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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】カロン・ド・ボーマルシェ『フィガロの結婚-狂おしき一日-』

坂口 今回はボーマルシェの『フィガロの結婚』です。
植本 いろんな感想があるけど、まずは、ボーマルシェって人がすごい人なんだなと思いました(笑)。どっちかっていうと劇作は片手間なの? っていうぐらいの人生ですね。
坂口 すごいですね。フランス革命のちょっと前、1732年生まれのフランス人。
植本 フランス革命は1789年かな。
坂口 時計屋の息子ですね。
植本 従来の時計よりも狂わないっていう新システムを開発して、それが評判をよんで宮廷とかにも出入りするようになって。お后様の指輪型の小さな時計を作ったりしてます。
坂口 それだけでもおもしろいけど、もっとすごくて大変なことをいっぱいやってます。ネットの人物紹介に18世紀の実業家、劇作家とあります(笑)。
植本 野心家って言うか(笑)。

坂口 極端な面白がりやなんだろうね。アメリカへの武器調達も、
植本 アメリカの独立戦争に際してヨーロッパから船で武器を届けるっていう仕事をしたり。逆に、フランスに外国から武器を輸入しようとしたりもしてます。時計屋のあとは狩猟の権利とか森林の権利とか、
坂口 貴族の地位を金で買ったりしてますね(笑)。
植本 そうそうそう。もちろん本名があるんだけど、このままじゃかっこ悪いからって自分でボーマルシェっていう貴族っぽい名前をつけるっていうね。
坂口 綾小路きみまろ、みたいなことですかね。その間に裁判沙汰とか大変な騒ぎを起こしてる。
植本 しかも今でいう劇作家協会みたいなの作ってんでしょ? 作家の権利を守るっていうね(笑)。
坂口 (笑)。ここ笑うとこじゃないかも…。
植本 もう調べるの疲れちゃって。この人の人生色々ありすぎて(笑)。

坂口 普通の人間のスケールでは、ない。で、まあ、そういう人が、『フィガロの結婚』を書いた。これは三部作の真ん中の作品なんですね。
植本 セビリア三部作ですかね。
坂口 『セビリアの理髪師』と『フィガロの結婚』と、
植本 もう一個なんだっけね、
坂口 『罪ある母』ですね。人間関係が微妙に繋がってるんですよね。
植本 なんか人物設定とか微妙に適当らしいんだけどね。そのいい加減さは当時はよくあったらしいですね。一作目の『セビリアの理髪師』ってのはフィガロのことなんですね。
坂口 そうですね。二作目の『フィガロの結婚』で登場するアルマヴィヴァ伯爵と伯爵夫人の結婚の手助けをフィガロがする、っていうのが『セビリアの理髪師』。
植本 恋人同士だった当時の二人をね。
坂口 大変困難な恋をフィガロが手助けして、ちゃんちゃん、っていうのが前作『セビリアの理髪師』ですね。

坂口 で、この『フィガロの結婚』はそのあと、伯爵のお屋敷での話です。フィガロはそこで働いています。伯爵の部屋付きの下僕にしてかつ舘の門番、とありますね。
植本 簡単に言うと、せっかくフィガロの活躍で結婚した二人なんだけど倦怠期がおとずれてる(笑)。も〜〜。
坂口 (笑)。大恋愛して一緒になった人がちょっと経ったら、もう、飽きちゃった。
植本 『セビリアの理髪師』のタイトルロールのフィガロはあくまで脇役だったんですけど、この『フィガロの結婚』だと主役です。
坂口 そうですね。フィガロと婚約者のシュザンヌ。
植本 伯爵夫人の第一侍女
坂口 職場結婚ですね。その二人の結婚式の当日。サブタイトルに「狂おしき一日」と付いてます。一日が長いよねえ!
植本 そうなんです(笑)。一日の間に色々なことが起きる。ちょっと人間関係複雑ですよね。
坂口 前作も引きずったりもしてるから、前作知ってたほうがより楽しめるってやつですよね。別にわかんなくても大丈夫だけど。
植本 フィガロが前作で助けてあげた伯爵が、フィガロの許婚者シュザンヌに言い寄るっていう話ですわ。ざっくり言うと(笑)。

坂口 彼はなかなか面白い男だよね。
植本 伯爵? 小物なんですわ(笑)。
坂口 フィガロも言ってますよね。「おれは苦労してさんざん生きてきてるけど、こいつら良いところに生まれて凡庸な奴がただただ偉そうにしている」みたいな台詞が。そういえば、日本でも政治家の2世、3世がダメだとか言ってた時期がありましたよね〜。
植本 「今までなにをしてくれた。なにもしてないじゃないか。殿様のくせに。生まれがいいだけだろ」みたいな台詞もありましたけどね。
坂口 まぁそんなわけで第一幕。筋を追うっていうのもなんか野暮な感じもね。
植本 でもその、貴族をとっちめるっていうとこが含まれていてね、当時上演の許可がおりなかったりして。話が面白いから賛成とかもされたりするんですけどね。凡庸な王様って言われているルイ16世だけが、「これ貴族批判だから上演させるのやばいんじゃない?」って言い出したらしい。
坂口 これ強烈な、当時の貴族批判ですものね。

