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倉持裕が描く江戸川乱歩の迷宮世界『お勢、断行』に出演! 大空ゆうひインタビュー

独特の視点で世界を切り取り、巧みに言葉を操りながら不可思議で魅力的な世界を表出する劇作家・演出家の倉持裕。江戸川乱歩の小説世界から着想を得て、あらたな迷宮世界を再構築していく新作『お勢、断行』が、2020年2月28日~3月8日、世田谷パブリックシアターで上演される(愛知・島根・兵庫・香川・長野にてツアー公演あり)。

『お勢、断行』は2017年の『お勢登場』で、江戸川乱歩の8本の短編を、卓越した構成力で舞台化した倉持裕が、そこから「お勢」だけを取り出して、別の事件の中に置き、新たなサスペンスを展開しようという刺激的な作品。倉持と世田谷パブリックシアターとの3年ぶり4度目のタッグで、目くるめく乱歩の迷宮世界を踏襲しながら、善悪せめぎ合う全く新たな謀略の物語が立ち上がる新作となっている。

そんな作品で、倉科カナ演じる女流作家お勢が身を寄せた資産家の松成千代吉の屋敷で、夫や小姑からの圧力に苦しむ千代吉の後妻を演じるのが大空ゆうひ。作品の幻惑感が伝わる、ビジュアル撮影時の個性的なヘアメイクで、新たな作品に臨む想いを語ってくれた。

登場人物たちから闇や影、毒が妖しくこぼれ出てくる

──江戸川乱歩の世界を倉持裕さんが再構築するという魅力的な企画の新作となりますが。

私は江戸川乱歩の世界観がとても好きで、その世界を倉持さんがどう使い、どう浮かび上がらせていかれるのか、とても楽しみです。江戸川乱歩の世界は登場人物が面白いですよね。一見ワルに見える人が実はそうではないとか、とても良い人に見えた人に実は裏があるなど、昔ながらのどんでん返しがあって。ですから、今回の作品の登場人物たちもきっとそれぞれの抱えている闇や影、毒といったものが、妖しくこぼれ出てくるようなものになるのではないかなと、想像を膨らませているところです。

──そんな江戸川乱歩の世界が好きだったことで、この作品に出演しようと?

いえ、この作品の話を頂けたことがまず嬉しくて。もちろん江戸川乱歩の小説が大好きだったこともありますが、倉持さんの作品には以前一度出演させて頂いて、その独特な目線が大好きでしたから。倉持さんご自身は穏やかな寡黙な方なのに、人の毒を見抜いている。その目線と江戸川乱歩の世界が掛け合わされた時に、いったいどんなものが生み出されるのか、魅力が倍増されると思っています。

──江戸川乱歩作品はいつ頃から読まれていたのですか?

小学校の頃からです。はじめは名探偵明智小五郎と少年探偵団シリーズから読破したのですが、それ以外にも図書館にあったものは全部読んでいて。更に大人になってからよりシュールな作品も読むようになりました。今シュールと言いましたけれども、でもその小説世界をもしも絵画にするとしたら、とても美しい絵になる気がするんです。その耽美な感じがものすごく好きです。独特の美ですよね。蠱惑的で、美しいものには毒があると言うのか。ちょっとグロテスクな面もあるのだけれども、そこに更に魅力があって、いけないものを見てしまったような、のぞき穴から見ているような気持ちにもさせられます。

人の多面性を表現するのは難しいけれど面白い

──その乱歩世界を倉持さんが描くことで、更に魅力が倍化されると。

そうですね。倉持さんはお話させて頂いている時には感情をあまり出されないんです。本当に穏やかで。そういう方がものを書いた時に、中にある普段はあからさまにしていないものが立ち現れてくる感覚があって。その内包されているものがとても面白い形で出てくる時もあれば、かなりぶっ飛んだ形で出てくる時、あるいは非常にシニカルに出てくる時と様々で。その底知れない感じ、ミステリアスな部分が素敵だなと思います。今の段階では自分の役柄も「後妻」だということしかわかっていなくて(笑)。きっと悪い部分もある感じなのでは?と想像したりはしますが、それはお稽古がはじまってから深く知っていくのが良いかなと思っています。この役柄は正義ですとか、悪人ですとか、一言で語ることは絶対にできないと思うんです。それはこの世界に登場してくる人すべてがそうなのではないかと思うので、そういう意味でも楽しみにしています。

──おそらくそれは、この世の中に生きている人全てにも当てはまるのではないかと思いますが、そういう決して一面的ではない人間らしい人物を演じる醍醐味も?

それは感じます。その方がリアルだと思うし、もしも脚本にはそういう複雑な面が描かれていなかったとしても、役者はそこを掘り下げていくものだと思います。例えば一見一面的に見えたとしても、別の人の視点で観るとそうは見えなかったりもしますよね。それこそ自分自身でも自分の気持ちがどう動くのかわからない時があるじゃないですか。こういう事態に直面したら、必ずこう感じるというものでは決してないので、そういうグラデーションのようなもので多面性を表現するのは、難しくはありますが、同時に役を作っていく上でとても面白い部分でもあります。

 

歌は自分の自由に好きな世界が選べる

──そんなふうに役作りをしていく過程は、作品がストレートプレイであっても、ミュージカルであっても変わらないものですか?

