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【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】17 森下亮

えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。

File.17 森下亮
(2021年8月取材/撮影)

「愛情の一点突破」で次々に!

2018年まで、大阪で出会った劇団クロムモリブデンの“ミスター”として活躍してきた俳優・森下亮。奇しくも同年、劇団の活動休止直後に出演したFUKAIPRODUCE羽衣の『春母夏母秋母冬母』公演が“自分でも代表作だと言える作品”に。そして今年6月、毎日ポテトチップスを食べ続けて20年!? カルビーの「ア・ラ・ポテト」への愛が止まらず、ついには、公式大使に就任。演じて、歌って、踊れて、気も回って、弁も立つ。そんな彼の俳優人生を一気に辿ってみると。

カルビーに認められた 「ア・ラ・ポテト」愛

――いきなりですが、森下さんはポテトチップスで大変なことになってるんですね?

そうなんですよ(笑)。常々SNSでポテトチップス、中でも「ア・ラ・ポテト」が好きと言い続けていたのですが、クイズ番組「99人の壁」に「ジャンル:ポテトチップス」で出演しまして、何て言うんでしょう、「愛情の一点突破」と言いますか。ファイナルステージまで勝ち進めたんです。その結果もあり、カルビーさんが公式の「ア・ラ・ポテト大使」に任命してくれました。

――大使って何をするんですか?

これまでも勝手に大使のようなことをしていたので、カルビーさんも「これまで通りでいてください」と(笑)。

クロムモリブデンの衝撃

――出身は大阪で、大学は神戸、クロムモリブデンに入ったのも関西ですね。そこで活動をしてから、東京に出てきたという流れですよね。

演劇は高校の部活から始めて、まずキャラメルボックスにハマり、それからとにかく劇場に通うようになりました。大学に入って今度は劇団に入りたいと思って、とにかくたくさん観て入りたい劇団を探していたんです。そのときクロムモリブデンに出会って、衝撃を受けて。「何、何だこれ!? どういうことなんだ!」って、全神経を動員しても分からないおもしろさに虜になって「これ、やりたい!」と思ったんです。

最高の劇団で、最高!

――それから約20年。

はい、もう当時から「自分にとって最高の劇団にいて、最高のことやってるから、あとはこの劇団が大きくなること以外望むことない」みたいな。でもまぁ、やってることがすごくマニアックなんで、あんまり大きくなる見込みもなかったんですけど(笑)。

――分かってるんですね(笑)。

分かってはいるんですけど、さすがに知られてなさすぎちゃう? もうちょっと知られてもいいんちゃう? と思いながらずーっと。

――ずっと関西で?

ずっと大阪での話です。

みんなで東京へ

――大阪で何年やってたんですか?

9年です。ずーっとクロム中心の生活をしていて。クロムは稽古初日に台本ができていて、そこから3ヶ月間、稽古をして本番を迎えるので、他所から来たオファーもほとんど断っていました。遅まきながら28歳くらいになったときに「俳優としてのキャリアを考えたら、やっぱり東京行くべきなのか?」と考え出して。他の劇団員も同じくらいの年齢で、同じこと考えていて。みんなで「個人じゃなくて、劇団ごと東京行きたいなぁ」って話してたんです。当時、主宰の青木(秀樹)は40歳過ぎていて、きっと行かないだろうなーと思いながら、一応、聞いてみたら、「ええよ」と。「別に東京とか大阪とかこだわりないし。クロムモリブデンは日本の劇団です」と言われて。青木さんがそう言うなら、みんなで行きましょう! って上京して、東京での活動が始まったのが2006年です。

東京での手応え

――15年くらい前ですね。

その頃は劇団員にスタッフも何人かいて、一緒に引っ越して来ました。うちは、音響と照明が劇団員にいるっていうのが強みだったんで。スタッフと東京行けたのはよかったですね。

――東京での反応は、どうでしたか?

やっぱり劇団ごと来たっていうことでちょっと話題になったというか。東京に来てすぐに、シアタートップスや青山円形劇場での公演が決まったりして、「お、これはちょっと、おれら勢いあるぞ」みたいなね。王子小劇場っていうどっちかっていうと、マニアックな作品を好むお客さんたちがついてる劇場の演劇祭にも呼ばれたりして。そこからちょっとお客さんが、広めてくれたみたいなところもありましたね。

29年分の疲れ?

――ぼくは2010年頃から拝見していて。ハマったときは異次元に連れて行かれたような興奮を覚えて、ハマらないとそれはそれで刺激的な観劇体験でした。が、2018年の春に、活動を休止しました。

理由はいろいろあるんですけど。集団として29年分の疲れが来たのかなと思いますね。

――森下さんはずっと、チームリーダーというかキャプテンみたいな立場でしたよね?  “ミスター”みたいなことを言われたりしてましたけど…。

ぼくが一番長かったというか、入って3年くらい経ったときに、先輩方がみんな辞めちゃったんです。そのとき、いきなりまだ若手なのに、「お前が座長だ」みたいなことを言われたりしたんですけど…。今、思えば、そのとき座長になってればよかったかなと(笑)。

クロムの血が…

――劇団を維持する上での大変さはありましたか?

やっぱり人の入れ替わりが激しいのが一番しんどいです。お金とか、そんなんは何とかなりますけど、人がね、いなくなるっていうのは。うちの劇団は一本作るのに、あまりにも体力がいるというか、時間をすごくかけるので…。

――これからどうなるんでしょう?

