【フォトグラファースギノユキコwithえんぶ「WEB CLOSE to my HEART」】01 池亀三太
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノユキコの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった”スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.01 池亀三太
(2019年6月取材/撮影)
新しい道を 切り拓こう
ぬいぐるみハンターの活動を終了した池亀三太が新しい劇団を立ち上げた!
その旗揚げ公演は、出演者が7人の作品と3人芝居の不思議なバランスの新作2公演!
しかも1ヶ月も続き、最初は無料で、土日には3回公演する日もある!?
半信半疑で向かった外苑前のスタジオで目にした光景は――。
2方向から観客に囲まれた小さな空間で、紡ぎ出された珠玉の短編。出演者たちのかわいさと、息づかいまで聞こえてきそうな臨場感。みんなのことがどんどん好きになる、魅惑的な作品を生み出した、池亀三太の現在に迫る。
もっと生活の中に演劇を
――どういういきさつで今回の公演形態になったのですか?
この劇団を作ったきっかけでもあるんですけど、10年以上演劇をやってきて、年に何回か公演を企画して、本番が週末だけとか、1週間で終わって行って。なんか消費されていくだけで、自分が何も変われていないような気がしていて。もうちょっと普通に生活をしながら演劇をやるという道を切り開けないかなと考えていたんです。そこで、今回、また劇団を新しく作ったときに、一回、みんなで普段の生活を送りながら演劇をやってみようと。公演期間も1、2週間だと、ちょっとした達成感みたいなところで終わってしまうなと思って。だったら1ヶ月くらいやりたい、とりあえず1回やってみよう! と。本当は飽きるまでずっとやってたいんですけど(笑)。
――1ヶ月間やってみていかがでしたか?
ぼくら的には、終わって、やりきったという感覚もなくて。期間中もめっちゃ大変、もう死んじゃうみたいなこともなく。普通に生活の中に組み込まれていたので、むしろ早寝早起で、健康的な生活を送ってました。千穐楽終わった翌日も、みんな朝から普段の生活に戻って行きましたし。ぼくら的には、いつでもまたこの生活に戻れるんですけどね。
魅力的な2人の女優
――出演人数に偏りのある2つの作品になっていましたね。
普通に半々でやればよかったんですけど、バランスが悪い方がおもしろいかなと思って。奇しくも『舞い上がれ、レジャーシート』は20代、『ばいびー、23区の恋人』が30代というチーム編成になったんですけど。最初の発想は、バランス悪い方がいいだろうからです。
――3人芝居の『ばいびー、23区の恋人』は、ユルッとした花柄のワンピースの似合う町子が、中学からの友人で、正論ばかり言うアラサー処女・明里に連れられて、23区に1人ずついる恋人に別れを告げる旅に出るという、ちょっと変わったストーリーでしたが、リアリティがありましたね。
町子を演じた松本みゆきさん、明里を演じた宍泥美さんは、ずっとフリーで活動されてたんです。2人ともすごく尊敬している女優さんで、今回劇団を作るに当たり、ぜひとお誘いしたところ、一緒にやると言ってくれて。だから2人に向けた作品を書きたいなとは思っていて。松本さんは何度かご一緒しているんですけど、全然何を考えているか分からない謎の人で。その謎な部分を魅力的に描きたいなと。宍さんは、劇団でもみんなを導いてくれるような存在で…。もちろん、松本さんは23人恋人がいるとかないですけど、本人たちの普段のキャラクターからだいぶアイデアをもらった気がします。
もう一回、 一から始めるために
――池亀さんが23人の恋人役でずっと振られるのも、ナイスなキャスティングでした。
今回、もう一回、劇団を一から始めるにあたって、自分がしんどいポジションに行くべきだなと考えて。逃げられないところに自分を追い込みたいみたいなところから、そういうポジションになった気がします。お芝居は松本さんと宍さんに引っぱってもらって、ただリアクションしてるだけだったんですけど。
――23人の恋人役の演じ分けは大変でしたか?
ぼくの中では服を着替える以外の演じ分けはしてないです。お客さんは、友だちの方の目線で、この物語を見ていると思うので。主人公の町子から見たら全然違う男たちなんだけど、他の人から見たらどこが違うのか分かんないっていう目線があるといいだろうなと感じたので、これは一人で雑に演じ分ける方がいいのかなと考え、こういう形にしてみました。
コントと演劇の境目で
――舞台上で服を着替えるのが、大正解でしたよね。
あれはギリギリで決まって。本当は落語のめくりみたいなのを用意して、「何区」「何区」って、やってたんですけど。ちょっとかったるく感じて、もうちょっと雑、かつ、お客さんに変わったんだなと提示できるものは何だろうと。で、舞台となったあの部屋をちゃんと散らかしておきたかったので。じゃあ、洋服で散らかすか、みたいなとこから、あ、着替えようという発想になりました。だから衣装合わせも全然してなくて。その時、摑んだものを着ていました。
――きちんと考えてるのかと思いました。
一応、着れそうな服を近くに置いておいて。その時に掴めるやつを摑んで着てました。
――きわどいですよね。めくりだったら、コントっぽくなりますし。コントと演劇の境目で、よく演劇の方で踏ん張ったっていう感じなのかもしれないですね。
おかしみと生活感を
――町子は、世の中の正しい価値観から言うと、ほとんど真逆なのに、親しみを感じたのが不思議ですごいなと。彼女のキャラクターもありますけど、台本がすごくキチッと書かれていて、シンプルな話なのに、いろいろ工夫されているなぁと思いました。
構成はけっこう練っていますが、会話は、楽しんでもらえるところに着地したいなと思っていました。別れ話っていう、全然楽しめない題材を笑ってもらえる作品にしたいという発想からスタートしていたので。どれだけおかしみと、人物像や生活感がにじみ出せるかなぁと思って作りました。
部屋の対極にある物語
――各区の観光案内みたいなのも入っていて、サービス満点でした。
ぼくが、東京に来て10年以上経つのに、東京のことを全然知らない。未だにお上りさんの感覚を持って東京を歩いているなと気がついて。だから東京も書いてみたかったんです。…それと、今回、会場を選んだときに、舞台を男の人の部屋にしようと決めていて。そこから対極を行く話って考えたときに、ピクニックの話と、ロードムービーという、2つを選んだ気がします。部屋の中でどうロードムービーしようか、部屋の中でどうピクニックのことについて語ろうかみたいな。
みんなで試行錯誤
――『舞い上がれ、レジャーシート』はどうやって作られたのですか?
