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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第53回 徳永京子さん(演劇ジャーナリスト)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

前回の舞台が終わってから、次の舞台のお稽古が始まるまでの間、ゆったりとした時間を過ごしています。

舞台のお稽古や本番中は、外部の方々と会えないので、舞台がない間にこそ会える機会なのに、最近ますます大変になっていく状況からおちおち会えやしません。

このコラムがUPされる頃、やっと2回目のワクチン接種をしますが、副反応が心配です。
子どもの頃からめったに熱を出さない体質ゆえ、熱が出た時のヨレヨレ具合は半端なく、微熱でさえヨレヨレになるのに、38℃とか39℃とかになるらしいという噂をきくと、ヨレヨレの先には何があるのだろう…と途方に暮れます。

さらに、いつ自分が陽性にならないとも限りませんし、そうなったら40℃とかの噂も聞きます。
そうなったらもう生きていける自信がないので、ゆったりした時間をもっぱら身辺整理に使っています。
Twitterで数日呟かなくなったら、ああ池谷さん38℃超えたんだな…と思ってやってください。

さて、今回のご相談はこの方です。

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池谷さん、こんにちは。今回はこのような場に、本来は裏方の私をお招きくださいましてありがとうございます。「相談は短くても長くてもいいですよ」とのことでしたが、他の皆さんの相談がどれも読み物として完成度が高くてプレッシャーです。特に薬丸翔さんの「わからないことがつらい」という悩みを正確に説明しようとするがゆえ、わかりにくさが愛嬌と圧を帯びていく文章はもはや芸の域で感動しました。とてもあんなふうには書けませんが、よろしくお願いします。

私の悩みは「好き嫌い」についてです。「好き」のストライクゾーンが狭いのはもう仕方ないと諦めているのですが、最近になって「嫌い」という感情の扱いに困っています。これまで私は、一旦、「嫌いだな」と思うと、たとえ多くの人がどんなに評価しても自分の感情を優先して生きてきました。私と一緒に「◯◯なところがダメだよね」などと言っていた知り合いが、後日その人と仲良くしていると「ひどい! あんなに一緒に悪口を言っていたのに!」と勝手に傷付いていました。
ところが──ここからが相談です──この頃になってようやく、「あの人は、私と気が合っていたのではなくて、私に合わせてくれていたのではないか?」と思い至るようになりました。だとしたら気を使わせてしまって申し訳なかったですし、その優しさに感謝ですし、もし本当に嫌っていたとしても、きっかけがあってふたりが仲良くなったなら双方が幸せです。また、世の中を観察するに「嫌い」という感情を躊躇なく「好き」に変えられる人ほど、友達も多く、社会的に成功しているような気がします。
人生の残り時間を意識するようになった昨今、出来ることなら「嫌い」と新しい付き合い方がしたい。けれどもあまりに一途に「嫌い」を大切にしてきたため、「嫌い」との距離の取り方がよくわかりません。「嫌い」を裏切ったという後ろめたさを感じずに「好き」を混ぜていく、何か良いアイデアがあれば教えてください。

徳永京子さん(演劇ジャーナリスト)

*****

徳永さんとは一時期、「荒魂会(あらたまかい:荒ぶる魂の会)」という名称の飲み会を定期的に開催していました。
今回のご相談にもあるように、普段はなかなか吐き出せない嫌いな人についての話もたっぷりできる、ある意味心身にとって健全な会合でした。

私のように、好きな人たちより嫌いな人たちの方が多いような人間にとっては、救護施設のような場所でもあったのです。

ある時、お仕事現場で紹介された、大阪でなかなか当たるという評判の占いに訪れた際、「あなたは、好き嫌いが激し過ぎる。とにかく、明るい下着をつけなさい」と言われました。

好き嫌いの激しさと明るい下着の関係性がわからないまま数年が経ち、この春体調を崩した私に某女優さんが、「友人が体調不良の際いろいろ試したけど、結局赤い下着が一番効果あったって言ってたよ」とおっしゃっていて、ああ、どこまで行っても明るい下着から逃れられない…何かというと明るい下着が私を追いかけて来る…追い越してはくれない…下着が私を追い越すってどういう状況? …もうこうなったら、一度明るい下着をつけてみるしかない…。

そうした想いで、なんとしても完走させたかったイキウメでは、全公演赤いパンツで通してみました。
結果、無事完走することはできましたが、今回初めてご一緒した豊田エリーちゃん清水緑ちゃんは、楽屋で着替えをしている際私のことをどう思っていたのでしょうか。

普段は赤を履くような女ではないのです。
私の体形で赤いパンツを履くと、セクシーさからは遠くかけ離れて、レスラー寄りになるのです。
レスラーだと思ってくれていたのならそれはそれで光栄ですが、次に会う時には本来の私のパンツを知ってほしい…って、なんの話ですか?
赤い下着の伝説ではなく、「嫌い」に「好き」を混ぜていくには…というご相談に戻りましょう。

今回のご相談に回答するにあたり、いろいろと調べてみました。
しかし、結局は、

・嫌いな人のいいところを探す
・嫌いな人に歩み寄ってみる

というようなことに集約されていることがほとんどです。
そういうことがなかなかできないから困ってんだよ! という気持ちでいっぱいになりますが、

「人間は各々、独自の辞書(信念)を使って意味付け(解釈)した世界に生きている。そして、独自の辞書は、自分が生きてきた記憶をベースに創られている。
その信念と解釈をもってして、嫌いになるのだから、嫌いと思った相手を好きになるには、自分自身の記憶も解釈も変更しなければならない。つまり、嫌いと判断した人を好きになるには、自分自信が変わらなければならない」

