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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】ハインリッヒ・フォン・クライスト作『こわれがめ』

坂口 今回は「こわれがめ」。
植本 ハインリッヒ・フォン・クライスト。ドイツの人ですね。
坂口 これ、紀伊国屋で戯曲の棚みてたら、これがドイツの三大喜劇の1つというのに惹かれて手に取って見たんですよ。それでね、紙が良かった。
植本 へ? なにがいいたいの??
坂口 紙の手触りがすごくいいの。
植本 え、紙質ですか??(笑)戯曲対談で。
坂口 そう。生まれて初めて紙質の気持ちよさと、シンプルな読みやすいレイアウトで、買いました。
植本 へへへ(笑)まさか、、、紙質からはいってきた、、、
坂口 と思って買いました。
植本 2800円。
坂口 そう、なかなかの散財でした。

坂口 で、どうでした?
植本 はい。日本だと千田是也さんとか宇野重吉さんとか、最近だと鵜山仁さんとか演出してるんだけど、これは演出家次第だなとすごく思った。
坂口 いろんな形のお芝居になるかなとは僕も思った。
植本 どこをチョイスして、どこをかすくい上げるか。
坂口 後書きとかを見ると、どうやら村の裁判官のキャラクターを強調してっていうか、
植本 強調、しがちですよねこういう作品だと。わかりやすくいうと、今まで日本でやったのは小沢栄太郎さん、滝沢修さん、あと鈴木瑞穂さんとかなんですけど。まあ、西田敏行さんを思い浮かべてもらえると、ああこういう方がやりそうな役ねっていう。
坂口 癖がある感じの人?
植本 で、愛嬌があって芝居がうまくてっていう。
坂口 映画もそんなかんじでヒットしたとか。でも、ぼくはもっとフラットに、もっとトントントンと軽いファルスみたいな感じで読んでたんですよ。だからそのキャスティングは意外でした。

植本 これさあ、本の帯に書いてあるの、「初演の後、結末部分の本来の構想に変更を余儀なくされ、その形で、ドイツ三大喜劇の1つという栄冠を得た戯曲に、云々」っていう、、、結末が違うのね。違うバージョンも合わせて本に入ってる。
坂口 後から作った方が長いんですよね。ぼくは前の方が断然好きです。
植本 ぼくもそうです。なんか事件が終わってからのエピローグが延々長くて、、、しかもヒロインの人の長セリフのオンパレードでね。本当にこれ長すぎるんです。新しく作ったバージョンがね。
坂口 なんでこんなことしたのかなーと。僕なりにリズミカルに読んでいったのでね。
植本 社会情勢とか風刺とか入れたいんだろうなっていうのはよくわかるんですけど。
坂口 悪しき演劇の手法だと思うんです。ひと理屈こねたくなる。
植本 本人が本当に書きたかったのは、どこなんだろう。この方も調べるとちょっと変わった方じゃないですか、1811年に34歳で自殺している。しかも同士みたいな女性と共同自殺みたいな形になってて。この作家さんは若い頃からずーっと自殺願望があるって書いてあってね。生前よりも亡くなったあとの方が評価されてますね。

【登場人物】
ヴァルター 司法顧問官
アーダム 村の裁判官・村長を兼ねる
リヒト 書記官
マルテ・ルル 村の娘
エーフェ その娘
ファイト・テュンベル 農民
ループレヒト その息子
ブリギッテ ループレヒトの叔母
従僕・ハンフリーデ(廷吏)、リーゼ、マルガレーテ(女中)、その他

