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宝塚OGが華やかに競演!『8人の女たち』上演中!

宝塚歌劇団で一時代を画したトップスター経験者8人が集結して織りなす極上のミステリー『8人の女たち』が池袋のサンシャイン劇場で上演中だ(9月4日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで9月9日~12日に上演)。

『8人の女たち』は、1961年に初演されたフランスの劇作家ロベール・トマの戯曲。1950年代、雪の閉ざされた郊外の屋敷で、クリスマスのために集まった家族と、忙しく働く使用人の目前で当主が何者かに殺されたことからはじまる、クローズドサークルもののミステリーとして、長く愛され続けている。特に2002年、フランソワ・オゾン監督による映画版が制作され、ダニエル・ダリュー、カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダンなど、フランスを代表する8人の女優たちが歌って踊るミュージカル仕立ての展開が高い注目を集め、全世界で大ヒットを記録している。日本でも2004年の木の実ナナ、山本陽子、安寿ミラなどでの上演や、2011年の大地真央、浅野温子、加賀まりこらなどでの上演がよく知られているが、今回2022年の上演は上演台本・演出の板垣恭一による斬新なスタイルの台詞劇で、キャスト全員を宝塚OGが務める、大きな話題が興趣を増す公演になった。

 

【STORY】
クリスマスイヴの朝──。
聖夜を祝うため、この家の主マルセルの妻ギャビー(湖月わたる)、大学生の姉娘・シュゾン(蘭乃はな)、15歳の妹娘・カトリーヌ(花乃まりあ)、足腰が弱っているマルセルの母マミー(真琴つばさ)、ギャビーの妹で心臓が悪いオーギュスティーヌ(水夏希)の一族が久々に集う。長く館の使用人として働いているシャネル(久世星佳)は家族が揃ったことを喜ぶが、同じくメイドのルイーズ(夢咲ねね)は、忙しさに不満を隠さない。
だがその時、マルセルがベッドで背中から刺され、殺されていることが発覚し、館は大混乱に陥る。警察を呼ぼうにも電話は通じず、外部から何者かが侵入した形跡もない。折も折、マルセルの妹ピルエット(珠城りょう)が訪ねてくるが、それを最後に雪に閉ざされた邸宅は、出入りのできない状態になってしまう。
容疑者は必ずこのなかにいる!8 人の女性たちは、誰が犯人なのかを互いに詮索し合うが、それによって、全員の嘘や秘密が次々に暴かれていき……

雪に閉ざされ孤立した邸宅で殺人事件が起き、居合わせた全員が容疑者として互いに疑心暗鬼を抱いていく。という設定はミステリーの女王アガサ・クリスティーの世界を彷彿とさせる、クローズドサークルものの大定番だが、この作品が面白いのは登場人物の女性たちが、粋なファッションに身を包み、大人のウイットとエスプリを保とうとしながらも、いつしかその境界線を踏み外し、しばしば取っ組み合いの大喧嘩を繰り広げる姿が描かれていることだ。このとんでもない状況に置かれた人々の赤裸々な部分を、ミュージカルの歌と踊りで展開させた映画版のアイディアは、フランスの名だたる大女優たちを集めた華麗なる女優芝居に、非現実感を加味する力になっていて、作品の色合いをポップにすることに成功していたのが、強い印象を残している。

だが、今回の板垣恭一による演出は、あくまでも台詞劇でありつつ、怒りや嫉妬といった登場人物たちが抱く負の要素を、非常にカリカチュアした表現でコミカルに振ったことが、全く新しい魅力を生んでいて目を瞠った。様々な立場で、それぞれに言い分のある女性たちは、互いを追いかけまわし、時にくんずほぐれつの様相を呈しもするのだが、「そんなやり方で間に入るか?!」と言った意外性の連続で飽きさせない。しかも、ミュージカルではないのに、歌うがごとく語られる台詞もしばしばあり、照明の変化、特にバックグラウンドに音楽が鳴った時のステージングなどの様々な仕掛けで、複雑な背景や人間関係が、要所要所で見事に整理されていく。これはグランドミュージカルから小劇場芝居までを、群像劇として見事に描いていく演出の板垣が発揮する力量をはじめ、邸宅の一室を重層的に表した美術の乘峯雅寛。時に心理描写も投影した照明の三澤裕史。物語展開に重要な鍵となる音響の友部秋一と音楽のかみむら周平。前述した身体を張った大喧嘩を巧みに表現したアクションコーディネーターの渥美博ら、優れたスタッフワークの賜物で、場面展開がないことを時に忘れさせるほど目に耳に新鮮な要素が連なっていく。

更に、演じているのが全員宝塚歌劇団OG、しかもトップスター経験者ばかりという贅沢な座組が、作品の趣を決めている。赤を基調にした十川ヒロコの衣裳を華やかに着こなした彼女たちは、大仰な身振りや当銀大輔の振付による、ダンスではないながら、音楽に乗せてポイント、ポイントで見事なポージングを決めて物語を運んでいく。この鮮やかさは他の追随を許さないし、それぞれが持つ大舞台の豊富なセンター経験が、8人全員が主役という作品の根底を支えていて、舞台全体が見どころの宝庫。それはまさに目が足りないという感覚を呼び覚ますし、退団後の活動は非常に幅広く多岐に渡っている彼女たちが、やはり同じ場所で育った、同じルーツを持っていることを実感させる、宝塚OGだけに共通する、はったりも効けばブラフもかかる表現が、舞台の通奏低音になっている心地よさがあった。

