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鮮やかな二重構造が魅せる新たな復讐譚『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~上演中!

世界中で今も尚読み継がれ続けているアレクサンドル・デュマ・ペールの小説「モンテ・クリスト伯」を新たな視点の二重構造で描く音楽劇『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~が、浜町の明治座で上演中だ(23日まで)。

『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~は、アレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ)の不朽の名作「モンテ・クリスト伯」を、作・演出の西田大輔が全く新しい視点で構築した作品。若くして船長に抜擢され、婚約者との結婚を目前にしていた青年エドモン・ダンテスが、陰謀によって無実の罪を着せられ牢獄に送られるが、14年後に脱獄。モンテ・クリスト伯と名を変えて、自分を陥れた者たちに復讐していく大河小説としてあまりにも有名な原作を、作品を執筆した側の視点から描いていく、異色のドラマとなっている。

何よりも面白いのは、「モンテ・クリスト伯」を実際に書いたのは恋多き男性として知られる大デュマではなく、彼が最初に愛した女性カトリーヌが、二人の間に生まれ「椿姫」を書いたアレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)と話し合いながら書き進めたものだったという非常に大胆な着眼点。日本でも多作、かつ多岐に渡る作風を誇った大作家の作品が、全て本人の手によるものではなく「○○工房」が後ろに控えているのでは?との論議を巻き起こしたケースがある。そこには、まずこれだけの枚数を一人で書き下ろすのは物理的に無理だという疑義も生じたものだが、得てして天才の能力は想像を遥かに超えるものだから、それだけをもってして大作家の後ろに「○○工房」があったと断定することは到底できない。けれども、そんな疑問を基に想像の翼を広げてドラマを編み出すことは創作の見事な視点で、この舞台は大デュマの作品の後ろに「デュマ工房」があったという着想からはじまった二重構造が、これまで舞台や映像で数多くの作品を生み出してきた「モンテ・クリスト伯」に、全く別の興趣を生む効果になっている。特に「劇中劇」形式で進む「モンテ・クリスト伯」の王道の復讐譚を、大デュマに小デュマを認めさせようとする、カトリーヌ自身の駆け引きへとつなげていく過程がなんともスリリング。トリッキーなネタバレ要素が多く、ラストの展開など「そうきたか!」と文字通り膝を打つものだけに非常に書きにくいのだが、三幕仕立ての作品の一幕、二幕の切れの台詞が、三幕のクライマックスに重要なヒントになっているので、是非聞き逃さずに注視して欲しい。全体に、作・演出の西田大輔の才気が際立っていて、コロナ禍の中、明治座の花道など独特の効果を得られる舞台機構が使えない中でも、可能な限りスペクタクル感を残した演出の迫力にも見応えがあった。

そんなよく練り込まれた作品を、主演の凰稀かなめのスケール感と、繊細さを両立させる芝居が支えている。宝塚歌劇団宙組トップスター時代に「モンテ・クリスト伯」のミュージカル版で主人公エドモン・ダンテスを演じている人で、企画の発表自体に新鮮な驚きがあったが、今回は「モンテ・クリスト伯」を実際に書き進めているカトリーヌと、劇中劇の小説世界で、エドモンの婚約者メルセデスを二役で演じている。凰稀に限らず多くのキャストが、作品の中の現実社会と、劇中劇の登場人物を二役で演じるが、これもまたカトリーヌが描き出す小説世界には必ず身近なモデルとなる人物がいる、という設定から立ち上がっていて、そもそも大デュマの大河小説そのものが実在の事件をモデルにしていることも含め、ある意味単なる二役を越え、二つの世界が互いに影響し合い、それ自体も大きなブラフやキーワードとなる面白さとなって惹きつける。必然的に凰稀はカトリーヌとしてペンを走らせ、劇中劇の枠の外からドラマを見つめている描写が多いが、それが単なるストーリーテラーや、物語を俯瞰している人物ではなく、全てを動かしている神の視点に立った人物にきちんと見えるのが、芝居巧者の凰稀ならでは。二重、三重に構築された作品の緊迫感を維持し続け、それでいてどこかでちゃんとチャーミングな舞台ぶりに、真価を発揮していた。

小デュマであるフィスと、劇中劇のエドモン・ダンテス=モンテ・クリスト伯を演じる渡辺大輔は、近年ミュージカル界を中心に大役を次々に演じている経験値の高さが際立ち、小デュマの爽やかな好青年としての造形を軸に、劇中劇のエドモンが過酷な体験で変わっていき、復讐の鬼と化す過程を巧みに描き出している。元々の原作世界が大長編だから、当然舞台の中では描かれていないエピソードもあれば、一方でこの作品にしかない展開も多々あるが、その全てが淀みなく、出てきただけで今は誰で、どんな状況なのかに混乱を与えなかった力量がたいしたもの。多くの場面で作品の芯を見事に担い、俳優としての成長著しさを改めて示してくれた。

エドモンを陥れる三人の男たちでは、フェルナンの伊藤裕一が従兄弟のメルセデスへの横恋慕と、狡猾さを巧みに表現している。中でもエドモンからメルセデスを奪っただけでは到底納まらなかった彼の出世欲や、のちの残忍な行動をポイント、ポイントの場面で的確に表出していて、笑顔の裏の顔を常に漂わせた造形がエドモンの復讐に正統性を感じさせる力になった。

