【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】05 野田慈伸
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.05 野田慈伸
(2019年12月取材/撮影)
尻の落ち着かない犬が、 とびきりの“愛”を描く!
昨年の1月『俺ずっと光ってるボーイ、健之助』、6月には『山兄妹の夢』と少し意味不明なタイトルで、天地創造の神のごとく時には大胆に、だが時には細やかに“小さな人間たちの愛の物語”を描き、夢のようなご都合主義で観客を圧倒していく桃尻犬。2月に行われる公演のタイトルは『ゴールドマックス、ハカナ町』。劇団のホームページによると、畑と田んぼの中にあるパチンコ店「ラスベガス」に集う人たちの話だという。たぐいまれな劇作&演出力で、とびきりの愛のハーモニー(不協和音も多)を奏でる、主宰で作・演出の野田慈伸。インタビューの前日(2019/11/29)に今回の座組で初めてのプレ稽古が行われたという割には、とくに高揚感もなくさっぱりと現れた姿に、なぜか今回も傑作の予感が? その予感の根源に迫るスペシャルインタビュー!?
“門前の小僧” 経をよむ
――すみませんが、少しだけ身上調査を。ご出身は兵庫県加古川市。ご実家はお寺ですね。
はい。
――それなりにエリートですね。
エリートというか、村の中のお寺なのでお寺の息子さんっていう呼ばれ方はされてました。
――ご家族は?
僕は三人兄弟の一番下で。父母と兄と姉がいます。
――じゃあお寺は継がなくてよい。
はい。もう兄が継いでます。
――「門前の小僧」どころか身内なので、お経とかも得意ですかね。
お経も何種類かだけですけど、お盆参りとかは手伝いに行ったりしてました。
――お寺の次男で、手伝いもして、って、なんかキャラクター決まってきそうですね(笑)。
(笑)そうですね。山の上に家があって、小学校とか通うんですけど村を通っていくと、皆から「おはよう」とか挨拶してもらって、大人の目はすごい気にしてたとは思います。
――良い子だったんですね。
そうですね(笑)。
バリバリ演劇のひと
――演劇はいつ頃から始めたんですか?
高校からです。宝塚北高校の演劇科に通ってたんで、一応そこからですね。
――バリバリ演劇の人なんですね!
でもプロを養成するというのではなくて、演劇を通して教育をするみたいな感じの高校だったので。
――わざわざそこに。
姉が通ってて。普通じゃない高校だから面白そうだなと。
――どんな勉強するんですか?
座学とかもあって、あとは、クラシックバレエとか(笑)、モダンダンスや、日舞表現、劇表現などをまんべんなくやる。もう今はなにも出来ないですけどね(笑)。
――でも知識としては嫌でも残ってますよね。
大学は東京の和光大。
――そこで演劇は?
1年から大学のサークルに入ってました。
――桃尻犬を作って一回目の公演が学内ですね。
大学4年のときにやりました。
――劇団は一人で立ち上げたようですが?
最初思ってたのは、劇団員を入れるとその人の時間を奪っちゃうわけだから、人生の。その責任とりたくないなって。
――あまり寄り集まるのが好きじゃないとか?
みんなで一緒に頑張ろう、みたいなのはやってこなかったですね。
――劇団名が「桃尻犬」、「桃尻娘」と関係ありますか?
そうですね。橋本治さんの小説のタイトル『桃尻娘』からとらせてもらいました。
――橋本さんのデビュー小説ですよね。女子高生の世の中に対しての目線がすごく上手で、ユーモアたっぷりで楽しい小説だったと思うんですけど。それで、「犬」。
(笑)。桃尻って何だろう、と思って調べたときに可愛いお尻のことじゃなくて、馬に乗るのが下手で尻が落ち着かない様子を言うらしくて。で、尻が落ち着かない犬、みたいなのが楽しいかなって。先輩からのアドバイスもあってつけました。
勝算が見えず 2年間休む
――立ち上げてからはいかがでした?
