【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】14 一十口裏
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.14 一十口裏
(2020年6月取材/撮影)
世の中がある限り、書きたいことはなくならない
コロナウィルスの流行に乗って、一十口裏が描いてきたシュールでナンセンスな世界がやって来た!? 会社や家庭など、普段の生活の場を舞台に、繰り広げられる日常っぽい非日常生活。世間体を、建前を、当たり前を疑い、切り刻み、過激なスパイスで調味し、不適な笑いを誘う孤高の劇団げんこつ団。およそ30年間、脚本、演出、映像、音楽、美術を手がける団長・一十口裏の創造欲の源は? 外出自粛で静まりかえった吉祥寺の公園で、そのルーツと野望が少しだけ紐解かれた……。
きっかけは襖!?
――げんこつ団では、脚本、演出のほか、映像、音響なども手がけていますが、演劇や映画、音楽などに興味を持ったのはいつからですか?
いつの頃からか、友達を集めて家の襖をガラガラって開けて、寸劇をやって遊んでましたね。音楽は物心がつく前から楽器を始めていました。
――襖の遊びでは指示を出す方ですか? 出る方ですか?
出るより指示を出す方が好きでした。意外なことをやって驚かせるのが好きだったんです。今も、何か起きたことを、普通にしゃべって伝えるのが苦手なので、どういう伝え方をしたら的確か、考え過ぎてはおかしな事になります。
――襖の向こうでは、誰か見ていましたか?
母とかが見てました。
――反応はいかがでしたか?
うちの親もしゃべるのが苦手で。父は普段からふざけてるんだか本気なんだか分からないというか……面白い人なんですよ。母も。良い家族ですけど、和気藹々と1日にあったことを、筋道立てて話して、一家団欒みたいな雰囲気ではなかったんです。両親はダンサーなので、しゃべってる時間より踊ってる時間の方が長い……。
――だから襖が舞台になったんですね!
ほんと襖がきっかけです。襖がなかったら、何もかも丸見えですから。
遊んでばかりの中学時代
――楽器は何をされていたのですか?
クラシック音楽が好きで、オーケストラに入りたくて、結構、真面目にフルートをやってたんですけど、小学校を卒業するときに止めちゃいました。
――なぜ止めたんですか?
クラシック音楽から、民族音楽とか古代音楽や現代音楽の方に興味が移り、音楽を勉強するなんて意味がわからないとなってしまい……。
――……すごい小学生ですね。
今考えれば、そんなの先々で考えればよいから、とりあえずやっとけと思いますよね(笑)。
――中学では、部活動などに参加はしましたか?
いえ。ちょうど小学校を卒業した頃に、たまたまバスター・キートンの映画を観て、これをいっぱい観たいと思って、上映される機会を調べて観に行ったりしていました。そのうち、小劇場の情報も入ってきて、駅前劇場に観に行ったりもしてました。
――中学生で? 1人で?? 劇場も映画館も大人ばかりで、怖くなかったんですか?
1人です。制服着て行ってました(笑)。何も怖くはなかったですね。出ている人たちを大人とも思ってなかったし、自分を子どもとも思ってなかったから。自分で探して観に行ったものは、自由に色んなことをやっていて、それまで観たものとは発想やセンスが違って、刺激が色々あって面白かったですね。だからジャンルを問わず、面白そうなものは何でも観に行ってました。
すべてが、たまたま
――高校時代はいかがでしたか?
中学時代は芝居や映画を観たり本読んだり、遊んでばかりだったので、何かやらなきゃなと思って女子美術大学付属高等学校に行ったんですけど。そこを選んだ理由も、場所が杉並だったから、家(千葉県市川市)から行く途中に、いっぱい映画館があってちょうどいいなと(笑)。結局、学校帰りに芝居や上映会に行ってばかりでした。
――大学は、付属でそのまま進学されたんですか?
はい。自分の代から4年制の学部が相模大野に移ってしまい、短大だけ杉並に残ったので、短大に進みました。でも高校3年の頃から、校内で公演みたいなことをやり始めていたので、短大入ったら短大の中で、同じようなことばっかりしてました。当時、やってることは全然違ったんですけど、団体名はげんこつ団でした。
――げんこつ団の名前の由来を教えて下さい!
