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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】飲茶ニラ『チェンジ!』

植本 今回は飲茶ニラさんの『チェンジ!』。
坂口 ふざけた名前ですね(笑)「ぶんぶくちゃがま」という演劇ユニットの主宰者で作・演出もしている方の作品です。
植本 あくとれ(編注:中野にある小劇場)で二日間で4ステ。それを見た?
坂口 おもしろかったんです。
植本 見た人数からしたら超貴重じゃない。
坂口 (笑)。

 

【登場人物】
みちこ=部屋の主
エマ=一番大切だった人
きょうこ=丁度よかった人
兄=単車を教えてくれた人
岸=忘れてしまいたい人
ゆきお=不倫した人
ヒモ=部屋にいる人
トンビ
ジョン・レノン
隣人

【ト書き】
女の部屋。夏の夕方。部屋の主はもうこの世にはいない。
部屋には大量のパンパンになったゴミ袋が置いてある。競泳水着にパーカー、70年代のバンドマンの格好、白衣、ドレス、地味なワンピースの男女が一人用のローテーブルを囲む。狭々しいなかで、家具を触ったり、それぞれが自由に動いている。兄だけが体育座りをしている。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 ストーリーみたいなものはですね、みちこの遺言らしい 「あなたたちで私の部屋をすみずみまで掃除すること」というメッセージで、彼女の死んだ部屋に集まった5人の男女。お互いに面識のない気まずい空気の中、それぞれはそれぞれのみちことのありし日を思い返していくという。
坂口 はい。
植本 こういう4畳半を感じさせるもので時空を飛んだり時間を遡ったりっていうのは俺なんか読んでて懐かしい気がしたの、手触りっていうかね。
坂口 アイデアに満ちてますよね。時代を行ったり来たりっていう作品はたくさんあると思うんですけど、これは細やかで・・・、セリフもそうだけど、シーンの作り方、見せ方のリズムも上手ですね。
植本 僕二回読みましたけど、一見力技っぽいんだけど、繊細だと思います。
坂口 日常の会話のやり取りなんだけど、常にどこか引っかかってくるものがある。
植本 遡るのもいくつか時代があるじゃないですか、その境目がおしゃれというか、作者の特色が出てるのかなって。現在に過去がちょっと入り込んできてシーンが変わったりとか。曖昧なんですよね。その逆もあるしね。

坂口 みちこという女性の高校時代から32歳で亡くなるまでの交友録みたいなかんじです。亡くなったときから始まってるんですね。
植本 主に東京に上京してから亡くなるまでですかね。みちこの遺言というか手紙に、みんなで「掃除しろ」みたいなことが書いてあったよね。

 

【ト書き】
場転 ♪おかたづけ
5人、ゴミ袋をハケさせて、自分たちもハケ。
女の部屋が出てくる。女の部屋に夜が来る。

首に湿布を貼ったみちこ、ローテーブルの上に立つ。
部屋に灯りがつく。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

坂口 場面がみちこが亡くなる数日前になっています。ここではみちこが亡くなる予兆みたいなことが描かれているのですが、余分な会話が面白いですね。
植本 この作家は全編にわたって、余分な会話がおもしろいです。

坂口 その後の家族の話もいいですね。
植本 みちこは32歳で亡くなってるんだけどこのシーンは17歳まで遡ってるんですよね。
坂口 お父さんとお兄さんが卓球の練習を始めて、
植本 お兄さんが卓球部なのね。
坂口 その卓球をしている間の会話をしていくリズムが面白いですね。そしてうまくみちこの背景も描いてます。

 

【台詞】
父 (兄に)おい、相手してやる。
兄 はい。
父 全国大会まで気を緩めるなよ。
兄 はい。
父 基礎練習を怠るな。
兄 はい。
父 サア!(卓球の掛け声)
兄 サア!

