シアタークリエ再開とシリーズ20周年に刻む新たな第一歩『SHOW-ISMS』開幕!
7月20日、配信のみでの新作上演『TOHO MUSICAL LAB.』を経て、いよいよシアタークリエの客席に観客が入って上演される『SHOW-ISMS』「Version DRAMATICA/ROMANTICA」が開幕した。
『SHOW-ISMS』は独特の世界観で魅了する演出家・小林香の人気シリーズ『SHOW-ism』10周年を記念して企画された作品。本来はSHOW-ismⅨ『マトリョーシカ』として上演予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大防止のための劇場休止によりいったん中止が発表されていた。けれども緊急事態宣言解除後、演劇界が再び満を持して動き出すのに合わせ、構成・内容を刷新。7月20日~25日までは『Version DRAMATICA/ROMANTICA』、7月28日~8月4日までは『Versionマトリョーシカ』として、2バージョンでの上演が行われる。
更に限定公演(7月20日、23日~25日、28日、8月1日、4日)はLIVE映像生配信も実施される等、今だからこその新たなエンターテイメントの提示として、むしろ攻めに出る気概に溢れた企画となっている。
そんな公演の初日7月20日は、奇しくも10年前産声をあげたSHOW-ismシリーズ第一弾『DRAMATICA/ROMANTICA』の初日の日でもあって、ピッタリ同じ日時で『SHOW-ISMS』が初日を迎えることになったというのも、非常に運命的な話だ。
その『Version DRAMATICA/ROMANTICA』に集ったのは、このシリーズを支えた黄金メンバー彩吹真央、JKim、知念里奈、新妻聖子、井上芳雄の面々。歌、ダンス、ミュージカル、ストーリースケッチ等、多彩な要素が詰まったステージとして知られるが、今回は特にショー的要素を前面に出して繰り広げられ、微かに潜む毒気や、歴史に残る暗い背景を取り入れることで、逆に美しさを照射してくる小林香の世界の中でも、「みんなでハッピーになろう!」のテーマがより明確に提示される形になった。
何しろメンバー全員がパワフルに歌い上げられる面々だから「Cinema Italiano」(映画「NINE」)や、「クエスチョン・オブ・オナー」(サラ・ブライトマン)等、これまでの上演の紹介映像に続いた、冒頭の歌唱から既にフルスロットル。1人1人が単純にソロで歌っても聴きごたえたっぷりだが、そこは『DRAMATICA/ROMANTICA』であり、『SHOW-ISMS』。5人が様々に絡み、踊り、立ち位置を変えていくことで魅せる要素も加わっていく。
中でも圧巻だったのは、20分に及ぶミュージカルメドレー。J Kimの歌い出しからゾクゾクさせる『ライオンキング』の「サークル・オブ・ライフ」のような、待ってました!の楽曲もあれば、新妻聖子の美声と更に新鮮なアレンジでハッとさせられる『ラ・マンチャの男』といった興趣に富んだ選曲もある多彩さで、『レ・ミゼラブル』『CATS』『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』『ウェディング・シンガー』『ルドルフ・ザ・ラストキス』等々、非常に凝った構成が楽しめる。知念里奈のいつまでも失われないヒロイン力。彩吹真央のパッショネイトでありつつコケティッシュでもある表現。そして日増しに頼もしさを増す井上芳雄の存在そのものと、言うまでもない歌唱力が、全員が純白のフォーマルな衣装につながっていく後半部分へと舞台を流れるように進めていた。
特に、やはり井上のトークのあっけらかんと毒づいているようで、自分を落とすことこそあっても実は誰も傷つけない絶妙さが、こうした場を巧みに回していく様は見事。チーム感がしっかりと出来上がっている女性陣のツッコみや返しも面白く、これはその日その日の大きなお楽しみになることだろう。配信のカメラを十二分に意識した場面もあり、劇場では見られない、LIVE映像でしか受け取れないアプローチも多くあると思う。新しい上演スタイルとしての姿勢も美しかった。
そんな5人の多彩なハーモニーを楽しんだあとは、SHOW-ism Ⅷとして2015年に上演された『∞/ユイット』のコーナーへ。曰くある人々が住むパリのホテルを舞台に繰り広げられ、シアタークリエ初の客席にせり出した特設ステージや、三階建てのセット、俳優陣が客席にワインサービスを行う等、小林香らしい実験的な試みも多く含まれたステージが思い出される。ヒロインを演じた蘭寿とむのメッセージ動画が流れたあと、出演キャストの井上と彩吹が作品内容の解説や、思い出話を語って、劇中で歌われた「マンボ・イタリアーノ」へ。
