さん3人組。男2人、女1人、
坂口 TKFっていうチームを作ってます。
植本 田村、小島、藤原の頭文字をとってTKFです。
坂口 その人達が、小島圭君を中心に災難に遭います。
植本 O-1っていうTVでの大会があってね(笑)。それはオールドのOなんですけど。年食ったのにまだ売れてない面白い人たちを探す大会があって、それに出るっていう。出るんだけど、その一人、主人公の小島圭君が大会直前になぜか警察に逮捕されちゃう。

植本 なぜ逮捕されたのか本人も理由がわからない。仲間達は彼の行方もわからなければで、
坂口 だんだんわかってくるんですが、そのわかっていく様子など、エピソードの入れ方が、妙なリアリティやユーモアがありつつで、上手です。ちょっと複雑な展開でもあるんですけどね。
植本 そうですね。謎が解き明かされていく過程がとても上手ですね。
坂口 彼がいなくなって仲間が右往左往して探してるんですけど、っていう展開ですね。
植本 でまあ、なんとなく少ない情報を頼りに、ゲイバーとかに出入りしてるんじゃないかっていう情報を得て。行くと、それが実は違う人で。小島圭君を探してるんですけど、小島健君っていう名前が出てきます。
坂口 それはあとで分かるんですけどもう亡くなっている・・・
植本 小島圭君の弟で自衛隊員だった人ですね。
坂口 ただその人が直接出てくるのではなくて、というのがこのお芝居の味噌というか、展開ですね。それなりに複雑な話です。
植本 要は兄が弟と間違えられるっていう話なんですけど。
坂口 その間違えられる原因というのが自分の妹にあったという。
植本 小島敦子さん
坂口 ・・・これ説明しだすと、いつまでも・・・。

植本 (笑)まあ頑張って説明しようとすると、自衛隊員の小島健君が戦地(国は戦地ではないと主張している)に派遣されて、仲間の隊員が国民には知らされない亡くなり方をしていて。彼は日本に戻って2年後に自殺しているんですけど、その原因となった事件が特定機密保護法にひっかかってくる。その事件をなんとか世の中に報せたいということで、妹の小島敦子さんが新聞記者にその情報を流す。しかもお兄さんの小島圭君の名前を使ってね。
坂口 そこら辺は妹さんにも事情があって、
植本 その事情が面白いですよね(笑)。
坂口 それが、ちょっと複雑なんですけど、観客がついて行けるおもしろさにもなってますよね。
植本 敦子さんの理由は、自分が結婚控えていて、お兄さん(小島圭)は親の葬式にも来なかったし、勘当同様に扱われているので、お兄さんなら名前借りてもいいんじゃないかっていう発想ですね(笑)。
坂口 死んじゃった弟の恨みを晴らしたいという気持ちも強くて、SNSで新聞記者に報せてしまう。
植本 それを国が察知して小島圭を誤って逮捕したっていう。
坂口 秘密情報は兄のアドレスから発信されたものだから・・・
植本 そこに絡んでくるのが、勿論新聞記者も絡んでくるんですけど、野々村さんと住田さんていう自衛官の遺族。弟の小島健君と同時期に亡くなってるんですよね。後方支援っていわれてたのに戦争に巻き込まれて、小島健君は錯乱して同胞の野々村ショウタさんを撃ってしまうんですね。住田さんの方は敵に連れ去られて目を抉られて亡くなる。
坂口 その連れ去られる現場に健君はいて、その二つの事件があったので、彼は2年後に自殺を・・・
植本 弟さんは自殺をしちゃうんですね。

