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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】池亀三太作『ばいびー、23区の恋人』

植本 今回は池亀三太さんの『ばいびー、23区の恋人』。
坂口 マチルダアパルトマンという劇団を池亀三太さんが立ち上げて、その旗揚げ公演で上演された作品ですね。
植本 『舞い上がれ、レジャーシート』っていうのと『ばいびー、23区の恋人』っていう2作品を上演されたんですね。僕たちが今回読んだのは『ばいびー、23区の恋人』です。
坂口 じゃあ、まず感想から。
植本 あのね、、、池亀さんが企画を思いついた瞬間にもう、勝ち、って感じがする。企画勝ちっていう感じが(笑)。

 

##編注
池亀三太『ばいびー、23区の恋人』上演台本より一部抜粋
【登場人物】
町子:ニート。貞操観念が致命的にゆるい。
明里:OL。町子の中学からの友達で、アラサー処女。
23人の恋人(仮に住んでいる区の名前にする):町子の恋人。
【巻頭のト書き】
町子の恋人の部屋。
町子の恋人は東京都23区の各区にひとりずつ、つまり23人いる。
その23人の恋人たちはどこか容姿が似通っていて、住んでいる部屋の間取りや、家具、散らかり具合もほぼ同じ。
偶然だけど。

 

坂口 企画っていうのは設定とか?
植本 そうそう設定。タイトルの通り、町子という女性の恋人が各区にひとりずつ、23人出てくるんですけど。やっぱりさ、自分の住んでる区とか馴染みの区が出てくると嬉しいもの。
坂口 なるほどね!ご当地ソングみたいな。
植本 そう!(笑)。ウチの区をどうやって扱ってくれるのかな?と思って。
坂口 ちなみに植本さんは、豊島区か?
植本 そう。一瞬で終わっちゃったの、この作品だと。
坂口 豊島区は「サンシャインのあるところは昔拘置所だった」、っていうやつですね。
植本 ほら、長いエピソードのところもあるけど、飛ばすところあるでしょ!?あそこに入っちゃって、、、
坂口 そうですか、中野区も「中野サンプラザとまんだらけ」でした。残念だね(笑)。

植本 まあ、ね。内容説明しましょうかね。チラシ読めばいいね。”致命的な貞操観念のゆるさが仇となり、ピンチに陥った女が友人の助けを借りて東京都23区の各区に一人ずついる23人の恋人と別れを告げる旅に出る、失恋ロードムービー。”って、大体これが全て。
坂口 町子と友人の明里の二人が、各区にいる恋人に別れ話をしにいくたんびに新たなエピソードって言うか、絶妙な関係が出てきて、、、
植本 編集長の言うご当地ソング的に言うと、必ずやっぱりその区の代表的なものには一箇所ふれてくれるんだよね。
坂口 そうね、ふれないまでも「練馬区はなにもない」とかね(笑)。
植本 そうそう(笑)スカイツリーだったり、キャロットタワーだったりね。
坂口 それに付随するコメントもなかなか洒落てます。
植本 名物がない区とかあるじゃない?ってことでしょ?(笑)。
坂口 足立区は「都内唯一の危険地帯」、とか。
植本 (笑)みんなが、うんうんって思えるような。
坂口 ね。それはやっぱりテクニックですよね。実はこれね、池亀さんが別れる男の役を23人全部やってるんですよ。ト書きにも書いてあるように部屋も似てるし本人もなんか、、、
植本 なんでこんなおんなじようなダメな男を好きになっちゃうんだろうっていうね、で、まあおんなじ人が演じる、という。
坂口 そこの面白さもあるんですけどね。
植本 でも僕気づかなくて。贅沢だなって思いながら読んでたの。23人、一人一人違うんだなって、ゲスト出演みたいな。
坂口 それもきっとおもしろいですよね。今回は、場面かわるとその場で着替えてやってました。
植本 一人で、作・演出の池亀君が23人を演じた、と。