坂口 で、話に入って行くとですね。これは17世紀末、オランダの田舎の裁判所での出来事として書かれてます。
植本 たいした事件もおこらないだろうっていう小さな村でね、小さい権力者で私腹を肥やしたりしている村長兼裁判官の話が中心になります。
坂口 これはまあ、ずっとどこの国でも小さい権力者が力をもっててなんか薄汚いことして、
植本 巨悪じゃないんですよね、ちょっとずつため込んでる。いつの間にかなんかね。
坂口 それがプラスになってきて、でっかい悪になっていくんでしょうね。そんなに今の日本と変わらない感覚で読めましたね。
植本 そうですね(笑)。その小さな村に、国から派遣されて村々を監視してまわってるヴァルターという司法顧問官が来る。
坂口 その前の場面で、裁判官アーダムと書記のリヒトっていう人のやりとりとかありますよね。朝、書記が来ての会話が部屋であるんですね。
植本 裁判官がよく動けるなっていうくらいのケガをしてるんですね。顔中、鼻もだし、目も。足もふくれあがって腫れて。よくお芝居耐えられるなっていう怪我ですわ(笑)。
坂口 実は、前の晩にこの裁判官がゲスなことをして、の翌朝のことですね。
植本 悪さをした結果、大けがをして帰って来ている。
坂口 前夜の裁判官の行動は、裁判の中で段々わかってきます。このわかってきかたが、このお芝居のおもしろさですね。
植本 で、そのあと司法顧問官ヴァルターがやってきて、裁判が始まります。

坂口 何の裁判かというと、由緒ある瓶を割られてしまったおかみさんが、
植本 本人は由緒ある品だと言ってますが、どこまでが由緒あるのかもわからない。
坂口 でも彼女は結構熱弁するよね、三代くらいにわたって、、、
植本 それもほんとなのかどうか(笑)。
坂口 (笑)そんな話が続いてそれはそれで楽しい。で、彼女はそんな大切な瓶がどうして割れてしまったのか、その犯人を探したいんで、裁判に訴えた。それだけならいいんだけど、なんで壊れちゃったか原因を追及していくと、色んなことが分かってくる。前の晩に、おかみさんの娘の部屋に置いてあった瓶が割れた。
植本 エーフェという娘。
坂口 そこで起こった事件なんですね。で、、、もう言っちゃうと、夜中に裁判官のアーダムが無理強いして、娘の部屋に忍び込んでね。
植本 そこにエーフェの婚約者、若者ループレヒトが尋ねてきて、物音を聞いてね、「誰と会ってるんだ」って部屋に乗り込んで来る。そうすると裁判官は逃げる。辺りは真っ暗闇。なんか知らんけど、なにかが床に落ち、誰か窓から落ちたようだ。で、ループレヒトが疑われている。
坂口 そこらへんが裁判の進行でわかっていくんですね。
植本 だから芝居の始めこそ、なにかでケガをしている裁判官なのですが。
坂口 裁判が始まると、観客はある程度もう分かっちゃう。
植本 わかっちゃうんですけど、娘のエーフェが口を割らないっていう。なぜ? っていうところですね。訴えたおかみさんは瓶を壊したのは、婚約者のループレヒトだって言ってて、ループレヒトは違うって言うんですけど。娘が本当のことを言えばすぐ終わっちゃう裁判なんですけど、言わない。そこがちょっとこの戯曲のポイント。
坂口 はい。

植本 戦争絡みなんですよね。裁判官が言うには、娘の婚約者ループレヒトが民兵に採られて最終的にはバタヴィア(ジャカルタのオランダ植民地時代の名称)に送られてしまう。裁判官がニセの診断書を作ってそれを止めさせてあげるから、言うことをきけと。
坂口 裁判官のアーダムって人がウソの書類を持って兵隊に行かなくていいようにしてやるからって。
植本 そこに行かされたら三人に一人しか帰ってこれないってところで。だから彼女は、ここで犯人(=裁判官)の名前を言っちゃうと、もう結婚はできないは、恋人の安否も分からなくなってしまうということで、口をつぐむ。
坂口 彼女はずーっと「裁判官が犯人だ」と言うのを我慢しているんですね。
植本 これよくある手ですよね。怪我とか病気と称して偽の診断書をお医者さんに書かせる。
坂口 で、その晩は、すったもんだあったところに、ループレヒトが飛び込んでくる。裁判官が逃げる。おもしろい活劇っぽい。芝居では見せないけれど、すごく活劇っぽい場面ですよね。
植本 本題のこわれがめ、瓶の上に、裁判官だから昔はカツラをかぶっていた、事に及ぼうとしたときにかつらを脱いで、瓶にかけとく。で逃げるときにカツラをとって逃げようとする。その拍子に瓶が倒れる。だから壊したのは裁判官なんですけどね。