高校の時の友人が作った名前なんですけど、げんこつ何とかってラーメンが美味しかったからとか。私はその由来も何も知らないで参加していたら、いつの間にか自分が書くことになっていつの間にか自分しか残ってなかった。
――ずっと「世の中にげんこつを!」という怒りが込められていると想像していました。
本当に何もかもが、たまたまですね。劇団員が女性だけなのも、たまたま私が杉並だったから女子美を選んで、女子美で始めたから女性しかいなくて。男性を入れたり、男女半々とかでもやってみたけど、たまたまうまくいかなくて、たまたままた女性だけになった。
一番手っ取り早かった
――短大を卒業した頃でしょうか。若い女性出演者たちがハゲヅラとスーツ姿で、おじさん役を演じられていたのが印象に残っています。
それも基本的に、ビックリさせたいというか固定概念みたいなものが嫌いで、ことごとく潰してやれというところから来ています。ハゲヅラも別にそれがおもしろいって思っていたわけではなく、おじさん役をやるにあたり、一番手っ取り早かった。ちゃんとした毛のヅラはお高かったりするので(笑)。
――出演者から抵抗はなかったんですか?
ないですね。校風なのかもしれないです。色んな人が色んなことやってる、ファッションも多様な学校だったので、全然。なんかスラッと被ってました。当時、意外とウケたので、アイキャッチ的に打ち出していこうかな~と思ってやってましたけど、それもいい加減飽きてきますから(笑)。
ハッ! とするのが好き
――かれこれ30年、どうしてここまで続いたと思いますか?
題材が日常的なことなので、世の中がある限り書きたいことはなくならないんです。良い悪いおもしろいおもしろくないは別ですが。世の中を見て色々思うことを、表現する場は欲しい。
――作品を作ることが目的ではなく、ご自分が受けた刺激とか、そこから考えたことを誰かに伝えたい、発散したいということでしょうか?
そうかもしれないです。
――更に驚かせたい?
思ったり、考えたり、ムカついたり、面白がったりした色んなことを、伝えようとすると、自然に、驚かせようって方向になるのは、なぜなんでしょう……?
――襖ですね!? 子どもの頃の驚かせたい気持ちに繋がっているのではないですか?
ハッ! とするのが本能的に好きなのかもしれない。安心して「おんなじだね~」って共感するのが苦手なんです。ハッ! とさせたり、思わされるものが好き。本当はいっぱい身の回りにハッ! とすることがあるはずなのに、ハッ! としないまま、それを察知するセンサーが働かなくなってしまうのも嫌で。何を聞いても、やっても、そこにハッ! ってすることは、何かあると思うんですよね。それを、やりたいです。
どんな形であれ、やりたい
――例年ですと秋に公演がありますが、今年のご予定はいかがですか?
11月初めに予定があるんですけど、どうなりますかね。どんな形であれ、やりたい、やる、とは思っています。ネタや内容のストックはたくさんあるので。
――どんな内容になりそうですか?
これから今あるストックを精査していくところです。今、劇場も演劇も観劇文化というか諸々、存続してほしいと感じていて……。でもそれと別の話で、どんな状況になっても観る人とやる人がいればできるものでもあると思うんです。もちろん劇場でやりたいし、色んな演劇が残って欲しいですけど。どんな状況でも人が集まればできるぞっていう核があるので、足元は安定しています。ただそれすらもできなくなるのが怖いです。とにかく自由で居たい。固定概念や常識的なことを撹乱して、ハッ! としながら自由に生きていたい。やれる状況さえあれば何でもできると思っています。
――本当にそう思います。次回作を楽しみにしています。ありがとうございました。
【一十口裏プロフィール】
いとぐちうら○千葉県出身。女優達が様々な老若男女を変幻自在に演じ分けるナンセンス喜劇をおよそ30年に渡り上演し続けている劇団「げんこつ団」団長。 1991年から全てのげんこつ団公演の、脚本・演出・映像・音響・チラシデザインを担当している。
【活動予定】
2021年夏、げんこつ団30周年記念動画、公開!
2021年11月3日(水)〜11月7日(日)、げんこつ団30周年最新作本公演!@駅前劇場
げんこつ団HP▶http://genkotu-dan.official.jp
【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja
【構成・文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】
Tweet