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人の愛憎の普遍性が描かれる、舞台『サロメ奇譚』上演中!

時代を超えて上演され続けるオスカー・ワイルドの不朽の名作「サロメ」を、現代に置き換え、とある一家の一晩の出来事として描く舞台『サロメ奇譚』が池袋の東京芸術劇場シアターイーストで上演中だ(31日まで。のち4月9日~10日大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演)。

舞台『サロメ奇譚』は新約聖書を基に、19世紀文学の旗手と呼ばれるオスカー・ワイルドが書いた戯曲を、主宰する演劇ユニット「ブス会*」を始め、近年ではTVドラマの脚本にも活躍の場を広げているペヤンヌマキの脚本、文学座に所属し2013年に初演出以降、多くの劇団内外作品で演出を担当する稲葉賀恵演出により、現代日本のとある家族の物語として描いた作品。

元宝塚歌劇団雪組トップスターで、退団後はミュージカルのみならず、台詞劇や映像作品へと活躍の場を広げ、芸能生活30周年を迎えた朝海ひかるがサロメを演じるのをはじめ、非常に幅広い出自を持ったキャストが起こす化学反応が、不思議な味わいを深める舞台になっている。

【STORY】
豪華なパーティが開かれている邸宅の、微かに喧噪だけが聞こえてくるプライベート空間。
この館の一人娘サロメ(朝海ひかる)は両親に心底うんざりしていた。血の繋がりのない義父ヘロデ(ベンガル)は常に自分を性的な目で見て、下品な言動を繰り返す。実の母であるはずのヘロディア(松永玲子)も、サロメに過度な「女らしさ」を求め、一方で彼女の美しさに嫉妬していた。この夜も、実業家で資産家でもあるヘロデの還暦祝いが開かれていて、地元の名士に見初められるようにと、へロディアからドレスを着ることを強制されたサロメの気持ちは苛立つばかり。そんな中、突然現れた預言者ヨカナーン(牧島輝)は「権威ある者の破滅」を予言する。動揺したヘロデはすぐにヨカナーンを捕らえるが、一方でサロメは彼に急速に惹かれていく。そのことを境に、誰もが知る「悲劇」への歯車がゆっくりと回り出して……

耽美、退廃、懐疑などの言葉が次々に浮かんでくるオスカー・ワイルドの代表作のひとつ「サロメ」と言えば、やはり最も強烈に思い出されるのが、1894年に出版された英訳版でのオーブリー・ビアズリーの挿画だろう。恋する人に顧みられなかった王女サロメが、相手の首を欲し、銀の皿に乗って運ばれてきた生首を手にする挿画が放つ背徳の香りは、それがモノクロだけに尚強い印象を残している。

そんな「サロメ」の舞台を現代に置き換えるという、この作品の着想を聞いた時には正直かなり驚いたし、相当に生々しい、更に言えばおどろおどろしい物語になりはしないかという、一抹の危惧を抱いたのも本当のところだ。だが、東京芸術劇場シアターイーストの舞台面いっぱいに建て込まれた池宮城直美の美術、武田久美子の衣裳、松本大介の照明などのスタッフワークが描き出した「豪邸のなか」という設えが、そうした現実感を巧みに薄れさせ、古代パレスチナの王の一族の物語を、現代のある実業家一家の物語に変換していく様には、逆の意味で驚いたほど違和感がない。

何しろ劇中に「サロメって変な名前でしょう」という台詞があるのだが、言われるまで全くおかしいとは思わなかったばかりか、むしろ今まで観たどのサロメよりも、彼女が預言者ヨカナーンの首を求める心情が理解しやすいのだ。このことひとつにもペヤンヌマキの脚本の見事さが凝縮されていたし、稲葉賀恵演出の、非常に緻密に見せる部分と、演劇の想像力に大胆に任せる部分のバランスも実に絶妙。これによって作品のトリッキーな道具立てとは裏腹に、描かれている人の感情や愛憎は、時代も国籍も人種も越えたものなのだという、普遍性が照射されていく様が鮮やかで、「サロメ」の翻案という着想の意義を感じさせた。

