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ミュージカル『マリー・キュリー』で主演! 愛希れいかインタビュー

19世紀に元素ラジウムの発見をするなど、女性研究者の道を切り拓き、2度のノーベル賞に輝いたマリー・キュリーの人生を描くミュージカル『マリー・キュリー』が、3月13日から東京・天王洲 銀河劇場で開幕する(26日まで。のち、4月20~23日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演)。

ミュージカル『マリー・キュリー』は2018年に韓国で初演され大ヒットを記録した作品。「キュリー夫人」として知られる科学者マリー・キュリーが科学に寄せた情熱と苦悩、更に研究者としての強い信念を、史実と虚構を織り交ぜ「あり得たかもしれないもう一人のマリー・キュリーの物語として描いていくミュージカルだ。

そんな作品で、主演のマリー・キュリーを演じる元宝塚歌劇団月組トップ娘役で、退団後も舞台を中心に快進撃を続ける愛希れいかが、新たな作品に臨む思いや、マリーの生き様が現代の人々に贈るエールやメッセージについて語ってくれた。

史実に虚構が加えられた「ファクションミュージカル」

──キュリー夫人と言えば、「偉人伝」シリーズなどにも必ず入っている著名な女性ですが、愛希さんはこの作品に入られる前には、キュリー夫人についてどのようなイメージをお持ちでしたか?

いまおっしゃった通りで、小学生の頃に読んだ「キュリー夫人」の伝記が知識の全てで、正直決してその人生を深く知っていたというわけではないのですが、それでも女性の生き方に大きな制約があった時代に、猛勉強を重ねて偉業を成し遂げたすごい方、という印象でした。

──そのキュリー夫人=マリー・キュリーを主人公に、と言いましても今回は「ファクションミュージカル」という耳新しい表題もついている韓国産ミュージカルですが、台本を読みお稽古が始まっているいまの段階で、作品についてどう感じていますか?

サブタイトルにありますように「ありえたかもしれないもう一人のマリー・キュリーの物語」ということで、史実に虚構が加えられている作品です。私も「ファクションミュージカル」という言葉を初めて聞いたのですが、海外では使われている表現なんだそうです。実際にあったこと、事実を表す「ファクト」と、創作された物語の「フィクション」を掛け合わせた造語で、この作品も事実の上に「こうだったらよかったな」ですとか「こうだったらどうなっていたのかな」というところへ想像の翼を広げて、より劇的にドラマチックに描かれているという印象でした。伝えられているマリーの人生とは大きく違うところもあるのですが、演じる側としては今回の台本を信じてと言いますか、演出の(鈴木)裕美さんとも「ここは違うね」というお話はしながらも、この台本に描かれている世界で、お客様に楽しんでもらえるように作っているところです。特に今回の台本では、清水くるみちゃんが演じるアンヌという女性が出てくることによって、物語世界が動いていてマリー自身が変わっていったり、成長したりしていきます。もちろん旦那様のピエールの存在もですが、彼女がノーベル賞をとるに至るのは、ただラジウムを発見したからだけではなくて、人としても大きく成長していったからだ、というドラマがとても丁寧に描かれています。私もはじめにマリー・キュリーの物語と伺った時には、難しいのかな?と一瞬思ったのですが、決して科学だけを追求しているストーリーではないので、人間ドラマとして観ていただける作品だと思います。

──いま難しいのではないか?と思われたというのは、やはり科学的なことが出てくるところに対してでしょうか?

