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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】アゴタ・クリストフ『星々を恐れよ』

 

 

 

坂口 今回は、植本さんが推薦してくれたアゴタ・クリストフという女性が書いた『伝染病』という戯曲集です。4つの作品が入っていて、その中から2つを僕が選んで植本さんにお渡ししました。
植本 元々はね、こういうご時世で、なんかウィルスとかに関連する戯曲ってあるのかなと思って、ネットで探したんですわ。そしたら『伝染病』っていう戯曲集が見つかって。で、編集長に話したら『伝染病』と『星々を恐れよ』のどちらかでっていうのがきて、両方読みました。なんか、作風が違いますよね、『伝染病』のほうは不条理っていうか、別役実さん?みたいなところもありーの(笑)。
坂口 割と、画一的というか・・・違うか? 表現が・・・。
植本 (笑)どういうこと?
坂口 うまく言えない。要するに、伝染するのがなにかっていうと自殺。伝染すると自殺をしてしまう。
植本 そう!自殺をしたくなるウィルス。ファンタジーなんでしょうね、ある種のね。
坂口 面白げな人殺しとか、死んだ人が生き返ったり、バイオレンスな感じもあったりで、でももう一つピンとこなかった。出てくる人も戯画化されてるというか。ゲームにしたらおもしろいかも・・・。
植本 説明を極力省いてるっていう感じがしますよね。

植本 アゴタ・クリストフを説明しちゃうと、1956年のハンガリー動乱でオーストリアへ脱出、スイスに定住してフランス語で作品を書いていたようですね。1986年デビュー小説の『悪童日記』で有名になった方なんですね。
坂口 この戯曲はその前に書かれた作品なんですね。
植本 で『星々を恐れよ』を選んだわけですが、面白かったです。
坂口 面白かったですよ。3日間のフランスの郊外での出来事かな?
植本 フランスって言ってましたっけ?
坂口 言ってないか、郊外の住みやすい小さい街だと言ってますね。
植本 なんかスペインとかは出てきますけど、具体的にはね。
坂口 そうなのか。でも、彼女(作者)はすごい演劇に対しての思い込みがあるんですね。台詞の言い方とか、舞台装置とか、けっこうト書きに具体的に書いてありますね。
植本 お芝居好きなんでしょうね(笑)。

坂口 35歳男子で売れない古書店主の話、ですよね。そして彼はずっと出ずっぱり。
植本 あ、そう言われてみればそうですね(笑)。
坂口 3日間に渡る話で。1幕目から言うと・・・まあ・・・てか・・・なんでこの人がこんなにモテるんだろうって。
植本 そうなんですよ・・・それに尽きるんですよね、この話。描写としては、中肉中背みたいな冴えない感じとト書きには書いてあるんですけど、や〜〜たらモテる(笑)。
坂口 (コップを勢いよく置き)なんでそんなにモテるんだっていう・・・。
植本 女性だけじゃないですよ。男からもモテてますよ、お店に来るお客さんにしても、養父からも刑事さんからも、好かれてますよ。
坂口 別にモテてることでの、特別な・・・あ、特別な展開はあるか。というより全編に渡って特別か。
植本 これ読んだ人が全員思うね。「なんでこの人こんなモテるんだろう」って!(笑)。
坂口 でも話の流れとしてそんなに違和感はない。不思議な力技。
植本 (笑)。女性に対して、限定すると、なんていうんですか、細かいんですよね、気遣いとか、思わせぶり、とか(笑)。
坂口 (笑)。
植本 本人に自覚があるのかないのか、そういう人世の中にいるじゃないですか。
坂口 たらし、みたいなこと?
植本 なんの気なしにスキンシップでちょっと体に、相手の女性に触れてしまうみたいな。
坂口 ●●さん(思い当たる人がいたら自由に入れてください)のことじゃないよね?
植本 (笑)絶対のせてね。
坂口 (笑)。
植本 (爆笑)。
坂口 ・・・(笑)。
植本 (笑)びっくりしたその名前が出ると思わなかった
坂口 (笑)うん、うん・・・でも、そうですよね、会話のやわらかさっていうか、傷つけないやりとりとか。やるじゃん、こいつって。
植本 そうなの。風態は冴えないのにさ。まず、じゃ最初から話しますか(笑)。