殺害されたマルセルの妻であり、シュゾンとカトリーヌの母で、マミーの長女ギャビーの湖月わたるは、なんともゴージャスな存在感で舞台に馥郁とした香りを与えている。一方で意外な事実を知らされたり、自らの秘密を暴露されたりといった感情が振り切った場面での弾けた造形や、歌台詞の可笑しみには、常に多くの人を魅了し続けているこの人のおおらかな人間力がにじんでいて、ここ数年顕著に感じさせてきた、大女優の風格を存分に発揮していて頼もしい。

ギャビーの妹で、心臓が悪いオーギュスティーヌの水夏希は、女性が「結婚しない」人生を自ら選ぶという概念がまだほとんどなく、「結婚できない」と等しくみなされてしまった時代に独り身でいる女性の、どこかひねくれていて、必然的に拗らせてしまった描写が実に巧み。湖月との豊富な共演経験が、この二人が揃うと何が飛び出すかわからない、というワクワク感や、思わず笑ってしまう遠慮のないぶつかり合いにもつながっていつつ、ミステリアスな要素も手放さない。水らしいクレバーな演技が光った。

マルセルの妹ピエレットの珠城りょうは、宝塚歌劇団退団後のこれが初となる舞台芝居で、一族とは一歩離れた生活圏のなかにいる役柄の異質さと、珠城が舞台で女性役を演じる新鮮さとが相乗効果になった姿を披露。8人の女性たちのなかで最後に登場する「待ってました!」感も珠城の現況が合致して目を惹きつけるし、男役経験者が宝塚を離れて初めて女性の役柄を演じる時に、僅かに女性を意識し過ぎてしまうか?という誰もが通る道が、ピエレット役にはむしろ効果的なのも功を奏し、上々の女優デビューとなった。

一方、メイドのルイーズの夢咲ねねは、トップ娘役として長く活躍した宝塚退団後も、数多くの舞台でヒロインを務めてきていて、演技の根底に良い意味の娘役らしさを手放さないことが個性にもなっている人だが、全員が宝塚OGというこの座組では、小悪魔的な表現を惜しみなく発揮して、新たな魅力を感じさせている。それは全ての登場人物が容疑者で、それぞれに必ず何かあるこの作品の在りようにとっても高い効果を発揮しているし、夢咲の今後の可能性を更に押し広げる、大きなエポックになると感じさせる演じぶりだった。

ギャビーの長女で大学生のシュゾンの蘭乃はなは、元々振り切った表現に特段の魅力を発揮してきた個性の持ち主だが、このメンバーの中に入って更に、場面の中心になるシーンが度々あるシュゾンを、欠片も臆することなく堂々と演じていて感嘆させられる。高いダンス技術もそこここに生かされていて、可憐な容姿と大見得を切れる大胆さを共に持つ、蘭乃の真価が活かされた舞台になっていた。

シュゾンの妹で、推理小説が好きなカトリーヌの花乃まりあは、宝塚現役時代に蘭乃から花組トップ娘役のバトンを受け継いだ互いの関係性が、自然に姉妹の役柄に生きている。役柄の年齢設定を下げていることを巧みに使った天真爛漫さが、作品の展開に重要な役割りを果たしていて、退団後に積み重ねた丁寧な仕事ぶりで示し続けている、稀有な演技力をここでもいかんなく発揮。終盤まで目が離せない存在だった。

ギャビーとオーギュスティーヌの実母マミーの真琴つばさは、足が悪く車椅子に乗っているという役柄の設定と、冒頭で明かされる秘密とを、憎めない食わせ物感を放出して演じているのが、真琴の真琴たる真骨頂。大学生の孫がいる、という年代の役柄は初めてだと思うが、なんともオシャレに、しかも全く浮世離れせず、むしろ逞しい生命力を漂わせていて、常に時代の先端を行っていた真琴が扮するならではのマミー像が面白かった。

そして、この屋敷に長く務めるメイド・シャネルの久世星佳が、宝塚在団時から男役の型に捉われない自然体の演技を披露し、退団後更にコアな演技力を必要とされる舞台に多く出演してきた個性派中の個性派らしく、一癖も二癖もある謎に満ちた役柄を深く豊かに演じている。にこやかに笑っていても、奥で何を考えているのか?と思わせる造形と共に、常に控えていながらちゃんと出るべきところでは舞台の中心を担うという、この座組を象徴する存在だった。

 

全体に、近年一層盛んになっている宝塚OGが集う公演とは一線を画す、宝塚OGが揃って演じることの全く新しい可能性を感じさせる公演になっていて、配信も決定したこの新たな創造の場を、是非多くの人に体感して欲しい舞台だった。

【公演情報】

『8人の女たち』
原作:「HUIT FEMMES」by Robert THOMAS
上演台本・演出:板垣恭一
翻訳:山口景子
出演:湖月わたる 水夏希 珠城りょう 夢咲ねね 蘭乃はな 花乃まりあ
真琴つばさ 久世星佳
●8/27~9/4◎東京・サンシャイン劇場
〈料金〉S席 11,500円 A席 9,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10:00~18:00)
●>9/9~12◎大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉11,500 円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.umegei.com/8femmes/

【LIVE配信情報】
配信日:9月3日17:00公演
アーカイブ視聴可能日程:生配信終了後~9月6日23:59まで視聴可能
チケット販売期間:8月27日10:00~9月6日21:00まで購入可能
配信視聴券:5,000円 公演プログラム郵送サービス付き7,000円※送料別途必要(税込)
〈お問い合わせ〉PIA LIVE STREAM https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2206481

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

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