世界最高峰のタンゴグループとのコラボが実現!『Gran Tango』水夏希インタビュー
2014年タンゴダンスに特化したショーステージ『アルジェンタンゴ』への出演以来、タンゴの魅力に惹かれ、歌、ダンス、演劇の世界でタンゴを探求し続けている元宝塚歌劇団雪組トップスターで、現在女優として活躍中の水夏希。
彼女の為に、昨年のタンゴステージ『Todos del Tango Verano 2018』で共演を果たした世界的バンドネオン奏者で、タンゴの本場ブエノスアイレス市立タンゴオーケストラでソリストも務めるフェデリコ・ペレイロが、世界最高峰のクアルテートを率いて再来日することが決定。水夏希を「和魂洋才」=日本人の魂に西洋の才能を併せ持った人、と讃えるプロデューサーの高橋正人の構成の下、3月28日~30日東京内幸町のイイノホールで、奇跡のコラボステージ『Gran Tango』が開催されることになった。
そんな特別なステージに臨む水に、新たなステージとタンゴへの想い、更にインタビューの時に出演中の『ベルサイユのばら45』で改めて感じた宝塚歌劇の魅力までを語ってもらった。
タンゴの生まれた土地から 発せられる空気を感じてもらいたい
──これまでにもタンゴに深く携わっていらした水さんですが、今回改めてこの『Gran Tango』のステージに臨もうと思われた経緯から教えてください。
2014年の『アルジェンタンゴ』、17年、18年の日亜外交樹立120周年記念特別企画『Todos del Tango 』と、タンゴのステージに立たせて頂いて来ましたが、特に昨年の『Todos del Tango 』でタンゴの本場ブエノスアイレスから世界的バンドネオン奏者フェデリコ・ペレイロさんが初来日されて、共演させて頂けたことが大きな刺激になったんです。
──やはり、フェデリコさんの演奏から感じることが多かったのですか?
タンゴの奥深さや、厚みを感じました。もちろんこれまでにも素晴らしいタンゴの演奏家の方々とご一緒させて頂きましたが、その方々とはまた違うどこか日本人の理解の及ばない世界観があるんだなと。それはそもそもの血の違い、文化の違いだし、優劣ではなくて、タンゴが生まれた土地から発せられるものなんでしょうね。その空気をお客様にも感じて頂きたいなと思い、フェデリコさん率いる、全員アルゼンチンの演奏家の「フェデリコ・ペレイロ・クアルテート」の皆さんとの今回のステージが実現しました。
──昨年の『Todos del Tango Verano 2018』のステージで、フェデリコさんの演奏をもっと聴きたいと思われた方も多いと思いますから、素敵な機会になりますね。
特に日本ではタンゴは文化遺産のような形になってしまっていて、生のステージでタンゴを聴く機会がなくなっているのが現状だそうです。もちろん、タンゴダンサーの方のステージはたくさんあるのですが、それはどうしてもタンゴ界だけのものになってしまいますから、少しでも多くの方にタンゴの魅力を知って頂きたい、タンゴのバトンをつないで行きたいと。私自身はじめは、タンゴとのご縁がここまで続いていくとは、全く思っていなかったのですが、ひとつのお仕事が次に続いて、という形でここまで来たのは、やはり何かの縁があったのだろうと思うので、小さな規模からのスタートで良いから長く続けていくことによって、タンゴのステージを応援してくださる方、楽しんでくださる方が増えていってくれるのを願っています。
言葉の通じない者同士が、音楽で、 タンゴのリズムで紡ぐセッション
──水さんご自身がこのステージに期待していることは?
前半を芝居仕立てにしていて、とても宝塚的なと言いますか、わかりやすい内容なので、女性の出演者も全員元タカラジェンヌでもあり、タンゴにあまり馴染みがなかった、という方にも親しんで頂けるものになると思います。またステージ上の私たちにとっては、言葉の通じない方々とのセッションになりますから、音楽で、タンゴのリズムでコラボレーションをするので、そこには神経を遣ってやりたいと思っています。今までは自分が日本語で歌って、演奏家の方達についてきて頂くという形だったのですが、今回はアルゼンチンの音楽に私達が乗っていく、セッションするものにしたくて。彼らが実際に日本に来てくださる期間は1週間なので、彼らの紡ぎ出す音楽をどこまで感じ取れるかは、私達に余裕がないといけません。歌詞や振りを覚えることに必死になっている状態では到達できないところを目指しているので、しっかり準備していきたいです。
──曲目もタンゴの古典の「エル・チョクロ」から、「失われし小鳥たち」「ロコへのバラード」等の新しいものまでととても多彩で、特にピアソラの「リベルタンゴ」は、ピアソラの引いてはバンドネオンの代表曲でもありますし、日本でも絶大な支持を得ている曲ですね。
今回は「リベルタンゴ」もダンスでお見せします。後半に世にも速い振りがついていて(笑)。「果たしてできるのだろうか?」と思うほどなんですが、きっと皆様には楽しんで頂けると思います。それから冒頭で歌う同じピアソラの「我が死へのバラード~ブエノスアイレスで私は死のう~」は、長い間思い入れがあって、ずっと歌いたかったのですが、マネージャーから「『朝の6時に私は死のう』なんて歌詞の曲はやめて下さい!」と反対されていて(笑)。今回第一部はストーリー仕立てでお送りすることもあって、やっと許可がおりたので(笑)、歌うことになりました。
──そうした思い入れの強い曲も多いのですか?
