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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第60回 松永玲子さん(俳優・劇団「NYLON100℃」)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

つい先日までモコモコのコートを着ていたかと思いきや、薄手のコートも飛び越えて、もはやTシャツでも大丈夫なのでは? という日々がやってきてしまいましたね。にっくき夏との闘いが始まります。

かれこれ50回夏を経験してきたわけですが、なぜだかどれくらい暑いかについては1回1回忘れてしまい、毎年夏になる度にさらに憎さが倍増。

とうもろこし、という大好物を恵んでくれる季節ではありますが、とうもろこしと夏は別にして考えなくてはなりません。

先日、撮影現場への差し入れに、長野県松本市の藤むらさんの「れぇずんくっきぃ」を取り寄せました。
松本は大好きな街で、お仕事じゃなくてもプライベートで年に一度くらい訪れていたのですが、このコロナ禍、最後に訪れたのが一年半前。
れぇずんくっきぃを目の前にしたら急激に松本に行きたくなり、というか、旅に出たくなり、れぇずんくっきぃを口にしたら、松本の美味しいものをたくさん食べたくなり、結果、れぇずんくっきぃを追加注文していました。

夏め!!

さて今回のご相談は、いつかご登場をと願っていたこちらの方からです。

*****

池谷さんへ。

昨年はナイロン100℃『イモンドの勝負』へのご参加、ありがとうございます。
舞台上で台詞を交わすことはありませんでしたが、多くのシーンで私は池谷さんの言動をキッカケとしてましたので、私はずーっと池谷さんに注意を払っておりました。台詞を交わすよりはるかに濃密な関係だった気もしております、一方的ではありますが。

ワークショプを開催なさるとのこと。第二回、第三回と続きましたら、私も応募したいと思っています。一時間池谷のぶえ独り占め。……いや、ホントの望みは一時間サシ呑みです。じゃあワークショップじゃなくて呑み会ですね。呑み会に応募します。

さて、いよいよ相談です。

恥ずかしい。
恥ずかしいのです。
お芝居するの恥ずかしい。
人に見られるの恥ずかしい。
人っていうのは、お客様だけでなく、相手役と目が合うのも恥ずかしい。

憑依型の俳優だと言われることもあるのですが、実際には演じている時に憑依or憑依に近い状態になったことなどなく。目の前の小道具を次に使う俳優さんの都合良き位置に置くことや、舞台袖中のスタッフの指示でセット位置を直したり、遅れてきたお客様の着席や、相手役の汗のかき具合や、そんなことどもに気持ちが忙しい内は大丈夫だったのですが、以前、某演出家から「あなたはスタッフか? 俳優でしょ? 俳優なら俳優の仕事をしてください」と言われ、雑念を極力減らしてから、人様の前で平気で嘘をついている自分に気付き、恥ずかしくて。

せめてお客様から見られないようにと、客席に背中を向ける策をとったところ、演出家達は、舞台上の椅子を客席向きに置いたり、客席側に窓がある設定などを作って、どーしても前を向かせようとするのです。「観客の視線が君に来るまで待ってから台詞を言ってください」などというゾッとするオーダーをされることもあります。
カーテンコールは恥ずかしさの絶頂です。いや、カーテンコールはもう嘘をつかなくていいのですが、丸裸で出ているような恥ずかしさです。舞台に出るとみんなこっち見るんです、そりゃそうだカーテンコールだから。一人ずつ出るカーテンコールとかもう……。

先日も稽古場で「楽しそうに芝居してるね」と言われましたが、その実、気絶しそうに恥ずかしいのです。

どうしましょ?