植本 伯爵の言い草で酷いなって思ったのが、せっかく結婚したのに倦怠期がきて、自分がシュザンヌに恋した理由が「なんか時々反発する女の方がいいんだよね」とかっていうでしょ? アレひどくない?(笑)。
坂口 愛してる愛してるってずっと言われると嫌になっちゃうみたいなね(笑)。
植本 飽きちゃうみたいな。
坂口 すごく正直なんだね(笑)。
植本 フィガロのとんちとか機知とかでこの伯爵をやりこめる話ではあるんだけど、途中でねフィガロの知らないことが行われていくでしょ? 伯爵夫人とシュザンヌの女同士の中で。
坂口 そうですね。フィガロのさらに一枚上をいってるっていうのが二人の女達、っていうのが話のミソにもなってますよね。
植本 いざとなると女性ががんばる。
坂口 話を読んでると強引で、無理がありそうなところがけっこう出てくるじゃないですか。伯爵が奥方の部屋に来たときに誰かが隠れてるとかね、
植本 椅子の裏に隠れようとする人がいるんだけど、すでにそこに隠れてる人がいて、その人は椅子の上に登って布を被るってやつですよね。
坂口 とか。随所に、一幕にいくつか結構無理っぽい「それわかっちゃわね?」みたいのがあるけど、実際やってみればオッケーなんでしょうね。
植本 そういうとこは歌舞伎っぽいなとも思うし、当時の人たち、歌舞伎とおんなじで筋がすでにわかってる人であれば「きたぞきたぞこのシーンきたぞ」って思うだろうし(笑)。
坂口 だから展開を楽しみながら、観てられるお芝居っていう風にもね。

植本 最後歌で終わりますしね。大団円みたいな感じで(笑)。(編注:巻末に歌詞を掲載しています)
坂口 この戯曲はオペラじゃないから、オペラだったらずっと歌ですけどね。
植本 ストレートでやると最後が歌。
坂口 なんだろう、あと主要な人物としては、小姓だっけ。いろんな女性を好きになっちゃう。
植本 シェルバンっていう伯爵の第一小姓。年若なので目に入る女性たちみんな好きになっちゃうようなね。
坂口 オペラだと女性がやってますよね。可愛らしい歌を唄う。
植本 ソプラノだね。ケルビーノっていうのかな。
坂口 オペラの流れの中では結構重要な歌い手、ポイントになってますよね。まあ、こっちではちょっと脇役っていうか。そこら辺もやっぱり実際、オペラの台本はこの戯曲を基に別の人が書いてますもんね。

植本 辰野隆さんって人がこの本を訳してらっしゃるんですけど。この人によると、この戯曲はモリエールの喜劇みたいに笑いが内面から出てくるのとは真逆で、ここでこれをやれば効果的なんじゃないかっていう、すごく計算されているって(笑)。辰野さんが言ってることではないけど、そこが「さすが時計屋」って(笑)。皮肉でね。
坂口 (笑)。
植本 最後の方でフィガロの突然の長台詞とかでてくるでしょ。
坂口 そうですね、
植本 長いんだあれ(笑)。この期の及んでしゃべるか、っていうくらいしゃべる。
坂口 彼の生き様っていうか思想みたいなのを、ずーーっと喋ります。
植本 作者ボーマルシェの代弁のようなね。
坂口 ちょっとくらい間違えてもわかんなそうですね。
植本 (笑)。そういうのも効果的に使ってるんだろうなって。
坂口 でもまあ、オペラじゃなくても歌をおりまぜたり、早い展開を心がけたり、出たり、隠れたり、
植本 あと衣裳取り替えたりね。伯爵夫人とシュザンヌが。
坂口 見た目ですごく楽しめるように作ってると思う。

植本 五幕で四阿(あずまや)に隠れたりするのが、夜だから歌舞伎のだんまりみたいなことでしょ?
坂口 はい。場面の変わり方が面白いですよね。一幕は結婚する二人のために伯爵がくれた邸内にある部屋で、二人の現状がわかります。二幕目は奥方の寝室、ここは控えの部屋があったりするから隠れたり出たりというスピーディな展開があるんですね。で、三幕目が裁判をする広間になるんですけど、実際に観客に見せながら召し使い達が広間を裁判所仕様に作ります。四幕目になるとそこが結婚式場になって裁判の場がいきなり華やかな、
植本 花とか花輪だらけになります。
坂口 そして最後の五幕が例の庭園で、シュザンヌと伯爵が逢い引きをする。
植本 実はシュザンヌと奥方が伯爵を懲らしめようと、入れ替わってるんだけどね。
坂口 庭園内の薄暗いところがラストになって、最後歌で終わるという。
植本 入れ替えたり、勘違いしたり、それぞれの正体もわかってね。伯爵はやり込められる。
坂口 見ためは追っかけっこみたいなね。その中に面白い会話がちりばめられていて、観る人を意識しながら、すごく考えながら作られてるんだなと。
植本 これ読むのにけっこう時間がかかった(笑)。覚悟して読めば良かったんだけど、けっこう古典でした。新しい訳でも読んでみたいですね(笑)。

