新コンテンツ《TAKARAZUKA NEWS PICKUP!》その1
新型コロナウィルス感染予防で公演が行われない中、演劇キック「宝塚ジャーナル」では、宝塚を愛する方々への娯楽の一端になれば、との思いで新コンテンツを立ち上げています。週1回土曜日更新の連載第二弾としてお届けするのは、《TAKARAZUKA NEWS PICKUP!》です。
これは月に1回~2回、その期間の宝塚歌劇公式ニュースの中から特に注目すべき情報をサイト内で語って行こう!という企画です。大掛かりな発表はもちろん、時にはマニアックな発表を取り上げて深堀りしていきたいと思っていますが、まず初回の今回は、この時期に最も大きかったNEWSを考えていきます。
宝塚歌劇106年の歴史に残る大英断!愛ある退団者退団日付変更!
華やぎに満ちたオリンピックイヤーとして幕を開けた2020年、日本は、そして世界は新型コロナウィルス大流行という突然の災禍に見舞われました。
この目に見えないウィルスとの闘いは、人と人との接触を最小限に減らし、全ての人ができる限り自宅に待機して行動を制限する、Stay Homeに最も大きな効果があると考えられました。それが自分と愛する人々、引いては全ての人を守ることだったんです。
その為、舞台芸術もいったん深い眠りにつきました。
宝塚歌劇も例外ではなく6月末までの公演休止が発表され、この期間には宝塚大劇場&東京宝塚劇場公演・花組『はいからさんが通る』、月組『WELCOME TO TAKARAZUKA ─雪と月と花と─』/『ピガール狂騒曲』、宙組『アナスタシア』、東京宝塚歌劇場公演・星組『眩耀(げんよう)の谷~舞い降りた新星~』/『Ray─星の光線─』、TBS赤坂ACTシアター公演・宙組『FLYING SAPA -フライング サパ-』日本青年館ホール公演/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演・宙組『壮麗帝』、文京シビックホール公演/神戸国際会館こくさいホール公演・雪組『NOW! ZOOM ME!!』、全国ツアー公演・雪組『炎のボレロ』/『Music Revolution!─New Spirit─』、TBS赤坂ACTシアター公演/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演・星組『シラノ・ド・ベルジュラック』、全国ツアー公演『エル・アルコン─鷹─』/『Ray─星の光線─』と、書き出して驚くほど膨大な公演予定が入っていました。
この決定の前にも雪組東京宝塚劇場の『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』や、星組宝塚大劇場の『眩耀(げんよう)の谷~舞い降りた新星~』/『Ray─星の光線─』は、公演期間の大幅な縮小を余儀なくされていました。
それ自体本当に辛いことではありましたが、宝塚を愛する人々にとって何が最も気がかりだったかと言えば、退団を発表していたスターたちが宝塚の男役として、宝塚の娘役として過ごす、その限りある日々の砂時計が、公演の幕が開かないまま落ちていくことに他なりませんでした。このスターたちには退団予定日付順に、宙組娘役の天瀬はつひ、専科の華形ひかる、雪組トップコンビ望海風斗&真彩希帆、月組トップコンビ珠城りょう&美園さくらがいたのですから、その焦燥感には計り知れないものがありました。
「宝塚」という夢の世界は舞台と客席がひとつの約束事を共有して創り出している幻想空間で、「男役」も「娘役」もこの幻想の園の中で生きて、輝いています。もちろん時代がどんどん進んでいる現代では、退団後も男役芸や娘役芸が生きてくることもおおいにあるのですが、でもそれと宝塚歌劇団の男役、娘役でいることと、まして女優やパフォーマーとして外で活動してくれることとは、やはり同じ地平で語れるものではありません。その特別な時間がStay Homeの間にも過ぎて行ってしまうのではないか?は、ひたすらな恐怖だったと言っても過言ではないものでした。
けれども、その時間を宝塚歌劇団が止めてくれたのです。4月9日に「宝塚歌劇公演の中止期間延長ならびに今後の公演スケジュールの見直しについて」と共に発表された「退団者 退団日変更のお知らせ」は、公演スケジュールの見直しに伴い、既に発表されていたスターたちの退団日時も変更されるという画期的なものでした。一見当然のように見えて、これがどのくらい大変なことかは想像を絶します。専用の劇場を持ち、キャストも確保できるという意味では、宝塚歌劇団は様々なプロデュース公演よりも、公演スケジュールの見直しがしやすい側面は確かにあります。でも前述したように、中止公演はあまりに膨大な数ですし、全国の様々な劇場に及びます。退団を発表していたスターたちにとっては、のちの人生設計も関わってくる日々でしょう。
