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彩風咲奈主演で描かれる映画の都の人間模様!宝塚雪組公演『ハリウッド・ゴシップ』上演中!

雪組男役スター彩風咲奈主演公演である、宝塚雪組公演ミュージカル・スクリーン 『ハリウッド・ゴシップ』が、KAAT神奈川芸術劇場で上演中だ(17日まで。のち梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで10月23日~31日まで上演)。

ミュージカル・スクリーン 『ハリウッド・ゴシップ』は、1920年代のハリウッドを舞台に、映画スターを夢見る青年が、これを最後と臨んだスクリーンテストに仕組まれていた虚構に憤ったことから、思わぬ運命に巻き込まれていくドラマが描かれていく。

【STORY】
1920年代。サイレント映画最盛期のハリウッド。映画スターを志しながらもチャンスに恵まれないエキストラ、コンラッド・ウォーカー(彩風咲奈)は、これを最後にと自分に誓って、新人発掘を謳うトーキー映画の主演オーディションに臨んでいた。だがこのオーディションは大物プロデューサー、ハワード・アスター(夏美よう)の仕掛けた話題作りに過ぎず、実は大人気若手スターのジェリー・クロフォード(彩凪翔)の主演が決まっていた。その事実に憤ったコンラッドは重役室に乗り込むが、ジェリーがヒロインにと見込んだという女優の卵のエステラ・バーンズ(潤花)を一目で気に入ったハワードは、彼女を売り出すことに夢中でコンラッドなど歯牙にもかけない。そこに、往年の大女優アマンダ・マーグレット(梨花ますみ)が決まっていた役を突然降ろされたことに憤慨して抗議に訪れる。だが、無名時代にアマンダと関係を持つことでスターダムにのし上がったジェリーが、アマンダと同じスタジオにいることを好まないのを知っていたハワードは、聞く耳を持たずに出ていってしまう。重役室に取り残されたコンラッドとアマンダは、互いに何故ここにきたのか?を語り合い、アマンダの映画は全て観たと言うコンラッドに感じるもののあったアマンダは、彼を屋敷に連れて帰り、スターになる為の演技や身のこなしの特訓を開始する。それは、彼女を踏み台にしてスターとなったジェリーへの復讐を意図した計画だった。
連日のレッスンでスターの素養を身に着けていったコンラッドは、ある日偶然訪れた場末のダイナーでウェイトレスとして働いているエステラに出会う。華々しいデビューが決まっているはずのエステラが未だにウェイトレスを続けていることに驚いたコンラッドは、スタジオのキャスティング担当スタッフだと偽りその理由を問う。対してエステラはこのダイナーで人生を生きている人たち全てが自分の演技の先生だから、ギリギリまでここで学びたいのだと答え、その真摯な姿勢に感銘を受けたコンラッドは、彼女との再会の予感を抱きながらダイナーを後にする。
そして、迎えたトーキー映画の制作発表記者会見。ジェリーが新人女優のエステラを紹介している真っ最中に、アマンダと共にその場に乗り込んだコンラッドは、詰めかけた記者たちの前で堂々と、オーディションでハワードに見出された新人男優を名乗り、歓声とフラッシュの嵐の中で、でっちあげの“ゴシップ”を真実にすることに成功。悲願だったスターへの道を歩みはじめるが……

映画の世界を描いた作品は宝塚歌劇でも『ヴァレンチノ』『失われた楽園─ハリウッド・バビロン─』『SLAPSTICK』『ヘイズコード』等や、近年でも『ラスト・タイクーン─ハリウッドの帝王、不滅の愛─』『ベルリン、わが愛』と、これまでにも数多く創られてきた。中でも無声の世界だった映画が音を得るようになる、サイレントからトーキーへと移行した時代を描いたものは多く、ここには映画界が全く新しく生まれ変わる変革期だからこその、悲喜こもごものドラマが描きやすいという利点があるのだろう。一方で、貧しい家庭に育った主人公が、映画の世界でスターになることを夢見る物語という視点も多くの作品に共通していて、舞台芸術の世界である宝塚で、映画愛を熱く語る作品が頻繁に登場することには意外な想いを抱かないでもないが、そこにはそれだけ映画が庶民にとって最も身近な娯楽だったという背景が色濃いと言える。