父と兄、卓球を始める。ピンポンの音。

(中略)

父 サア!
兄 サア!
母 みちこ、あなた、別にアルバイトなんてしなくてもお小遣いくらいはあげるわよ。
みちこ でも、あたしそれくらいしかやりたいことないの。
母 だからって新聞配達なんかしなくても。
みちこ 海岸沿い、朝日と富士山がきれいだから。
母 単車なんてお兄ちゃんが余計なこと吹き込むから。
兄 サア!
母 部活は?
みちこ やりたいことはなくはないけど、部活入るまでじゃないかなって。
母 部活なんてちょっと興味あるなーくらいでいいのよ。とりあえず入ってみて、合わなかったら辞めればいいんだし。
みちこ それもそうだね。朝ごはん、美味しかった。

みちこ、母、父と兄のラリーを追い、顔を動かす。

父 サア!
兄 サア!
父 サア!
兄 サア!
父 サア!
兄 サア!
母 みちこ、あなたはきっと、とても苦労することになるわ。
みちこ うん、わかった。そうする、ありがとう、ママ。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 結婚式からお葬式になるシーンもありましたね。お兄さんの友達の男女が結婚するんですよね。お兄さんはその女の子のこと好きだったんですけど想いを告げることができず・・・
坂口 前にその稲村高校水泳部の3人のシーンなどもあって、お兄さんのはっきりしない性格が面白く描かれています。そのシーンから一転してそのまま、みちこ本人のお葬式後のシーンになります。
植本 うまいね。結婚式、お葬式っていうのが。
坂口 お葬式後のシーンで死んだはずのみちこがビールをついでまわっています。その辺も茶目っ気がありますね。

 

【ト書き】
木魚と念仏の音。数珠をすりすりする参列者。みちこが混ざっている。ハケと舞台上を一周歩き回り、ローテーブルの周りで互いに瓶ビールを注ぎあう。

「この度はご愁傷様でございました。」
「まだ32歳?お若いのに。」
「ご愁傷様でございました。」
「あら~ご立派になられて。」
「もう高校生?このあいだ会ったときはこんなだったのにね。」
「こうやって会えたのもね、最後にみちこが引き合わせてくれたんでしょうね。」

瓶ビールを注いで回るみちこ。

みちこ あの、おビール。
岸 ああ、どうも。……みちこ、なんで。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 うまく濁してるっていうかぼやかしてるっていうか。生きてんの、死んでるのっていう感じが面白いですよね。
坂口 芝居で見てるとどんどん流れていくからその部分はちょっとわかりずらいかも。
植本 それは思った。
坂口 改めて台本で読むと、あ、面白いことしてるじゃんって。死んだ奴がビールついでるよ、って。

坂口 で、次は恋人の話ですね。
植本 ビートルズが好きな人でしょ。
坂口 出会いはレコードショップ。
植本 下北のディスクユニオンみたいなとこでしょ?スズナリの並びの・・・
坂口 (笑) その店員と恋仲になります。そのとき彼女はガソリンスタンドで友達とバイトしてる。
植本 この主人公のみちこはいろいろ職を変えるんだけど、どこでも結構うまくやりますよね。なんか業種業種の面白さを見つけるのが上手いです。
坂口 うらやましい。
植本 (笑)。
坂口 けど本人はずっと納得してない。そこら辺、好感が持てます。
植本 自分のことつまんない人間だと思ってる節がありますよね。
坂口 ガソリンスタンドでバイトしつつ・・・あっ、自分の部屋にジョンレノンが出てくるんだね。

 

【ト書き】
みちこ、布団を敷き、寝る。
ジョン・レノン入り。ローテーブルに立つ。
道路の音(家の中)。

ジョン・レノン Imagine…
みちこ 顔、足、手、指、動かないいいいいいい!
ジョン・レノン Imagine…
みちこ 金縛りだあああああああああ!
ジョン・レノン Imagine…

ジョン・レノン、ローテーブルを降りる。

みちこ あ、待って!
ジョン・レノン Imagine…

ジョン・レノン、立ち止まる。
みちこは布団から起き上がれない。

みちこ 彼があなたたちを好きって言うの!あなたたちはたくさん歌をつくったから彼に勧められてたくさん聞いたの!でも彼がなんであなたたちを好きなのか分からないの!

