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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第35回 正名僕蔵さん(俳優)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

世田谷パブリックシアター「お勢、断行」のお稽古が始まりました。
久しぶりの倉持さん作品。そして私にとっては初めての江戸川乱歩。
まだまだお稽古の日も浅いので、台詞もうろ覚えなアワアワした日々です。

それなのに、引っ越し業務の一番忙しい時期とガチンコ。
どちらもまったくできる気がしない…。一生添い遂げたいなんて贅沢は言わないので、引っ越しの前後期間だけ結婚していただき、旦那さんなり奥さんなりが全てやってくれないだろうか…。まあ、結婚せずともやってくれるのが、引っ越し屋さんか…。もういっそ、引っ越し屋さんが結婚してくれないだろうか…。

ということで、時間をかけてずるずると引っ越すつもりではいますが、方位除けの祈祷だけは今年中にやっておいた方がいいとのことで、教えてもらった寒川神社へ。
初めて訪れましたが、とっても気持ちのいい、「ああ、モテそうだ…」と思える神社でした。

舞台や映像のお仕事の際のお祓いはよく経験していますが、ちゃんとした祈祷は初めて。
一度の祈祷で100名以上はいただろうか。物凄く大勢の方々が祈祷に訪れていることにまず驚く。お昼前で既に15回目の番号札だったので、午前中だけで1500人ほどの方々が訪れているということか…。

これが毎日だとしたら、神様も全員を守ってあげるの大変ね…そりゃ、守りきれない人が出てきてしまってもしょうがないわね…。

神主さん2人がかりで、祈祷を受ける方々のお願い事、名前、住所、生年月日等を読み上げていくのですが、初見で物凄い速さでつっかえることなく読み進めて行く神業がすごい。神様の場所だけに。

神主さんばかりを集めて、初見の台本のリーディング公演とか観たい…という邪念が渦巻いてしまいました。

さてさて、完全にお引越しできるのは、そしてホームパーティが開催できるのはいったいいつになるのでしょうか…。

さて、今回のご相談は「お勢、断行」でお久しぶりに共演中のこの方です。

*****

池谷さんにご相談です。

小劇場の男性俳優というのは、割と年齢問わず、ハンチングをかぶっていますよね。そういう私も小劇場の出で、ご多分にもれずハンチングをかぶっておりますが、いっとき、小劇場=ハンチングというイメージに抗いたくて、キャップをかぶっていた時期がありました。
ちなみに私にとって帽子は、お洒落を演出するためのアイテムではなく、あくまで広いおでこを紫外線から守るための、ただの日除けグッズでしかありません。なので、洒落たハットをかぶるなんて選択肢は間違ってもありませんし、ベレー帽ではそもそもおでこを守りきれない、ニット帽は蒸れて頭がかゆくなる、キャスケットは、うーん、なんだかな、あと、ご老人が散歩の際にかぶるような、布製のハットもありますけど、私がかぶると二時間ドラマの犯人にしか見えなくて、結果的にキャップをチョイスしてかぶっておりました。
ところがキャップをかぶると、家族からとにかく不評なのです。妻からは「オジサンがよりオジサンになる。イタい。一緒に歩きたくない。ハンチングにしろ」と眉間にしわを寄せてたしなめられ、中学生の息子からは「若者ぶっている。イタい。一緒に歩きたくない。ハンチングにしろ」と、これまた眉間にしわを寄せて責めたてられる始末で、それでも「ハンチングはさあ…  いかにも小劇場っぽいからさあ…」とごにょごにょ言い訳しながらキャップをかぶり続けていたのですが、ついに折れて、またハンチングをかぶるようになりました。
家族曰く、私はハンチングがほんとうによく似合うんだそうです。やはり小劇場出身という出自が家族をしてそう言わしめるのでしょうか。おかげで今は、妻も息子もにこにこ笑顔で一緒に歩いてくれています。

そんな訳で、いたって平穏な日常を送っている私から、池谷さんにご相談です。
私はこれでいいのかな?
家族が笑顔ならそれでいいじゃないかと思われるかもしれませんが、日々ハンチングをかぶるたびに、なにか澱のようなものがしんしんと静かにたまっていくのです。正直、ハンチングをかぶるのが嫌で嫌でしかたありません。ハンチングをかなぐり捨て、家族などかえりみず、イタかろうがなんだろうが、堂々とキャップをかぶる。そういう人生に憧れたりもするのです。

どうかひとつ、ご指南願います。

正名僕蔵さん(俳優)

*****

正名さんとは、劇団時代に客演していただいたのと、ユニットで共演したのが約20年前くらい。まさに、私が一人暮らしを始めて間もない頃以来の共演です。

物腰柔らかいのに、なぜかとてつもない狂気を纏っている正名さんですから、本当は既成の帽子などで、その個性と魅力を抑えきれるものでもないでしょうけれど、いま世の中にある帽子たちを使ってなんとか解決していかねばなりません。

ハンチングはご家族が正名さんにかぶってほしい帽子、でも正名さんは嫌。
キャップは正名さんがかぶりたい帽子、でもご家族は嫌。

さあそれでは、正名さんがキャップをかぶれるようになるために、下記ひとつずつお試しください。

■絶滅作戦 危険レベル★★★★★
キャップ以外の帽子をすべて絶滅させるための旅に出る。

■役づくり作戦 危険レベル★★★☆☆
ある日恭しく帰宅し、普段飲まない種類のお酒を傾けながら、「いやぁ…今回は難しい役だなぁ…」と台本に目を通します。どうしてもキャップをかぶらなければならない役のお仕事です。
その日から、役づくりのためにキャップをかぶって過ごしてください。これはあくまで仕事ですから、仕方のないことです。
しばらくして、撮影が終わったような時期を見計らって、「ああ…まだあの役が俺から離れない…」と辛そうにキャップをかぶって過ごしてください。
この作戦は数ヶ月くらいしかもちません。キャップ以外の帽子をすべて絶滅させるための旅に出ることをおすすめします。