そうした先行する作品群がある世界観を、若手演出家の田渕大輔がどう描くのか?が今回の作品の最も注目されるポイントだったし、ヒロインがヒーローを平手打ちしている、という宝塚としてはかなり斬新な構図のポスターにも新しさが感じられていたが、何よりもタイトルになった「ゴシップ」に、田淵が「映画界でのスター誕生」の秘策を求めていたのが面白かった。もちろん現代でもSNSでの拡散を狙った宣伝攻勢はいや増しになるばかりだし、その中で全くのフェイクニュースが、あたかも真実として浸透していってしまう事例は多く見られる。それでもやはり、1920年代という家庭にラジオしかなく、芸能コラムニストが新作発表のレッドカーペットや、制作発表の様子など、目で見たものを声で解説して大衆に伝えるという情報の伝達手段がとられている時代には、「ゴシップ」がスターのイメージをどうにでも操れるという部分は、現代の何倍も大きかっただろう。そこに着目した田渕の視点が効いていて、これが果たしてまかり通るのか?と思わせるような、新進スター・コンラッド誕生の顛末からも、ギリギリの位置でファンタジー色を回避できている。これは宝塚オリジナル作品ではないが、『雨に唄えば』などでも、彼ら芸能コラムニストやゴシップ記者たちは多く登場しているものの、彼らの存在をドラマを回す根幹に据えたのはなかなか巧妙な仕掛けで、記者たちの群像もドラマの中によく生きていた。

ただその新たな視点が効果的だった反面で、映画がサイレントからトーキーに移るという時代故の栄枯盛衰や、やってくることがわかっている世界恐慌といった、作品世界の時代背景がほとんど描かれていないのがもったいない。映画撮影のシーンも宝塚的な絵柄でとても美しいのだが、別にこれがサイレントでもトーキーでも、役者たちにとっても、制作するスタッフ側にとっても、さしたる影響があったようにはあまり見えないのだ。また、世界恐慌が起こる前、つまりはアメリカがバブル景気の喧騒の中にいた、刹那的な浮かれ騒ぐ様子もそこまで伝わってこない為に、ドラマの落としどころが弱まってしまった感が否めなかった。若手作家にとって、特に何度も作品化されてきた世界を扱う上において、新たな視点を見出すことはとても重要なもので、そこをきちんとクリアしてきた田渕の着眼点はおおいに買えるものだからこそ、作品を描く時代の、その時代でなければ起こらなかったことや、この時代だからこそ起こったことにも視野を広げていくと、より作品が深まっていくだろう。次作に期待したい。

その中で、作品に適度なリアリティを与えたのが、主演の彩風咲奈の存在だ。主人公がこれを最後と臨んでいるスクリーンテストから幕が開く冒頭のシーンから、映画スターになるという夢と、それが叶わずにエキストラでくすぶっている焦燥とを共に抱いて、どこか心許ない彩風のコンラッドがなんともチャーミング。更に続くエキストラの吹き替えとして着ているマタドールの衣装が抜群に似合い、アマンダがこれは…と目を留めるのに説得力十分で、ドラマの展開を納得させてくれる。一方、スターへの階段を昇って行く途中の心境が、演者ではなく脚本上の問題としてかなり飛んでいて、長年の夢が叶った瞬間にちょっと浮かれ過ぎているだけのコンラッドが、ともすると嫌な奴に見えかねない危険もはらんでいた。だがそれも、彩風の二枚目男役としてこれ以上ないプロポーションと、甘やかな個性が軽々と越えていく様が見事だった。王道中の王道を歩んできた彩風の真っ直ぐな芸風が、役柄を屈折させ過ぎなかったのも宝塚の主人公としての安定感を高めた。