井上がジゴロで、彩吹がイタリアからパリへやってきた娘だ、との説明をした折「ジゴロって初めて。やったことがない」という井上に「ジゴロやったことがないの?私はやってる。宝塚ではよく出てくるから」と彩吹が宝塚歌劇団の元男役ならではの返答をすると、「あぁ『メランコリック・ジゴロ』とかね」と、宝塚で再演が繰り返されている人気作品のタイトルがポンと井上から出る嬉しい驚きも。そんな二人による「マンボ・イタリアーノ」は、歌もダンスもまさにシアトリカルで、たった1曲の中に『∞/ユイット』の世界が存分に表現されていた。
そこから、7月28日にスタートする『Versionマトリョーシカ』を一足早く体感できる、新作『マトリョーシカ』のコーナーへ。
『マトリョーシカ』は現代日本の高校にある夜間コースに通う、それぞれの事情を抱えた大人であり、高校生である「生徒」たちと、クラスに赴任してきた熱血漢とは違うものの、信念を持って真っ直ぐ突き進むバンビ先生とが繰り広げる青春物語。2019年に宝塚歌劇団を惜しまれつつ退団後、コンサートや独特のセンスのファッション等で個性を発揮している美弥るりかの、外部初主演作という位置づけでもある作品だ。
揃って登場したキャストの美弥るりか、平方元基、夢咲ねね、樋口麻美、下村実生、今拓哉、保坂知寿が、それぞれの役柄やストーリーを解説したのち、美弥演じるバンビ先生が、生徒たちへの想い、未来への願いをこめて歌う「月明かりの下で」から楽曲披露がスタート。
美弥の中性的な持ち味が舞台に生きている。平方のヌーボと今のおやっさんが、偏見を捨てて歩みよる「Empathy1」。保坂演じるのりちゃんと、樋口の番長、夢咲のモモという、夜間クラスの年齢も経て来た道も異なる女性たちと、のりちゃんの娘ののぞみを演じる下村が歌い継ぐ、「Empathy2」とオリジナル曲が続いて、バンビ先生の指揮で生徒全員が歌う合唱曲「翼をください」へ。平方、今、保坂、樋口、夢咲と揃っているのだから当然ながら、誰もが知る、ひょっとしたらベタとも言えるかも知れない楽曲が、思わず涙を誘うほどの美しいパワーで届けられ、作品が全貌を表す『Versionマトリョーシカ』への期待が高まった。
最後は『DRAMATICA/ROMANTICA』の面々も加わり、総勢12名での大合唱。それぞれがソロを取る場面では、配信カメラにたっぷりアピール。全員が劇場で演じ、歌える喜びを語りあい、熱いパフォーマンスを繰り広げるだけでなく、更にその作品が全国どこにいても受け取れる。そんなエンターテイメントの形が更に広がっていくのを感じる、『SHOW-ism』シリーズ10周年に相応しい作品の飛翔を感じるステージだ。
【公演情報】
『SHOW-ISMS』
作・演出◇小林香
『Version DRAMATICA / ROMANTICA』
出演◇
『DRAMATICA / ROMANTICA』彩吹真央 JKim 知念里奈 新妻聖子 井上芳雄
『∞ / ユイット』 井上芳雄 彩吹真央
『マトリョーシカ』 美弥るりか / 平方元基 夢咲ねね 樋口麻美 下村実生 今拓哉 保坂知寿
●7/20~25◎シアタークリエ
『Version マトリョーシカ』
出演◇
『マトリョーシカ』美弥るりか / 平方元基 夢咲ねね 樋口麻美 下村実生 今拓哉 保坂知寿 / 塚本直 神谷直樹 池田美佳 井上真由子
『Underground Parade』中川晃教 彩吹真央 藤岡正明
『TATTOO 14』シルビア・グラブ 保坂知寿
『ピトレスク』クミコ 中川晃教 JKim 保坂知寿
(『Underground Parade』『TATTOO 14』『ピトレスク』は日替わり出演。詳細は公式ホームページ参照)
●7/28~8/4◎シアタークリエ
※全日程座席券完売。
〈作品公式サイト〉https://www.tohostage.com/showism9/index.html
【配信情報】
日程:7月20日、23日~25日、28日、8月1日、4日
イープラスの配信サービス・Streaming+でのライブ映像生配信を実施。
〈視聴料金〉4000円(税込)
〈視聴場所〉https://eplus.jp/showisms/
※生配信のみ。アーカイブ視聴なし
【文・撮影/橘涼香】
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