【池谷のぶえの「人生相談の館」】第54回　市川しんぺーさん（劇団「猫のホテル」、俳優）

2021/09/16 池谷のぶえ『人生相談の館』 / 日刊☆えんぶ連載 , 池谷のぶえ , ふしぎ駄菓子屋銭天堂 , イモンドの勝負 , いきなり本読み！

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

東京は、急に涼しい日々が続いております。
カットアウトのように、夏から秋になった感じですね。

暑いのが苦手な人間としては、散々夏に文句を言いながらも、いざ急に秋になるとそれはそれで、あれ？　夏は？　という気分になってきます。勝手です。

夏は暑さに文句言ってればいいのですが、秋は隙がなさすぎて文句も言えないじゃないですか。秋め！

って、結局どの季節にも文句をいいながら50年間生きてまいりました。
季節の方は私に文句を言うわけでもないのに、ひどいですね。
いや、聞こえないだけで言ってるかもしれない。いま窓外から聞こえているリーリーリーチッチッチッチッみたいな虫の声は、私たちへの文句かもしれない…そう思ったら怖くなってまいりました。秋め！

さて、今回のご相談はこの方です。

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若い頃から自分のだらしなさに辟易としております。
だらしないと聞いてどれくらいのだらしなさを想像するでしょうか。想像しましたか。丁度その十八倍だらしないのです。せめて倍だろうと思うでしょうが、十八倍です。酷いものです。
バイトをしなければ食っていけない時期にも拘わらず何もしないので飯も食えず電気ガス水道、ひと通り止められた事もありました。
遅刻なども幾度もありました。

常日頃「物心ついたのは四十から」と言っておりますが、それ以前は人間ではありませんでした。そこら辺から家庭を持って、遅れ馳せながらも何とか体裁を保てる様に心掛ける様にはなりました。

遅刻しない様に、到着時刻を30分前に設定し、駅までかかる時間を倍に計算し、家を出る時間にも15分程度余裕を持たせたりするなど工夫をしております。
それでも何とか遅刻しない程度の結果です。
何故って、結局自分で余裕を持たせているので、どれくらい余裕があるのかは自分が一番知っていて、結局ぎりぎりに動き出したりします。

やるべき事を手帳に書く工夫もしていますが、何を端折って書いて良いのか判らず、ちょっとどうかしてるくらいにゴチャゴチャとした手帳になっております。

自分を信用出来ない余りに自分に枷を嵌めやるべき事を決めて生活する余り、突発的な自由な時間を上手く使えません。

あれをやれば良かったと後悔したり、ああ今あれをやればいいのだろうと思いつつだらだらと無為な一日を過ごしたりしています。
エンジンがかかるのが極端に遅いという事も大きなポイントでしょう。

そこで私の相談は、【隙間時間を上手く使いたいのですが、どうしたらいいでしょうか】です。
隙間時間は五分であろうが一日であろうが上手く使えません。

時間を無駄にしないスマートでダンディな大人になれる様、アドバイスをお願いします。

(今日は突発的に時間が空いたのですが、ああ、池谷さんへの相談を考えよう、と思い立ってから、六時間後に手を付けました)

市川しんぺーさん（劇団「猫のホテル」、俳優）

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村木仁さん、しんぺーさん、私で活動していた「おにぎり」というユニットがあるのですが、その際にしんぺーさんが遅刻をしてきたとか何か滞りがあったという記憶は全くなく、むしろ私の方がいろいろとご迷惑をおかけしていた印象があります。

ですが、おにぎりの頃の飲み会などで、かつてしんぺーさんがいかにいろんなことがあったかお聞きしたり、手帳の几帳面なメモ書きも目にしたりするに、私には計り知れない18倍のしんぺーさんがいらっしゃるのでしょう。

今回のご相談をいただいて、時間を無駄に使わないために…みたいなことでいろいろ調べてはみたものの、だいたい「時間を無駄にしてしまっている原因を明確にする」「時間を区切って計画を立てる」「まず動く」「やることより、やらないことをはっきりさせる」など、多分しんぺーさんも何百回と目にしたり耳にしたりしていることが多々でした。
多分これらのことをここに書いても、18倍のしんぺーさんを動かすことはできないような気がします。

ということで、まずは素敵な方向から攻めてみましょう。
時間を無駄に使わないようにするためには、まず、時間に対する価値観の切り替えをしなければならなりません。
時間を増やすことは不可能です。
それに気づくのは時間がないと気づく時、すなわち死に近づいた時です。
時間の大切さに気づけないのは、「時間に余裕がある」から。
時間は「みんなに等しく流れているもの」と思ってしまいがちですが、それぞれの人がもらえる時間は、それぞれ違います。
自分がもらった時間がいかに貴重な資産であるかを、つい忘れてしまうのです。
「大変だな」と思った時、ようやく人は学ぶものなのです。

どうですか？　動けそうですか？
多分これくらいじゃ無理ですよね？
では次の段階にまいりましょう。

時間の概念がない部族がいます。
ブラジルのアマゾン熱帯雨林に住むアモンダワ族です。
彼らには時計やカレンダーもなく、使っている独自の言葉にも時間、週、月、年を意味する言葉がないそうです。
彼らの言葉には4までの数字しかなく、時に関しては、「日中か夜か」「雨季か乾季か」くらいだそう。
年齢という概念もなく、その代わり幼少期から青年期など人生の階段が変わったりすると名前を変える。
そんな彼らにも現代技術が浸透しはじめ、独自の文化が消滅の危機にあるそうです。
時間の概念がなければ、時間を気にすることもありません。しんぺーさん、いまこそアモンダワ族の一員となり、文化の消滅を食い止めて下さい。