坂口 それがメインの話なのかどうかっていうのも議論の余地があるよね。
植本 それは演出のやり方もあると思う。どこをピックアップするかっていう。
坂口 3日間の話で、1日目は家事手伝い的なセシールおばさんという人と、主人公のダヴィット古書店の主人(35歳)との会話から始まって、全体の関係がうっすら見えてくる。で、2幕目で、ダヴィットの奥さんが若くして自殺しちゃてることがわかります。
植本 その妹で20歳のパトリシアと、母親のジュリエットが今この家に来ていますね。
坂口 お葬式が一週間くらい前にあって、
植本 そのまま逗留している、なぜか帰らないで。
坂口 で、お母さんのジュリエットは、パトリシアとダビットをくっつけたい。
植本 そう、そんなことってある?
坂口 (笑)そうなの。と思ってるんですよね。なぜかっていうと母親は自分が自由になりたいから。
植本 そうなの!
坂口 これまでもずーーっと彼女は自分が自由になりたいから、娘の3人を・・・
植本 今回も、自分が今の恋人と結婚したいから、厄介払いをしたい。
坂口 娘たちもうすうすわかってる。この関係はちょっとね。形は違えども親の身勝手という、現代にも通ずることでリアリティがあります。
植本 でも、パトリシアもダヴィットのことが大好きなので、残れるものなら残りたいんです(笑)。
坂口 それでいいじゃん、みたいな。でも葬式の一週間後の話だから。
植本 ダヴィット本人も言ってますけどね、「幸せじゃなかったから僕の奥さんは自殺したわけでしょ?」って。

坂口 このあと一気に違った話になってきます。その家族と主人公のやりとりだけで進んでいくのかなと思ったら、全然別のテーマがあったっていうのが刑事が出てきてわかります。
植本 この主人公のダヴィットというのがスペイン内乱の戦争孤児なんですね。
坂口 ここはちょっとひっかかるところです。
植本 で、養父に引き取られて今の所に住んでるんですけど。世の中が平和になったとはいえ、まだ活動家がいるんじゃないか。刑事の言うところの、無政府主義者達が暗躍してるんじゃないかっていうことで、疑っているのが刑事ですね。
坂口 さぐりにくるんですね。警察に奥さんの愛人であった、ムッシュ・レオン、が捕かまっていてね。
植本 まあ、罪状は麻薬なんですけど。それは表向きで本当は活動家として動いているから、それをしょっぴくためにっていう。これも刑事の言い分ですけどね。
坂口 最後までわかんないんだけど、無政府主義者達の組織の存在っていうのが、ずーっと曖昧になっています。
植本 でもまあ、刑事は信じてるんですもんね。
坂口 それは刑事がそういう役割だったっていうのもありますよね。疑ることが仕事だから。結局奥さんは麻薬常習者だったってことでしたね。

坂口 夜になって、庭に住んでいるという養父が訪ねてきます。この養父は、スペインの内乱からのアナーキストで、今も、そういう組織にいるっていう風に本人が思っている。
植本 まぁ簡単に言うと、年をとってやることがないと暇でしょっていうことかな・・・(笑)。
坂口 ダビットもそれに合わせてます。
植本 そして、三人姉妹の長女ガブリエルという女性が登場しますね。旦那さんのことが嫌になっちゃってて。遠くにいたらしく葬儀には一週間遅れてきました。
坂口 旦那さんは金持ちのアメリカ人。
植本 長女ガブリエルは昔ダヴィットと愛し合っていたんだけど、ダヴィットはなんか次女と結婚するんですね。親の勧めで長女はアメリカ人と結婚した。
坂口 ここまでくると全員が揃って、ダビットのモテモテぶりを含めて、それぞれの関係がわかる。

