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明治座五月公演『細雪』 姉妹役を演じる一路真輝・瀬奈じゅん・水夏希インタビュー

水夏希・一路真輝・瀬奈じゅん

谷崎潤一郎原作、菊田一夫脚本による、女優芝居の傑作『細雪』が、新元号「令和」元年5月4日から明治座の舞台で華やかに上演中だ。(27日まで)

昭和十年代の大阪・船場を舞台に、徳川時代から続く老舗木綿問屋の四姉妹が、時代の波に翻弄されながらも、美しくあることとその誇りを捨てずに生き続ける姿が、紅枝垂桜に象徴されて描かれていく不朽の名作だ。そんな舞台で、姉妹を演じる次女・幸子の一路真輝、三女・雪子の瀬奈じゅん、四女・妙子の水夏希、元宝塚歌劇団トップスターでもある三人が、名作に臨む意気込みを語り合ってくれた「えんぶ6月号」のインタビューのロングバージョンを、別カットの写真とともにお届けする。

それぞれに描いてきた「いつか」

──まず伝統ある『細雪』の舞台へのオファーを受けた時の気持ちはどんなものでしたか?

一路 長年受け継がれ続けてきた名作ですし、宝塚の素晴らしい諸先輩方、更に後輩たちも含めて出演されていましたから、いつか参加させて頂けたらという想いは20年以上前から持っていたので、遂に声をかけて頂けたという有難い気持ちで一杯でした。

瀬奈 私も「いつか出演できたらいいね」という話こそマネージャーともしていましたが、それは本当にずっと先に、年齢を重ねて貫禄も備わった時に長女の鶴子役などで、とのあくまでも気持ちの中での目標で、三女の雪子役をとは想像したこともありませんでしたから、驚きと嬉しさでワクワクしました。

 私は『細雪』と自分とは全く別世界にいると思っていたので、「誰かと間違えていませんか?」くらいの寝耳に水でした(笑)。でも『細雪』にお声がけ頂けるというのは本当に名誉なことですから、なんて光栄なんだろうと感じました。

役への憧れと共感にリアリティーを加えて

──その中でそれぞれ演じる役柄についてはいかがですか?

一路 私が次女の幸子を演じさせて頂くと決まった時から、驚くばかりに多くの方々から「一路さんピッタリ!」と言って頂けたことにプレッシャーを感じています。幸子は谷崎潤一郎先生が奥様をモデルに書かれた全てに整った女性で、私自身はしっかりしてそうに見えがちなだけで、実は全くしっかりしていませんから(笑)。とても高い目標なのですが、イメージに合うと言って頂けることを頼りに、それを裏切らないように頑張りたいです。

瀬奈 私は逆に発表になった後から「意外だね!」とたくさんの方から言われました(笑)!雪子は四姉妹の中で実は1番強い人で、1番理想を叶える永遠のヒロインだなと感じるので、一路さんとは反対に良い意味で私のイメージを裏切らないと!と思っています。ただ私をよく知って下さっている方からは「そんなに遠くないよ」と言って頂きますし、自分としても違和感ではなく雪子に対する憧れも感じるので、大切に務めていきたいです。

 私は宝塚時代も含めて着物を着るお仕事の経験がとても少ないので、まずそこが大変だなと思いましたが、幸い妙子は洋装も多いですし、自立して信念を貫く女性ですから憧れと同時にとても共感できます。妙子のモデルは谷崎先生の奥様の妹さんなので、実際に生きた人としてのリアリティーを持って演じたいです。

一路真輝

舞台を降りると高嶺の花じゃなくなる

──折角の機会なので、是非お互いに感じる魅力を教えて下さい。

 いずみさん(一路)はやっぱりギャップですよね!世間の方々は「幸子さんがピッタリ」とおっしゃり、ご本人は「私は幸子とはほど遠いのよ」とおっしゃる、そのギャップが魅力だなと思います。とは言えその魅力を知ったのは退団後『エリザベート・ガラコンサート』や、『キス・ミー・ケイト』でご一緒させて頂いてからで、宝塚在団中には同期生はお世話になっているのですが、私自身は残念なことにほとんど接点がなかったんです。でもそれほど学年が離れていても、全く隔たりなく人として向き合って下さるのも魅力です。そう考えるとアサコさん(瀬奈)もやっぱりギャップですね。男役時代の「瀬奈じゅん」さんと、本名のアサコさんとのギャップが、大きな魅力でした。そこから退団されて、女優として活動されていく中で、本名のアサコさんの魅力がどんどん前に出ていらして、柔らかくなられたし、お子さんも育てられて視野を広げていらっしゃるのも魅力です。

瀬奈 私は宝塚を退団してすぐ一路さんと同じ役をさせて頂いたんですが、お稽古場で役を演じている時と、そうでない時があまりにも違っていて、あまりにも違っていて!