ジョン・レノン Imagine…

みちこ あなたたちを評価する人はたくさんいる!音楽を知らないわたしが聞いても素敵な曲がたくさんあった!でも彼はそんな理由であなたたちを好きになったりしない!だって彼は特別な人だから!レコードショップで出会ったときにそう思ったの!そうじゃなきゃ、私は彼を好きになったりするはずない!
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 一応本物のジョン・レノンが霊(?)として、
坂口 枕元に立つ・・・
植本 あそこ面白かったですね「この部屋事故物件なのジョン・レノンがでるの」「ジョン・レノンはでないと思うよ」って言われる(笑)。
坂口 何回か出てくるんですね。
植本 「イマジン」を何度も歌う?
坂口 つぶやくっていう感じでした。
植本 (笑)。
坂口 そうこうしていると、働いているガソリンスタンドが火事になってしまいますね。
植本 そうなの。店長いい人だと思ってたら、サイコな人だった。放火して店を燃やしてしまいますね(笑)。
坂口 それで失業してガールズバーで働いたりしてます。

*

植本 パリ旅行にいきますね、全財産使っちゃうやつ。
坂口 ビートルズ好きの彼と気まぐれでパリに観光に行くんですね。パリの観光のシーンとかも、
植本 名画がいっぱい出てくる(笑)。
坂口 歌舞伎とかで、歩いてるフリすると道具が後ろでどんどん流れたりするじゃないですか、あんなちゃかちゃかした感じです。
植本 で、たくさん楽しんですっからかんで帰ってくる。
坂口 帰ってきた空港で彼と別れます。
植本 ちょっとドラマチック。
坂口 楽しんで帰ってきて、じゃあっていうのは、面白いですね。この人、男に対してはそんな感じが多いよね。
植本 基本何人かと付き合ってるけど、みんなダメな男達ばかりだからね。
坂口 このシーンのみちこの心情は、兄に宛てたメッセージの形を取ってますね。

 

【ト書き】
空港の展望デッキ。

岸 今乗ってきたとこなのに、見て楽しい?
みちこ 展望台とかってあると来ちゃわない?
岸 そうかなあ。
みちこ 乗ってるのも楽しかったけど、下から飛ぶの見てる方がわたしには丁度いいな。
岸 しばらく飛行機はいいや。
みちこ 滑走路、星空みたい。
岸 そうだね。……あの、幸せになってください。
みちこ それは、わからないです。あ!あの飛行機飛ぶよ!

飛行機の音。
みちこ、飛行機と一緒に走る。

みちこ 飛んだ!

岸、ハケ。

みちこ わたしは飛んでいく飛行機が空に消えるまで、ずっと見ていました。振り返ったときには岸さんはいませんでした。いい旅でした。じゃあ、お父さんとお母さんによろしくお伝えください。みちこ。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 そして、
坂口 情報商材を売る新進系企業でテレアポやってます。
植本 契約件数ノルマ達成率第1位。
坂口 テンポの良いコミカルなシーンですね。
植本 ここで一番大事なのはエマという女の子と出会うという。まぁ付き合うって言っていいのかな、女性同士で一緒に暮らし始めたりもするんですけど。二人のシーンが一番丁寧に描かれているなと感じました。読み応えもあったしね。
坂口 二人の感情が解放されていて、楽しそうでした。
植本 そのうちにこの二人にも別れがやってくるんですが。それまではすごい楽しそうなんだよなあ。
坂口 エマは暴力的なDV男といて、そいつを空想でやっつけるみたいな夢のシーンもありました。
植本 ああ、プリキュアのね。
坂口 男がモンスターとして出てきて、二人で組んで、やっつけるっていうシーン。

 

【ト書き】
みちこ、エマを抱きしめる。

みちこ わたしたちで倒そう。

♪プリキュアみたいな曲

モンスター じゃけんなあーーーーーーー。
ふわふわのキャラクター1 あれはモンスター・じゃけんなあ。周りにいる人間に暴言を吐き、暴力を振るい、精神的に追い詰め支配する、最低最悪のモンスターだ。
ふわふわのキャラクター2 あなたたちの、キュアキュアレボリューションで、あの忌まわしい物体を倒して!!はやく!!!
みちこ いくよ、エマ!
エマ うん!