植本 そして、
坂口 午後になってまた刑事がきますね。
植本 麻薬で捕まってたレオンが自殺をしたって。刑事は組織に殺されたんじゃないか、だから、次に狙われるのはダヴィットじゃないのかって心配してくれるの。
坂口 しかも偽のパスポートまでつくって海外に逃げなさいみたいな。
植本 ダビットはそれを断ります。そして、夕方には養父も逃亡をすすめにくる。
坂口 養父がレオンが亡くなったのを新聞記事で知ってね。ここで養父が組織と関係ないことがわかりますね。ダヴィットはお父さんの幻想に付き合うための努力を何十年もしてきたんですね。
植本 でもさ、描写の中で、お父さんは気付いてて、このゲームに付き合ってくれてるんじゃないか、って言ったりとかね。
坂口 二人は気遣い合いながら生きてるんですね。で、次の日の朝になると養父が自殺を。急展開ですね。
植本 はい。
坂口 死んでるっていうのを刑事が伝えにくる。
植本 ダビットが養父のために虚構の世界を作っていたことがわかって、自分の存在意義がゆらいで自殺しちゃうっていう。
坂口 なんか呆気ないですよね。愛とか死を扱っている割には淡泊ですね。その後、刑事が来て手紙を見たりしますよね。
植本 三日目の朝ね。
坂口 刑事はその、お父さんの手紙を読み出すんだよね。で、刑事の手から手紙が滑り落ちる。彼は、ダヴィットの背中に視線を向ける。これはどういう・・・
植本 普通に考えれば養父がショックを受けたのと同じショックなはずなんですよね。刑事が追っていたものが全てダヴィットが仕組んだことっだって。

植本 だからこのダヴィットがやろうとしてた優しさがね、良い方向に働いていない。
坂口 養父と奥さんは自殺しちゃうし、その愛人も死んじゃう・・・、野暮を承知でいうと作家はなにを書きたかったんだろう。焦点がぼけてるっていうか、ぼかしている? それがいいんだけどね。
植本 そう。解釈のしようがいっぱいあるでしょ? だからこれ上演するとなったら演出家の手腕によると思うんだけど、サスペンス寄りにもできるし、コメディにも全然できるしね。
坂口 読みながらも色々、戸惑いつつ、でもそれは決して嫌な事ではないような気がする。不思議な作りになってると思うんですけどね。
植本 僕ね、こういう話好きなんだと思います。『黒い十人の女』とか『8 1/2』とか。なんていうの、なんかしらないけど、モテる男の人の話って面白いですよね(笑)。実際モテる男は隙だらけだったりするから。
坂口 作家はスペインの内乱の所を、面白がってますよね。昔ダビットと養父が仲間達の所に行ったらすごく皆が、その時の話を楽しそうに・・・みなブルジョワになってるんだけど。
植本 青春自慢みたいな(笑)。
坂口 作家自身がハンガリーの動乱のときに国を追われているから、そういう複雑な気持ちのつながりが彼女の中にあったんでしょうかね。それにしてもこんなにモテる男をどうして書いたんだろう・・・
植本 ね。面白いね。

坂口 面白い。この人けっこう変な人だよね。とても興味をもちました。
植本 そうですね。なんていうか、どこか今まで読んできたものと違う部分を、確かにもってる作品なんですよ。
坂口 そうですよね。お芝居になっちゃうと単調になって、つまんねえお芝居になっちゃうかな〜〜って(笑)。
植本 あと展開が力技だったりね(笑)。
坂口 これ平板に次々に出来事だけ演じていったらとても薄っぺらなお芝居になっちゃうけど。一方で、すごく面白く作れそうな気もするんですよ。
植本 演出家さんにとってもそうだと思う。これをこのままやるんじゃなくて、自分のスパイスを加えないとこの話は終われないって感じがします。また新しい作家さんに出逢えました。
坂口 良かったです。ありがとうございました。

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』
作・演出◇ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演◇緒川たまき 仲村トオル 水野美紀 山内圭哉 吉岡里帆 松下洸平
望月綾乃 大場みなみ 斉藤悠 渡邊絵理 依田朋子 荒悠平
尾方宣久 菅原永二 植本純米 温水洋一 犬山イヌコ 高田聖子
9/13~27◎世田谷パブリックシアター
10/1~4◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
10/9・10◎北九州芸術劇場 中劇場
http://www.cubeinc.co.jp

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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