【池谷のぶえの「人生相談の館」】第22回 田中麻衣子さん(演出家・Théâtre Muibo)
むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。
あけましておめでとうございます。さあ、2019年ですよ。
2019年ということは、2020年だと思ってもそんなに間違ってないはずです。なんなら2021年でもいいでしょう。いっそもう、1988年とかにしましょうか。
「雑」…既に2019年の漢字を発表したっていいわけですが、まあ、人にはそれぞれ違った考えがある…ということを、最近ようやく尊重できるようになってきたので、今年の漢字を発表するのだけは、ぐっと我慢します。
現在、こまつ座「どうぶつ会議」の稽古中です。
個人的には久しぶりに、ほとんどの方と初対面というカンパニー。完全アウェイです。
劇団から客演したての頃はそんなことばかりの日々でしたが、いつのまにか演劇界に知り合いが増えていたのですね。いつも、半分くらいはなんとなく知り合い…という環境になってました。気づけば。
なので今回は、ご一緒するみなさんがどんな方々なのか、どんなお芝居をする方々なのか、どんな趣向の方々なのか…0からのスタートです。
ありがたいことに、みんなで意見を交わし発表するWSなども数日あったので、なるほどなるほど…と思うところはありましたが、ちゃんと作品をつくるには「なるほど」の先に行かなければならない。
そんなわけで、いつになく、ガヤガヤと口を出してしまっています。
口を出しては反省し、反省しては口を出す…パワーを使っているはずなのに、なぜか肥えていく肉体。
パワーなんて使っていないのかもしれない…口を使っているだけなのかもしれない…。
今回は、そんなガヤガヤ中年女を広い心で受け止めてくれている、こまつ座「どうぶつ会議」の演出である、田中麻衣子さんからのご相談です。
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のぶえさん、お忙しいところすみません。
初夢についてどうしてもご相談させてください。
先日2019年を迎えましたが、今年も一富士二鷹三茄子を一つも見ることができませんでした。それどころか、考えてみると今まで生きてきて夢に富士山も鷹も茄子もでてきたことがないことに気づきました。来年こそは一富士二鷹三茄子を夢で見たいのですが、どうすれば見れますでしょうか?
また、なんと初夢とは大晦日から元日にかけての夢ではなく、元日から2日の夜に見るものだという意見まで飛び出て、もはや初夢とはなんなんだと混乱する始末です。
ちなみに二日続けて稽古している夢でしたので、初夢がいつ見る夢であっても変わりはないのですが、、
縁起を担ぐ方ではないのですが、縁起がいいねと言われたいので、どうぞよろしくお願いいたします。
田中麻衣子さん(演出家・Théâtre Muibo)
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初夢を見る時期については諸説あるようですが、最近ではもっぱら元旦の夜から2日の朝にかけて見る夢を指すようですね。
富士山も鷹も茄子も、夢にたくさん登場するアイテムの中でそんなトップの方でもないでしょうし、さらに、初夢というたった1夜にこのうちのどれかが夢に登場するなんて、きっととても貴重な確率なのでしょう。
だからこそ、吉夢という扱いなのだと思うのですが、夢を画像化する研究では、実際に記憶に残っている夢は最後の20秒のみで、例えば25秒前の夢は覚えていないことが明らかになっているそうです。
ということは、1夜の中のさらにラスト20秒に富士さんや鷹や茄子を登場させなければ、それらの夢を見たという記憶は残らないということです。
8時間睡眠として、7時間59分40秒のあいだ麻婆茄子づくめの夢を見ていたとしても、ラスト20秒が麻婆豆腐だとしたら、麻婆豆腐の夢として記憶されるということになります。
夢ってなんて繊細なものなんでしょう…こんなにも雲をつかむようなものだとは思っていませんでした。
じゃあなぜ、20秒よりも長編の夢があったりするのか。
夢は自分の記憶から構成されているので、長い夢を見た気分の時は最後の20秒の夢をもとに記憶から後付けで長い話をつくっているのだと考えられているそうです。
人ってなんて適当なものなんでしょう…こんなにも勝手に夢を創作しているものだとは思っていませんでした。
さらに、夢の内容を構成するのは、自分の記憶だそうです。
ということは、とにかく自分の記憶にとことん茄子を刷り込んでおけば茄子の夢を見る確率が高くなるということです。
とはいえ、日がな一日茄子のことを考えて生きていけるはずがありません。