6回公演くらいまで新宿や王子の小さい劇場でやって。その後に2年くらい休んでるんですけど、そのときにどうしようかなっていうのはありました。それで2年後くらいにやった公演でこれがダメだったら辞めようかなとは思ってました。
――それは?
『メロン農家の罠』(17年1月)です。あの公演の前に2年休んでますね。
――初めて拝見しました。良いタイミングで見られてよかったです。2年間休んだ理由は何ですか?
それは、なんかこのまま同じこと続けてても勝算が見えなさすぎるな、と。
――勝算?
評価がつかないなと思っちゃって。
――外からのですか? 自分の中で?
両方ありましたね。自分が作りたい物ができてないなというか…、多分もっと評価されたかったんだと思います、単純に。
人に伝えることを 意識して
――で、『メロン農家の罠』。2年間休んだことで、この作品にはどんな思いがあったんですか?
その2年で、一応、自分なりに脚本の書き方とか勉強して。人に伝えるってことをすごく意識しましたね。
――ストーリーとしてもわかりやすかったですね。
とか、あとはどう感情をコントロールするか、みたいな。浮き沈みを意識して作りました。
――その中で、徳橋みのりさんが演じた10歳に見えないけど10歳の女の子がすごく印象的でした。普通に良いテンポのお芝居の流れの中で、彼女がぽんと出てきて違和感がありつつ、なんか説得力がありましたね。その後は…
徳橋さんと18年7月にやった、桃尻犬みのりの公演『熊ん子リバーバンク』ですね。
――漏れ聞くところによると、野田さんがなかなか次の公演をやらないから、徳橋さんがしびれをきらして「やらんか」とおっしゃったという。
そうです。無理やり誘ってもらったというか。
――女神みたいな人ですね(笑)。
(笑)いや、ありがたいです。
――德橋さんから声をかけられたときにどう思ったんですか?
嬉しかったです。僕の本でやりたいって言ってくれて。あんまりそんなこと言われたことなかったし、嬉しかったですね。
――そこからは19年1月に『俺ずっと光ってるボーイ、健之助』、6月に『山兄妹の夢』と順調に、傑作が続きました。
…そうですね、…順調…?
――それこそ外の人にも面白がってもらえてるのでは?
まだ続けててもいいかな、とは思えるようにはなりました。
――野田さんは俳優としても活躍されていますね。
俳優は楽しいです。
――何が楽しいんですか?
人のイメージを作る。人にこうしてって言われたことをやるのは面白いです。
――俳優をしているときは、のびのびしてますね。
(笑)そうですかね。
――演出家にとっては貴重な役者さんなのかなって思います。
貴重だ、なんて言われたことないです(笑)。
「みんな怒ってるな」って 思うんです
――2月に桃尻犬で『ゴールドマックス、ハカナ町』というタイトルの公演がありますね。どんな話になりますか?
パチンコが絡む話にしようと思って。パチンコの台を調べていたら、「ゴールドマックス」って台があっていいかなと。
――パチンコが好きなんですか?
やったことないんですけど。
――はあ。
何もない、パチンコ屋しかない町に住んでる人が、色々大変な目に遭う話にしようかなと。町から抜け出したいけど、抜け出せない。そこにいちゃう人たちが面白いかな、と思って。
――全体の雰囲気とかはどうですか?
世の中、なんか、すごい不満が強い、みんな怒ってるな、って。周りの友達、知り合い、 Twitterとか見てると「みんな怒ってるな」って思うんです。だから、みんなが怒ってる話にしようかなって。
――みんな何に怒ってるんでしょう?
何となく怒ってんじゃないですかね(笑)。
――そうだといいですね。公演が楽しみですね。
【野田慈伸プロフィール】
のだしげのぶ○1987年生まれ、兵庫県出身。劇作家、演出家、俳優。
2009年「桃尻犬」を立ち上げ、全作品の作・演出を手がける。俳優として多数の舞台に出演している。
【活動予定】
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【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
【構成◇矢﨑亜希子 文◇坂口真人 撮影◇スギノユキコ】
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