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宝塚星組礼真琴&舞空瞳の鮮やかなプレお披露目!『ロックオペラ モーツァルト』

宝塚歌劇星組の新トップコンビ礼真琴&舞空瞳のプレお披露目公演であるフレンチ・ミュージカル『ロックオペラ モーツァルト』が、池袋の東京建物Brillia HALLのこけら落としシリーズとして上演中だ(15日まで)。

『ロックオペラ モーツァルト』は2009年にパリで初演され、大ヒットとなったフレンチ・ミュージカル。神の子と崇められた天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの35年という短い生涯を貫いた情熱と、型破りな生き方が『太陽王』『1789─バスティーユの恋人たち』『アーサー王伝説』と、宝塚でも上演された作品群ばかりでなく、生田大和のオリジナル作品『CASANOVA』に楽曲提供もし、宝塚歌劇では既にお馴染みの感さえある、ドーヴ・アチアクリエイト&プロデュースによるロックサウンドによって描かれていく。

【STORY】

幼い頃より神童と崇められた天才音楽家ヴォルガング・アマデウス・モーツァルト(礼真琴)は、ザルツブルグで宮廷音楽家の地位を得ていたが、窮屈な宮廷を嫌い、自由な音楽活動をしたいという夢を抑えきれず、母アンナ・マリア(万里柚美)と共に音楽修行の旅に出る。

マンハイムを訪れたモーツァルトは、パブでピアノの腕前を揶揄されていた娘コンスタンツェ・ウェーバー(舞空瞳)を助けたことから、ウェーバー家に招かれ娘に音楽を教えて欲しいと請われる。だがその相手は、一目でモーツァルトに心を奪われていたコンスタンツェではなく、姉のアロイジア(小桜ほのか)で、モーツァルトもアロイジアの歌の才能と色香にのめり込んでしまう。

このままでは息子が音楽の道から脱落しかねないと案じたアンナ・マリアの懇願で、父・レオポルト(悠真倫)からパリに行くようにとの手紙が届く。自分を天才音楽家に育てた父の命令を絶対視していたモーツァルトは、心を残しながらもパリに旅立ち、アロイジアと、彼女が高名なオペラ歌手になることにウェーバー家の隆盛を願っていた姉妹の母セシリア(音波みのり)の恨みを買うが、コンスタンツェはいつかモーツァルトと再び会えると信じていた。

心機一転パリで音楽活動をしようとするモーツァルトだったが、後ろ盾となるパトロンを得ることはできず生活が困窮する中、アンナ・マリアが病に倒れる。失意のモーツァルトは一端ザルツブルグに戻るものの、イタリア語で歌われることが当然と思われている時代の中で、ドイツ語のオペラを作りたい!という夢を諦めきれず、再び故郷を飛び出しウィーンに向かう。この地でコンスタンツェと運命の再会をしたモーツァルトは彼女と結婚。芸術に大きな関心を寄せるオーストリー皇帝ヨーゼフ二世(ひろ香祐)の支持も得て、オペラ作りに邁進していく。だが、そんなモーツァルトの才能に脅威を感じていた宮廷音楽家アントニオ・サリエリ(凪七瑠海)が、自由に羽ばたこうとするモーツァルトの前に立ちはだかっていき……

神童と称され、誰もが一度は耳にしたことがある優れた楽曲と、その類稀な才能に対する逸話が数限りなく残っているモーツァルトの35年の波乱に満ちた生涯は、死後埋葬された墓地すらはっきりしないというもので、その人生の謎の多さが幾多の作品を生み出している。中でも1984年の映画版が世界的に大ヒットしたピーター・シェーファーの戯曲『アマデウス』の印象は強く、モーツァルトの才能を誰よりも知っていたが故に、その脅威を排除しようとした宮廷音楽家サリエリがモーツァルトを謀殺したのではないか?という、あくまでもひとつのゴシップをヒントに描かれた創作の展開が、のちの作品群に与えた影響には計り知れないものがあった。そこから飛翔したのが、『エリザベート』のゴールデンコンビ、ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイによるウィーンミュージカル『モーツァルト!』で、この作品にはサリエリは登場せず、父レオポルドの庇護と指導の下から羽ばたいていこうとするモーツァルトの自立と、その才能が他国で花開くことを許せなかった故郷ザルツブルグのコロレド大司教との確執。更に神童と呼ばれた自らの過去の影と苦闘するモーツァルトという斬新な切り口が大きな感動を呼び、日本でも2002年の初演以来、上演が繰り返されている。