そうですね。自ずから表現方法が異なる部分はありますが、役を構築していくということにおいては共通しているものが多いと思います。

──大空さんの場合は特に宝塚歌劇団を退団されて以降、深いお芝居を演じる機会が多いですが、一方でライブなど歌の活動もしています。その両者は大空さんの中でどのように位置づけられているのですか?

歌は好きなので、歌う場所というものは作っておきたいという気持ちがあって。もちろん舞台のお芝居はずっと続けていきたいと思っていますが、お芝居の場合は必ず演出家の方がいらしてその世界観に入っていきますよね。一方で歌は自分の自由に好きな世界が選べます。と言っても私はシンガーソングライターではないので、様々な方々が創られた歌の世界に入っていくわけですが、その世界を自分の意志で選べます。好きな曲を選んで、それを聴きにきてくださる方に楽しんで頂けたらとても素敵なことだと思っているので、小規模でも続けていける場所を持って、コツコツとやっていきたいと思っています。

──歌いたい曲というものは、時々によって変化していったりもしますか?

変化もしますし、宝塚時代にはジャズ、シャンソン、ロック、ポップスとあらゆる音楽に触れてきていて、自分はこういうジャンルのシンガーですという基盤がない分、逆に選択肢が多すぎて選曲にはいつも悩みます。色々なジャンルの曲を歌いたいのですが、それを全部入れてしまうと構成がとても難しくなって(笑)。でも歌に関しては、そこをこのジャンルに敢えて絞ろうというような、無理なことは一切したくないんです。自然にどんなジャンルの曲でも、私が歌うものになっていけばいいなと思っているので、ファンの方にも「何か歌って欲しい曲はないですか?」というリクエストを募ってそれに応えたりもしますし、温かい時間になれば良いなと思って活動しています。

──演じていないという言葉とは違うかも知れませんが、大空さんご本人と触れ合える時間にもなるでしょうから。

そうですね。役名のない時間なので。

どう考えても面白くならないはずはない

──そのライブの時間に、例えば今回でしたら江戸川乱歩の世界を演じることで選曲に影響があるというようなことは?

それはないですね。芝居をしている最中はその世界に浸っていますから、どこかでそういう思考になる部分もありますが、違うステージに立ったらそれはないので。

──ではその時々の等身大の大空さんが拝見できるのですね。そんな両輪の活動を楽しみにしている方も多いと思いますが、その中で今後更にこういうこともやっていきたいというビジョンのようなものはありますか?

ひとつひとつの現場で少しずつでも勉強を重ねていって、俳優として必要な存在になるために、自分ができることを更に確かにしていけたら良いですね。

──すでに多くの方に必要とされていると思いますが、更にということで期待が膨らみます。では改めて、今回の公演『お勢、断行』を心待ちにされている方々に、意気込みとメッセージをお願いします。

私は江戸川乱歩の世界が本当に好きで、舞台化されるものに一度でよいから出てみたいと思っていました。ですからその夢が叶ったという意味でも私にとってはとても嬉しい仕事なのですが、それプラス倉持さんがその世界をどういう風に描かれるのか、というところで、どう考えても面白くならないはずはないと思っています。斎藤ネコさんの音楽もとても楽しみですし、共演者の方々も個性的で素晴らしい方々ばかりですから、どんな世界に連れて行ってもらえるのか、私もワクワクしています。たくさんのお客様に楽しんで頂けるように、私も出演者の一人としてちゃんと自分の色を出したいと思っているので、皆様是非劇場に足をお運び下さい。

おおぞらゆうひ〇東京都出身。1992年宝塚歌劇団に入団。09年宙組トップスターに就任。12年に退団後は女優として様々な作品に出演しながら、ライブコンサート活動も精力的に展開している。近年の主な舞台作品に、ミュージカル『HEADS UP!』音楽朗読劇『冷蔵庫のうえの人生』NAPPOS PRODUCE 『グッド・バイ』劇団た組第19回目公演 『今日もわからないうちに』、『めんたいぴりり~未来永劫編』などがあり、11月22日から舞台『鎌塚氏、舞い散る』(倉持裕 作・演出)への出演が控えている。

【公演情報】
世田谷パブリックシアター
『お勢、断行』
原案:江戸川乱歩
作・演出:倉持裕
音楽:斎藤ネコ
出演:倉科カナ 上白石萌歌
江口のりこ 柳下 大 池谷のぶえ 粕谷吉洋 千葉雅子
大空ゆうひ 正名僕蔵 梶原 善
●2020/2/28~3/8◎世田谷パブリックシアター
愛知・島根・兵庫・香川・長野にてツアー公演あり
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515
https://setagaya-pt.jp/nnnmmmbbb

 

【取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭】

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