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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】畑澤聖悟『親の顔が見たい』

植本 本日は畑澤聖悟さんの『親の顔が見たい』。畑澤さんは青森の劇団、渡辺源四郎商店の主宰者ですね。
坂口 これは植本さんが送ってくれました。
植本 この作品、色んなとこで上演され出版もされているので、皆さんが手にしやすいだろうと。あとね、読んでみて、すごくムカムカしながら読んだので(笑)。
坂口 (笑)。まずは、その感想を聞かせてください。
植本 いじめの話でね、
坂口 エリート私立女子中学校の話ですね。
植本 クリスチャン系なのかな。そこの一人がいじめにあって、教室で自殺をしてしまう。この娘の遺書が次々と出てくるんですけど、文末にいじめた人たちの名前が書いてあるんですね。
坂口 その遺書の出し方がドラマチックで、これが劇作としては大きなポイントですね。
植本 はい。登場人物は先生3人と、いじめの容疑がかかっている生徒の保護者達なんですけど、とにかく独りよがりで、自分の子どもだけがかわいいと思っている。その人達の口から出る言葉が、いやしいというかね、ムカムカして。こんなに戯曲を読んで腹立たしいと思ったことないので新鮮といえば新鮮でした。

 

【登場人物】
森崎次郎 [森崎志乃]の父
森崎雅子 [森崎志乃]の母
長谷部亮平 [長谷部翠]の父
長谷部多恵子[長谷部翠]の母
辺見重宣 [辺見のどか]の祖父
辺見友子 [辺見のどか]の祖母
八島操 [八島麗良]の母
柴田純子 [柴田愛理]の母

井上珠代 [井上道子]の母

中野渡治江 校長
原田茂一 学年主任
戸田菜月 2年3組学級担任
遠藤亨 新聞配達店の店長

※[ ]内は聖光女子中学校2年3組生徒の氏名

 2008年冬。午後七時頃。星光女子中学校会議室。 舞台正面に入り口。室内には会議用テーブルとイス。 原田、入ってくる。続いて純子。

(畑澤聖悟著『親の顔が見たい』より引用)

 

坂口 一人の生徒が朝、教室で自殺しまう。その出来事に関係していると思われる生徒5人が残され、今はそれぞれの教室で待機してるっていう状況ですね。ただこれは語られるだけで、生徒は一切表には出てこない。
植本 各教室に一人と、それに付き添ってる先生という形ですね。
坂口 保護者達は学校側に呼び出されて、一つの部屋に集りつつあるところです。学校側は担任の戸田先生と学年主任原田先生と、
植本 校長と。
坂口 学年主任が男性で、担任と校長は女性ですね。
植本 観てる側からしたら、この段階ではなんで集められたのかがわからない。
坂口 これすごく上手(笑)。内容は一回おいとくとして、劇作、というか進行が上手ですよね。なんていうんだろう、ドラマチックと言ったらちょっと違う、推理劇みたいな作りになっていますよね。
植本 一箇所に集められるのアガサクリスティーのようでしょ(笑)。
坂口 なんかザワザワした雰囲気。
植本 保護者達も、まさか自分達だけが呼び出されたとは思ってない。
坂口 そこで、2年の生徒が自殺したと。原因はいじめだということで、いじめた容疑者5人の生徒の家族・父兄が呼び出された。
植本 担任の先生の所へ来た遺書に名前が書いてあったのでね。
坂口 はい。
植本 そこで、遺書を読み上げるってことになって、最後に5人の生徒の名前が書いてある。

 

中野渡 事情聴取中の、本日午後五時ごろに、本校の住所で戸田宛に封書が届きました。

 間。

亮平 封書?
中野渡 差出人は井上道子。生前に投函したものと思われます。
亮平 遺書ってことですか・・・?

