音楽劇『歌うシャイロック』いよいよ開幕! 中村ゆり・真琴つばさ インタビュー
演劇や映像で次々に名作を世に送り続けている作・演出家の鄭義信。彼がシェイクスピアの傑作『ヴェニスの商人』を、関西弁のセリフに書き換え、歌あり、踊りあり、笑いあり、涙ありのエンターテインメントとして作り上げた音楽劇『歌うシャイロック』が、いよいよ本日、2月9日に京都・南座にて開幕した。(21日まで。2月25日~27日には福岡・博多座にて、3月16日~26日に東京・サンシャイン劇場で上演)
音楽劇『歌うシャイロック』の初演は2014年の韓国ソウル、2017年には神戸で上演し、大好評を博した。今回はその作品が出演者を一新、豪華キャストによって6年ぶりの上演となった。
本作は、シェイクスピアの原作を、鄭義信ならではの視点で捉えなおし、ユダヤ人の高利貸しシャイロックを物語の中心に据え、その背景にある人種問題や階級差別など今も変わらぬ社会の不条理を浮き彫りにする。
ヴェニスに暮らすユダヤ人の金貸しシャイロック(岸谷五朗)は、冷酷な取り立て故に町の嫌われ者。愛する一人娘のジェシカ(中村ゆり)も心を痛め、そんな環境から逃れようと恋人のロレンゾー(和田正人)と父親の金を持ち出して駆け落ちをはかる。
一方、落ちぶれ貴族のパッサーニオ(岡田義徳)は、恋人ポーシャ(真琴つばさ)との恋の成就の為に親友の商人アントーニオ(渡部豪太)に金の融通を頼む。しかしアントーニオは所有する商船が全て海に出ており手持ちの金がなく、仕方なく日頃嫌っているシャイロックから自身の「肉1ポンド」を担保に金を借りることにする。
だが、アントーニオのすべての商船が嵐のため難破、借金が返せなくなったアントーニオは、シャイロックとの裁判で負ければ「肉1ポンド」を切り取られてしまうことになる。
果たして裁判の結果は?そしてシャイロック親子の運命は?
この波瀾万丈の物語で、ジェシカを演じる中村ゆりとポーシャを演じる真琴つばさに、作品と役柄について語り合ってもらった。
シェイクスピアが身近な世界に
──まずこの作品に出演を決めた理由から伺います。
中村 私は以前、鄭義信さんの『焼肉ドラゴン』に出演させていただいたのですが、その公演は、今まで出演した作品の中でも一番と言っていいほどパッションを求められました。また自分自身もそれまでにないほど情熱を捧げることができました。ですから今回も、鄭さんが出てほしいとおっしゃってくださるなら是非参加させていただきたいと思いました。
真琴 私は鄭さんとご一緒するのも初めてですし、今回の出演者の方たち皆さんがほぼ初めましてなんです。それは私にとって2023年の幕開けにふさわしい冒険というか、挑戦になるのではないかと思いました。それに脚本を読ませていただいて、ちょっと敬遠しがちなシェイクスピアの世界が鄭さんの脚色によって、とても身近に感じられるものになっている。なんといっても、私が演じるポーシャ役が、原作と違って50過ぎのオールドミスみたいに描かれていて、「あら、シェイクスピアの扉が開けやすい!」みたいな。
中村 (笑)気軽に観ていただける感じですよね。
──鄭さんの世界は独特のユーモアとか風刺があるところがいいですね。
中村 そうなんです。笑わせてくださる部分が沢山あるんです。でもちゃんと人権問題とか、人種や宗教やジェンダーなどの裏テーマ的なものがあって、今回もそこをしっかり書き込んでいらっしゃるので、鄭さんらしい脚本だなと思います。
真琴 この作品って、人間の生き様のシーソーみたいなものが描かれていますよね。例えば将来に希望が持てなかった人間と将来に夢を描いていた人間が、あることをきっかけに逆転し、一方が希望を手に入れるともう一方は夢を失くしてしまう。そういう人生のシーソー的なものを感じます。それにラストはちょっと悲劇的に終わるのですが、同時に温かさも残るような終わり方になっているんです。例えば雪が降っているのに暖かいみたいなところは鄭さんマジックなのかなと。
中村 そう思います!