『ばいびー、23区の恋人』は稽古初日に台本を書き上げたのですが、『レジャーシート』は最初、台本を出さずに、「ピクニックに行かないと決めてる宮地君を、みんなでピクニックに行くように説得して欲しい」と提案して、みんなの試行錯誤からアイデアを拾って台本にして、みたいな感じでした。ピクニックっていうキーワードだけで、どこまで行けるんだろう。ちゃんとくだらない1時間になるといいなぁと思っていました。
生の反応を大切に
――役者さんたちが役からはみ出しているというか、お話を膨らませていた気がして。どうしたらあんな風になるのですか?
アドリブを入れるという訳ではないんですけど、いかに台本から離れて行けるかみたいなことはずっと役者さんに求めていました。あの狭い空間に7人もいると、いろんなところで、いろんなことが起きるているんです。それを潜らせるのはもったいないなと思ったので。何なら台本通りにやらなくていい、自分がそう反応したいんだったら、積極的に反応して行って欲しいということを言っていました。だからちょっと、普通の演劇とは、違うところで戦ってたような気がするんですよね。舞台上で起こることにちゃんと生で反応するっていう。あれだけ小さな空間で、お客さんの目の前でやっていたので、生のリアクションでやらないと成り立たなかったと思います。
ぼくらの生活の地続きで
――こちらの作品は、役名と名前が同じですね?
稽古場で作り出したときに、よりその人の人間性や身近なところから出発したかったんです。話自体がくだらないし、「ピクニックにそんな行きたいか」って思われちゃうとこの話を60分観てるのが苦痛でしかないなと思ったので。ちゃんとぼくらの生活の地続きのところで、普段のみんなの関係性みたいなところも、ちょっと引っぱりつつ作りたかったので、こういう形にしました。
常に遊び心を忘れずに
――一緒にピクニックに行きこそしないですが、みなさんの様子をみて、すごく楽しかったです。
たぶん、普通だったら、おかしな言動があったらいちいち突っ込んだり、そこで滞ったりすることが起こるんですけど。みんながあまり疑問を持たないというか、とりあえずやってみようっていうところから出発してくれたので助かりました。展開やセリフで、だいぶ強引なところもありましたが、それぞれの中で気持ちを作って処理してくれて、どこまでもふざけながら突き進んで行けたので、創作期間中も楽しかったですね。
新たな出発!
――2作品とも、最後に新たな出発を感じさせる終わりになっていますが、それは意図的ですか?
意図はなく。結果、そうなりました。新しく、その続きが想像できるような終わりにしたかったし。もちろん、ハッピーなもので終わりたいなっていうのも念頭にはあったんですけど。『舞い上がれ、レジャーシート』はお客さんが深読みをしてくれていて、これは劇団のことなのか、ピクニックは演劇に置き換えられるのか、みたいなことを…。ぼくの中では明確に、そう考えていた訳ではないんですけど、多分、新しく劇団をやるという環境で、ぼくや、ほかの劇団員の気持ちもそういうところに向かっていて、創作の過程でそうなったのかなと思いますね。
シンプルに、やりたいことを
――今までの演劇とは違う作り方と見せ方で、新しいスタイルの演劇ができる予感がしました。
これまでは、こういうものを作らないといけないんじゃないかという強迫観念みたいなものがあって。自分が作りたいものが、本当に分かんなくなった時期があったんです。でも今回、新しく劇団を始めるにあたって、もうちょっとシンプルに、やりたいことやる、こだわり過ぎないみたいなところでやれたのがよかったです。目の前で起きてることが、ちゃんと愉快であればいいっていう。ちょっと肩の力を抜いて、気張りすぎずに、演劇と付き合っていけそうです。
――今回の作品を振り返っていかがですか?
そうですね。好きな作品が作れたなと思います。1ヶ月やっても、気持ち的に疲れていないし、ちゃんと次に向かうような気持ちが作れているので。それはすごく、これまでにない感覚な気がしています。
【池亀三太プロフィール】
いけがめさんた○脚本家・演出家。2018年マチルダアパルトマンを結成。「演劇と生活」をテーマに、演劇がより多くの人の日常に入り込めるよう模索しながら自由な発想によって活動中。不器用な人たちの不器用な生き様を哀愁と笑いで描く。
【活動予定】
[脚本・演出]santacreep「遠吠えを忘れた野良犬たちは朝を夢みて眠り続ける」8月中旬@都内某所
[脚本・演出]マチルダアパルトマン「あの頃エレン・ペイジと(仮)」10月上旬@都内某所
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【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ初観劇。
たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/
【構成・文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】
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