【第4回】韓国ブロードウェイ 世界最大の劇場街『テハンノ(大学路)』〜その4〜
今回はちょっと違った角度からの韓国演劇界のお話など。
先日、韓国の演出家、キム・ジョンさんが来日されました。
お忍び?と言うか、完全にプライベートで日本に遊びにきてくれたキム・ジョンさん。
現在、シアタートラムで上演中のイキウメを観劇。
一昨年、韓国で前川知大さんの『太陽』を演出され、今年の2月に再演。
前川さんが韓国まで見にきてくれたことが嬉しくて、お礼を兼ねてのサプライズ来日だそうな。
はい、お礼参りでございます(笑)
キム・ジョンさんは、2019年、フェスティバルトーキョーの公式プログラムとして、松井周さんの『ファーム』を韓国版にアレンジ演出、2020年のコロナ禍では、ストリンドベリの『夢の劇』を原作に、松井周さん書き下ろし『神の末っ子アネモネ』をオンラインプログラムとして上演。
2021年には、前川知大さんの『太陽』を韓国で演出上演。そして今年2月に再演。
日本演劇人と、とても関係の深い演劇人なのです。
鋭くダイナミック、かつ身体性の高いコミカルな表現、シニカルな切り口で描く演出家として、トゥサンヨンガン芸術賞や東亜演劇賞新人賞、イーデイリー文化大賞など、数々の賞を総なめにしている大注目の演出家。
この日は、演出家の鈴木アツトさんも駆けつけてくれて、海を超えた演劇談義に花を咲かせました。
ところで、韓国でブラックリスト検閲というのがあったのをご存知でしょうか?
ちょっと駆け足でご紹介しますね。
李明博大統領から続いた保守派の朴槿恵大統領政権下、映画や演劇、アート作品などに検閲が入り、多くの芸術家が政府から、様々な目に見えない妨害を受けていました。
演劇界では2013年に、朴槿恵の父、朴正煕元大統領を風刺する『カエル』という作品を上演したパククニョンを筆頭に、第一線で活躍する数多くの演劇人たちが名を連ねていました。
「パラサイト」の監督ポンジュノや俳優のソンガンホなどもがっつりこのリストに入っていました。
ただ、この時点ではまだブラックリストの存在は明らかになっていませんでした。
2014年、修学旅行の高校生たちが乗っていた船が沈没する“セウォル号沈没事件”が起きました。
この時の大統領や政府の対応に不審を抱いた国民が真相究明を求めるデモを起こします。
演劇人たちも多く参加し、演劇界にも反政府の動きが高まります。
ちなみに私が在外研修で韓国に留学していたのもこの年。
大学路の演劇人たちは常に、政府への働きかけについて、その方法を相談していました。
同年、35年以上続いたソウル演劇祭が毎年メイン会場として使用していた公共劇場が貸館審査で落選するという、納得のいかない異例の事態が起こり、演劇協会では公開討論会などを開き、抗議運動を起こしました。
2015年、ソウル国際公演芸術祭で、若い演出家たちが劇場のシアターカフェで短編を上演するPOP UPシアターという企画がありましたが、ここで上演された『この子は』という作品が、突然客席の椅子を片付けるなど、非常に露骨な形で妨害されました。
この作品の演出家が、今回来日したキムジョン演出家です。
彼は、『この子は』という翻訳劇を脚色し、亡くなった子供が「ノース・フェイスのジャンパーを着ていた」というセリフを追加しました。ノース・フェイスはセウォル号に乗っていた高校生たちが着ていたブランドです。
セウォル号を直接描いたわけではないが、セウォル号を連想させという理由で、公演を妨害されたのです。
この事件を機に、2016年には20万人以上が集まる大規模なロウソクデモに発展し、2017年には光化門前に広場劇場ブラックテントを建て、日替わりや週替わりで大統領弾劾を要求する公演を上演し、朴槿恵大統領の弾圧訴追に至りました。その後、ムン・ジェイン大統領に政権が変わりますが、2018年には演劇界の#MeToo運動で多くの大物演出家たちが逮捕されるという事態が起こり、実刑7年の判決にいまだ服役中の演出家もいます。
信じられないですが、これ、つい最近の話なんです。
こういう背景を見ると、韓国演劇の骨の太さ、痛烈な風刺に合点がいきます。
そして2020年、
ブラックリストや#MeTooなど、演劇界が受けた打撃を何とか立て直そうと、「演劇の年」に指定されました。
韓国政府が国をあげて、演劇の活性化を図るという制度で、演劇の年は29年ぶりだそうです。
いやはや、善きも悪しきも、常に戦いを感じます。
こういったことがエネルギーとなって韓国演劇や映画の力になっているんだなぁと、
すっかり日本で平和ボケしてしまった私はいつも感心してしまうのです。
キム・ジョンは言う。
「韓国演劇界にとって、#Metooのおかげで横暴な演出家たちが逮捕され、弱者が声をあげることができるようになったのは大変いいことなのだが、今度は、古き悪しきものを封印してしまうべく、演劇ならではのトゲのない作品が増えてしまったことが残念だ。今後は海外とのコラボを増やし、お互いの刺激を受けながら創作活動をしたい。」
そう!共同制作の日常化に向けて、私も走り出したいと思っています〜〜〜♪
今回は、ちょっと真面目なお話でした(笑)
【活動予定】
ワンツーワークス「RPG」
原作 宮部みゆき/脚本・演出 古城十忍
6月9日(金)〜6月18日(日)
@赤坂レッドシアターにて
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【プロフィール】
みょんふぁ
女優やナレーション・司会業を中心に、日韓の通訳翻訳や戯曲の紹介など公演のプロデュースも行う。
在外研修で韓国国立劇団に留学、韓国デビューし、小田島雄志翻訳戯曲賞受賞。
現在、日韓演劇交流センター副会長。
映画・舞台・ドラマなど多数出演。昨今は日韓合同制作作品にも多数出演。
日韓交流の拡大化のために母体となるSORIFAを設立し、代表を務める。
●Youtubeチャンネル みょんふぁ(SORIFA)チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCI2ITpnZzwAlruYJ6eVCNwA
●HP〜花笑み時間〜
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●ブログ〜遊びをせんとや生まれけむ〜
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