そうですね。もちろんお客様のなかには詳しい方もたくさんいらっしゃるとは思うのですが、私にとっては調べても調べても分からない科学の話がたくさん出てくるので、そこはどうしても単純に難しいと思ってしまいました。でも重要なのはそうした科学的な要素よりも、むしろ人の感情だったり、近くにいてくれる人たちとの関係性だったりするので、そういうところを大切にしています。もちろん彼女の科学に対する情熱は大変なもので、やっぱり一つのことに没頭する人でないと、こういう偉業は成し遂げられないと思います。
稽古もちょうど最初から最後までざっくりと通してみたところで、ここからまた一場面、一場面を詰めていく作業になりますので、更にまた見つかるものもあるかなと思っていますが、よく裕美さんが使う言葉に「マリーはオタクだ」というのがあって、それはすごくわかりやすかったです。やっぱり科学に対する情熱ですとか、それを人に語る時のエネルギーの噴出の仕方は、確かに「オタク」だなと思います。
それから彼女は人とのコミュニケーションが苦手なのですが、やはりポーランド人であること、そして女性であることで、当時とても生きにくい面があったんですね。例えば自分の名前でなく、ポーランド人の蔑称でずっと呼ばれている。そんな風に呼ばれていた人が自分の名前を見つけたいと思うことが全てのはじまりなんですけれども、抱えているコンプレックスによってコミュニケーションがなかなかうまくいかない。それは彼女が天才で、おそらく人と違う思考にすぐなるからだと思いますが、そこでアンヌと出会って、どんどん人間らしくなり、人の気持ちを考えるようになっていく。そうした変化もきちんと描かれています。

──そんな細かい心情変化のあるマリー・キュリーを演じるにあたって、特に大切にしたいと思っているところは?

まずはラジウム、放射線を見つけるにあたって、ラジウムに対する執着、自分が産んだ子供のように可愛がることによって少し判断も鈍るのですが、1幕のラストでは「自分とラジウムは一心同体だ」と言うシーンがあるんです。そこはなくてはならないなと感じます。ラジウムに懸けるマリーの思いは、ある意味では狂気的な面も感じると思うのですが、それぐらいだからこそノーベル賞をとるまでのことができるのだと思います。もちろん犠牲にしているものもたくさんありますし、娘への接し方などについては、私自身は「どうしてこうなってしまうのだろう」と思うところもあります。でもそれぐらい彼女にとって科学は大切なことで、「何故あなたは科学をやるのですか?」と問われるシーンがあるのですが、それに対しての答えは、いま申し上げるのは控えたいのですが、その答えが全てだなと思う台詞なので、そこは一番大切にしたいです。

実在した方に「演じさせていただきます」という気持ちでいる

──舞台でマリーがどう答えるのか?にも注目したいですが、先日まで長期間演じられた『エリザベート』のオーストリア皇妃エリザベートや、フランス王妃マリー・アントワネットなど、実在の人物を演じる機会も多い愛希さんですが、まったく創作の人物を演じる時とでは取り組む上で違いはあるのでしょうか。

実在の人物を演じさせていただく時には、とても有名な方が多いですし、資料もたくさんあります。しかも私よりもむしろお客様の方がよくご存じだということもとても多いと思います。そこから自分も様々に調べていくわけですけれど、その時、ご覧になった方に「これはマリー・アントワネットじゃない」「これはエリザベートじゃない」と思われないように、というのはとても意識しています。やはりそう感じさせてしまうとしたら、お客様がもうその時点で物語に入り込めなくなってしまうと思うので、実在した方の持っているイメージを壊さない、ということは大きなポイントだなと思っていて、資料を読みこんでそこに近づこうとします。ただ何よりも違うのは自分の思いですね。やっぱり実際に生きていらした方なんだと思うと、その方に対して「演じさせていただきます」という気持ちでいますので、その想いが一番違うのかなと思います。

──また、この作品は韓国で生まれたミュージカルですが、楽曲の魅力についてはいかがですか?

とても素敵な音楽なのですが、本当に難しいです。最初に譜面を見た時には変拍子が多用されていて、これはかなり時間がかかるかもしれないと思ったんです。でも何回か歌ってみたら、できていないことはたくさんありながらも、大きなメロディーラインはスッと入ってきたんです。意外にも覚えやすくて、すぐに口ずさめる感覚だったので、とてもキャッチ―なんだと。ですからお客様も1幕をご覧になったあとの休憩時間などに、印象的な曲が頭に浮かんだりするのではないかな、と思うぐらい曲が素晴らしいです。最初にも言いましたが、すごく難しいのですけれども、そこが彼女の天才的なところを表してもいて、ここからこの音にいくの?というような、必ずしも心地よくはない部分もある音の跳躍に、彼女が人の思いつかなかった仕事をしたことを表れているように私は感じていて。作曲家の方の本当の意図は分からないのですが、あくまでも私はそう感じるので、とてもよくできている、魅力的な音楽だと思います。日本演出としては多分韓国版よりもダンスシーンですとか、身体的に表現しているシーンも多くなってるという印象があります。、役者が表現していくことによってより面白くなるのではと思っています。

──そうしたダンスシーンも増えてくるということで、カンパニーの皆さんと稽古場で話し合う機会も多いのですか?

