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珠玉のミュージカルナンバーが描く究極の愛 ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』!

メガヒットミュージカルとして、旋風を巻き起こし続けているミュージカル『ロミオ&ジュリエット』が、2月23日〜3月10日までの東京国際フォーラム・ホールC、3月22日〜24日の愛知・刈谷市総合文化ホールでの上演を大好評のうちに終え、3月30日〜4月14日まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演される。

シェイクスピアの不朽の名作を題材に、どれをとっても心に響くジェラール・プレスギュルヴィックの名曲の数々を配したフレンチ・ミュージカルとして2001年に生まれたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』。世界中で喝采を集めてきたこの作品は、2010年の宝塚歌劇星組での本邦初演以来、小池修一郎の潤色・演出のもと、様々な形態での上演を重ねてきた。今回2019年の上演は、2017年に「破壊された近未来を思わせる世界の中で繰り広げられる『ロミオ&ジュリエット』」という、日本オリジナルバージョン新演出版の再演で、ロミオ役に古川雄大と大野拓朗。ジュリエット役に生田絵梨花と木下晴香の続投キャストに新キャストの葵わかなを加える等、新たな顔ぶれも多く加わっての上演となった。

基本的にコンセプトは今回も、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の永遠性が、現代から近未来に舞台を移しても成立する、という潤色・演出の小池の信念を貫いたものとなっていて、より華やかさを感じさせる色彩が加わってはいるものの、大枠の設定は2017年版と変わらない。登場人物たちはスマホを手にし、ロレンス神父はパソコンを操りアロマテラピーの研究をしていて、LINEの一斉送信に「既読スルー」とため息をつく若者たちによって、ロミオとジュリエットが秘密裏に挙げたはずの結婚式は、写真に収められ瞬く間に街中に拡散されていく。
そうした作品の舞台を現代から近未来に移すという作業は、小池が日本オリジナルバージョンを創った2011年から、現代のツールならではのマイナーチェンジはあるものの、大枠としては変わっていない部分でもあって、宝塚歌劇団での上演バージョン以外の、日本の『ロミオ&ジュリエット』は、こういう世界観の中で運ばれるものだということは、もう揺るがないのだろう。愛が死に勝利する為にはあまりにも大きな犠牲が必要で、この地上に争いのない場所を創り出せていない人類にとって、この重いテーマは、確かに中世イタリアでも現代でも悲しいかな通用してしまうものだからだ。

ただ、やはりそういうテーマ以前に、物語を現代に持ってきたからこその軋みもあって、18歳になるまでは携帯電話を持つことを禁じられているというジュリエットの設定は、2019年の今ほぼ崩壊してしまっているし、ロレンス神父がここまで重大な話を1通のメールで済ませ、その返信がないにも関わらず行動を起こさない為に(百歩譲ってメールに返信がない時点で電話をかけるはずで、そうしてさえいればロミオが携帯電話を失っている可能性に少なくとも気づける)、神父があまりにもうっかり者に見えてしまうことは、何か別の手段を考える時期なように思う。現代だとわかって観ているにも関わらず「パーキングからエレベーターに」等の台詞を聞くと、いちいちドキッとするのは、やはりどこかで作品の持つロマンと現代の設定とに、開きがあるからなのだろうなとも思う。

だが、そうした舞台を現代に移した故に起こるなにがしかの軋みが、いつしかどうでもよいことにも思われ、この作品に触れている、客席に座っているだけで幸せだと思えるのは、プレスギュルヴィックが書いた数々のミュージカルナンバーの、神業としか思えない美しさと、その音楽の中で舞台を生きる役者たちの熱量の高さがもたらす、ライブならではの充足感が、この作品の隅々にまであふれているからこそだ。様々なキャストの組み合わせにも、独特の妙味があり、幕が下りてきた途端に、壮絶なチケット難の中でも次の観劇を真剣に考えている、作品の持つ甘美な中毒性には、底知れぬものがある。


その魅力を支えるキャストたちは、2013年からロミオを演じている古川雄大が、『モーツァルト!』のタイトルロールをはじめ、ミュージカル作品の中心を成す数々の経験を積み重ねて尚、このロミオ役が不釣り合いにならない貴公子として舞台に位置しているのに驚かされる。特に「僕は怖い」での死のダンサーとのほの昏いデュエットダンスに特段の魅力があり、ロミオが他の若者たちとは異なる感性を持っていることをストレートに感じさせる。この作品のあと『エリザベート』で、今度は自らが「死」=トートを演じることが決まっているが、役柄との親和性が計らずもこのロミオ役で浮き彫りになったのが、新たな興趣を生むロミオ像だった。