と、はっきり言い切ってくれている文章などもあり、なんで嫌いな人のためにこっちが変わらなければならないのよ! という憤りとともに、どうやらそれくらいしか手段がないようです。

なんだかとても癪なので、嫌いな人となるべく少ない接触時間で好きになれる方法を探りたいと思います。

嫌いから好きへと転じるタイミングを利用してみましょう。

・ギャップを感じた時
嫌いな人の家の前にこっそり子猫や子犬を置き、対応する様を確認します。
まさかあの嫌いだった人に、こんな優しい一面があったなんて…と、自分に感じさせるのです。
ですが、嫌いな人のために何のいわれもない子猫や子犬に協力してもらうのはかわいそうです。
なんなら私が協力します。徳永さんの嫌いな人の家の前で倒れていますので、それを介抱する嫌いな人を見かけて、思う存分ギャップを感じて下さい。
とはいえ嫌いになるほどの人ですから、倒れている私を助けてくれない可能性もあります。その際は私もその人を大嫌いになりますので、一緒に悪口を言いましょう。

・意外な共通点に気付いた時
米国ニューヨーク州立大学のリー・ウェストマース博士は、「自分との共通点が多いほど、相手が好きになり、魅力的に見え、共感しやすくなり、サポートしたい気持ちになる」という研究結果を発表しています。
嫌いな人と共通点があるという状態にすら嫌悪感を持ってしまいますが、好きをブレンドしてくためには仕方ありません。
同じ地球に住んでいる、日本に住んでいる、人間である、息をしている、毛がある…みたいなところから探していって、意外なところまでたどり着けるよう共通点を探していってみましょう。

・助けてもらうと好意を持ちやすい
ギャップも感じられず、意外な共通点も感じられなかったら、もう嫌いな人に恩を感じる以外方法がありません。嫌いな人から助けてもらうと好意を持ちやすいそうですが、助けてもらうということはまずはこちらが大変な目にあわなければならないということです。ここでまた癪にさわるわけですが、仕方がありません。嫌いな人の前で崖にぶら下がってみる。嫌いな人の前で犬の糞を踏んでみる。嫌いな人の前で……あああああああああああああ! なんで嫌いな人のために、こちら側が寄り添わなくてはいけないのか、書けば書くほど嫌になってきました! いますぐ赤いパンツを履かなければ心が折れそうです! 舞い降りたもう! 赤いパンツよ! 降りそそげ! 赤いパンツよ!

徳永さんもきっと、あああああああああああああ! なんで嫌いな人のために! となってしまう私の症状と同じような感覚もおありで、なかなか「好き」ブレンドが難しいのかとも思います。厳しい道のりですね…。

と、思いながら迷い込んだYahoo知恵袋に、

「嫌いな人に対する幸せの基準を下げることです。『この人は斧で襲い掛かったり、水や食糧を奪ったりしない、なんていい人なんだ』と思うことです」

という回答があり、思いがけず「あ…これくらいの気持ちならなれそうかも…」と思いました。
「好き」という感情になるまでにはほど遠いスタートではありますが、まずはここからいかがでしょうか?

 

■ラッキー待ち受け
嫌いな人を好きになるおまじない、というのがありました。
紙とペンを用意して写真のようにすると、嫌いな人と好きなものを結び付けて連想するように脳が働き、嫌いな人を見た時でも脳の記憶が好きなものとして呼び起こすことができるそうです。効きますかね?
どんどん残り少なくなる人生の中で、嫌いな人に時間をとられることがもったいないなぁとも思ってしまいます。嫌いな人を上回るほど好きな人たちを増やせたらいいですね。

■徳永京子さんの今後の予定
パルテノン多摩「劇場講座」トークセッション“劇場は今”
ナビゲーター:徳永京子
3人の演劇人にコロナ下での活動、思いなどを伺います。

【第1回】ゲスト:藤田俊太郎(演出家)
9月5日(日)14:00~16:00 関戸公民館ヴィータホール

【第2回】ゲスト:渡辺ミキ(株式会社ワタナベエンターテインメント 代表取締役社長)
10月2日(土)14:00~16:00 関戸公民館大会議室

【第3回】ゲスト:岡本健一(俳優)
10月24日(日)14:00~16:00 LINK FOREST(リンクフォレスト)研修室

各回1,500円
☆詳細・お申し込みは、パルテノン多摩事務所
電話:042-375-1414 電子メール:info@parthenon.or.jp

 

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]

【舞台】
ナイロン100℃ 47th SESSION「イモンドの勝負」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)  2021年11月20日(土)~12月12日(日) 本多劇場   他、兵庫・広島・北九州公演あり
https://sillywalk.com/nylon/schedule.html

【テレビ】
Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週火曜 18:45~18:54
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.nhk.jp/p/zenitendo/ts/4NX2MRW758/

【DVD】
「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 型ぬき人魚グミ」
価格:3,850円(税込)
発売元:日本コロムビア株式会社
発売日:2021年8月25日

【DVD】
「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 獏ばくもなか」

価格:3,850円(税込)
発売元:日本コロムビア株式会社
発売日:2021年8月25日

【CD】
「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」紅子の“運だめし”音楽集
価格:2,420円(税込)
発売日:2021年8月25日
レーベル:日本コロムビア株式会社

【コラム】
福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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