坂口 やっぱりフランス革命の前にこの作品があったっていうのは、ひとつの象徴的な出来事じゃないですか? 庶民が主人公になるのをコメディっていう形でだしてきてますよね。チェホフだとロシア革命があるその少し前に、また違った形のユーモアで時代を予見するみたい作品があったり。歴史は面白いですね。さてじゃあ、日本はどうなんだって思いますよね。
植本 ああ、色々あるとは思うんですよ。
坂口 ボーマルシェの時代だと年代的に、鶴屋南北ですね。これは下級武士や町人等を描いた、生世話物っていわれた新しいジャンルを創ったくらいだから。下町のドロドロした長屋の話とか、そういうところからアプローチしていってエンターテインメントを作っていく。
植本 なんか、戦争とか革命とか渦中の話も面白いかもしれないけど。そういうものが忍び寄ってくる、みたいな時代の話のほうが面白いですよね。

坂口 そういう風に言ったらさ、日本だとなかなか思いつかない。もうすぐ日本になにが起こるかわからないから、今がチャンスかも。
植本 きっと今までもあるんでしょうよ。僕らが知らないだけで(笑)。
坂口 そうなの? バブル崩壊がひとつの時代の区切りだとしたら、唐十郎だと思うんだけどね。
植本 ほーーバブルの崩壊を予感させるものがあるってこと?
坂口 バブルというか日本が駄目になっていっちゃうようなね。なんとなく自分がそう思っただけですけどね。
植本 北村想さんみたいに核戦争の後とかさ、あと井上ひさしさんみたいに原爆の前日とかはあるけどね。
坂口 井上さんとかおしいかもしれない。
植本 おしいって!どっから目線だよ(笑)。
坂口 あっはっはっ。井上さんのは、、、
植本 井上さんのは時代に忍び寄ってるじゃない、だいぶきてるからね。
坂口 だから、、、ちょっと違うかもしれない。

植本 『フィガロの結婚』オペラで有名ですよね。俺クラシック好きなんだけど、その中でいうと、モーツァルトってちょっと遠いので。破格な天才なのはわかるんですけどね。
坂口 何が好きなの?
植本 ラベルとかね、ふふふ。
坂口 そうなんだ。僕はこういうわかりやすいのが好きですね。
植本 さっき編集長が「オペラになると簡略化されてる」って言ってたけど、それを確かめたい。だってこの複雑な本を歌で、オペラで表現って無理じゃね? って思ったりするから。
坂口 そしたら向こうの作品を撮ったビデオがいいかもしれないね。半端なやつはつまんない。やっぱり歌唄いが良くないと駄目でしょ。字幕も付いてますからね。
植本 そ、そうですね(笑)。オペラ観るのも高いですしね。
坂口 高いよね!って思ちゃいますよね。まあ高いのはオペラに限りませんが。
植本 『フィガロの結婚』調べる時間よりも、彼を調べてる時間の方が長かったです。生きたいように生きた人で、失敗もいっぱいして、最後は寂しく死んでいきますけど。
坂口 最後はみんな寂しく死ぬんだよ。
植本 ひゃはははは(笑)でた、〆がでました。
坂口 だって、賑やかにはなかなか死なないもん。なるべく生きたいように生きましょう。大丈夫、どんな偉い人でもみんな寂しく死にますから。

※編注:以下、五幕のラストで唄われる歌詞です。
【シュザンヌ】
亭主の浮気は自慢顔
茶飲み話の笑いぐさ
女房の浮気はいのちがけ
顔向けならぬ恥さらし
愚痴も涙も塵芥
それほど女は弱い者
それほど男は強い者

【フィガロ】
人の生れは当り不当り
一人は王様一人は牧童
運命(さだめ)の針は西東
知恵才覚があればこそ
王侯貴人の鼻面を
自由自在に引き廻す
大先生はヴォルテエル

【ブリドワゾン(伯爵部下の判事)】
お、お、凡そ芝居の性根は
人心世相を、え、え、描きあげ
ちゅ、ちゅ、中傷讒誣を乗りこえて
よしあし草は、ひ、ひ、人まかせ
き、き、喜怒哀楽のゆきかいを
綴り合わせて、た、た、娯しませ
う、う、唄でおわるが世のならい。

【合唱】
唄でおわるが世のならい

(ボーマルシェ『フィガロの結婚』(岩波文庫)より引用)

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

坂口眞人
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

【植本純米 出演情報】
ミュージカル『カリソメノカタビラ~奇説デオン・ド・ボーモン~』
脚本・演出◇荻田浩一
音楽◇斎藤恒芳
出演◇水夏希/溝口琢矢 笠松はる/植本純米/坂元健児
演奏◇安齋麗奈

9/12(木)~23(月)◎浅草九劇
※追加公演 9/15(日)19:00
全席指定 8,800円

 

(文責)坂口眞人

 

 

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