もちろんぼくは、やりたいですけど、一回休止したものをもう一回始動させる難しさもあります。そろそろみんなで集まりたいんですけど、なかなかできにくい状況でもありますね。

――あんな風に刺激的な作品には、もうなかなか出会えないから。観客としては何かを失った感じはありますね。

今でもふと「あの作品のあのシーンは、もっとこうすればよかった」と思い出すことがあるんです。あぁ、ぼくはクロムの血が流れてるんだなぁって…。観客を無茶苦茶な世界に連れて行くような芝居をやりたいと感じると、クロムをやるべきかって思いますね。

代表作との出会い

――2018年初夏にFUKAIPRO DUCE羽衣の二人芝居『春母夏母秋母冬母』に出演しました。森下さんはスーツ姿で一人の息子の一生と彼の母親役を演じて歌もたくさん歌って、素敵な作品でした。

羽衣は2008年に初めて観て、すぐ大好きになって、本公演もライブ公演も何度も出演していたんですが、でもまさか、劇団の公演で二人芝居って…。他にたくさん劇団員がいるのに、本当にありがたかったです。しかも、その稽古をしている最中にクロムの休止が決まって。

――それはもう、何とも言いようが…。

クロムの休止を告げられた翌日に『春母~』の稽古に行って、糸井さんから渡された新曲の歌詞に、「何もなくなって 人生の意味もなくなって」と書いてあって、嘘だろ! と。糸井さん、全部知ってるの? って(笑)。

――そういう意味ではクロムで周りとのバランスを考えながら演技していた森下さんが、この公演で一気に解き放たれたのかなと。

おかげさまで、代表作だと自分でも言える作品になりましたし、一生かけてやりたい財産です。舞台セットは全部残してありますので、いつでもできる状態です。いつかあの作品で全国ツアーをしたいですね。

謎解きと演劇、 どっちも好き

――最近、「すゞひ企画」によく出演されていますが。

主宰の鈴木(秀明)君は元キャラメルボックスの役者さんで、ずーっとリアル脱出ゲームとキャラメルボックスのコラボ作品を作りたいと、夢見てたんです。もともとミステリーが好きで、キャラメルを辞めてから作家になって、演劇×体験型ミステリー作品を作っています。ぼくは彼が新人だったときにキャラメルに出たので、その縁から、よく呼んでもらっています。

――体験型ってどういうものなんですか?

上演している作品の中で起きた事件の謎を、お客さんが解くんです。たとえば、お客さんはマジックショーの観客の体で、ぼくがマジシャン役として、マジックを見せています。すると、その最中に殺人事件が起こって、「さぁ、みなさん、殺人事件の犯人は誰でしょう」と。お客さんが謎を解く時間があって、その間、出演者に直接、質問したり、アリバイを聞きに行けるんです。

――じゃあ、出演者は大変ですね。

メチャメチャ大変です。

――アドリブが必要ですね?

アリバイ通りのアドリブにしないといけない。嘘は言っちゃいけないし。お客さんが一人一人、何人も来るから、何回も芝居をする必要があって。

――なるほど。

お客さんは謎が解ければ解けるほど、得点が高くなって、高得点者にはプレゼントがあったりします。

――今までの俳優の資質とはひと味違うベースが必要ですね。

謎解きと演劇のそれぞれを目当てに来てる人に、知らなかった楽しさにハマってもらえたときの喜びが、また普段にはない喜びで。ぼくは謎解きも演劇もどっちも好きなので、両方の良いとこ取りをしている感じですね。

――森下さんは好きな物に対しての関わり方が、尋常じゃないんですね。

劇団で長年、制作的なことをやっていたからかもしれません。こんなにもおもしろいことがあるのに、これを知らない人が多すぎると思うと、いてもたってもいられないというか。

やっぱり青木作品は おもしろい

――最後に、なかなかコロナ禍が治まらない中、今の演劇の現状に対して何か思うところはありますか?

クロムの話ばっかりになって申し訳ないんですけど、いろいろコロナを取り入れた演劇作品もあるじゃないですか。その中で一番おもしろかったのが、うちの青木が書いた『ひとりウイルス』っていう一人芝居だったんです。大阪芸大の頃からの友だちの役者に書いた30分の一人芝居なんですけど。やっぱりこの人は、今の時代を表す舞台を書く人だと強く思いました。

――それはどこで上演されたんですか?

昨年10月初演をして、今年の1月にすぐ再演をアポックシアターのひとり芝居フェスティバルでやってました。

――青木さん、芝居やる気はかなりあるんですね。

活動を休止してから1年に1本は書いてます。でも今年はまだ1本も書いてないんです。

――ぜひクロムのみなさんが参加できるような作品ができるといいですね。

【森下亮プロフィール】
もりしたりょう○7月5日生まれ、大阪府出身。俳優。大学在学中の1997年に、青木秀樹率いる劇団クロムモリブデンに参加。2018年の活動休止まで、看板俳優として活躍。劇団公演以外にも、数多くの舞台作品にて活躍。近年は、映像分野への出演も増えている。カルビーのア・ラ・ポテトが好き過ぎて2021年カルビー公式ア・ラ・ポテト大使に就任。

【活動予定】
NAPPOS PRODUCE 『トリツカレ男』 10/16~24◎新宿スペース・ゼロ
【アニメ】 広島テレビ毎週月曜『おしゃべり唐あげ あげ太くん』 ポテサラのポテ介役
【ラジオ】 『森下亮・久保貫太郎の死ぬまでにしゃべりたい7万のこと』 調布FM 83.8MHz ラジオボンバー内 毎週土曜日10:00~10:15(オンエア後ネット配信有り)

 

【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja

【インタビュー◇坂口真人 文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】

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