いまはとてもハイペースで全体を作っていますし、私としてもこれだけ学術用語を話す役は初めてなので、まだ私がいっぱいいっぱいになってしまっていて、皆さんとそこまで深くお話できるタイミングがあまりないのです。でもシビアなシーンが多かったりもしますから、終わったあとは疲労もあるのですが、その疲労感がとても爽快なんですね。カンパニーの皆さんがご自身の課題に真摯に向き合っていらして、稽古場の雰囲気がすごく明るいですし、アンヌの清水くるみさん、ピエールの上山竜治さんはよく知っているお二人ですし、竜治さんがどんな現場でも楽しんでお稽古される方なのも大きいと思います。

──この時代は特に女性が何かを極めていくとか、発表していくことはとても大変だったと思うのですが、それはいまにも通じるテーマでもありますから、演じていて時代性を感じることもおありですか?

『エリザベート』という作品をつい先日までさせてもらっていて、時代は違いますが、それでもやっぱり彼女も全体的にとても現代的だと私は捉えて、それを重要視して演じていました。そういう過ぎていった時代に、壁を越えようとする人たちがいたからこそ今がある、と思うので。いまおっしゃってくださったように、マリー・キュリーの生きた時代は、女性が、しかも科学者として生きていこうとするのはありえないようなことだったのに、あくまでも思いを貫いていくところがしっかり描かれているので、そこには現代の女性の方々に通じるメッセージが必ずあると思いますし、皆さんにエールを贈れる作品だなと思います。

──そんな新しい作品を楽しみにしています。では改めてこの舞台を観に来られる方達にメッセージをお願いします。

実在の女性科学者マリー・キュリーを描いたミュージカルですが、今回は全てが史実通りではありません。でもそのなかで、この作品としての真実をきちんと貫いていますので、そこを楽しんでいただけたら。裕美さんとも話したのですが、「あまり考えすぎずに好きなことをやってみればいいんじゃない? やったら何か見つかると思うよ」というメッセージがあります。言葉にしてしまうと簡単に聞こえるかもしれませんが、でも本当にそうだなと思うんです。何かを成し遂げるには、まずはじめてみないといけませんし、それが好きなことであればきっと何かが見つけられる。今、夢に向かって進むことや、これからの道を迷っている方達に、とくに若い方達にもエールを送れるんじゃないかなと思います。ですから、科学者の話?難しそう、と思われずに、ロマンチックな部分もありますので気軽に観に来ていただけたら。この作品を最高のものにしたいと思って、みんなで力を合わせて稽古をしていますので、是非観にいらして下さい!

■PROFILE■
まなきれいか〇2009年宝塚歌劇団に入団し、12年に月組トップ娘役に就任。『ロミオとジュリエット』『1789─バスティーユの恋人たち』『グランドホテル』など、数多くのミュージカルのヒロインをはじめ、トップダンサーとしてショーでも目覚ましい活躍を続けた。18年『エリザベート』のエリザベート役を最後に退団したのち、東宝版『エリザベート』の同役で主演デビュー。以降『フラッシュダンス』『マタ・ハリ』等で大役を務め躍進を続けている。

【公演情報】
ミュージカル『マリー・キュリー』
脚本:チョン・セウン
作曲:チェ・ジョンユン
演出:鈴木裕美
翻訳・訳詞:高橋亜子
出演:愛希れいか 上山竜治  清水くるみ
能條愛未 宇月颯  清水彩花 石川新太
坂元宏旬  聖司朗  高原紳輔  石井咲 大泰司桃子 / 屋良朝幸
●3/13~26◎東京・天王洲 銀河劇場
〈料金〉S席 12,500円 A席 9,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉スペース 03-3234-9999(平日10:00~12:00/13:00~15:00 ※変更になる場合がございます)
●4/20日~4/23◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈料金〉 12,500円  U22割 5,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00 日祝休)
〈公式サイト〉https://mariecurie-musical.jp/

【取材・文/橘涼香 撮影/岩田えり】

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