そんな中にあって、今回宝塚歌劇が取り上げた『ロックオペラモーツァルト』は、潤色・演出の石田昌也により、ロックコンサートの趣も加味し、ストーリー以上に楽曲を存分に楽しむことに重きが置かれているフレンチ・ミュージカルの自由さを手掛かりに、作品を宝塚歌劇に寄せる作業が施されている。宵越しの金は持たないとばかりに自由を求め続けるモーツァルトが、まずアロイジアと恋に落ちることや、ウェーバー一族がモーツァルトの才能をある意味の金づると考える思考。それらをストーリー展開に可能な範囲で品良く後退させ、宝塚に馴染みの深いフランス革命や、マリー・アントワネットのエピソードなどを随所に語らせるだけでなく、モーツァルトの才能に心酔したコンスタンツェの真っ直ぐな恋を前に出す流れは、宝塚の、特に新トップコンビのプレお披露目公演としてのこの企画の為の的確な判断だったと思う。これによってストーリーには、宝塚に相応しい華やぎとスピード感が加わり、楽曲の面白さはもちろん、衣装だけをじっくり間近で観られる展覧会があったら飛んでいくな…と思わせるほど、現代感覚も適度に加味した有村淳の華麗な衣装がもたらす効果と共に舞台を弾ませている。

ただ一方で、一幕冒頭にも登場させてはいるものの、終幕をここに落とし込みたいならほぼ原典通りとは言え、サリエリの主な登場が二幕からなのは、やはり少々遅く感じられる。この作品が本邦初演された2013年の山本耕史、中川晃教主演バージョンでは、二人がモーツァルトとサリエリを交互配役で演じる(Indigover.山本モーツァルト、中川サリエリ。Rougever.中川モーツァルト、山本サリエリ)企画がなされていた故の工夫もあって、そこまでの唐突感はなかったことを考えても、せっかくサリエリの弟子でありながら、モーツァルトに心酔して弟子入りするフランツ・ジュースマイヤを登場させたのだから、この役柄を利用してサリエリのモーツァルトに対する懊悩を今少し早めに描けば、更にストーリーが流麗に流れるのではないか。1幕と2幕の幕開きの展開がほぼ同じになっていることと共に、この辺りの推敲の余地を埋めていくと、更に傑作となる大きな可能性を感じる。と言うのもこの作品、プレお披露目で終わらせるにはあまりにももったいない贅沢な仕上がりになっていて、ここからはじまる礼真琴のトップスター時代に、是非大劇場で観たい!という思いが膨らむのだ。

それほど礼のモーツァルトは絶品で、モーツァルトの天才故の型破りさと自由への希求が、豊かな歌声と、秀でたダンス力で生き生きと描かれていく。特に元々男性が歌うことを想定して書かれた、しかもロックテイストの楽曲を、全くストレスなく客席に届ける力量は並外れたもので、溌剌とした若さと共に、根底に明るさのある個性も力となって、非常に高い水準でモーツァルトを表出することに成功していた。まさにこれ以上ないスタートダッシュがかかった恰好で、礼率いる新生星組の明るい未来を予見させた。

その相手役、星組トップ娘役として同じくプレ披露となった舞空瞳は、悪女として伝えられることの多いコンスタンツェを、夫の奇行さえも面白がってしまえる真っ直ぐな想いと大胆さを併せ持つ、この作品独自のコンスタンツェ像として伸びやかに演じている。特にダンスに特段の力があり、1幕の幕を切る裸足のダンスは必見。フィナーレのデュエットダンスも含め、礼との相性も極めてよく、このコンビのダンスシーンはきっと星組の新たな呼び物になるに違いない。

