【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】16 大宮二郎
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.16 大宮二郎
(2021年6月取材/撮影)
“狂気”はどこからやって来た?
数年前に地蔵中毒の公演で見た大宮二郎が印象的だった。きわめて個性な他の出演者に対して、特に個性を際立たせているわけでもなく、わりと普通に“そこに存在している”強靱さに興味をもった。さらにいくつかの出演舞台を見ていくと、「コイツはちょっと怪しいよね」っという思いがどんどん膨らんできた。上手な俳優たちが増え続けている昨今、普通で“怪しい”俳優はとても魅力的。その根源に迫りたいのだが……。
ずっとお笑いが好き
待ち合わせの時間から2時間ほど遅れ、右肩を抑えながら大宮が到着。
――え、大丈夫ですか?
すみません、遅れてしまって。ちょっとあの歩いてたら鳥が来て…、あっ、鳥って知ってます? 飛ぶやつなんですけど。
――はい。
そうですよね、有名ですもんね。それがぶつかってきて刺さって怪我しちゃいました。何故か痛みはないんですけど。
――…始めても?
はい、よろしくお願いします。
――地蔵中毒、桃尻犬、コンプソンズなど出演作品を見て、大宮さんの中に“狂気”みたいなものが見えてきて、「ちょっと怪しいよね」って感じをもってるんですけど。
自分自身で「あ~~僕は“狂気”持ってるなぁ」と思ったことはないですね。本当に狂ってる人も多分そうは思ってないと思うんですけど。それぞれの作品が当て書きでっていうことが多かったので、僕を外から見たときに「コイツはちょっと怪しいよね」というのがなんか、ねぇ、そう言われるとあったのかな? とは思うんですけど、僕自身はすごく真っ当な人間だと思ってるんで。
――いやいやいや(笑)。真っ当な人は年に10本も芝居に出ないと思います。ご自身のツイートを拝見していたら、「中学生の頃から尖りに尖ってた」と書いてあって。そこら辺からお聞きしたいなと思うんですけど。
当時は松本人志の『遺書』を読んだりして尖るって人がけっこういたと思うんですけど、僕はそれの最後の世代かなと。元からずっとお笑いが好きで『爆笑オンエアバトル』とかを小学生の頃から見ていて。それが合ってるか間違ってるかは別にして、「おもしろいっていうのはこういうことだ」っていうのが凝り固まってあった時代ですかね。中学高校くらいは。
――そういう活動とかしてたんですか?
高校の時に少しだけお笑いのまねごとみたいなことをしたりしたんですけど、基本的には上京して、大学入ってからですね。
――じゃあ中学高校の頃はどんなすね方をしてましたか?
これをインタビューで言ってプラスになるとは全く思えないんですけど、教室の席をノートに書いて、「コイツのおもしろさはCランク、コイツはB、いやB+かな」とか人をランク付けしてました。最低なガキですね。
――友達は少ない?
当時はそんなに少なかったとは思わないですけど、今連絡とってるのは全然いないですね。
――北海道がご出身ですよね。
はい。そうですね。
――じゃあその頃は、お笑いに興味を持って、ケッとかって思いながら世の中を見てた感じですかね?
(笑)そうですね。
――勉強の方はどうでしたか?
勉強はできましたね。自分で言うのもアレですけど、神童と呼ばれていた時期もあったような気がするんですけど(笑)。
――素晴らしいね、片鱗はあります。
…そうですかね(笑)、…ありがとうございます。
大学を2年留年して
――大学は?
明治大学です。
――学部は?
文学部の演劇学専攻ってところです。
――大学の中で劇団に入ってらした?
サークルには入ってたんですけど、今いるコンプソンズは、僕らの代が卒業した年にできた劇団なので。サークルの卒業公演でコンプソンズのたたき台みたいな公演をやって、その後に発足した感じですね。
――大宮さんは創立に近いメンバーですか?
そうですね、メンバーになったのは色々あって2年後とかになるんですけど、基本的には全部の公演に出演しています。
――何があったんでしょう?
不思議な話なんですけど、僕が2年留年していて…。
――…。
1年留年は想定の範囲内で、5年で卒業して就職しようと就活もして内定もいただいていたんですけど、2月頃に大学から「お前また留年したぞ」って手紙が届きまして。そこから1年経って卒業したので、コンプソンズに「ちょっと入れてくれ」という感じで。
――余計なお世話ですけど、その間、お家の方とかも心配ですよね?
どうなんですかねぇ。まあそれまでも、何不自由なく育ててはもらっていたので、親には本当に感謝はしてます、かね。
――あまりしてないみたいですね(笑)。
いやいや、感謝してます! 迷惑しかかけてないので。
――理解してもらってるんですね。
そうですね、半分諦めみたいな感じかもしれないですけど(笑)。
――公演も観ていらっしゃるんですか?