もう1人のロミオの大野拓朗は、この作品にはじめて接した日から8年間、1日も欠かさずに『ロミオ&ジュリエット』のミュージカルナンバーを勉強し続けてきたという、その想いの深さが温かで真摯な好青年としての、大野ならではのロミオ像に結実している。元々器用なタイプでは決してないのだろうと思うが、だからこそ彼が重ねてきた努力がロミオ役を輝かせていることに胸が熱くなるし、2017年時からも確実な進化が見て取れて、作品と大野との幸福な邂逅が、観ている者も幸福にしてくれる、甘く優しいロミオになった。

対するジュリエットは、やはり生田絵梨花の完璧な恋する乙女ぶりと、その愛らしさに目を奪われる。生田もまたこの期間に『モーツァルト!』のコンスタンツェ、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』のナターシャと、大役を務め続け、ミュージカル界のプリンセスとしての地位を確立しているが、それでも尚完璧な乙女であり続けるのが、「アイドル」としての1つの記号も持つ生田の強み。『レ・ミゼラブル』のコゼット役が控えることから出演回数が少なく、残る出演は大阪公演の初日のみという希少さだが、歌声にも長足の進歩を感じる見事なジュリエットだった。

このジュリエット役でミュージカル界に彗星の如くデビューした木下晴香は、この2年間の蓄積で演技面に長足の進歩があり、元々歌の上手さは折り紙つきだった人だけに、堂々のヒロインぶり。生の若さを必要とするジュリエット役は、必然的に演じられる期間が短いだけに、急速に花開いている木下を見るにつけ、大人になるのはもう少し待って!というわがままな気持ちも浮かんだ。貴重な機会を大切に目に残したい。

もう1人今回初登場のジュリエット葵わかなはこれが初舞台。如何にもフレッシュな体当たりの演じぶりで、歌唱も初々しさを残しながらよく健闘していて、これもまた今しか観られないジュリエット。思った以上に小柄なことも、ジュリエットの一直線に突き進む若さに通じていて、長身の古川、大野両ロミオとの身長差も、守ってあげたいヒロイン感を増幅していた。

また、重要な役柄の若者たちも、今回新たな顔ぶれの多いWキャストが組まれていて、それぞれによって役の色合いが違って見えてくることが面白い。

その筆頭、ベンヴォーリオの三浦涼介が強い印象を残して目を引く。本来の持ち味はマーキューシオ寄りではないかと思わせたものだが、三浦のベンヴォーリオには、ロミオに最も近い親友だという空気が満ちていて、ロミオを思うあまりに悲劇の引き金を引くことになってしまう役柄の立ち位置が明白になった。更にヴェローナ大公の裁きの場で、ここまで自分がロミオを守る!という強い意志を噴出させたベンヴォーリオは初めてで、三浦の繊細な個性と相まって見応えたっぷり。大曲「どうやって伝えよう」も表情豊かに歌いきり、終幕のロミオの亡骸に別れを告げる様と、両家を結び合わせていく行動に胸が痛くなる、三浦が演じたからこそ生まれ出たベンヴォーリオ像になった。

一方、木村達成のベンヴォーリオには、若者らしい闊達さと誠実さがあって、作中1人だけ生き残る役柄、つまり、両家が互いに滅亡するまで相争うきっかけを作る為に「死」によって、生き永らえさせられる人物として選ばれたとも取れるベンヴォーリオに実体感がある。「どうやって伝えよう」にも、生き残った者の苦悩が表れていて、他動的に青春と別れを告げさせられた人物としての、悲しい成長が感じられた。

すべての歯車を狂わせていくマーキューシオは、続投の平間壮一に、ロミオとの友情だけでモンタギュー側に与しているマーキューシオが抱える孤独が、先鋭的な行動を取らせる要因になっていることが見て取れて、やはりこの期間に役をより深めて来たことを示している。対する初参加の黒羽麻璃央からは、敢えて道化的な役割を演じているマーキューシオの屈折がよく表れていて、役柄に相応しい狂気の片鱗も面白く、名ダンサーでもある平間と同じ役を演じていて尚、俊敏な動きを見せたのは大健闘だった。

また、このフレンチミュージカル独自の解釈で、従姉妹のジュリエットを密かに愛しているという設定が加味され、より大きな役柄に描かれているティボルトは、2人共に続投キャストが配された。その1人渡辺大輔が、キャピュレットの継承者である誇りと、ジュリエットへの報われぬ愛への葛藤を、荒々しさも込めて力強く表現しているのに対して、広瀬友祐が観ているだけで痛々しくなるほど、内に秘めた哀しみを表出して、2人の異なる個性さながらに異なるティボルト像がより明確に立ち上っている。これもまた実に贅沢なWキャストで、組み合わせにこだわるとどうしてよいかわからないほど、見比べる妙味の多い2人だった。

そして、東京、愛知公演を通してシングルキャストで「死」を演じた大貫勇輔の、大作ミュージカルでの大役経験の数々が持たらした表現力が、「無表情の表情」とも呼びたい「死」の造形に生きていて、格段の進歩に目を瞠った。大阪公演にのみ登場する宮尾俊太郎の、バレエダンサーならではの、登場するだけで場の空気を変える存在感が加わった時、両者がどう見えてくるか、これは大阪に駆けつけない訳にはいかないという期待感を高めた。

