【松永玲子の「今夜もネットショッピング」】遺言

2019/04/10 松永玲子『今夜もネットショッピング』 / 日刊☆えんぶコラム , 連載 , 松永玲子

皆様、ご機嫌よう。
そろそろ、新国立劇場『オレステイア』の稽古が始まります。ギリシャ悲劇です。新国立劇場、ギリシャ悲劇……難解なお芸術で頭痛くなるやつ？　……な印象でしょうが、台本を読む限り、面白いです。ギリシャ悲劇を、現代の作家が斬新な解釈で劇化し、現代の翻訳家が日本語訳した劇なので。そして、私がキャスティングされてる時点で、硬質一辺倒になりようがないかと。
最近、東京芸術劇場で開催されてたJATDT60周年“日本舞台芸術家協会展”を見に行きました。舞台セットの模型を見るのが好きだってこともあるのですが、予感がしたからでもあります。
4/9、ドラマの撮影が終わり、スマホの電源を入れたら一本の訃報が。
「島さん亡くなった」
島さん、とは、舞台美術家、島次郎さんのことである。享年74歳。闘病され、復帰され、また闘病され、だったので、いつかこの日が来ることは分かっていたけれど、最近ご自身の舞台美術写真集を出版され、巷の演劇人たちの飲み会で頻繁にお名前が挙っていて、静かにフェイドアウトなさった感より、今まさに島次郎が熱い感だったもので、私のショックは大きいです。

（撮影：劇場・風姿花伝のプロデューサーであり女優の那須佐代子様）

島次郎著『舞台美術』3,000円+税。 私の手元にはまだ届いておりませんので、那須さん撮影の写真をお借りしました。
入手する前に、島さん逝っちゃった。
舞台美術家と俳優が顔を合わせる機会はそう多くありません。美術打ち合わせは稽古時間外だし、劇場に入ると、どっちも大忙しになるし、打ち上げは大人数だし。なのに、なんで島さんとは仲良しになり、いっぱい喋ったんだろう？　若かりし頃の私のゲスの極みの面白演技を「いいね～。俺、松永さんのファンです。」と言って喋りかけて下さったことが始まりのような気がします。
以降、パッと思いつくだけでも、私は、5人の演出家の下、島さんの舞台セットに立ちました。どれもこれも美しいセットでした。照明が入ると、セットが物語り始めるような。至福の時でした。と言いたいけれど、そうではない。俳優にとって、というか、私にとっては、易しくない&
優しくないセットでした。島さん独特の島イエローの壁、質感のある床、変則的な傾斜の床、輝く水……それらのセットはとてもとても美しく力強かった。その力に飲み込まれそうだった。だからかもしれません、二本の足でしっかり立つ、ということを意識するようになったのは。楽じゃないって素晴らしい。

ナイロン100°C『消失（再演）』の打ち上げで、久々に二人でいっぱい喋りました。風姿花伝プロデュース『ここにある武器』の舞台美術を控えている時期でした。 「すっごく楽しみなんだよ～。演出家・千葉（哲也）と仕事するのもだし、風姿花伝って雰囲気あるじゃない、大きい劇場もいいけど、ああいう狭い空間でできるってのが本当に楽しみなんだよ～。」 白く輝く美しい舞台でした。

同じ時代に生きて、色んな演出家の色んなタイプの作品で何度もご一緒できて幸せでした。島さん、本当にありがとうございます。
この本は、島さんの証であり、形見分けであり、遺言であり、それらのセットに立った私の勲章でもあります。 本を見るのが楽しみです。 合掌。

【著者プロフィール】

松永玲子（ナイロン100℃）

まつながれいこ〇大阪府出身。94年にナイロン100℃に入団。同劇団の看板女優。劇団外での外部出演も多く、映像やCMでも活躍。落語家やエッセイストとしての顔も持つ。
「マツナガ宅」 http://stage-d.com/mr/

【出演情報】
『オレステイア』
原作◇アイスキュロス
作◇ロバート・アイク
翻訳◇平川大作
演出◇上村聡史
出演◇生田斗真　音月桂　趣里　横田栄司
下総源太朗　松永玲子　佐川和正　チョウヨンホ　草彅智文　髙倉直人
倉野章子　神野三鈴
6/6〜30◎新国立劇場中劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/play/