坂口 芝居の途中までは具体的なことは分からないっていう形で裁判が進んで行きます。一方で、ヴァルター、
植本 司法顧問官ヴァルター。
坂口 監査にきてる人が、裁判に立ち会っているという状況がある。これとても厳しい状況。
植本 これ面白いですよね、このヴァルターっていう人が色んな村をまわってきて、ここの村に来る前に、他の村で不正を暴いていて、その裁かれてる人は自殺してるんですよね、首吊ってたりしてね。そういう前振りがあってね。
坂口 こいつが来たら、何か起こりそうだし、裁判官と書記のあわてぶりは、やっぱりなんかしてるだろうから一悶着あるだろうって感じがね。
植本 着いてすぐね、銀行口座が4つのはずがなんで5つあるんだとか、彼はいろいろ突っ込んだりしてますね。
坂口 そうそう。彼は良い人なのか、悪い人なのかよく分かんない。
植本 事なかれ主義みたいなね、結局は。
坂口 裁判が進んでいくと、その彼がさすがに匙をなげるくらい酷い状況になってしまうんですけどね。ま、ずーっと裁判所で起こっている出来事なんですけど見やすい。他所でおこった描写も割と分かりやすい。読んでるからかな?
植本 いや、おもしろいですよ。そんなにね、転換もないし(笑)。
坂口 会話も真面目だけどおかしな具合で続いているでしょ。なんで壊れちゃったとか、なんで犯人の名前をエーフェが言わないのかとかけっこう厳しい状況なのに、なんかとぼけた感じがずーっと漂ってますよね。

植本 たぶん、お客さんが最初に、裁判官が犯人なんだっていうことに気づくと思うんですけど、登場人物も途中で薄々気づいていくところが面白い。どこで気づかせるか。もちろん、このね、ヴァルターっていう人は、途中から気がついていて、裁判官に早くゲロしちゃえよとか囁いたりもしますし。当然娘は知ってるわけだし、犯人をね。
坂口 だけど、婚約者は知らないし、お母さんも知らない。周りのグループはなかなか、わからない。最後の方、ちょうどその事件の時分に居あわせたおばさんの証言で、
植本 決定的になるんですよね。
坂口 あそこらへんもいいですよね。おばさんのそばを駆け抜けた人は、変なにおいがしたり、歩き方が変だったり、
植本 途中でうんこしたりとかね。
坂口 で、まあこの証言がきっかけとなって、すったもんだのあげくエーフェが開き直って犯人の名前を言うんですね。エーフェ役の見せ場ですね。
植本 面白いのは最後、裁判官が犯人だって皆にバレて逃げ出すじゃないですか。遠くのほうに逃げ走っている姿が見えたりして。国から来た司法顧問官のヴァルターさんが結局は、とがめないっていうか。呼び戻してやれ、今のポジションは無理だけど、何らかのポジションにはまたつかせてやるから。ってのがもう一つのバージョンに書いてある。その辺は今もあるよね。ほとぼり冷めたらいつの間にかあの人あそこにおさまったんだみたいな。