新人女優であるヒロインのエステラに扮した潤花は、華やかな容姿と踊れる強みが、サロメとしての映画撮影時に「七つのベールの踊り」も用意されたヒロインの造形に生きている。娘役としては大柄だが、長身の彩風と並ぶとそれがスケール感を高める効果にもなっている。大人っぽいけれども湿度は高くない個性に現代性がありつつ、ポスターの衝撃度よりもずっとヒロインらしいヒロインだったことも嬉しい。期待の大きな娘役だけに、歌唱面を更に充実させて伸びていって欲しい。

そんな二人の関係を左右していく、大人気若手スター・ジェリーに彩凪翔がいることが、今回の座組の強み。アマンダを踏み台にスターとなり、今や権勢を盾に映画会社に言いたい放題、という典型的な敵役を、美しいものは正義である宝塚のセオリーの中で二枚目として維持した、彩凪の美しき男役ぶりが作品を支えている。特に二幕に入ってからはドラマが意外な展開を見せていくが、その混乱も十二分に演じきっていて、雪組の中で多彩な役柄に当たってきた経験から、彩凪が培ってきた実力を改めて感じさせていた。

往年の大女優アマンダの梨花ますみは、この作品の要とも言える役柄を任され、さすがの貫禄。専科からの出演だが、雪組で長く組長職にあった人だけに組の空気に全く違和感なく馴染んでいるのも、このポジションに寄与している。思えば直近の雪組大劇場公演『壬生義士伝』では彩風と親子役だったことを思うと、役者の豹変ぶりにはやはり驚かされるばかり。高いプライドの中に自然な哀愁をにじませるのは、経て来た経験の賜物だろう。

一方、同じ専科の夏美ようが演じたハワードには、専科から特別出演をしたならではの良い意味の異質感があって、これが食わせ物のプロデューサー役を活かしている。登場からしばらくのイメージよりも、後半になるに連れて役柄がかなり弱腰になることにも、夏美の適度に飄々とした感覚を交えた味わいが筋を通している。その秘書の千風カレンが硬質でキビキビとした女性像を描けば、エステラがウェイトレスを務めるダイナーの女主人早花まこが、ドスの効いたパッションで作品の求めたアクセントを果たしていて、コンラッドの台詞通りに良い味を出している。映画監督ロバートの真那春人、コラムニスト・キャノンの愛すみれも、それぞれの個性で役柄を印象的にしていた。

また、コンラッドのエキストラ仲間である、マリオの煌羽レオ、ラリーの縣千、トーマスの眞ノ宮るいに、役柄としてはもちろんトリオのダンサーとしても働き場が多く、三人のダンス力も生きて見応えがある。中で煌羽には後半のキーになる重要な芝居があるし、縣はフィナーレナンバーで彩凪と組んで踊る場面がひと際鮮やかで、スターとしての存在感を感じさせる。これは田渕の座付作家としての優れた目配りとしても評価できるし、アマンダ邸の執事ピーウィーの真地佑果のように大きな見せ場がある役柄ばかりでなく、助監督ボビーの諏訪さきや、天月翼、妃華ゆきの、野々花ひまりら、 前述したように記者たちの群像が、芝居を動かしているのもキャストには大きなやり甲斐になったことだろう。総じて、主演の彩風の根っこにある爽やかさが、青春映画に似た香りを醸し出す作品になっている。

【公演情報】
宝塚歌劇雪組公演
ミュージカル・スクリーン 『ハリウッド・ゴシップ』
作・演出◇田渕大輔
出演◇彩凪咲奈 ほか雪組
●10/11~10/17◎KAAT神奈川芸術劇場
〈料金〉S席 8,300円 A席 5,000円
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォシメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
●10/23~31◎梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉全席指定・8,000円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ 06-6377-3888
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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