どうですか？　アモンダワ族の一員になれそうですか？
そういうことじゃない？
では次の段階にまいりましょう。

地獄の一番最終地(8番目)の時間概念についてです。
「地獄の最下層は、大きさは前の7つの地獄よりも大きく、縦横高さそれぞれ2万由旬（8万由旬とする説もある）。最下層ゆえ、この地獄に到達するには、真っ逆さまに（自由落下速度で）落ち続けて2000年かかるという。前の七大地獄並びに別処の一切の諸苦を以て一分として、大阿鼻地獄の苦、1000倍もあるという。剣樹、刀山、湯などの苦しみを絶え間（寸分・刹那）なく受ける。背丈が4由旬、64の目を持ち火を吐く奇怪な鬼がいる。舌を抜き出されて100本の釘を打たれ、毒や火を吐く虫や大蛇に責めさいなまれ、熱鉄の山を上り下りさせられる。これまでの7つの地獄でさえ、この無間地獄に比べれば夢のような幸福であるという。
この地獄における寿命は、人間界の6400歳を一日一夜とした場合の6万4000歳を一日一夜として6万4000歳であり、人間界の時間では349京2413兆4400億年に当たる。また、この期間を一中劫とも呼ぶ。
この一中劫の長さに関する説明としては、「この人寿無量歳なりしが100年に一寿を減じ、また100年に一寿を減ずるほどに、人寿10歳の時に減ずるを一減という。また10歳より100年に一寿を増し、また100年に一寿を増する程に、8万歳に増するを一増という。この一増一減の程を小劫として、20の増減を一中劫という」とする表現もあり、これは人間界の年月に換算すると3億1996万年となる。
また、一説によると、この地獄における寿命は、人間界の8000歳を一日一夜とした場合の8万歳を一日一夜として8万歳とも言われ、この場合は人間界の時間で682京1120兆年に相当する計算になる。いずれにせよ、この地獄に落ちた者は気が遠くなるほどの長い年月にわたって、およそ人間の想像を絶する最大の苦しみを休みなく受け続けなければならない。
この他、一中劫の長さを表す喩えとしては、「縦横高さがそれぞれ一由旬の巨大な正方形の石を、100年に一度ずつ柔らかな木綿の布で軽く払い、その繰り返しで石がすり減って完全になくなるまでの時間である」とか、「縦横高さがそれぞれ一由旬の巨大な城にケシ粒がぎっしり詰まっており、その中から100年に一粒ずつケシ粒を取り出していって、城の中のケシ粒が完全になくなるまでの時間である」などとも言われる。この地獄に堕ちたる者は、これほど久しく無間地獄に住して大苦を受くという。」(Wikipediaより)

どうですか？　もう、時間ってなんだ？　という気になってきますよね。
いや、しかしこのままでは、「地獄を無駄にしないスマートでダンディな大人になれる様、アドバイスをお願いします」というご相談のプロローグみたいになってきてしまいました。

もちろんしんぺーさんには地獄に行ってほしくないので、この世でいいことをしておかなければなりません。

そこでご提案するのが、時間募金です。
一番はじめにも書いたように、しんぺーさんも、いままでいろんな取り組みをして来ても、どうにも時間を無駄にしてしまう…という段階なのだと思います。

こうなったら、無駄にしてしまった時間をお金に変えて、それを世のために募金しましょう。
例えば、10分無駄にしてしまったら1000円。今回ご相談内容を執筆するまで6時間かかったとおっしゃっていたので、36,000円も募金できます。どれだけの人が救われるでしょう。

ためしに、一日換算してみてください。そして実際に募金してみてください。
後日、時間を無駄にしないぞ!!　という気持ちになってきたとしても、時間を無駄にして募金するぞ!!　という気持ちになってきたとしても、しんぺーさんが地獄に行くことはまぬがれます。
そういうご相談ではまったくありませんが、よかったですね！

■ラッキー待ち受け
地獄と言えば、ずっと前に世界の拷問に興味を持ったことがありますが、一番地獄だな…と思ったのは、「塩水を塗った足の裏をヤギが舐め続ける」というものです。ヤギの舌はザラザラしているので、少しずつ削られていく皮膚に塩水がしみて永遠に続く地獄だそうです…ということで、ラッキー待ち受けは、かつて劇団に出演してくれたヤギとブルー＆スカイくんです。いったい何がどういったわけでラッキーなのか全くわかりませんが、good morning N°5でのしんぺーさんとブルーくんの共演、楽しみにしております。その前に、猫のホテルも無事幕が上がり、完走できますようにお祈りしています。

■市川しんぺーさんの今後の予定
猫のホテル「ピンク」10/6-13 ザ・スズナリ
作・演出：千葉雅子
出演：中村まこと/森田ガンツ/市川しんぺー/佐藤真弓/村上航/千葉雅子//尾上寛之
日時：10/6(水)～13(水)
会場：下北沢ザ・スズナリ
詳細 → 猫のホテル | nekohote.com 劇団猫のホテル公式ウェブサイト
https://nekohote.com

good morning N°5「異常以上ゴミ未満、又は名もなき君へ」
作・演出：澤田育子
音楽：中村中
出演：市川しんぺー/澤田育子/千代田信一/野口かおる/原嶋元久/藤田記子/ブルー＆スカイ/三津谷亮/
石田周作/久保田南美/高久瑛理子/谷田藍/フルサワミオ/山口恒祐
日程：11/25(木)～12/12(日)
会場：下北沢B1
詳細 → good morning N°5 – グッドモーニングナンバーファイブ　澤田育子+藤田記子 (gmn5.com)
https://gmn5.com

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。