みちこ、エマ、手をつなぐ。
みちこ、エマ、変身。

みちこ 湘南のセクシーガール・キュアシータ!
エマ 平和島のモネ。キュアアイランド!
モブ1 なんだ、あの光は?
モブ2 彼女たちが覚醒したんだ!
みちこ・エマ キュアキュア・ライドオンエキスプレス!レインボーミラクル!モンスター じゃけんなあーーーーーーーーー。
みちこ くっ、キュアミラクルが効かないだと!
ふわふわのキャラクター1 諦めないで!
ふわふわのキャラクター2 じゃけんなあの弱点は自分の優位が奪われることだ!攻撃止めないで!
エマ いくよ、みちこ!
みちこ うん、エマ!
みちこ・エマ キュアメタル・レインボー・サンクチュアリ!!!
モンスター ごめんなあ、ごめんなあ、ごめんなあ!

モンスター弱る。

みちこ・エマ やった!

エマ、みちこ、決めポーズ。

エマ・みちこ お仕置き完了!!

モンスター、爆発。
エマ、みちこ、決めポーズのまま。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 はいはいあったね。実際見て面白かった?
坂口 面白かったですよ。ここは活劇にしていますね。そのあと出てくるけど、漫画家になって・・・それは後で話しますが。ドラマの仕立てで不倫の話で見せていくとか、
植本 はいはい。
坂口 面倒なエピソードをダイレクトな話にしないで、別の形で見せてくれるので見やすいし面白い。
植本 エマはDVの男の子どもを宿していて、それをわかっていて、みちこと暮らし始めていて。でも産もうってことで別れて行きますね。

*

植本 女友達のきょうこも一緒にバイトしたりで、ちょこちょこ出て来ます。
坂口 ここでは広告代理店のコピーライターになって・・・
植本 大きい電子看板とか作ってますね。
坂口 かわいいシーンでした。
植本 ・・・ほんとだ。カップ麺のCM。あの電光掲示板作ったの私って、きょうこが言ってますね。
坂口 それはしりとりCMでしりとりしながら退場していくみたいなシーンですね。
植本 これいい台詞だった「きょうこみたいな人が沢山いて今日も東京はまわっています」
坂口 はい。
植本 ちょっと達観した感じでね。自分にはちょっと無理だけど、こういう人達が頑張ってるおかげで東京はまわってるっていう。

 

【台詞】
みちこ きょうこはさ、どうなの?
きょうこ めっちゃ仕事してる。
みちこ 広告代理店ってすごいよね。
きょうこ あっ、見て。あの電工掲示板。あれつくったの、わたし。

カップ麵のシーエム
♪きっつね、たぬっき、めだっか、かっらす、すいっか、かじっき。

しりとりが延々と続くシーエム。

みちこ これ、楽しい?
きょうこ みなさーん!カップ麵を食べて、経済を回しましょう!
みちこ きょうこ!

きょうこ、しりとりに混じる。
動物たちに混ざったエマを捕まえて、エマの肩に手をおいて。しりとり、ハケ。

みちこ きょうこみたいな人がたくさんいて、今日も東京は回っています。エマ!エマは特別なひとでした。エマが抱えている問題をわたしがどうにかしてあげたいって思いました。エマはわたしの世界に色をつけてくれたから。楽しく生きたい。エマのおかげでわたしの人生が動き出しました。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

坂口 そうこうしていると工場に就職します。
植本 下水の浄化槽のポンプになる部品を作っています。職長が「1500万人のライフラインはお前らが握っているんだから誇りをもって作業に励め」って(笑)。
坂口 働く現場っていうのが、結構頻繁に出てきてコミカルな感じには作ってあるんだけど、妙なリアリティがあって見てあきない楽しいシーンになってるなぁ、と。ただ展開が早いからうっかりしていられない(笑)。
植本 (笑)。職人に筋が良いって誉められて、ここでも能力を発揮しています。

坂口 そうこうしてるうちに、ってこればっかりですね(笑)。
植本 さっき言ってた、漫画がヒットするんだよね。
坂口 その前にエマが出て行っちゃう。それでその空白を埋める為に不倫をする。
植本 男の名前はゆきお。
坂口 内容の無い・・・
植本 何にも無い・・・
坂口 くどいけど、男は大体そうなんだね(笑)。不倫をしてるんだけど、その不倫をしてることをそのまま見せるんじゃなくて、それを彼女が書いた4コマ漫画にしてみせてます。
植本 話の飛躍がかわいいし面白い。その4コマ漫画の『宇宙な道夫さん』がドラマ化され・・・
坂口 大ヒット!