 原田、立ち上がり、スーツの内ポケットから封書を取り出し、読む。

原田 「私はクラスで友だちからいじめられています。最初は無視されるだけでした。原因はよくわかりません。ただわかることは、私が悪いらしいのです。だからあやまってみました。でもゆるしてくれませんでした。なんだかわけがわからなくなってきました。いじめはだんだんハードになってきて、学校に行くのもつらくなってきました。あさ起きるのも気が重くなって、そんな自分がとてもいやになりました。本当にごめんなさい。 先生には何度も『大丈夫』って聞かれたけど、何も話せませんでした。心配掛けてごめんなさい。一緒にお弁当食べようって、言ってくれてうれしかったです。先生の授業は楽しかったです。 先生のクラスで良かったです」

 原田、ためらうように間を取り、再び読み始める。

原田 「二年三組。志乃、翠、のどか、麗良、愛理」

 原田、手紙をスーツの内ポケットにしまう。着席。

次郎 ・・・どういうことですか?
原田 お聞きになったとおりです。
次郎 名前が?
中野渡 書いてあるんです。
純子 なんで、ウチの子の名前が書いてあるんですか?
中野渡 なんで、と言われましても。
雅子 なんで、ウチの子の名前が最初に出てくるんですか?
中野渡 いや、なんで、と言われましても。

(畑澤聖悟著『親の顔が見たい』より引用)

 

坂口 いくつかある遺書は内容がそれぞれ違っていて、いじめの中身がどんなものかだんだん分かってくるんですが、
植本 5人の名前だけが必ず最後に書いてある。ダイレクトにこの人にいじめられました、って書いてあるわけではないんですよね。
坂口 よく出来たって言ってもいいんですかね。これだけきつい内容にしておきながら、いろんな仕掛けを作って、表現として見事に成立させるのはかなりの力技ですね。
植本 はい。
坂口 いじめにポイントを置いた作品なんだけど、もっと全世界の、僕たちを含めた個々の人に向けた話で、登場人物達は普通の人達なんだねって思って。
植本 今回の登場人物たちが決して突出してるわけではないんだろうなっていうのはわかるんですよ。
坂口 その普通の人達がある特殊な状況になったらこういう風になっちゃうよね、っていう。皆がその可能性をもっているっていうことですよね。
植本 畑澤さんがこの作品が各地で、韓国とかでも上演されてるのは嬉しいけど、この問題が昔話にならないのは悲しい部分ではあると・・・まあ、先生だからね。
坂口 でもこれそういう意味では一生昔話にはならないですよね。結末でもそういう感じを示唆しているようにもとれますよね。

植本 一回目読んで、すごいムカムカして、さっき親の目線で二回目読んでみたんだけど、前よりはムカムカは減ったけど、やっぱりね、心の中にザワザワしたものは残るし。正義って、それぞれの正義があるから、子どもを思う正義や、あと一般論的正義とかね。そこでぶつかったりするじゃない。戦争と一緒だなって思って。
坂口 保護者の一人が学校の先生で・・・
植本 一番ムカムカする人でしょ(笑)。
坂口 さすが学校の先生が書いた。学校の先生が一番タチが悪い(笑)。段々エスカレートしていってね。
植本 保身というか、証拠隠滅っていう方にどんどんいきますからね。
坂口 どこかの国の政治家みたいですね(笑)。

植本 戸田先生の所に来た遺書を同窓会長でもある母親が、ライターで燃やしてしまうところからドラマが大きく動き出します。
坂口 そこに至るまでの仕掛けがおもしろい。まず別のお母さんが煙草を吸おうとしてるのを止める。それが二回あって、アンタはいつ吸っちゃうかわからないからライターと煙草は私が預かる、って前振りがあって、おお、って思ってるとそのライターで、
植本 手紙に火を付けて燃やす(笑)。
坂口 そのライターを使って手紙を燃やしちゃうっていう。ここで一つ仕掛けがありますね、劇的にね。燃やしちゃったと。
植本 これを超えるものはないだろうと思ったら次がありましたね。
坂口 同級生への遺書で、いろんないじめの内容が書かれていて。
植本 今度はそれを食べちゃうんですね。
坂口 それも・・・破いて、
植本 はい、一回破いて、それを先生が拾おうとするんだけど、負けじと母親が食べる。燃やすより上があったかって(笑)。
坂口 食べれるかって思うけど、紙だしね。シチュエーションブラックコメディみたいな仕掛けになってますよね。作家はしたたかです。リアルでムカムカする場面を次々作っておきながら、とても劇的な展開も考えていて、本当に大変な人だと思うんですけどね。ユーモア感もあってね。
植本 (笑)。