麻衣子さんだって、私だって、「どうぶつ会議」のお稽古があります。
「やさい会議」ならまだしも、どうぶつのことを考える必要がある日々であります。
そうなった時に、茄子を手っ取り早く強く記憶に刷り込むにはどうするか。
記憶を構成する材料は自分の「行動」なので、「行動」が夢の内容に反映されることがあります。
ですから、枕の下に茄子の写真を置くといった「行動」によって、それに関連した夢を見ることがあるかもしれないそうです。
女子たちのおまじないなどで、好きな人の夢を見たい時に好きな人の写真や名前を書いた紙などを枕の下に置いて寝る…なんてことを聞いたりしますが、あながち間違っていないのですね。
ということで、本当に茄子の夢が見られるか実験してみました。
富士山の写真や鷹の写真や実物はすぐには手に入らないので、とりあえずスーパーですぐに手に入る茄子で実験です。
1日目
心の中で茄子のことを強く想ってから就寝。
テーマパークのような所に地方公演の空き時間に出かけた帰り、みんなでご飯を食べて帰ろうということになり、和食は嫌だとかなんとか注文ばかり多いくせに店は探そうとしないめんどくさい人たちのために、私ともう一人が店を探していると「ピザ&パスタ」と書かれた店があり、そこに入店。
奥の席を合体すれば大人数座れるということで、男性たちがテーブルを移動している時に大転倒…というところで夢から覚めました。
「ピザ&パスタ」ですよ…もう少しで茄子のアラビアータとかに出会えた可能性が十分にありました。惜しかった…。
2日目
茄子を枕元に置いて就寝。
とにかくずっと、苦手な派手派手しいパーティーの夢でした。
茄子が出て来る気配はなかったです。
3日目
茄子の夢を見ようとすると、なぜか大人数でのストレスを感じる食事系の夢を見る…という法則に気づきました。
むしろ、大人数でのストレスを感じる食事系の写真を枕下に、もしくは、そのことに想いを馳せて寝てみたら、逆に茄子の夢を見られるのではないか…実験です。
トラックを走る夢を見ました…。
そりゃそうですね…そんな法則があったとしたら、何を信じて生きていったらいいのか途方に暮れてしまいます。
夢は偶然見せてもらうもの…といった、おみくじ的なイメージがありますが、やはり、よい夢を見るにはよい1年になるように本気で気合を入れて寝る…という、現実的な努力が必要なのかもしれませんね。
夜見る夢だけではなく、いつか叶ってほしい夢に関しても同じことが言えるのかもしれません。
夢は偶然叶うものではなく、本気で気合を入れて実現させていくことこそ、夢が叶うということなのかもしれません。
思いがけず、無駄にポジティヴな素敵な文章になってしまいました。
本来こんな女ではないので、謝罪します。
麻衣子さんが、お正月2日続けてお稽古の夢を見たということは、とにかくいまこの作品について気合が入っているという証なのだと思います。
まったく知らなかった方々と、日々やいのやいのとひとつの作品を作るというのは、初夢に茄子が出てくるくらいの確率の奇跡的な出来事ですよね。
素敵な作品になるために、お稽古最後の20秒まで大切に過ごせたらと思います。
あ…また自然と素敵な文章に…こんな女ではないのです…。
■ラッキー待ち受け
良い夢を見るには、七福神の乗っている宝船の絵に
「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな(長き夜の 遠の眠りの 皆目覚め 波乗り船の 音の良きかな)」
という回文の歌を書いたものを枕の下に入れて眠ると良いらしいです。
47年間生きてきて初めて知りました…なんで義務教育ではこういうことを教えてくれないのでしょうね…。
来年の初夢はぜひ、これを枕の下に入れて就寝を。
※写真はM先輩からお借りしました。
■田中麻衣子さん今後の予定
こまつ座「どうぶつ会議」
作:井上ひさし
演出:田中麻衣子
音楽:国広和毅
1月24日(木)~2月3日(日)
会場:新国立劇場小劇場 THE PIT
http://www.komatsuza.co.jp/
【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。
[出演情報]
【舞台】
こまつ座第125回公演「どうぶつ会議」
(作:井上ひさし、演出:田中麻衣子、音楽:国広和毅)
2019年1月24日(木)~2月3日(日) 新国立劇場 小劇場 THE PIT
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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