 

【ト書き】
『宇宙な道夫さん』ドラマ
キャスト パー子(みちこ)道夫(ゆきお) ドラマOP♪

パー子 わたしは鉄工場に勤務する28歳!毎日、汗と油にまみれてエンヤコラサ!そんな重労働な日々に癒しを与えてくれるのは、ハムスターのハム座衛門。ハム座衛門!ハム座衛門!

ハム座衛門が出てくる。

パー子 ハム座衛門は回し車が大好き!回れ~回れ~回れ~

ハム座衛門、回し車を回しすぎて、倒れる。

パー子 ハム座衛門!!!!!!どうしよ、どうしよ。病院!病院!

パー子、戸を叩く。

パー子 お願い!開けて!ハム座衛門が!ハム座衛門が!
道夫 大丈夫ですか?
パー子 先生!ハム座衛門を助けて!

道夫、ハム座衛門を治療する。

パー子 これが、わたしと道夫さんとの出会いでした。それから、なんやかんやあって、恋人関係になることになりました。

ハム座衛門は元気になる。
道夫、パー子、月を眺める。

道夫 僕は昼よりも夜がすきなんだ。
パー子 どうして?
道夫 昼は僕にはまぶしすぎるんだ。
パー子 うん。
道夫 パー子はいいね。月みたいにまぶしすぎない。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 この漫画で巨万の富を築くんだけど実際の不倫相手が「すごいなお前すごいな」って言いながら「これ俺のことじゃねぇか」ってキレて、裁判になり、一億円賠償金を払わなくてはならなくなり、
坂口 稼いだ金を全部はきだすことになります。
植本 ここで終わりかと思ったら最後に不倫男には、これから奥さんとの裁判が待っているんですね。そこらへんが、ああ丁寧だってな思って。
坂口 うっかりしたら見落としちゃいますね。

植本 一文無しになったのでまた工場に戻ってくる(笑)、かわいい〜。
坂口 そのあとエマと再会をしますね。お互いの事情を話してある程度納得して別れました。
植本 エマは子ども産んで「子ども面白いよ」って言ってるし。みちこの方はそれこそ最初に戻るのかな。ダンサーと一緒に暮らし始めますね。
坂口 ヒモだね。ダンサーについての認識も素晴らしかったね。
植本 「ダンサーなの?ボックスとか踏むの?」って(笑)。今でもボックスとか言うんだなぁと思って(笑)。

 

【ト書き】
単車をひいた隣人1、2入り

隣人2 あんた組潰れて、どうやって明日から生きてくつもりだい!
隣人1 どうにかなんだろ!
隣人2 あんたもなんかやりたいこととかないんか!
隣人1 (小さい声で)バイク屋。
隣人2 ああん?
隣人1 だから、バイク屋だ、ごらあ。
隣人2 商売のひとつもやったこともないお前がか?
隣人1 悪いかよ!
隣人2 だったら、まず、そのおんぼろ単車、売ってみな!
隣人1 ここでか?無茶言うなよ!
みちこ あの!その単車、売り物ですか?
隣人1 いや、あの、これは俺の。
隣人2 あんた、これからバイク屋になるんだろ?
隣人1 くっそお……
みちこ すみません、やっぱり大丈夫です。
隣人1 ……売り物だよ。
みちこ でも……
隣人1 こいつはな、こいつは、俺が世田谷イレブンの頭はってたときからの、愛しい子猫ちゃんだ。
隣人2 買ってやってよ。
みちこ はい。おいくらですか?
隣人1 (指で8をつくる)
みちこ 8万?
隣人1 80万。
隣人2 バカ!8千でも頂けたらいい方だろ、こんなボロ。
隣人1 うっせえ!こいつには俺の人生詰まってんだ!
みちこ 買います!これ、手持ちのお金とりあえずぜんぶ。
隣人2 いいのかい?
みちこ はい。
隣人1 (泣き出す。)
隣人2 よかったねえ、あんた。
隣人1 姉ちゃん、そいつのこと可愛がってくれよ。