いや、やっぱり北海道にいるのでなかなか。呼んでっていうのは難しいです。こういう状況ですしね。
――じゃあ今の活動は、親に向かっての目線も多少あると。
勿論。親のことしか考えてないですよ、僕は。
ちゃんと俳優として やっていこう
――世の中がコロナ禍になる前の2年間は、月1くらいで舞台に出演されてますよね。その前の2、3年は脚本を書いたりしていますが。
そうですね。基本的にコロナ前の2年くらいで「ちゃんと俳優としてやっていかなダメだな」みたいな気持ちが芽生え出して、色々出てみようと。
――出てみてどうでしたか?
一番最初に受けたオーディションがMrs.fictionsさんの『伯爵のおるすばん』という作品で、それが自分の中でかなり大きかったですね。ちゃんと俳優としてやっていくぞという気概が芽生えたというか。座組も尊敬できる方ばかりだったので、こういう世界で生きて行きたいなみたいな気持ちになりました。
――大学在学中はそこまでは思ってなかったんですね。
そうですね。卒業後はテレビ業界に行きたかったので、あくまでも自分の身になるようにというか、身になったものを別に演劇ではなくてバラエティ番組とかで発揮していければいいなと思ってました。
――大宮さんはどういう俳優に興味があるんですか?
俳優として僕自身がどういうものをやりたいかっていうよりも、何でもできる人にはなりたいかなとは思っています。呼ばれる側の人間なので、評価していただいたところに合わせてできる引き出しの多い役者になれればなって。周りにそういう先輩もたくさんいらっしゃるので。今だと自分の武器は大きな声くらいなので…。
今年8月末に 個人企画を予定
――ご自分で作品を作る気はないんですか?
8月末にコンプソンズの個人企画みたいな感じで、一応短編集をやる予定です。
――上演時間はどれくらいですか?
まだ全部書き上がってるわけではないんですけど、何本かやって80分。
――けっこう立派な時間ですね。
60分だと短いかなと。チケット代をもらってるんで。質より量ってわけではないんですけど、ちゃんと料金を支払ってもらえるくらいのものにはしたいですね。
――それは作、演出、出演として?
はい、そうですね。
――じゃあ、ここがもう一つの節目になるって感じですかね。
どうなんですかね。まだやってない状態で言うのはアレですけど、今後もちょこちょここういうことをやっていきたいなとは思っているので、その足がかりになればいいなと思います。あと、僕がおもしろいなって思う俳優さんを集めているので、そういう人達の活躍できる場にもなっていければなって、これは今思いついたんですけど。
いろんな“笑い”を 経験して
――あんまりお芝居は観ないんですか?
昔はよく観てたんですけど、最近は本当に気になったものをっていう感じになってますね。色々観た方が良いとは思ってるんですけど。
――お芝居以外はどんなものを観てますか?
お笑いはずっと観てます。YouTubeで公式にネタが上がったりしてるのを四六時中観てますね。
――おもしろい人たちはいますか?
もーいっぱいいますよ。
――昔、小劇場演劇の人たちとお笑い団体とかが一緒にやるイベントもけっこうあったんです。そうするとその場ではお笑いの人たちの方が圧倒的におもしろいんですね。演劇の人は太刀打ちできないんですけど、お芝居になってくると、また違ってくる。そこは難しいですよね。
そういう意味では、コンプソンズだとお笑いの人が絶対にやらないような笑いをしていますね。主宰の金子(鈴幸)がお笑いを見ずに育ってきて、僕はお笑いをずっと見てきた人間の脳みそなので、そんな関係からしか生まれないような笑い、みたいなのがあったりします。地蔵中毒に関しては、大喜利力というか、劇団の持ってる笑いのパワーだとか、それに加えて一瞬だけ出てくるモブのおもしろさとか、ある種、芸人さんにはできない笑いをやってるので、自分は好んで出演してるのかもしれないですね。
――それらがどう合わさるのか、次のご自身でやる公演がわかりやすい目安になりそうですね。
どうなりますかね(笑)。
――もちろん作品の構想はできている?
構想はできてるんですけど、2分で終わっちゃうなっていうアイデアばかりなので。80分なら40本やらなきゃいけない。これからなんとかしていきます。
――楽しみにしています。
【大宮二郎プロフィール】
おおみやじろう○1993年生まれ、北海道出身。俳優、脚本家、演出家。演劇ユニット・コンプソンズ所属。大学進学を機に上京、同時に演劇活動を開始。大学在学中より気になる団体、おもしろい作品に精力的に参加。2021年8月末には久しぶりに自身の作、演出、出演企画を予定している。
【活動予定】
・コンプソンズ 大宮企画 『短編集、石棺』
8/27~30◎下北沢亭
・コンプソンズ 宝保企画 『ストレスレベルゼロ』
9/24~29◎新宿眼科画廊スペースo
【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja
【インタビュー◇坂口真人 文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】
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