植本 解説とか読むと発想のもとはたくさんあって、『オイディプス王』とか『フィガロの結婚』とか、途中の台詞も「目なんか見えなくなればいい」とか『リア王』っぽいセリフもあったし。聖書もね。名前も裁判官のアーダム、ヒロイン娘はエーフェなんですけどこれ、イブ、なんだって。このリヒトっていう書記官の名前は、光っていう意味らしくて。
坂口 お祭りのときやる芝居みたいなのの伝統も引いてるって感じで。僕はとてもおもしろいとは思ったけど。
植本 主人公、悪い裁判官は飄々とした部分あったほうがいいと思うんだけど、いざ演じるとなったら、そら、なんていうのかな、、、大変だわ。
坂口 なんかさ、軽い感じでやったら、おもしろいんじゃないかな。●●●(名前はご自由に入れてください)とか名優がやって「ぐはー」っていう如何にも、、こう、ただの悪じゃない、癖のある役じゃん、それは、、、もうひとつだと思う。
植本 ははは!やめてーーー!もはやレジェンドとしてそういう見方しかできないから、、、●●●(名前はご自由に入れてください)さんは軽妙なお芝居もなさっていたんじゃないの?
坂口 いや、やっぱりさ、あまりにも組織の中心にいる人はおのずと威厳があるからね。基本的に軽妙にはならないかと思うんだ。
植本 絶対書いてね!これ!
坂口 舞台は生だからね、性格がでるからさ。だからもうちょっと活劇っていうか漫画っていうか、ポンポンポンって全体を流していったほうが面白いかな。
植本 今だったら、松村武とか梶原善さんですね。やってほしい。
坂口 そうですね。そういう感じが、、、普通にやったらおもしろいかなと思いました。

植本 このさ、リヒトって書記官がいい人なのかどうか微妙じゃない?
坂口 役柄の作りが上手だよね。結局は、腹にいちもつ。
植本 司法顧問官はすでに裁判官より書記官の方が優れてるんじゃないかなって言ってるしね。裁判官が都合の悪い答えしかできないから、ね。そうするとフォローするのは書記官。お客さん書記官のほうが有能だなと分かることなので。
坂口 それは言ってみれば、今の政治とかも、大臣がちゃんと答えられないで、官僚が答えてなんとかごまかしていく。
植本 でもそれがマイクにのってたりとかね。囁いてるのが。
坂口 だからもうそんなにね、200年くらい前の話なのかな?
植本 書いたのは1700年代から1800年代にかけての方ですけど。
坂口 だから僕らはほとんど同じような状況にいるのかなって思いますよね。もっと始末の悪いことに、いまはそいつらがバレたあとも平気で世の中を操っている。今やってもおもしろいお芝居になるのかなって思いましたね。くれぐれも名優じゃない人が。
植本 そして演出家さんがどこをチョイスするかで、、、でも今の時代だと社会風刺とか、政治色とか入れたくなるのかな。
坂口 そういうのなくてサラッとやったら、却って風刺になってるてのが、、、
植本 そうそう! それが一番です。ダイレクトに声高に言うよりも。
坂口 そのほうが全然いいですよね。でもさすがに昔の地方の家族関係っていうのが、見えてきてそれはそれでおもしろかったかな。息子や娘に対して母ちゃん父ちゃんがちゃんと言う。いうことを聞かなかったら追い出しちゃう、骨をぐだぐだに砕いちゃう、みたいなセリフがあって。今、父親や母親がなかなか言えないでしょ、不埒な娘や息子にお前はダメだってなかなかね。
植本 何が起こるか分かんないからね。それで死なれても困るし。
坂口 それが分かったのもおもしろかったなぁと思いました。話もカントリー感がすごくいきていて、
植本 時間がゆっくり流れてる感じがねよかったです。
坂口 けっこうトンチンカンな話だけど、この人達生きてる感覚がすごくありました。

※参考資料:ハインリッヒ・フォン・クライスト『こわれがめ』山下純照訳(みすず書房刊)

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

坂口眞人
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

 

【植本純米 出演情報】

『黒白珠』 KOKU BYAKU JU
脚本◇青木豪
演出◇河原雅彦
出演◇松下優也 平間壮一 清水くるみ 平田敦子 植本純米 青谷優衣
村井國夫 高橋惠子 風間杜夫

6/7~23◎Bunkamura シアターコクーン
6/28~30◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
7/6〜7◎刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
7/10◎長崎ブリックホール
7/13~14久留米シティプラザ ザ・グランドホール

黒白珠 オフィシャルサイト:https://kokubyakuju2019.wixsite.com/official

 

(文責)坂口眞人

 

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