坂口 その二回目の遺書がくるまでにも、集まった人達は喧喧諤々、本題だけじゃなくてどうでもいい下世話な話を結構してますよね。亡くなった子のお母さんはパートに行ってて、近くで働いてるとバレちゃうから遠くで働いてるとか。
植本 ウチは有名校なのにそんなパートするような人いる? とかって上から目線の発言があったりね。
坂口 そういうこと実際ありそうじゃないですか。
植本 ウチは代々この学校のために尽くしてきたはずなんですけど、って言って先生を懐柔に図ったり(笑)。
坂口 ここまでは先生も事を荒立てる気はないから、
植本 まずいと自覚しつつ保護者に同調していきますね。
坂口 遺書燃やしちゃった時も、食べちゃった時も、まあ無いことにしよう、無いものはないんだからって一応落ち着いたり。
植本 そこに至るまでも保護者から恫喝じゃないけど、私達が食べたりするの止められたじゃないですか、遺書食べちゃったって公表出来るんですか?って、
坂口 そこら辺のせめぎ合いが続いて、いや~~な雰囲気ですよね。

植本 亡くなった子が新聞配達のバイトをしていて、そこの店長にも遺書が届いていたので、店長が怒鳴り込んで来るんですね。
坂口 この遺書はコピーが取ってあって何もできない。
植本 最後に紹介されるのは母親宛の遺書で、ここまで保護者に同調していた学校側が、態度を急変させるってところが面白かったんですよ。父兄にさっきと言ってたこと違うじゃないかって言われたときに、いえ何も変わってませんっていうところ、こわ~~いって。
坂口 それぞれが自分の立場を守らなきゃいけないという中での発言ですね。
植本 この作品、2008年に劇団昴のために書き下ろされていて、翌年の鶴屋南北戯曲賞のノミネートに上がっています。
坂口 あっ、これは生世話とエンタメで、とても南北的ですね。
植本 各地で上演もされていて、韓国の劇団がロングランを成功させて、割と最近韓国で映画化もされてますね。

坂口 最後のほうに救いと言ってはなんですけど、担任の戸田先生が、もうやってらんないみたいに開き直って。
植本 「誰よりも私がいじめた子達を殺したい」、っていう言ってはいけない台詞を吐く。
坂口 素敵ですよね。
植本 畑澤さん本人が言ってたのか、観た人が感想で書いてたのかわからないけど、戸田先生はそれを言っちゃったらその後教師は続けられないだろうって。
坂口 続けられなくても全然構わないとは思うけど、彼女にそれを言わせるっていう作家の気持で、観る側は少し救われますよね。
植本 最後のシーンも気になりますよね。観客に委ねてる部分ていうか、一番ムカムカする夫婦で教師をしている二人が残るじゃないですか。
坂口 お通夜に行くかどうかの話をしていてね。
植本 「いや行かない方がいい、裁判が待ってるから」って、
坂口 言わせてますよね。
植本 将来を見据えた言葉で終わるんですけど、「家族で生きて行かなきゃ」って、勿論そうだよねって思うし、それが希望に満ちた言葉ではないっていうか。

 