そんなプレ披露の二人の好演を実力者たちが更にがっちりと固めている。その筆頭サリエリに扮した凪七瑠海は、主な登場シーンが2幕からという構成の中で、サリエリのモーツァルトに対する複雑な感情を、役柄が求める無表情の中で巧みに表し、大きな存在感を発揮。この作品の中でも特に有名な佳曲「殺しのシンフォニー」の歌いっぷりも盤石で、専科からの特別出演に重みを感じさせる。もう一人専科から出演のモーツァルトの父レオポルトの悠真倫も、豊かな歌唱力と滋味深い演技でモーツァルトのある意味で最も大きな越えるべき壁を、過不足なく表現していた。

また、サリエリに強引に片棒を担がされるウィーン国立劇場支配人ローゼンベルグ伯爵の紫藤りゅうが、優しく甘やかな本来の二目像を封印し、コメディに寄せつつモーツァルトの敵になる役柄を思い切りよく演じて役者魂を感じさせた。この公演を最後に宙組への組替えが決まっているが、資質を買われての異動だろう。新天地での活躍に期待したい。前述のモーツァルトに弟子入りするジュースマイヤの極美慎は、前半部分ではストーリーテラー的な役割も担い、男役としての立ち居振る舞いがぐっと自然になってきたこともあって、持ち前の美貌が更に舞台映えするようになった。こうなると一層舞台姿に華やかさが増し、上り坂の勢いを感じる。コロレド大司教の輝咲玲央の居丈高さと、ヨーゼフ二世のひろ香祐の寛容さとが良い対比になったし、妻の尻に敷かれっぱなしのコンスタンツェの父フリードリンの漣レイラの情けなさの表出も巧み。アロイジアの夫となるランゲの朝水りょうの、男役として水際立った美しさは貴重。雇い主であるサリエリをも実は利用しているとも取れる後見人の桃堂純の不気味さと、モーツァルトのオペラ創作に協力するダ・ポンテの彩葉玲央、シュテファニーの夕渚りょう、それぞれの誠実さも良い。

娘役では、大役のアロイジアを高い歌唱力だけでなく、どこかコケティッシュに演じた小桜ほのかの、自身の美点をよく理解している演じぶりが目を引き、大任を十二分に果たした。コンスタンツェの他の姉妹たちヨーゼファの音咲いつき、ゾフィーの星蘭ひとみは、それぞれ色違いでテイストの近い衣装で四姉妹が揃う艶やかさが目に楽しい。抜群の美貌でどこにいても目立つ存在だった星蘭は映像に進出する為とのことで、専科への異動が発表されたが、是非外部で宝塚の認知度を高め、大きくなって舞台に帰ってきて欲しい。この四人姉妹の母セシリアの音波みのりが、どんなに阿漕なことを言っても憎々しくならないこの人が演じるならではのセシリア像で、宝塚の『ロックオペラモーツァルト』の品格に寄与している。モーツァルトの母アンナ・マリアの万里柚美の慎みある演技も、言うまでもなく同様の効果になった。オランジュ皇妃の白砂なつが、フィナーレのエトワールを含め、盤石のソロで場を引き締め、その歌唱力に改めて感服。同じく歌に定評のあるマダム・カヴァリエリの夢妃杏瑠とモーツァルトの姉ナンネールの桜庭舞は、ロックテイストのミュージカルナンバーとの親和性がもう一歩進むと更によくなると思うが、役者としてのそれぞれの個性と美点を役柄にきちんと生かしていた。パブの女店員・華雪りらの可憐さは星組を観る楽しみのひとつで、今回は台詞回しの自然さも耳に心地よかった。

全体に、40人の出演者が高い熱量とパワーで展開する舞台の怒涛の勢いが大きな魅力になっていて、繰り返すが是非大劇場での再演に期待したい舞台となっている。

【公演情報】
宝塚歌劇星組公演
フレンチ・ミュージカル『ロックオペラモーツァルト』
The Musical ≪Mozart, l’opéra rock≫
Produced by WAM PRODUCTIONS
International Licensing & Booking, G.L.O, Guillaume Lagorce, info@glorganisation.com
潤色・演出◇石田昌也
出演◇礼真琴 舞空瞳 ほか星組
●12/3~15◎東京建物BrilliaHALL
〈料金〉S席 9,500円 A席 6,000円
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時~18時)

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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