松永玲子さん(俳優・劇団「NYLON100℃」)

*****

10年近く前になるかと思いますが、松永さんとは今も忘れられぬ楽しい飲み会の想い出があります。

舞台の大阪公演の際、ちょうど松永さんも、高田聖子さんもそれぞれのご用事で大阪にいらっしゃったので、3人で馴染の店で飲むことになりました。

そして、今回松永さんのご相談にもある、
「目の前の小道具を次に使う俳優さんの都合良き位置に置くことや、舞台袖中のスタッフの指示でセット位置を直したり、遅れてきたお客様の着席や、相手役の汗のかき具合や」
ということを、ついつい冷静に気にしてしまう3人だよねー! と共感し合い、大変盛り上がり、楽しい飲み会でした。

その後も、お芝居を観に行った際には、お互いの冷静ポイントをそっと見つけ合っては、「お!そこ気づきましたか!」と喜びあったりしたものです。

とはいえ、私なんかより松永さんの冷静ポイントはそれはそれは素晴らしく、例えるならフィギュアスケートで難易度の高い技をバシバシ決めていくように、鮮やかに舞台をバシバシ整えていくのです。

私にとっては、それは松永さんにしかできないことであり、それが松永流といいますか、「松永屋!」と大向こうしたくなることではあるのですが、松永さんにとっては舞台での恥ずかしさを認識することと、直結していたのですね。

きっと松永さんの中でバランスのとれていたお芝居との距離感に、某演出家さんの言葉をきっかけに、いきなり衣服を剥ぎ取られたような感情が芽生えてしまったのでしょうか。

私もお芝居をすることは恥ずかしいですが、とても恥ずかしい場合と、恥ずかしくない場合があります。その違いについて考えてみたところ、恥ずかしい場合は、何らかの納得がいってなかったり、これやるの私じゃなくてもいいのに…というマイナスな感情が働いていたり、上手にやれることを期待されいてる場合。恥ずかしくない場合は、はい、これやればいいんでしょ! 私ならこうする! あとは知らん! と、無責任になっている場合が多いかもしれません。

松永さんが台詞を間違えている場面などほとんど遭遇したことがありませんし、ほんとうに速く、正確に台詞を覚えてらっしゃいますし、そうしたお姿を拝見するに、「はい、これやればいいんでしょ! 私ならこうする! あとは知らん!」という無責任な気持ちに急になるにはなかなか難しいかもしれません。第一、無責任になっていいわけがありません。反省。

そこでご提案するは、鳳蘭さまシステムです。
実際そんなシステムがあるわけではないのですが、私が勝手にズキュンときた経験が元となっております。

知り合いの舞台を観に行くと、鳳蘭さまが出演されていて物静かなシスターの役でいらっしゃいました。物静かなトーンなのに、素晴らしく上質なコメディエンヌでいらっしゃって、勝手に華やかでパワフルなイメージを持っていた私としては、その控え目なお芝居に驚きと好感を感じておりました。
カーテンコールになり、鳳蘭さまがおひとりで登場。演じていたシスターの雰囲気のまま数歩歩いたと思いきや、バッサと両手を高く広げ会場をそのまま包み込む鳳凰のような華々しいカーテンコールをされたのです。
その時の感覚を文字のポイント数で表すと

鳳蘭
です

このくらいになります。
めちゃくちゃかっこよかったと同時に、そうか、あのお芝居は鳳蘭という女優さんが演じていたのだ…ということに改めて気づかされたのです。と同時に、女優さんでない時の鳳蘭さんも存在するのだな…ということにも改めて。

つまり、鳳蘭さまシステムとは、
シスター役/それを演じる鳳蘭という女優/鳳蘭さまという女優じゃない時の鳳蘭さん
のように、お芝居への距離を切り分ける。

演じるべき役/松永玲子という女優/松永玲子という女優じゃない時の松永さん

という3つの松永さんに分類し、お芝居をする時は松永玲子という女優に演じてもらっている意識を持ち、恥ずかしいと感じてしまう感情は、女優じゃない時の松永さんに引き取ってもらうシステムです。

「恥ずかしいという感情は、その人が信頼できる人物であることを知らしめる機能を果たしている」らしいです。

なので、松永という女優の時は

松永
玲子
です

と、役を全うし、女優じゃない松永さんの時に、「わー! ゲロゲロに恥ずかしかったー!」と、仲間たちに思い切り吐露してもらって、我々をますますズキュンとさせてください!