隣人1,2ハケ。
みちこ 単車に跨る。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 隣の人が「バイク屋になりたい」って会話が聞こえてくるから。持ってるお金全部出して単車を買って、
坂口 それが原因で大変な事になるんですけどね。ここら辺でみちこが本音を言いまくりますよね。

 

【ト書き】
みちこ 単車に跨る。

みちこ あ、ヘルメット……

単車、走りだす。
しばらく呆然と単車に乗るみちこ。
波音が聞こえてくる。

みちこ ろくでもない。しょうもない。不謹慎。浅はか。無思慮。向こう見ず。愚行。安っぽい。軽率!軽薄!軽薄!軽薄!軽薄!

「みちこ、元気かー?」

みちこ はい、元気でーす。

「みちこ、幸せかー?」

みちこ はい、幸せでーす。

「みちこ、楽しいかー?」

みちこ はい、楽しいでーす。

「みちこ、自分が大切かー?」

みちこ はい、大切でーす。

波音大きくなる。

みちこ あーーーーーーーーーーーーー。

みちこ、単車を運転し続ける。

みちこ くそったれーーーーー!そんなわけあるかーーーーーーー!

部屋に、海が現れる。

みちこ 元気って、幸せって、楽しいって答えるよ。自分が大切って言うよ。そうじゃないと、無責任なあのひとたちに悔しいもん。そうなるまで死ねないって思うから。そんなの違うって知ってるけど。お父さん、お母さん、育ててくれてありがとう!わたしはこんなにも考えなしになった!

みちこ 海!!!!!!!

衝突音。ガッシャ―ン。
みちこ、倒れる。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

植本 うんうん。バイクに乗って走りながらね。きっと大きな声で言うのでしょう、波音もしているし。
坂口 見せ場ですね。それで事故を起こしちゃうんですね。見てるとそれで死んじゃったのかなって思うんですよ。でも実は・・・死んでなくて。
植本 そうなんですよねえ。
坂口 最初のシーンに戻ります。

植本 これバイクで事故起こして5日後にみちこ死ぬんだけど、本当に事故っぽいの?自殺っぽいの?
坂口 この流れだと自殺かなって思って観てました。で最後、また彼女が出てくるでしょ?だからちょっとわからなかったです、芝居を観てる限りでは事故なのか、自殺なのか。
植本 まぁ亡くなったのが五日後だから、その間にアイライナーでチラシに遺書を書いたりとか。
坂口 だからそこら辺はちょっと曖昧ですよね。わざと曖昧にしてるんでしょうけど。よく分からない感じでしたね。で、最初のシーンに戻って皆が片付けていると、
植本 傍らに倒れていたみちこ寝返りをうって「夏だなあ」暗転。で終わりですね。

坂口 読んでいる人にこの話の面白さがどれだけ伝わっているのか心配ですね(笑)。
植本 (笑) 台詞もとても面白いし、最初の方のしらすについて語ってるところすごく面白くてね。
坂口 僕もこの戯曲の中で一番好きです(笑)。
植本 湘南の方にいくと、生しらす丼とか有名なんだけど、あれ本当に美味しい? 湯がいた方が美味しくない? 手をぬいてるだけじゃないの? って(笑)。俺も確かに生ってちょっと生臭いよなって(笑)。面白かった。

 