そうですね。特にプロデューサーの高橋さんがわたしにはこの曲が合うだろう、他のメンバー個々にもこの曲、このコンビならこの曲と多くの選曲をしてくださって、タンゴに対する造詣の深さには感心しますし、振付のクリスティアンもタンゴマニアなので、古典と新しいものとでは振付が変わるという事なので、私もますます勉強しなければと思っています。
『ベルサイユのばら45』出演で 改めて感じた宝塚歌劇の伝統
──これだけタンゴと密接につきあっている中で、今だからこそ感じるタンゴの魅力はどうですか?
難しくてなかなか踊りこなせないのですが、やればやるほど世界観が広がるダンスであり、歌ですね。曲や振りを覚えたところからが出発地点で、こうした機会がある毎に歌い続けている曲もあるのですが、自分のコンディションや前後にしていた仕事などの影響で、歌う度に全く違うものになっていきます。ダンスも同様で自分の蓄積がどんどん加味されていくんだなと。ちょうど『ベルサイユのばら45』に出演していたので特に感じますが、宝塚時代には「宝塚歌劇」という世界が自分の全てだと思って、ひたすら頑張っていたんです。でも退団してから色々なことを見たり、聞いたり、学んだりしていく中で、宝塚時代に絶対だと思っていたことの中でも「確かに間違っていなかった」と思う部分と「これは必要なかったんだな」と思う部分がハッキリしてきていて。そういう意味でも、同じダンスや歌でも年々違う、新しいパフォーマンスができるのではないかと思っています。
──その宝塚歌劇のOGの方々が集結して『ベルサイユのばら』初演から45周年を祝う一大イベント『ベルサイユのばら45』に出演されて、このタンゴのステージのようにしなやかに踊る水さんから、見事に男役スイッチが入ることに感嘆しました。
いえいえ、お稽古に入った当初は「これはマズイんじゃないか?」と思った時期もありましたよ(笑)。「全員でしっかり考えないと」と話し合ったりもしましたが、やはり劇場に入って、メイクをして、衣装を着たら皆がグッと集中しましたね。
──舞台写真を現役さんたちのものと混ぜたとしたら、簡単には選り分けられないだろうというほどでしたが、1度卒業された世界の中にまた帰ってみて、宝塚歌劇や、『ベルサイユのばら』に改めて感じたことはありますか?
やはり宝塚ならではだなと思いました。あれだけ電飾が飾り込まれたステージはどこにもないし、あそこまでリボンとフリルに溢れた衣装の人たちもどこにもいないのですが、ある意味かけらも現実感がない、有り得ない世界だからこその楽しさがあるんだなと。なんだか久しぶりに間近で見たら「アントワネット様のカツラ凄い!」とか思っちゃって(笑)。
──『エリザベートガラコンサート』の折りにも「『ベルサイユのばら』もこういう形でやれば良いのに」とおっしゃっていましたよね。
そうなんです!ずっとそう思っていたので、夢が叶ったんですけど、いざ本当にやるとなると、やめてから女優としてやってきていて、また男役に戻れるのかな?という不安もあったのが本当です。でも歌稽古がはじまって、あの前奏がかかった途端、もう懐かしすぎて!『ベルばら』の楽曲の数々って、何もかもが「ザ・タカラヅカ」なんですね。ここでこう来て欲しいというところで、必ず「ジャジャーン!」と音楽が鳴って「来た~!!」というカタルシスには独特のものがあります。ただ、皆当時の衣装を着ていますから、布地もとても良いものが使ってあるだけに重いんです。タカラヅカメイクも外の舞台のメイクとは段違いにアイテムが多くて時間もかかりますし、クタクタになります。「私達よくこれで1ヶ月半も公演していたよね」「若かったから」(爆笑)と、二言目には皆で言い合っていました(笑)。
──フィナーレのダンスも本格的な再現で、「薔薇のタンゴ」もありますね。
同じ「タンゴ」ですが、もう独特ですね。振付の時に皆で盛り上がりました!「うわぁ、喜多弘!!」って(笑)。亡くなられた喜多先生の振付なのですが、今こんな振りをつける方はいなくなってるなぁとつくづく思いましたし、若い方たちは踊りこなすまでに始めはかなり苦戦していましたね。振り自体は簡単なんです。でもそこから男役のカッコよさがにじみ出るような振付になっていて、それを掴むのがなかなか難しくて。やはりこれも伝えていかないとできなくなってしまうんじゃないかと。そういう意味でも今回の『ベルばら45』は良い機会になっていて、私達も先輩方からたくさんのことを学び、パワーを頂けましたし、現役生もたくさん観に来てくれたので、宝塚の歴史を学んで肌で感じてもらえたら嬉しいですね。
「元男役」の出自が武器になる 甘えない色気のある大人の女のタンゴを