そんななかに集ったキャストが、出自も個性もそれぞれ全く異なることが、それぞれの感情と思惑が交錯していくドラマ性を高めている。

主演のサロメの朝海ひかるは、ダンスに秀で神秘性を多く有していた宝塚時代の印象を良い意味で裏切る、非常に多岐に渡る役柄を様々に演じてきた退団後の経験が、現代のサロメに生きている。実母と義理の父親の再婚から、突然境遇が変わり、更に義父が財を成した職業によって周りから白い目で見られるという非常にわかりやすい設定のなかで、両親を疎んじ、ここから逃れたいと願っている女性の渇望感がよく表れている。そんなサロメがヨカナーンに仮託した夢と、それが叶えられないとわかった時の決意が、あまりにも有名な「七つのヴェールの踊り」に噴出し、朝海持ち前のダンス力も十全に生きる構成も見事。芸能生活30年から31年目に向かう、妖艶と無垢が並び立つ朝海のこれまでの歩みが凝縮した、節目の公演に相応しい主演ぶりだった。

サロメの母ヘロディアの松永玲子は、劇団「ナイロン100℃」の看板女優であり、舞台を中心に映像、ナレーション、またコラムニストとしても活躍している人だが、朝海の無表情から浮かび上がる表情とは対照的な、実に多くの感情が演技はもちろん、非常に多彩な表情変化に現れてくるのに惹きつけられる。娘を支配する絶対的な母親であろうとしながら、その若さと美しさに複雑な思いもいだく人物が恐ろしくも哀しくもあり、十二分に主張しながら、全体の調和を壊さない在り方が際立った

預言者ヨカナーンの牧島輝は、2.5次元ミュージカルで脚光を浴び、台詞劇、朗読劇にも活躍の幅を広げる期待の若手俳優だが、登場した刹那に舞台の空気を変える力の大きさを強く感じさせてくれる。作品のなかで預言者ヨカナーンにのみある意味で翻案がなく、人々が預言者をそのまま受け入れていくという一種独特の展開も、この人の辺りをはらう存在感がねじ伏せていて、いかようにも取れる異質さの表現が、作品の根幹を支えていた。

サロメの義父ヘロデのベンガルは、徹頭徹尾下世話な小物感を放ち続けることで、この現代の「サロメ」の設定の根幹を担っている。還暦の祝いという形で身に着ける「ユダヤの王」との接点になる衣裳にも、どこか滑稽味をにじませていて、サロメの孤独と嫌悪に説得力を与える力になっていた。

そのヘロデに付き従う南部を演じる東谷英人は、「DULL-COLORED POP」作品を中心に多くの舞台で活躍している俳優で、今回の役どころが全体の語り部を兼ねているだけに、座組のなかでも頭ひとつ抜けている活舌の良さと通る声が、現代のサロメの設定を無理なく客席に届けてくれる役割りを果たして非常に貴重だった。

同じく奈良を演じる伊藤壮太郎は、舞踊家としての活躍が顕著だが、この作品に登場してくる人物像のなかで最も裏がない役柄を、ストレートに明るく演じていて、全体のなかの良いアクセントになっている。
もう一人吉田の萩原亮介は一転、この人物のサブストーリーはかなり膨らませられるのでは?と思わせる鬱屈した表現が光り、二役で演じるヘロディアがサロメと結婚させようと画策する金城役では、わかりやすい拝金主義者を濃く見せていて、文学座の座員同士という演出の稲葉との信頼関係も感じさせた。

総じて、ノンストップ90分で綴られる作品の作りも張り詰めた勢いを持続させる効果も大きく、身近で等身大の人々が起こす現代に通じる物語として生れ出た「サロメ」が見せた普遍性に心をつかまれる作品になっていて、ライブ配信も決定した独特の世界観を多くの人に体験して欲しい。

【公演情報】
舞台『サロメ奇譚』
原案:オスカー・ワイルド「サロメ」
脚本:ペヤンヌマキ
演出:稲葉賀恵
出演:朝海ひかる 松永玲子(ナイロン 100℃) 牧島輝  ベンガル
東谷英人(DULL-COLORED POP) 伊藤壮太郎 萩原亮介
●3/21~31◎東京・東京芸術劇場 シアターイースト
〈料金〉8,800 円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場(東京)0570-077-039
●4/9~10◎ 大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉9,500 円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888
〈公式 HP〉https://www.umegei.com/salome2022/
〈Twitter 〉@salomeoddities

【ライブ配信情報】
日時:3/26/17時公演(生配信)
アーカイブ視聴期間:生配信終了後~3/28(月)23:59まで視聴可 ※生配信終了後、アーカイブ開始まで視聴不可の時間が出る可能性有
料金:4,000円(配信のみ)パンフレット郵送サービス付◇6,000円 ※パンフレットは配信終了後、4月9日頃までを目途に順次発送。要・送料別途。
チケット販売期間:3/28/22:30まで購入可
購入方法詳細:https://www.umegei.com/salome2022/special.html#live
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(受付時間10:00~18:00)

 

【文・撮影/橘涼香】

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