真琴 この物語のシャイロック親子の悲劇には、400年前も今の時代も変わらない問題が映し出されていると思うんです。でもこうして上演されることで、やはり少しずつでも良いほうに変化している気がします。
中村 鄭さんは問題をミニマムなところから世界全体に広げていく。そこが鄭さんならではの素晴らしさだなといつも思います。
あの時代の中で一歩踏み出した女性たち
──役柄についても伺います。真琴さんはポーシャ役をどんなふうに演じようと思っていますか?
真琴 この作品の前回公演では、宝塚の大先輩の剣幸さんが演じていらしたので、剣さんを目標にしたいなと。それから、私は下町育ちなのでポーシャお嬢様があまり下町寄りにならないように気をつけたいです(笑)。神戸の山の手あたりの女性を目指したいですね。
──中村さんのジェシカは、家からお金を持ち出して恋人と駆け落ちしてしまうという、ある意味では大胆な女性ですね。
中村 ジェシカはずっと選択肢のない境遇で生きてきたんですよね。でも愛情深い女性なので、当たり前のようにずっと父親のそばにいたのですが、でも自分を連れ出してくれる人をどこかで待っていた。ですから現実にそういう男性が現れたら、父親を捨てて真っ直ぐに飛び込んで行く、それは仕方ないことだと思うんです。その結果つらい思いもするのですが、自分が行けるはずがないと思っていた世界に飛び込めたことは、決して不幸なことではない。だからラストのこの親子には、真琴さんがおっしゃったように、悲劇の中でもどこか希望を感じるんです。2人はこの先もきっとたくましく生きていくのではないかと。
真琴 ポーシャもジェシカも、あの時代の中で一歩踏み出した女性だと思うんです。ジェシカは恋人と駆け落ちして、ポーシャも恋人の困難を救うために思いきったことをする。それは2人にとってこれから生きていくうえで大きな自信になったと思うんです。そういう一歩がすごく大事だし、生きるうえでとてつもない力になるのではないかと。
中村 一歩踏み出すことが大事なんですよね。
──ポーシャは男装姿もあるそうで楽しみです。
真琴 宝塚のような男装は期待しないでください(笑)。普通の女性がちょっと男ぶってるぐらいの感じになると思いますので(笑)。
生の舞台でしか感じられないパワーを浴びに
──それぞれ恋人もいて、ジェシカの相手のロレンゾーは和田正人さんです。和田さんとの共演は?
中村 もう何度も共演させていただいています。でもいつも私にひどいことをする役で、前回共演したときもそうでした(笑)。和田さんだけでなく男性陣はわりとご一緒したことのある方が多いのですが、皆さん演技力のある方ばかりですから信頼できる座組だと思います。
真琴 私の夫となるパッサーニオ役の岡田義徳さんとは初めてですが、どんな夫婦に見えていくのか楽しみです。そして、いつも一緒にいる侍女のネリッサ役は福井晶一さんなのですが、以前コンサートでご一緒して、とてもおおらかで素敵な大人の男性だなと思っていたので、お芝居で共演できることになってとても嬉しいです。
──福井さんは鄭さんの『てなもんや三文オペラ』で情婦ジェニーを演じて好評でしたね。
真琴 頼れる侍女で安心です(笑)。
──お互いについても話していただけますか。
真琴 ゆりさんは見た目通り本当に清楚ですから、ジェシカのちょっと切ない部分なんかそのままのイメージで出来るんじゃないかと。
中村 そのイメージが徐々にはがれていくんです(笑)。「最初に思っていた感じと違う」とよく言われるので。
真琴 そうなの?豹変するの?