坂口 そうです。そして30歳ちょい過ぎくらいの女性が二人。アラサーって書いてあるから。で、牛丼屋でバイトしてる町子が「自分が注文を聞きに行ったときのほうが男たちの「つゆだく」率が格段に多い」というストレスがたまって、店の金盗んで逃げちゃうんですね。で、それで友人の明里が一緒に謝ってなんとか赦してもらって、そのながれで町子に23人の恋人いるっていうんで、それは解消した方がいいんじゃないか、という。
植本 二人のキャラ的には、主人公の町子は男にゆるい、どころか金盗むくらいだから常識にもゆるい。社会的にちょっと常識が通用しない感じのね。で、一方の女の子のほうはお堅い。
坂口 真逆ですね。でも社会の常識がない町子も、とてもシンパシーを感じるように書かれてますね。むしろ23人恋人がいようがいいじゃん。って。
植本 途中からね、立場が逆転していくって言うか、むしろゆるい女の方がちょっとしっかりしてるように見えてくるみたいな、ね(笑)。
坂口 まあ、実際に恋人が23人いてもいいと思うし。
植本 23股ですよ。
坂口 素晴らしいじゃないですか(笑)。で、一人一人エピソードがある区に行くんですけど、それぞれの人の事情みたいなもの、キャラクターが面白く書かれてますよね。若い男のダメさ加減が次々に紹介されますものね。
植本 友達の明里が「あんたにとっては23分の1かもしれないけど向こうにとっては唯一の恋人なんだからちゃんと別れたげなさい」みたいなことを言いますけど。
坂口 で、別れ話の中で色々それぞれの人間関係みたいなものが、、、
植本 それでも基本男のほうは「なんで俺じゃだめなの?」って言ってますけどね。多くの人達が(笑)。
坂口 女の人の方から別れ話をしにいくわけだから、男にとってはプライドも傷つくし「なんで」って言う中でそれぞれのキャラクターのダメさ加減がよく表現されてるって思いますね。インターネットを使って商売をやるつもりだってところが印象的ですね。ありがちだよね(笑)。オレのことかって思っちゃいます(笑)。
植本 起業するみたいなやつでしょ?(笑)絶対うまくいかないよ、そんなの。何の会社かもわかってないんでしょ?自分がね。

 

##編注
池亀三太『ばいびー、23区の恋人』上演台本より一部抜粋
【町子・明里と墨田君】
墨田「まだ、収入とかは全然だけど、この間、高校の時の友だちに久しぶりに会おうよって言われて会ったんだけどさ、そこで一緒に起業しようって話になって、なんていうの? 若者向けのアプリのあの開発をあれして、んで、マーケッティングをあれするみたいなやつなんだけどね、」
明里「あれってなんですか?」
墨田「アプリで、あの、タップして、こう簡単にできるよっていう、」
明里「何をですか?」
墨田「その友だちが言ってたのは、あのー、なんて言ってたかな? 途中近くにチワワきてチワワと見つめ合っちゃって会話がお留守になってたから所々抜けてるんだけど、たとえば地方で農業をやっているお年寄りとね、あのー、都会で暮らす若者をマッチングしてあれするみたいな、」
町子「へー、すごいね、」
墨田「そう、需要と供給をアプリ上で繋ぐみたいな、」
明里「そんなアバウトなことしようとして成功するわけないじゃん」

 

坂口 ダメ男にみえる23人は、男の定番としてもみえてきますね。
植本 そして、23人いればいくら似てるとしても、性格がダメダメって言っても、途中でやっぱり包丁を出してくる人がいるわけですよ。
坂口 あの展開の最後の方で、包丁出してきて、っていうタイミングも上手ですね。
植本 2回あるからね。一回目は、その、、、
坂口 コント的っていうか。一回目は刺されないで済む、未遂で終わる。で、次の男に刺されちゃう。その展開とかも上手ですよね。
植本 一回目で包丁出すって、こういう事かって学習するわけです。で、次行ったときも包丁出てきたから、あのときとおんなじように対応すれば大丈夫って思ってると、刺されちゃう。
坂口 そのタイミングもすぐ刺されちゃう(笑)。楽しい展開ですよね。
植本 これ何分くらい?
坂口 1時間くらい。ずっとアップテンポですからね。
植本 なんかね、編集長も良く出来たコント的な部分があるって言ってたけど、僕からしても、出来すぎなんじゃない? って思ったの、作品が。かっちりっていうか、計画通り進んで行く感じ、頭のいい感じが、破綻がないから。ちょっと出来すぎでしょこれ。作品的に(笑)。
坂口 (笑)それは批判してんの?
植本 う~んと、、、ちょっと。
坂口 なるほどね。それがね、僕はお芝居を観てるからね、そういう感じがしないのよ。二人の女性がとても良いリアクションをするんですよ。とぼけたり、突っ込んだりね。とてもシンパシーを感じました。当然23区早く終わらせなきゃいけないから段取りをつけなきゃいけないんだけど、それはあんまり感じないお芝居の作りになっていてね。
植本 なるほど。