でも、それら全ての困難を超えて、スターたちが宝塚の男役、娘役でいてくれる時間、スター達を愛した人々と共に過ごす時間を延ばしてくれたのは、宝塚歌劇106年の歴史の中に、燦然と輝く大英断であり、愛にあふれた決定でした。再び劇場に灯がともるまでには、乗り越えなければならないことはとても多いと思います。それでも、巡りくるその日まで魔法は解けないとハッキリしたからこそ、希望を持ってStay Homeの日々を進んでいくことができます。
例えば、雪組の望海風斗がライブコンサートを、真彩希帆がミュージックサロンをと、それぞれがセンターを担うステージが用意されていたことは、二人の実力にも、これまでの歴史にも見合った素敵な企画でした。でもそれがもしかしたら、この延びた時間の中で逆に、二人が揃って思い出の名曲を歌ってくれる場として創られるかも知れない。そんな夢をみることもできるのです。二人の歌の力を持ってすればリモートでデュエットすることだって、不可能ではないでしょう。
月組の珠城りょう主演での上演が発表されている『幽霊刑事(デカ)~サヨナラする、その前に~』の原作、有栖川有栖の「幽霊刑事」も余裕で読めますし、美園さくらに歌って欲しい曲や、ショーで演じて欲しい場面、何より、珠城&美園のデュエットダンスのリフトにどんな技が繰り出されるかにワクワクすることもできます。
2017年宙組トップスター朝夏まなとの退団公演だった『神々の土地』 ~ロマノフたちの黄昏~で、次期トップ娘役に決定していた星風まどかの役どころ皇女オリガを新人公演で演じた天瀬はつひの、美しい歌声がまた聴けるチャンスも出てくるかも知れません。そしてなんと言っても、男役としての色気も存在感もいや増しになるばかりだった華形ひかるが、男役でいてくれる時間が延長されるのだと思っただけで、この次の幕が開くまでの時間、長い幕間が色鮮やかに感じられてくるから不思議です。
そればかりではなく、大劇場にデビューする花組の柚香光&華優希コンビ、東京宝塚劇場にデビューする礼真琴&舞空瞳コンビがどんな魅力を放ってくれるのか。まるで夢のように美しかった梅田芸術劇場制作バージョンの『アナスタシア』の宝塚バージョンを、真風涼帆&星風まどか率いる宙組がどう描き出してくれるのかといった、大きな楽しみも待っています。企画を聞いた瞬間から、原作設定を通すのだとすれば轟悠にしかできない…と思えた『シラノ・ド・ベルジュラック』への挑戦もあります。
他にも、この期間にスターたちのメッセージ動画の配信や、宝塚歌劇YouTube公式チャンネル<期間限定 おうちでタカラヅカ>の公開など、様々な新たな試みを積極的に進めている宝塚歌劇。一握りの幸運な限られた観客だけのものだった千秋楽を、全国の映画館でのライブ・ビューイングに拡大してくれたことが、多くのファンのニーズに応えたように、それが生配信という形で、自宅にも届く日がくるかも知れません。そうした新しいスタイルは、だからと言って劇場での生体験を鈍らせるものでは決してなく、むしろ劇場に向かいたいと思う人たちを掘り起こしていくことでしょう。
こんな前向きな夢を次々に見ることができるのも、全ての予定が延長されたからこそ。いま宝塚を愛している人たちが描く様々な夢が、再び劇場の幕が開く日、時計の針が動き出すその日まで大きく膨らんでいき、宝塚の歴史に更に大輪の花を咲かせると信じています。あなたが描く夢はどんな色に輝いていますか?
【関連情報】
宝塚歌劇YouTube公式チャンネル<期間限定 おうちでタカラヅカ>公開について
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20200515_002.html
宝塚歌劇公演の中止期間延長 ならびに今後の公演スケジュールの見直しについて
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20200311_001.html
雪組 退団者 退団日変更のお知らせ
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20200409_003.html
月組 退団者 退団日変更のお知らせ
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20200409_002.html
専科 退団者のお知らせ(追)
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20191218_002.html
宙組 退団者のお知らせ(追)
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20200222_003.html
【文/橘涼香】
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