植本 そしてショウタ君ですよ。ゲイバーに務めている。
坂口 ゲイバーに小島圭君がいるんじゃないかって情報があってね。で、圭君はいないで、そのゲイバーにショウタ君が、実は幽霊なんですけどね。
植本 なぜか小島君に詳しいショウタ君っていうのが出てきて、ま、これが後々ね、自衛官の遺族野々村さんの亡くなった息子であるってことがわかりますけど。
植本 もうひとつ小島健君、自殺しちゃった人が取り調べを受けるっていうシーンが2カ所はいってますよね。そういう非日常のものが入り込んでる。
坂口 はい。最初は、
植本 取り調べ室で兄の圭君の方が取り調べられてる。で、途中で調べられている人が兄から弟にかわってるところ。あれをどうとらえるか、ですよね。
坂口 あれ?って。
植本 お兄さんに弟が乗り移った?とも思えたりもしたし、あと、仮定、架空の設定の話なのかな?って。
坂口 普通のやりとりがあって、途中で、いきなり、
植本 圭から健に変わりますね。そんなことありえないじゃないですか。
坂口 それが観てて「あー乗り移ったのかな」って半分くらいは思いながら・・・。ここらへんも見ている方(坂口)は曖昧だからね。幽霊なのか、でもまあそこらへんは深く追求しなくて、
植本 いいんだと思う。なんだろうこのシーンってことで成り立っている。
坂口 どんどん流れていくンで。それをきちっとしちゃうとかえって鬱陶しいかなっていう風には思います。だからここら辺の曖昧さは意識してるのかわかんないけど、
植本 楢原さんはすごくきちんとした人だから、意識してると思うんだけどな(笑)。
坂口 そうだよね。普通ちゃんとわからせたいってつい思うでしょ。ここは幽霊がやってるシーンだとか。
植本 編集長の嫌いなね、説明過多なね。
坂口 (笑)棘がある言い方だね。
植本 あっはっはっは(笑)。
坂口 (笑)でもそうですよ。その曖昧さが逆にお芝居観てると気持ちいいっていうか。芝居なんて所詮流れてるんだから。でもわかんなきゃいけないとこはわかんなきゃ嫌ですけどね。わがままですね(笑)。
植本 わかってて曖昧にするのはとてもよいと思うんですよ。

坂口 で、最後にいろんなことが解けて。妹が自首することになるんですね。
植本 情状酌量になるだろうと。
坂口 でも十年以下の懲役、ですからね。
植本 まあ、お兄さんへの誤解もとけて、じゃあ3人で晴れてO-1大会に出ようっていうところで、
坂口 また事件が、
植本 緊急臨時ニュースが入って、
坂口 実際に派遣されたペルシャ湾の海域で
植本 アメリカの巡洋艦が攻撃を受けて・・・
坂口 やっぱりここら辺がポイントなんですよね。日本政府は云々っていう、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、及び幸せ追求の権利が根底から覆される明白な危険があるとして・・・ということを政府が判断すれば戦争ができるってことですよね。
植本 法律はね、二の次になってしまって。
坂口 でも戦争を放棄してる国が戦争をしてもいいって言ってるってことでしょ?
植本 しょがないでしょ、緊急なんだからっていう理由でね。
坂口 すごいですよね。しかもそれが、アメリカ側が攻められたら、すぐ日本の自由が犯されるっていう解釈になる?
植本 でまあ、一緒にアメリカと共に、戦争になって。反撃にでて、自衛隊側に結構な死傷者がでるってとこで終わりますね。
坂口 これは芝居の話だから、実際に起こってる話ではないけど、でも全然起こってもおかしくはない話ですよね。
植本 その芸人達3人が間もなく大会っていうことで練習を続けている風景と、その臨時ニュースのコントラストで終わりますね。
坂口 ドラマチックな終わり方になるんですね。だからすごいリアリティが。こんなコメディの軽いリズムの中にすごいリアリティがね。
植本 最後のト書きもいいですよね。臨時ニュースで伏せ字って言うかピー音が入る。そのピー音が絶命時のピー音のようにも聞こえてくるっていう。良いト書きですね。

【最終場面のト書きと本文】

芸人達が出て来て、各々気合い入れや練習などを行う。

圭 しかし、そのまさにその本番直前、画面は突然、臨時ニュースに切り替わりました。

SE「ニュース速報」
芸人達、伏せ字だらけのニュースのテロップを読み上げる。

芸人達 ペルシャ湾に展開中のアメリカの巡洋艦が、国籍不明の船舶によって攻撃を受けました。日本政府は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」として、同じくペルシャ湾に展開中の海上自衛隊■■■■■■を■■■■させ、■■■■■■と共に■■■■から■■に対して■■し、■■■■となりました。それにより、自衛隊側に少なくとも■■■■■■■が出た模様です。

伏せ字の部分には「ピー音」が流れ、内容を理解することができない。

芸人達 ん???