植本 俺は上演観てないから本を読むと、すごい、よく、出来て、いる。
坂口 良くも悪くもってこと?
植本 悪くもっていうか、、、出来すぎ?(笑)面白かったですよ、勿論。まあ上演するときに池亀さんみたいにね一人でやるか、例えば23人でやるとか、色々できると思うんだけど、広く色んな人が上演できそうな台本だなって思ったんです。これ読んでやってみたいって思う人多いんじゃないかな?
坂口 じゃあ男の人の役だったら、やる?
植本 ん? やらない(笑)。
坂口 (笑)なんで?
植本 やるんだったらもう一人の女の明里だな。説得する方、だって面白いもん。説得する方は途中から壊れてくからさ。麻痺してくって言うの? 完全麻痺してくでしょ?「もういいや」っていう。
坂口 なるほどね。難しいですね、確かにね。ふ~~ん、そうか、、、。僕は町子のほうばっかり。佇まいの面白さっていうのについ目がいっちゃうけど。さすがですね。
植本 いやいや。でもさっき編集長も言ってたけどさ、本当に作りが、23区、最初読んでて、1つの区がそれぞれそれなりのボリュームで登場するじゃない? 途中から「これ23区全部続くのかな」って思うと、途中からはしょりだすタイミングとかが本当によくてね。
坂口 で、終盤で刺されて治って、退院するね。
植本 そう(笑)ああ、生きてたんだなって。
坂口 最後の人に会いに行くのかな? 荒川区かな?
植本 荒川の土手で終わりますね、男と別れた後で「何食べる? 案内するよ」っていう終わり方なんです。あ、それで思い出した! なんかよく出来てると思います、本だけ読むとあとなんか1つ欲しかったなって気がします。なんかすとんっと終わったでしょ? 上演の時に演出でなんとでもなんのかな。と思いつつ。
坂口 別に上演でも何にもなかったような、そのまますとんって。え? いいじゃん。なんにもないほうが。
植本 なんか、自分がほしかったんだね。ああ!あと胡椒一振り。って思ったの。
坂口 へーーー珍しいね、植本さんがそんなこと言うの。
植本 そうね。大体が二人で話すとき「あれ余計だよね最後の」って話が多いからね(笑)。だから俺にそう思わせたってことはそれで正しいのかもね。お客さんがそう思う「ああここで終わっちゃったの?」みたいなね、良い意味で。いや、良く出来てる。

 

##編注
池亀三太『ばいびー、23区の恋人』上演台本より一部抜粋
【荒川君の部屋】
荒川区の男の部屋。
町子、明里、荒川区の男が対峙している。
荒川区の男泣いている。

町子 じゃあ、そんなわけで。荒川君ばいびー。
荒川 ばいびー・・・

町子、明里去る。

【荒川土手】
荒川沿いの土手。
町子と明里が佇んでいる。

明里 ねえ、町子、最後に一人だけ、よりを戻していいよって言ったら誰とよりを戻す?
町子 えー、明里は?
明里 何で私なの?
町子 誰がタイプだった?
明里 どれもタイプじゃなかったよ。
町子 23人もいたのに?
明里 てか私には違いが分かんなかったんだけど。
町子 そんなことある? 顔も体型も性格も全然違ったじゃん。
明里 町子とは男の趣味が違うっていうことだけはわかったよ。
町子 うーんでもやっぱ誰ともよりは戻さないかな。
明里 本当に?
町子 うん。なんかそこまで好きじゃなかったかも。
明里 あっそう。
町子 いや、もちろん好きだったんだけど、好きは難しいね。どのくらい好きだったら好きにしていいの?
明里 それ私に聞く?
町子 ああ、だね。ね、お腹すいてない?
明里 めっちゃすいてる。
町子 じゃあ今日は何食べようか。案内するよ。

町子、吹っ切れたように歩き出す。
暗転。

 

坂口 僕は町子にすごくシンパシーを感じちゃったからさ。結構ハチャメチャだけど可愛らしいっていうかね。だから、なんともちょっと見方がゆるいっていうか、
植本 いやいや、だって普段色んなものに厳しい編集長も時々色んなものに恋をするから。そこ? っていう。
坂口 あっはっはっはっ! まぁ、、そうだね、、、
植本 僕、思わず、ちょぴっとだけ辛口になりましたね。今回ね。
坂口 ああ、素敵。そういうわけで今回はこんな感じで。
植本 あっという間に読めました。面白かったです。

 

【マチルダアパルトマン次回公演情報】

『おへその不在(仮)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9/4(水)~16(月)◎下北沢OFFOFFシアター

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

坂口眞人
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

【植本純米 出演情報】
ミュージカル『カリソメノカタビラ~奇説デオン・ド・ボーモン~』
脚本・演出◇荻田浩一
音楽◇斎藤恒芳
出演◇水夏希/溝口琢矢 笠松はる/植本純米/坂元健児
演奏◇安齋麗奈

9/12(木)~23(月)◎浅草九劇
※追加公演 9/15(日)19:00
全席指定 8,800円

 

(文責)坂口眞人

 

【『ばいびー、23区の恋人』の記事がえんぶ18号(7/9 発売)に掲載されています】

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

 

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