■形見作戦 危険レベル★★☆☆☆
ある日恭しく、ある程度使い込まれたひとつのキャップを持ち帰ります。
そしてご家族の前で涙ながらに、「若い頃お世話になった〇〇さんから、形見分けのキャップをいただいたよ…大事にしなきゃな」とお芝居をします。
次の日からそのキャップをかぶります。さすがにご家族も、形見のキャップをかぶっちゃだめだとは言わないことでしょう。
そして、ご家族が正名さんのキャップ姿に慣れた一年後あたりをめどに、「やっぱり大事なものだから大切に保管しとかないとね…」と、そのキャップを恭しくしまい、好みのキャップを購入し、さも当たり前のようにスゥ…ッとかぶって下さい。ポイントは恭しさとスゥ…ッとさです。

しばらくすると、「やっぱりキャップは似合わない」と言われるかもしれません。そうしたら、「昨日〇〇さんが夢に出て来てね。思い出しちゃったよ…」と、また恭しく〇〇さんの形見のキャップをしばらくかぶります。そして、慣れてきたらまた好きなキャップをスゥ…ッとです。
永遠にこれを繰り返すことになります。気が遠くなるようでしたら、キャップ以外の帽子をすべて絶滅させるための旅に出ることをおすすめします。

■息子さん作戦 危険レベル★☆☆☆☆
今回のご相談内容を息子さんに見せたところ、正名さんの想いを知った息子さんが「そんなに嫌だったんだね…キャップかぶっていいよ」と言ってくれたそうですね。素敵な息子さんです。
そんな優しい息子さんの気持ちに協力してもらい、「お父さんに似合いそうなキャップ買ってきてよ」とお金を渡し、買って来てもらうのはどうでしょうか。
息子さんが選んでくれたキャップをかぶることには、奥様も嫌ではないはずです。
ただ「やっぱりこれが似合う」とハンチングを買って来てしまう可能性もありますので、キャップ以外の帽子をすべて絶滅させるための旅に出ることをおすすめします。

■四季折々作戦 危険レベル★☆☆☆☆
今回のご相談をいただいてから、帽子屋さんのウィンドウにクラシカルなグレンチェックのキャップが飾られているのを見かけました。
ひとことにキャップと言えども、なるほど、そんなキャップならハンチングにもちょっと寄り添った感もある。
更に帽子を調べていくうちに、ワークキャップという種類にも遭遇。こちらも、ハンチングへの寄り添い感がある。
そして何より、どちらも正名さんに似合いそうです。
ハンチングからキャップへ、二種類の帽子を挟んで徐々に移行していこうではありませんか。
ハンチング→ワークキャップ→グレンチェックのキャップ→キャップ
一つの帽子に一季節かけたらなんとなく四季折々で素敵です。
最終目標のキャップは夏っぽいので、
秋ハンチング→冬ワークキャップ→春グレンチェックのキャップ→夏キャップではいかがでしょうか。
ハンチングは散々かぶってらっしゃると思うので、ちょうど冬ですしいまこそワークキャップにチャレンジです。

さて、いろいろご提案してきたものの、奥様や息子さんたちをほんの少し騙し騙ししながら、キャップへの道のりを歩んでいかなければならないということに心が痛みます。
ご家族を騙すことなくキャップをかぶるためには、やはりキャップ以外の帽子をすべて絶滅させるための旅に出るしか方法はないようです。
長く危険な旅路になるとは思いますが、正名さん行ってらっしゃいませ!

■ラッキー待ち受け

私は、帽子や眼鏡を装飾として使うことに物凄い罪悪感を感じてしまいます。正直恥ずかしいのです。
真冬のどうしても耐えきれない時にかぶる帽子と、どうにも小さい文字が見えない時に使う老眼鏡くらいしか、帽子と眼鏡を発動する機会がありません。ですから、おしゃれのためではなく、身体を守る機能として帽子をかぶる…正名さんのお気持ち、とてもよくわかります。
私の罪悪感の塊の姿を、待ち受けにどうぞ。なんなら、眼鏡はブラ、帽子はパンツだと思っています。

■正名僕蔵さん今後の予定
「お勢、断行」
作・演出:倉持裕
原作:江戸川乱歩
会場:世田谷パブリックシアター
日程:東京公演 2/28(金)~3/11(水)
愛知公演、島根公演、兵庫公演、香川公演、長野公演あり
詳細 → https://setagaya-pt.jp/performances/osei2020.html

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【舞台】
「お勢、断行」(原案:江戸川乱歩、作・演出:倉持裕、音楽:斎藤ネコ)
2020年2月28日(金)〜3月11日 (水) 世田谷パブリックシアター ほか、愛知・島根・兵庫・香川・長野公演あり

【映画】
「グッドバイ〜嘘から始まる人生喜劇〜」(監督:成島出)
2020年2月14日(金)全国公開

【テレビ】
読売テレビ・日本テレビ系「ランチ合コン探偵〜恋とグルメと謎解きと〜」毎週木曜23:59〜 レギュラー出演中
NHK「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」準レギュラー

 

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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