多恵子 ・・・どうしますか。これから。
亮平 ・・・・・。
多恵子 とりあえず翠と話すよね。
亮平 ・・・・・。
多恵子 そのあとは、どうしましょうか。
亮平 ・・・・・
多恵子 お通夜には行きますか?
亮平 ・・・お通夜。
多恵子 そう。
亮平 ・・・そうだよな、ひと一人死んだんだもんな。
多恵子 うん。
亮平 ・・・・翠、大丈夫かな。
多恵子 ・・・・・行きますか?
亮平 行かない。
多恵子 どうして?
亮平 簡単に謝罪しちゃ駄目だよ。裁判もあるのに。
多恵子 そうか。
亮平 軽々しくは行けない。翠のために。
多恵子 うん。
亮平 変かな?
多恵子 変じゃないよ。生きていかなきゃならないんだから。
亮平 そうか。
多恵子 そう。生きていかなきゃ
亮平 そうだな。

溶暗。

(畑澤聖悟著『親の顔が見たい』より引用)

 

坂口 皆事情があって、それぞれの主張しつつだけど、まあ事件が起こったばかりだから反省してる場合じゃ無いっていうのもあるかもしれないですけどね。勿論なにも解決もしないわけだし、現実の世の中でも、お芝居の中でも何も解決しない。
植本 責任をどこになすりつけるかで、最初のうちは先生にアンタの監督不行き届きだろって言ってると、それが自分に返ってきたりします。
坂口 いいですよね。作劇がね。遺書を燃やしたリ、食っちゃったり。その後もよいタイミングでバイト先のお兄ちゃんが怒鳴り込んできたり、亡くなった生徒のお母さんが来たりと、ポイントポイントであきないように作られていますよね。
植本 いじめた子ども達が、一人一人、色んな教室にいるっていうのも想像できるしね。その生徒の状態も普通にしてるって言っててね、その普通の怖さ。「ピザ取って」とか、「まだ帰れないの〜」、とか言ってるという。
坂口 この後どうするんだろうって思っちゃいますよね。
植本 状況が大きく変わるということはない・・・。
坂口 ショッキングな内容を扱いつつ、とても進行がユーモラスっていうか・・・。
植本 不謹慎な言い方をすると、すごくエンターテインメントなんですよね。

坂口 でもまぁ仕方ないですよね。何かもう日本人全体がいじめとか、差別とかをある部分許してるから。たくさんの不正義を許容して今の世の中が成り立っているわけじゃないですか。それで子どもたちだけにやるなって言っても説得力はないですよね。
植本 わかる、わかる。
坂口 それはもう、無理。子どもたちに「じゃあ、あんたたちはなにやってんの」って言われたら、大人はもう返す言葉はないです。
植本 ぼくが読んでムカムカしたっていうのが、人づてに畑澤さんに伝わったらしいんですよ。そしたら畑澤さんは「いやいや、みんないい人たちだよ」って言ったらしくて(笑)。ま、それはそうなんだけどって思いつつ・・・。
坂口 登場人物が?
植本 そうそう。
坂口  その通りですよね。いい人たちが平気でそういうことをする、その子どもたちがまたそういうことをする、っていうことの怖さだよね。
植本 まぁ読んでみて、自分にブーメランのように返ってくる本だなって思いました。
坂口 まったくですよね。よく・・・でもまぁ、ね、(小声で)あんまりぼくは行きたいお芝居ではない・・・。
植本 まぁまぁまぁね。編集長の好みはさ、長年、分かってるつもりではいるので。
坂口 植本さん最近ぼくに挑戦してんのかなって(笑)。
植本 いやいやいや(笑)。「こういう演劇も演劇だ」っていう。
坂口 はい。
植本 ということで。
坂口 ありがとうございました。

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている

 

【活動予定】
結城座旗揚げ385周年記念公演第一弾


 

 

 

 

十三代目結城孫三郎襲名披露公演『十一夜 あるいは星の輝く夜に』
6/2~6◎東京芸術劇場シアターウエスト

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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