【ト書き】
湘南の堤防。トンビが飛んでいる。

けんしょう ほら。(パピコをパッキンする。)
あきこ ありがと。
けんしょう (パピコ吸う)しらすいっぱい取れたから、新鮮な生の、今日帰り持ってって母さんが。(パピコ吸う)
あきこ わたし、生しらす、嫌いなんだ。普通に湯がいた方がうまいよ。
けんしょう なんでだ?湘南って言ったら生しらすだろ。
あきこ 湯がくって手間を省いて、生で提供するだけで、ご当地性を出すのはずるいと思うの。
けんしょう あきこ……(パピコ吸う)
あきこ あ、魚、跳ねた。
けんしょう お(ほ)れさ(パピコ吸う)、今度の湘南遠泳大会(パピコ吸う)、優勝するから(パピコ吸う)。そしたら、お(ほ)れさ(パピコ吸う)、あきこに(パピコ吸う)、告白するから(パピコめっちゃ吸う)。
あきこ ケンちゃんさ、なんでそれ、本人に言っちゃうの?わたし、予約制じゃないよ?
けんしょう 好きだーーー、あきこーーーー(パピコ吸う)。
あきこ 遠泳大会の意味ないじゃーん。

トンビ、けんしょうのパピコを奪う。

けんしょう パピコーーーーーーーーー。
あきこ パピコーーーーーーーー。
(飲茶ニラ作『チェンジ!』より引用)

 

坂口 もう一回やってくれてもいいかなっていう気もするんですよね。
植本 再演で?
坂口 これ大変なんですよ。色んな人がモブになって出たり引っ込んだり、道具を出したり・・・
植本 本役以外にも他の役も兼ねたりするけど、それもなかなか重要だったりするしね。
坂口 人が足りないからとかではなくて、それなりの意図が、とぼけた感じに作ってあって。
植本 俺はあくまで岸田戯曲賞の選考委員のようにしゃべるけど(笑)、実際の舞台を観てないからね。
坂口 (笑)。
植本 読後感と、芝居見終わった感って大体一緒だった?
坂口 読んだ方がメリハリがつきました。誤解を恐れないで言うと、読んだ方が面白かった。とても親切だし、冒険心にも富んだ作品かなって思いました。
植本 繊細さも感じますね。
坂口 実際の舞台は勢いがあって面白かったけど、でもやっぱりもうちょっとだけ出来そうな・・・
植本 (笑)なんですか、情緒ですか?
坂口 これね、情緒いらないような気がするんだけど、観ていて、まだまだ出来ることがありそうだなって気はしました。

植本 主人公のみちこが32歳で亡くなってるけど、それなりに激動の人生を歩んで、そんなに後悔を感じないでしょ。そこがポイントなのかなって。生き抜いた感はあるっていうか。
坂口 はい。
植本 人生は長さじゃないんだなっていう風に思うし。
坂口 おっしゃる通りです。無駄に長生きした人間には辛い言葉だけど。
植本 (爆笑)。
坂口 ・・・。
植本 駆け抜けた感があるよね。
坂口 悲壮感もないし。でもある切なさみたいなのはありますね。どうしても世の中にうまくハマッていけない。でもみんなそうだよね。
植本 集められた5人もそれはなんだろうな、友人やかつての恋人が亡くなったことをドライにとらえてますよね。

坂口 だから大学出てちょこちょこの女性がね、32歳までの人生の多彩なエピソードをどうやって頭の中で考えるのか、そのイメージしていく力っていうのはすごいなって思うんですよ。
植本 実際には作者の飲茶ニラさんはここにも書いてあるけど、現在都内の出版社に勤めながら演劇活動をしている。ってことで賢明だし。
坂口 つい肩に力が入っちゃうよね「私は演劇人だ」って。そういうことではない感じで。
植本 今後が楽しみです。今の話と関連するかわからないけど、長く続ければいいってもんでもないし、一瞬の輝きでこの方が今輝いてるのかどうか、俺に言われたくもないだろうし、ただどうなるのかなっていうのは気になりますね。ガーーーッて行って欲しい気もしますし。
坂口 でもまあそれはどっちでもいいですよね。この人を元にして商売しようと思ってるわけではないから。一個一個面白い物があれば嬉しいですね。
植本 なにせさ、二日間で4ステだからスズナリくらいまでは行って欲しいわ(笑)。
坂口 もうちょっと多くの人に・・・そうね。あくとれはこのお芝居をやる劇場としては合ってたと思うんですけどね。ということで、今回は長丁場になりました。ありがとうございました。
植本 一気に話せました。面白かったです。ありがとうございました。

植本純米

 

 

 

 

 

 

 

うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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