そんなWキャストの面々に受けて立つ大人たちは、今回更に贅沢な顔ぶれが集まった。中でもキャピュレット夫人として初登場した春野寿美礼の、美しさと毒気の表出は、元宝塚歌劇団のトップスターが演じてきた歴代キャピュレット夫人の中でも突出していて、ティボルトと夫人の関係がむしろもっともに思えるほど。娘への嫉妬が入り交じった感情にも、愛のない結婚に苦しむ夫人の懊悩が感じられる出色の出来だった。

もう1人の宝塚出身者秋園美緒が、持ち前の歌唱力で大ナンバーの高音部を見事に支えただけでなく、たぶんに過保護な傾向のあるモンタギュー夫人の振る舞いを、温かく見せているのも印象的。実力派がこうした大役を着実に持ち役にしているのが嬉しい。

また、乳母に再び扮したシルビア・グラブは、音域の広いナンバーをファルセットで歌う部分が格段に少なくなり、よりパワフルな歌いぶりが際立つ。ジュリエットを思うあまり態度を豹変させる乳母の言動に、不自然さを感じさせない、常にジュリエットを思うからこそ、その時に1番良いと思う発言をしているだけだという説得力を乳母役に持たせたのは、特筆に値する。

一方、ロレンス神父には、ヴェローナ大公を演じていた岸祐二が役を替えて扮した。前述したように舞台が現代になっているが為に、このロレンス神父のうっかりぶりにはどうにも難しいものが孕んでいるが、岸の実直な神父像がある種の不器用さにつながって見えてひとつの方向性を示している。終幕神を呪うかのように切々と歌う姿に哀切があり、愛の勝利と共に神父の魂も救われることを願わずにはいられない姿だった。

キャピュレット卿を続投した岡幸二郎は、『1789』のペイロールで聞かせた、あの豊かな美声の岡の声だろうか?と驚かされたほどの野太い声も巧みに使いこんだ歌唱法と、自在な役作りで役柄により深い陰影を与えている。大ナンバーの「娘よ」も切々と訴える表現力が増していて、ミュージカル界の若い人材たちの目標としての役割を果たしている。
更に、パリスの姜暢雄が従来コメディリリーフ的な色合いが強かったパリスを、家柄を鼻に賭けた究極の気障な男として造形したのも新鮮だったし、ソロナンバーのないモンタギュー卿にミュージカル界の貴重な人材である宮川浩が扮したのも実に贅沢。贅沢と言えばキャスティングに驚かされたのが、ヴェローナ大公で登場した石井一孝で、フランス版ではこの街に君臨する「王」であることがクッキリと強調されていたこの役柄に相応しい存在感を発揮。それでいて、どこかに温かさもあるのが石井ならではで、これはロミオにかける温情にストレートにつながる味わいになった。大公登場と共に照明で作られる白い道や、ソロで残る演出になった「ヴェローナ」も印象深く聞かせ、実に効果の大きな起用だった。

何より誰もが知っているロミオとジュリエットの物語の結末が、「死」の勝利でなく、「死」の敗北=「愛」の勝利に変換される瞬間の鮮やさは、やはりいつまでも目に残り、大阪公演中の4月12日に上演回数200回を達成する、記念の公演に相応しい輝きを持った舞台となっている。

 

〈公演情報〉

ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
原作◇ウィリアム・シェイクスピア
作・音楽◇ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出◇小池修一郎
出演◇古川雄大/大野琢朗(Wキャスト) 葵わかな/木下晴香/生田絵梨花(トリプルキャスト)
三浦涼介/木村達成(Wキャスト) 平間壮一/黒羽麻璃央(Wキャスト) 渡辺大輔/廣瀬友祐(Wキャスト)
春野寿美礼 シルビア・グラブ 岸祐二 宮川浩 秋園美緒 姜暢雄 石井一孝 岡幸二郎 大貫勇輔/宮尾俊太郎(Wキャスト)※宮尾俊太郎は大阪公演のみの出演
●2/23〜3/10◎東京国際フォーラムホールC
〈料金〉S席13,000円 A席9,000円 B席5,500円
〈お問い合わせ〉ホリプロチケットセンター03-3490-4949(平日10時〜18時/土曜10時〜13時/日曜祝日休み)
●3/22〜24◎愛知・刈谷市総合文化センター
※生田絵梨花、宮尾俊太郎は出演致しません
〈料金〉S席13,000円 A席9,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉中京テレビ事業 052-588-4477(平日10時〜17時)
●3/30〜4/14◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席13,000円 A席9,000円 B席5,000円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800(10時〜18時)
公式ホームページ http://www.umegei.com/romeo-juliette/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

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