一路 2回言うし(笑)。

瀬奈 良い意味で普通の感覚を持っていらっしゃるんです。私も自分が宝塚の初舞台生、『この恋は雲の涯てまで』の時に、一路さんから「芸名の由来は?」などのインタビューをされている映像が残っている以外には、在団中全く接点がなかったんです。そんな全く知らなかった下級生である私が、女優として歩み出した時に、この先の見通しの話をしてくださったんです。

一路 私が?

瀬奈 一路さんにとっては何気ない言葉だったと思うのですが「まだ結婚や、子供を産むことなどは全く考えていないと思うけど、したいと思った時にしないと後悔するよ。舞台の仕事って何年先のことまですぐに決まっていくけど、もしこれと思う時に何かあったら私が代役でもなんでもするからね!」って言ってくださったんです、普通に更衣室で着替えている時に(笑)。それに対して自分が素直に「ありがとうございます」って言えたことにもびっくりして、確かにその時点で私も3年先くらいまで舞台のお仕事が決まっていて、こうやって進んでいくものなんだと感じていたところでもあったので、あの時の一路さんの言葉がなかったら、子供を持ちたい、その為に仕事を休もう!という勇気は持てなかったと思うし、おそらく結婚もできなかったと思います。

一路 待って!そんなに思ってもらってたなんて!

瀬奈 いえ、本当に。それくらい私にとって大きな言葉を普通におっしゃるんです。正座して「アサコ聞いて」とかではなくて(笑)、ごく普通になんでもないことのように言ってくださる感覚がとても素敵で、私がこう在りたいと思える女性像です。舞台だけを観ていると本当に近寄り難い高嶺の花に感じる方ですが、舞台を降りると申し訳ない表現ですが、高嶺の花じゃなくなる(爆笑)、すごく身近なお花になるのが魅力です。

瀬奈じゅん

全く違う視点で同じ頂上を目指していた

──水さんについてはどうですか?

瀬奈 チカちゃん(水)はすごく真面目なんだけど、その真面目に考える方向性が私とは全く違っていて、ハッとさせられることが多いです。組替えでチカちゃんが花組に来て初めて同じバウホール作品に出た時に、朝お化粧をしながら「アサコさんこれ見て!」と、自分の喉のレントゲンを私に見せたんです!

 本当に?

瀬奈 「どうしたの?首をおかしくしたの?」って訊いたら「自分の喉の構造を知りたくてレントゲンを撮りにいった」って言って、どこも悪くないのにレントゲンを撮ったって言うからもうびっくりして!(笑)

 覚えてないです!(笑)アサコさんは本当に記憶力が良くて、私が全然覚えていないことを、こうして話してくださるんです!

瀬奈 うん。だから私が覚えていることとチカちゃんが覚えていることの種類が全然違うんだと思う。そういうところを調べるの?そういうところを突き詰めるの?というのが見ていてすごく面白いし、若手の男役としてお互いに切磋琢磨している時からずっとそうでした。「あぁ、チカちゃんはこういうところを研究するんだ。じゃあ私もやってみよう」という風に高め合えたんです。だから私の宝塚人生において、チカちゃんと同世代で一緒に励んだ時期を持てていなかったら、私はここまで成長できなかったかもしれないと思う、とても大きな影響を受けた人です。それくらい違う観点で物事を考え、違う視点で見られる人なので勉強になります。しかも一見サバサバして見えるけれど、とても女の子の部分、女らしいものを持っているので、それも見習わないとと思います。

 ありがとうございます。確かに私達スタート時点から違いましたよね。

瀬奈 うん、でも目指すものや信念は同じだったと思う。そこに向かっていくプロセスが違うだけで。

 そうですね。富士登山を御殿場口から行くか、吉田口から行くか、みたいな感覚で。

瀬奈 そうそう。ルートは違うけけれど、目指す頂上は同じだったよね。

水夏希

 

学年差を越えて語り合える

──お二人の話を聞いてどうですか?

一路 二人は1学年違いだから、同じ時代を過ごしたんだなぁと感じます。私とアサコは10年違うんだよね?