■ラッキー待ち受け

ナイロン100℃「イモンドの勝負」の楽屋トークで、「スーパーで新鮮な野菜を見つけると、量が多くてもついつい買ってしまい、調理をしたタッパーで冷蔵庫や冷凍庫が占領されていく」という話で盛り上がりましたね。
「恥ずかしい」という気持ちが沸いてしまって、一瞬どうにかしたい! となったら、とりあえずタッパーに! というのもいいかもしれません。
お稽古場で投げかけられた「楽しそうに芝居してるね」という言葉も、松永さんが「恥ずかしい」という気持ちがありながらそれを突破しようとするパワーが、共演者のみなさまにはキラキラ見えたのかもしれませんね。
舞台初日の幕が開き、無事千穐楽を迎えられることをお祈りしています。

■松永玲子さんの今後の予定
「サロメ奇譚」
原案 :オスカー・ワイルド「サロメ」
脚本:ぺヤンヌマキ
演出:稲葉賀恵(文学座)
2022年3/21(月・祝)~31(木)@東京芸術劇場 シアターイースト
2022年4/9(土)~10(日)@梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
詳細 → 梅田芸術劇場
https://www.umegei.com/salome2022/

椿組2022年夏・花園神社野外劇『夏祭・花之井哀歌』
作・演出 ◇わかぎゑふ
2022 年 7/9(土)~31(木)◎新宿花園神社野外劇

『アンタッチャブル・ビューティー ~浪花探偵狂騒曲~』
脚本◇東野ひろあき
演出◇竹園元
2022 年 9/17(土)~25(日)◎大阪松竹座
※大阪公演のみ
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/shochikuza_202209/

Webマガジン「日刊えんぶ」
『今夜もネットショッピング』連載中(毎月1回更新)
詳細 → 日刊えんぶ
http://enbu.co.jp/category/nikkanenbu/matsunaga/

映画「デッドリー・アフェア」(吹替版)
[チャーリーの母(声の出演)]配信中
詳細 → Amazonプライム

「12人のおかしな大阪人 2020リモート読み合わせ版」配信中!
脚本:東野ひろあき、G2、生瀬勝久
構成:東野ひろあき ナレーション:川下大洋

YouTube『12人のおかしな大阪』を読み合わせてみたん会 にて公開
配信アドレスはこちら↓
https://m.youtube.com/channel/UCRIkL8xsLbEuey0_QM6Ow_A?view_as=subscriber


詳細 → 「12人のおかしな大阪人」(予告編)
https://www.youtube.com/watch?v=sGDx9XjDA_w

Audible(オーディブル)本は、聴こう。
ボイスブック配信サービス
森絵都さんの作品
「最後は臼が笑う」・「無限大ガール」オーディオブック【朗読】
*こちらは会員制です。
詳細 → https://www.audible.co.jp/search?keywords=%E6%9D%BE%E6%B0%B8%E7%8E%B2%E5%AD%90

 

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]

【舞台】
「お勢、断行」(原案:江戸川乱歩、作・演出:倉持裕、音楽:斎藤ネコ)
2022年5月11日(水)〜5月24日(火) 世田谷パブリックシアター ほか、兵庫 ・ 愛知 ・ 長野 ・ 福岡 ・ 島根 にてツアー公演あり
https://setagaya-pt.jp/performances/202205osei.html

【テレビ】
テレビ朝日系 土曜ナイトドラマ「妖怪シェアハウスー帰ってきたん怪ー」 
2022年4月9日(土)スタート 毎週土曜 23:00〜 初回は1時間スペシャル
座敷童子/和良部詩子役
https://www.tv-asahi.co.jp/youkai_kaettekita/

【テレビ】
Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週火曜 18:45~18:54
※2022年4月8日の放送から、Eテレ 毎週金曜 午後6時40分~の放送となります
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.nhk.jp/p/zenitendo/ts/4NX2MRW758/

【ワークショップ】
ENBUゼミナール ワークショップ「池谷のぶえを自由に使ってください。」
2022年3月31日(木)、4月1日(金)
http://enbuzemi.co.jp/workshop/iketaninobue/

【映画】
「妖怪シェアハウス」(監督:豊島圭介)
2022年6月公開
https://www.toei.co.jp/release/movie/1228067_979.html

【コラム】
福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com

【DVD】
イキウメ「外の道」(作・演出:前川知大)
2021年6月、シアタートラムで収録された舞台公演DVD
発売中
https://www.ikiume.jp/tuhan.html#sotonomichi

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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