──そうした、ある意味で表現者「水夏希」の原点に返ったあとに取り組む『Gran Tango』ということになりますが。
タンゴって男役をやっていたことが武器になるジャンルではないかなと思っていて。甘えない色気が必要なので、そこを出していたけたら良いですね。共演するのも、舞風りらさん以外は皆「元男役」なので、そこから立ち上るものが見えるといいなと。一緒に踊る男性陣も普段はいたずら好きで中学生男子みたいなのですが(笑)、踊り出すとダンディーですし、体格も良いので、その男性に釣り合う大人の女にしていきたいです。
──特別ゲストの方達も日替わりで豪華なメンバーですね。
安奈淳さんは私が受験の時にお世話になった先生と同期生という関係でいらっしゃるので、何となく繋がりがあったのですが、『ベルサイユのばら45』に続いて、こうしてステージでご一緒させていただけることが嬉しいです。歌はもちろんですが、佇まいから素敵な憧れる先輩です。姿月あさとさんとはご一緒する機会が多いですが、タンゴを歌われる時にはまた独特の魅力を発揮されますし、今回スペインで『レ・ミゼラブル』や「ラマンチャの男」で主演されているミュージカルスターのヴィクトル・ディアスさんが来てくださって、3人でスペイン語で歌うという滅多にない機会を頂けていて! とても大変ですが、スペシャルなステージになると思います。最終日の剣幸さんとは初めてご一緒させて頂きます。とてもきさくで、学年は離れているのですが、寄り添って近くまで降りてきてくださる方なので、甘えさせて頂いて楽しく務めたいと思っています。
──宝塚出身というつながりがあると、現役時代を共にしていなくても通じ合えるものがあるとよくお聞きします。
それは本当にそうで、直接お知り合いでなかった方とでも、すぐに「ウェルカム」な関係になれるのがありがたいなと思っています。
──そんな絆も感じられる、新たなタンゴステージに期待していますが、改めて楽しみにしている方達にメッセージをお願いします。
日本ではなかなか聴くことができない本場の演奏をお聴き頂ける貴重な機会になりますので、ダンスも歌ももちろん頑張りますが、演奏を聴きにきて頂くだけでもきっと大満足して頂けると思います。前半が芝居仕立てで、後半がショーの形式のステージになりますので、タンゴとダンスと共にストーリーも楽しんでもらえる、タンゴにあまり興味がなかった方にも楽しめるステージになっています。是非多くの方にタンゴの魅力に触れて頂けたらと思いますので、楽しみになさっていて下さい!
みずなつき○千葉県出身。1993年宝塚歌劇団入団、2007年雪組男役トップスターに就任。2010年退団後は、舞台を中心に活動中。主な出演舞台は、『屋根の上のヴァイオリン弾き』、『新版 義経千本桜』、ブロードウェイミュージカル『シカゴ』宝塚 OG バージョン、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』、リーディング『パンク・シャンソン~エディット・ピアフの生涯~』、ミュージカル『キス・ミー・ケイト』、『ラストダンスーブエノスアイレスで。聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』、DRAMATIC SUPER DANCE THEATER FLAMENCO 『マクベス~眠りを殺した男~』、夢幻朗読劇『一月物語』、『カクタス・フラワー』など。
〈公演情報〉
『Gran Tango』NATSUKI MIZU Con FEDERICO PEREIRO Cuarteto
出演◇水夏希
フェデリコ・ペレイロ・クアルテート
フェデリコ・ペレイロ
ラミーロ・ガージョ、エミリアーノ・グレコ、パトリシオ・コテラ
クリスティアン・ロペス、ベルナルド・イズマエル、エルネスト・ステール
舞風りら、真波そら、天緒圭花、美翔かずき
特別ゲスト◇安奈淳(3/28)、姿月あさと、ヴィクトル・ディアス(3/29)、剣幸(3/30)
●3/28~30◎イイノホール
〈料金〉10,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京音協 03-5774-3011
〈公式ホームぺ―ジ〉http://apeople.world/prm/natsuki_mizu/
【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】
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