エドモンを政治犯として収監し、生きては二度と帰れないとされる牢獄シャトー・ディフへと送り込むヴィルフォールの廣瀬智紀は、はじめ正統な法に従いエドモンに接していた検事が、自らが地位を失う恐れを感じた刹那に豹変していく様を、怜悧な美しさで見せている。のちに検事総長までに上り詰めるが、ヴィルフォールが壊れていく過程には、保身の為に無実の青年の人生を奪ったトラウマがあったのでは?と、原作設定以上の行間を感じさせたのが面白く、廣瀬の起用が効果的だった。

エドモンを陥れることをそもそも計画する、船の会計係ダングラールの村田洋二郎は、三人の中でも特段な俗物として役柄を構築していて、その強いアクセントがよく生かされている。三者三様の悪党ぶりが村田の造形によってよりくっきりと立ち上がり、ドラマを進めていた。

 

劇中劇のエドモン=モンテ・クリスト伯に救われ共に復讐を誓うエデ姫と、カトリーヌが書き続ける小説の続きを読む娘マリーとして活躍する富田麻帆は、常の明るさから豹変して醸し出すダークな色合いの落差が実に明瞭。ダンス力も生きて、作品の重要なピースになっている。

劇中劇でのヴィルフォールの娘ヴァランティーヌと、現実社会でカトリーヌと争うイダの松浦雅も、両役のコントラストが明確。特にヴァランティーヌの清楚な美しさが良い。メルセデスの息子アルベールの千田京平は、舞台姿が格段に大きくなり、劇中劇部分の展開を握る役柄をきちんと描き出している。ヴァランティーヌと恋に落ちるマクシミリアンの伊藤孝太郎は、コロナ禍の中で降板を余儀なくされた松田昇大に代わっての出演で、希望を託される役柄に相応しい印象を残した姿に拍手を送りたい。ヴァンパの岩崎良祐も振幅の大きな演技が魅力的だった。

また、元宝塚星組の男役スターとして活躍した十碧れいやが、モンテ・クリスト伯の執事ヴェルツッチオを、元男役の出自を最大限に生かして、華麗な殺陣を含めて見事に造形。今後の活躍への期待を高めた。

そして、大デュマと、劇中劇でエドモンに全てを授けるファリア司祭を演じた川﨑麻世が、ゲストスター的な趣に相応しい存在感を発揮。特に大デュマの女性遍歴が生んだともいえるこの作品の着想を担い、食えなさ加減と同時に、尚憎めない一面を巧みに見せて、ドラマの重要なキーパーソンとなっていた。

総じてコロナ禍の中、当初の公演予定からの順延、更にキャスト変更など幾多の困難を超えて、上演に至ったことを尊びたい舞台で、LIVE配信も決定した二重、三重のドラマの妙味を多くの人に感じ取って欲しい作品となっている。

【キャストコメント】

凰稀かなめ(カトリーヌ/メルセデス役)
今回は、色んなことでお稽古の中断があったり、マスク・フェイスシールドを付けて芝居稽古をしたりと普段とは違う状況下でした。満足出来るお稽古が出来なかったのですが、「幕が開く」「ここまで来られた!」という嬉しさが湧いてきております。お稽古を重ねる度に「絶対に観て頂きたい」という気持ちもありますが、このような大変な時期に、「ぜひ」ということも言えないのが悔しいです。感染対策をしてお待ちしておりますので、日々の疲れを少しでも忘れて頂ける空間を感じて頂けたら嬉しいです。

渡辺大輔(エドモン・ダンテス=モンテ・クリスト伯/フィス役)
まず、このような状況の中、幕を開けるためにご尽力下さった全ての皆様へ感謝の気持ちでいっぱいです。今回共演が叶わなくなってしまった素敵な役者の方々もいらっしゃいますが、また笑顔で再会、共演できる日を心から楽しみにしています。そして観劇に来て下さる皆様、この度は有り難うございます。自分達カンパニーも、しっかりと対策をし 3 密を避けソーシャルディスタンスを守りながら素敵な作品を皆様へお届けしたいと思っていますので、楽しんでご覧頂けたら幸いです。

【公演情報】
音楽劇『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~
脚本・演出◇西田大輔
出演◇凰稀かなめ
渡辺大輔 伊藤裕一 廣瀬智紀 村田洋二郎
富田麻帆 松浦雅 千田京平 十碧れいや 岩崎良祐 伊藤孝太郎
川崎麻世 ほか
※川崎麻世の「崎」は、たつさきが正式表記。
●8/16~23◎明治座
※8月16・17日の公演は新型コロナウイルスの影響で中止
〈料金〉S席12,500円 A席9,000円
明治座会場で当日券発売。
〈お問い合わせ〉ジェイロック03-5485-5555(平日10時~18時)
公式サイト https://kaname.style/monte_cristo20/

【LIVE配信情報】
●8/22/13:30~
※配信チケット購入者は8月22日23:59までアーカイブで視聴可能
〈料金〉4,400円(税込)
●8/23/16:00~
※配信チケット購入者は8月25日23:59までアーカイブで視聴可能
〈料金〉5,500円(税込)
〈販売〉https://montecristo.zaiko.io

【取材・文・撮影/橘涼香】

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