瀬奈 はい、学年で言うと10学年違います。

一路 宝塚の中で10年違うというのは、ものすごく違うことなんです。でもそんな二人と今こうしていられるのは、私のことを「普通の人」と言ってくれていたけれど、それは二人が人の話を聞こうとする姿勢を常に示してくれているからなんです。アサコちゃんにした結婚や将来の話も、波動が合わない人にはできないと思うんですね。でも彼女とは10年の学年差があってもそういう話ができた。私は当時お稽古場で疲れ切っていても、「幼稚園に娘のお迎えに行かなくちゃ、後は頼むね!」ということもしていて。その時にアサコが「任せて下さい!やっておきます!」と言ってくれていたことが本当に頼もしかったし、通じるものがあったんです。思うところが同じだった。それはつまりアサコと違うことをしているようでいて、同じものを目指していたチカちゃんとも一緒だと言うことで。チカちゃんとは2年前に初めて共演しましたが、私が頼り切って「先輩!」と呼んでいるくらいで(笑)。私が持っていないものを持っているから、悩んだ時に相談すると確実な答えが返ってくるし、そうかと思うと「イチロさんその発声はどうやっているんですか?」とこれまで後輩から訊かれたことがないな、ということを訊いてきてくれて、凄く話が盛り上がったりもするんです。だから今回この三人がこうして同じ舞台上にいるのが奇跡だし、なるべくしてなった姉妹という気がするのがとても嬉しいです。二人共下級生ですが、舞台でも人間的にも尊敬する、大好きな二人です。

──そんな皆さんの共演が本当に楽しみですが、では改めて意気込みをお願いします。

 これだけ長く愛されてきた名作に名前を連ねることができるのはとても光栄で、責任も感じています。今できる精一杯で舞台に誠実に向き合って、四姉妹の世界を楽しみながら演じられるように頑張りたいと思います。

瀬奈 私は明治座に出演させて頂くのは初めてで、観客として観に来るのが大好きな劇場なんです。客席でお弁当が食べられたり、休憩時間にゆっくりお茶を楽しんだりもできる明治座の雰囲気まるごとが大好きですから、そこに自分が出演できることがまず本当に幸せです。私は実生活では兄しかいなくて、小さい頃から姉妹というものにすごく憧れていたので、ここは三人の姉妹に嫌われても良いから(笑)。自分をさらけ出して「末永くよろしくお願いします」という気持ちです。そういう気持ちで新元号「令和」の新しい『細雪』を楽しみにして頂けたら嬉しいです。

一路 舞台だけを見ていると、四姉妹が反発しあったり、苦労をかけあったりもするのですが、それはやっぱり血の通った実の姉妹だから、どんなに反目してもまた姉妹として戻っていけるんだと思います。私たちは長女の鶴子の浅野ゆう子さんを含めて、血はつながっていませんけれども、四人揃った時に自然体でいられるんです。少しも飾らずいつもの自分のままで会話ができる、様々に背負っているものがある女優同士として、それはとても貴重なことだなと自負しています。そういう四人が演じる四姉妹の物語を、この四人だからできる『細雪』を絶対に創ります!

瀬奈 断言しちゃった!

 しちゃいましたね!

一路 言っちゃった!(笑)。そんな『細雪』を観に、作品のファンの方も、宝塚ファンの方も、初めてご覧になる方も、是非明治座にいらして下さい!お待ちしています!

水夏希・一路真輝・瀬奈じゅん

いちろまき〇愛知県出身。82年宝塚歌劇団に入団。93年雪組トップスターに。96年日本初演となったミュージカル『エリザベート』のトート役を最後に宝塚を退団。以降、女優としてミュージカルを中心に活躍、近年ではストレート・プレイにも積極的に挑戦している。第22回菊田一夫演劇賞、第12回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。第37回松尾芸能賞受賞。

せなじゅん〇東京都出身。1992年宝塚歌劇団に入団。05年から月組トップスターをつとめ09年退団。以後、女優として『エリザベート』『アンナ・カレーニナ』をはじめとするミュージカルやストレートプレイの主役をつとめ、また映像でも活躍中。2012年に菊田一夫演劇賞演劇賞、岩谷時子賞を受賞。

みずなつき〇千葉県出身。1993年宝塚歌劇団入団、2007年雪組男役トップスターに就任。2010年退団後は、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』、リーディング『パンク・シャンソン~エディット・ピアフの生涯~』、ミュージカル『キス・ミー・ケイト』、『ラストダンスーブエノスアイレスで。聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』等舞台を中心に活動中。

【公演情報】

明治座5月公演『細雪』

原作◇谷崎潤一郎

脚本◇菊田一夫

潤色◇堀越真

演出◇水谷幹夫

製作:東宝

出演◇浅野ゆう子 一路真輝 瀬奈じゅん 水夏希 ほか

●5/4~27◎明治座

〈料金〉S席13,000円(1階席・2階前方席)、A席9,000円(2階後方席・車いすスペース)、B席6,500円(3階席)

〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10時~17時)

https://www.meijiza.co.jp/lineup/2019/05/

 

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岩田えり】

 

 

 

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