芸人達、少し不可解に思いながらも、気を取り直して練習を再開する。

圭 なんのことやら、よく分かりませんでした。

芸人達、練習を続ける。
瀕死の自衛官が出て来て、その場に果てる。
と同時に、とてつもなく長い「ピー音」が鳴り響く。
それは絶命時の心電図の「ピー音」のようにも聞こえる。
それでも練習を続ける芸人達。
暗転。
(劇団チャリT企画上演台本『それは秘密です。』より引用)

坂口 観てる側は・・でなんか、うん・・・・なんか・・・悔しい気持ちになるっていうか。
植本 ・・・ん?どういう(笑)?。政府に対してってこと?
坂口 まあそういう政府に対して、束縛されている彼らが、何も出来ない。結局何にも。言いなりになるしかないってことに観てる側は・・・
植本 ほんとにその、自衛隊の弟を含め、この野々村さんと住田さんの遺族にしても死因がわからないっていうのが今までもあるんじゃないのって。
坂口 それでなくても破り捨てたり隠しつづけて、たくさんのことが嘘じゃないですか。
植本 過去の日本の戦争でも、あったんだろうし。
坂口 あったんだろうどころじゃないですよね。メタメタ負けた場面でも軍部が発表したうその“大勝利”みたいなのを、政府だけじゃなく、新聞も放送局もね。忖度どころか同調して記事を作ってきたわけですよね。それは今になってもほとんど反省されてないですよね。
植本 今はまださ、SNSが発達したから、海外でどう報道されているかっていうのがまだ昔よりはわかるんだけどね。
坂口 隠そうと思ってみんな資料とか捨てるわけでしょ?それは今も昔もそうだと思うんですよ。
植本 昔より酷いんじゃないですかね。
坂口 隠されたらもう、ないからね。その上で法律で秘密を言っちゃいけないとかほとんどもう自由はないです。
植本 隠すって言うか、なんであんな簡単に破棄しちゃうんだろうね。
坂口 (笑)ね。「捨てちゃいました」って言えばいいわけでしょ?謝ればそれで済むからすごいよね。じゃあしょうがないねって皆言って済むわけでしょ?
植本 楢原さんが言ってたけど、再演に際してかな、日本国民の日本人の忘れっぽさ、無関心さがどんどん際立ってるみたいなこと書いてたかな。色んなことが起こるからさ、確かにすぐ忘れちゃうんだよね。全部覚えてられないってとこが確かにあるんだけど(笑)。
坂口 いつまで経っても結論が出ない。それで変なおっさんだけが有罪になったりする?
植本 ああ、もりかけのね?
坂口 不思議な出来事だよね。なんかどうなってんだろう、って思いますけどね。でもそういう人達が支持されてる世の中だから。だって彼らは勝手に総理大臣になったわけでもないし、代議士になった訳でもないからね。皆で選挙してその人達がなったわけだからね。それはシステムが悪いってことだよね。
植本 なるほど、そうなのか、選んだ人が悪いんじゃなくて。
坂口 両方かな。選んだ人も悪いけど、システムも間違ってるんだと思う。
植本 きりがないっちゃきりがないよね、そこらへんは。
坂口 だからそういう意味でもこれは刺激的な芝居ですよね。

*

坂口 お芝居の話に戻すと、マネージャーの存在がなかなか良い味出してるんですよね。自分の心配をしたりっていうところでリアリティが。
植本 なんか事務所としては大手にいるんだよね? だからマネージャーはタレントを何人も抱えててね、もっと売れてる人もいてね、「お前らにかかわってる暇ねえんだよ」ってとこから始まってる。
坂口 そう。段々事の真相がわかってくると自分の立場も危ない、で、どうしたらいいかってことに一生懸命になってくる。
植本 圭の逮捕された理由をどうするか。痴漢えん罪にするか、とかね(笑)。それだったらウケも良いんじゃないの、同情もかいーの(笑)。
坂口 自分のためになんとかしようっていう人間がお芝居自体を混ぜっ返していくみたいな感じでね。客観的な目線になっていて面白い存在でしたね。話の流れ的に彼いなくてもいいですもんね(笑)。
植本 いやいや、いたほうがいいですよね、結果的にね。
坂口 そういうポジションってなかなかないじゃないですか。上手に使ってるなってすごく思ったんですよ。だから・・・
植本 ・・・楢原君上手(笑)。
坂口 「上手になったね〜〜!」って(笑)。
植本 (笑)それまでの過程は知らないので、これを読ませていただくと、とても、巧妙。
坂口 プロの台本です!
植本 (笑)だ・か・ら!言えば言うほどでしょ!プロだから!
坂口 (笑)。
植本 でもほんとにチャリT企画さん拝見したことないので、これですごく興味が湧きました。
坂口 ぜひ次の公演とか皆さんに観ていただいて、台本も買って読んでいただきたいなって思います。
植本 はい。・・・楢原さん、失礼があったらごめんなさい(笑)。
坂口 いやいや。
植本 うふふふ(笑)。面白かったです。

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

 

 

 

【出演情報】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【埼玉公演】
6/8(月)~28(日)
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

【名古屋公演】
7/3(金)~6(月)
御園座

【大阪公演】
7/10(金)~20(月)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

 

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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