中村 豹変というほどではないのですが(笑)。
真琴 物語の中で、岸谷さんのシャイロックが娘をとても愛しているんですけど、なんかすごくわかる気がする。
中村 岸谷さんの娘役というのは本当に光栄です。映画や舞台でずっと拝見していた方ですから。岸谷さんは、舞台は最近ご自分の劇団しか出演していなかったし、この公演も「ひさしぶりのライブなんだ」とおっしゃっていて、舞台姿をそばで拝見できるのが楽しみでわくわくしています。
真琴 私も!
中村 真琴さんについては、私はお会いする前から勝手に絶対いい人だと思っていました。お会いしてみたら思った通りで、まったく緊張しないでお話しできるんです。きっと人間力のある方なんだろうなと。
真琴 ないの! 人間力ない人なの!(笑)
中村 えっ、そうなんですか。では、私が面倒みます!(笑)
真琴 嬉しい!力強い!
──宝塚時代、真琴さんは頼りになるトップスターとして周りから慕われていました。
真琴 違うの!あまりにも何も出来ないからみんながなんとかしてくれるのよ(笑)。
中村 トップスターはそれでいいんですよね。
真琴 ありがとう(笑)。
中村 今回の舞台は女性が少ないんですよね。でも真琴さんと(小川)菜摘ねえさんがいらっしゃるので心強いです。
真琴 私はともかく菜摘さんがいらっしゃれば大丈夫!
──では最後にこの作品のアピールをぜひ。
中村 鄭さんの作品は生の舞台でしか感じられないパワーがあって、お客様もそのパワーできっと元気になれると思いますので、そのパワーを浴びに劇場へいらしてください。
真琴 大阪の新世界に迷い込んだようなシェイクスピア劇を、鄭さんマジックでお届けします。鄭さんはこの作品を音楽劇と言ってらっしゃいますが、『歌うシャイロック』というタイトルにもあるように、私はミュージカルだと思っています。シェイクスピアが苦手だと思っていらしたお客様でも、音楽とともになんだか身近な世界を観たなという新鮮な気持ちで帰っていただけると思います。京都と福岡と東京で公演しますので、お近くの劇場へぜひお運びください。
■PROFILE■
なかむらゆり○大阪府出身。2007年映画『パッチギ!LOVE&PEACE』でヒロインに抜擢され、07年度全国映連賞の女優賞を受賞。最近の出演作は、【映画】『窓辺にて』『嘘八百 なにわ夢の陣』『仕掛人・藤枝梅安』【ドラマ】『今夜はコの字で』『ただ離婚してないだけ』『クロサギ』、【舞台】『怒りをこめてふり返れ』『まほろば』『常陸坊海尊』「『真夏の死』(『summer remind』)」『広島ジャンゴ 2022』など。
まことつばさ○東京都出身。1985年に宝塚歌劇団入団。97年から01年まで月組トップスターとして絶大な人気を誇る。退団後は歌手として CD/DVD を多数制作、女優としてテレビ・ラジオ・舞台と幅広く活躍中。【テレビ】連続ドラマ『七人の敵がいる~ママたちのPTA奮闘記~』(主演)、【舞台】『わが歌ブギウギ~笠置シヅ子物語~』『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』『愛と青春の宝塚』『にんじん』『アダムス・ファミリー』 『BLOOD BROTHERS』『ブラックorホワイト?あなたの上司、訴えます!』『行先不明』『8人の女たち』など。
【公演情報】
音楽劇『歌うシャイロック』
作・演出:鄭義信
出演
シャイロック:岸谷五朗
ジェシカ:中村ゆり
パッサーニオ:岡田義徳
ロレンゾー:和田正人
アントーニオ:渡部豪太
マージャリー・パルサザー・医者:小川菜摘
ラーンスロット:駒木根隆介
ネリッサ:福井晶一
グラシアーノ・モロッコ大公・公爵:マギー
ポーシャ:真琴つばさ
車貴玲 五味良介 曽我廼家桃太郎 武田亮汰 谷田奈生 西村聡 羽鳥翔太 平井珠生 平岡亮 山村涼子
●2/9~21◎京都・南座
●2/25~27◎福岡・博多座
●3/16~26◎東京・サンシャイン劇場
http://shylock-stage.com/
【取材・文/榊原和子 撮影/中村嘉昭】
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