お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

オフ・ブロードウェイミュージカル『The Last 5 Years』に挑む! 花乃まりあインタビュー

 

2001年にシカゴで初演された後オフ・ブロードウェイに進出し、世界中で上演され続ける傑作ミュージカル『The Last 5 Years』。駆け出しの女優として奮闘するキャシーと新進気鋭の作家のジェイミーが、恋に落ちてから別れるまでの5年間の姿を、キャシーは結婚生活の終わりから出会いに向かって、ジェイミーは二人が初めて出会った時から別れまでと、それぞれが過ごした日々を順行と逆行から綴っていく、斬新な着想による物語だ。

そんな傑作ミュージカルが小林香による新演出で、6月28日~7月18日、東京・オルタナティブシアターで上演される。しかも、木村達成×村川絵梨、水田航生×昆夏美、平間壮一×花乃まりあの三組の恋人たちが登場するという、非常に刺激的な企画にいま大きな注目が集まっている。

その一組、平間壮一とのコンビでキャシー役を演じる、元宝塚歌劇団花組トップ娘役で、現在舞台、映像と幅広く活躍している花乃まりあが、作品や役への意気込み、更に華やかに開催された『エリザベートTAKARAZUKA25周年記念スペシャル・ガラ・コンサート』出演で感じたことなどを語ってくれた。

二人の時間軸が逆行するからこそ生まれる面白さ

──大変斬新な構成ですが、まず作品をどう感じていらっしゃいますか?

キャシーの時間軸が逆行しているということだけを伺ってから、まず映画を拝見したのですが、エンディングから物語を観ていくのがとても面白いなと思いました。ジェイミー側は二人の出会いから順行して進んでいくので、二人の時間軸がどこで交わるんだろう?とドキドキして観続けて、ついにその瞬間が訪れた時に、もし二人が出会ってからの流れを共に進んでいっていたとすれば、最もハッピーな、幸福で輝くはずのその瞬間が、エンディングを既に観ているだけに、とても悲しくて。二人の視線が唯一交わったシーンの切なさが胸に迫りました。そういう新たな感覚、たった二人の登場人物が逆方向から描かれることによって、こんなにも新鮮な面白さが生まれるのかと感動しました。もうひとつはやはりミュージカル作品としての音楽の素晴らしさで、数々のナンバーの魅力にも引き込まれました。

 

──その中で演じるキャシー役についてはいかがですか?

このお話は、ある意味ではすごくドラマチックな何かが起きるというものではないんですね。だからこそ観て下さる方が、この一組の男女の5年間の出来事の中のどこかに共感していただけるポイントがあると思います。私もキャシーとは全く違う人生を歩んでいますが、キャシーに共感できる部分がたくさんあるんです。ですからお客様にもキャシーの生き方を「あぁ、わかるな」と感じてもらえるように、私自身の人生もどこかではキャシーに投影して演じることができたらいいなと思っています。特に今回は三組のジェイミーとキャシーによる上演なので、それが、私が演じるキャシーの個性になっていってくれればいいですね。

──その三組のペアによる上演というのも、非常に興趣に満ちていますが、ご一緒する平間壮一さんについては?

これまでは私が、ただ一方的に舞台を拝見してきていたのですが、歌もダンスもお上手ですし、エネルギーにあふれたパワフルな舞台から飛んでくるパワーを強く感じていたので、普段からエネルギッシュな方なのでは?と想像していました。でもビジュアル撮影の時に初めて実際にお目にかかったらすごく穏やかな方で。そのギャップもまたとても素敵でしたので、平間さんとご一緒にジェイミーとキャシーとして恋愛模様を演じられるのがとても楽しみです。

──同じ作品を三組で観られるのは贅沢ですね。

演じる側としてはドキドキもするのですが(笑)、お客様からは同じ作品を全く違うものとしてご覧頂けるのではないかと思うので、是非三組とも観てくださったら嬉しいです。

最初にどん底の部分を見せてしまう

──先ほど、楽曲の魅力についてもお話くださいましたが、ご自身で歌われてみていかがですか?

最初にも申しましたように「素敵な曲ばかり!」と思いながら聞いていたのですが、いざ自分が歌うんだと思って譜面と闘いはじめるととても難しくて!1曲、1曲が長いですし、作品がほぼ全編に渡って歌で綴られていますから、どの曲も大切に歌わないとお客様に内容をお伝えできなくなってしまうので、これは大変だ!と。特に曲が素敵なだけに、綺麗なメロディーを歌うことだけに集中してしまうと、言葉が流れる危険性がありますから、お芝居として言葉を丁寧に伝えつつも、美しいメロディーも聞いていただける、その両方を大切にしながら歌っていかなければと思っています。

──だからこその面白さもたくさんあるとのことでしたが、時間軸を逆行していくというお芝居についてはどうですか?普段のお芝居とは全く異なることになりますよね?

そうなんです。キャシーの時間は逆行するので、そこはお稽古を重ねるほど難しさを感じていくのではないかなと。お客様も舞台をご覧になっていて、結末を知らないからこそ「次はどうなるんだろう?」とどんどん興味を引かれていくことが多いのでは?と思いますし、演じる側としても舞台のお芝居をさせて頂いていて一番面白さを感じるのは、少女時代から亡くなるまでを順を追って演じられることなんです。やはりとても感情が乗せやすいですし、演じる人物が過ごしていく人生の時間も感じられます。でも今回それが逆行していて、一番最初にどん底の部分を見せる、ある意味では見せてしまう訳ですから、お客様には「何故こういう結末を迎えてしまったんだろう?」という疑問や、興味を感じていただかないといけないので、1曲目の出だしを特に大切にしたいです。自分としても、これまでのお芝居とは違う演じ方になるのかなと思っていますが、映像作品では切り取った一場面を、順を追ってではなく撮影しますし、その難しさと同時に面白さも感じているので、逆行していくキャシーの時間を、場面、場面で切り換えて演じていったらいいのかもと考えてはいます。これについてはお稽古の中から、もっと違う演じ方ですとか、色々な発見もあると思うので、演出の小林香さんともよくご相談しながら演じていきたいです。

──その演出の小林さんとはどんなお話を?

ビジュアル撮影でお会いした時から、とてもフランクに接して下さいました。特に小林さんは宝塚の方々が出演される舞台をたくさん手がけていらっしゃるので「楽しみにしていますよ!」と言って下さったのがとても嬉しくて。安心して小林さんの作る空間の中に飛び込んでいけばいいんだ!と思わせてくれる方ですし、数々の話題作を手掛けていらっしゃいますから、小林さんが演出をされることで、この作品にもまた違った魅力が生まれてくると思います。何よりも小林さんが公式ホームページに私と平間さんの個性が全く異なることからも面白さが生まれそう!という趣旨のコメントを寄せて下さっていたので、小林さんが私をどう見て下さっていて、どんな演出をつけて下さるのかも楽しみにしています。

『エリザベート』へのチャレンジで得たものを胸に

──花乃さんは宝塚歌劇団での80人規模の出演者が揃う舞台から、『フローズン・ビーチ』のような四人芝居と、多彩な経験を積まれていますが、今回は二人ミュージカルということで、それぞれの違いはどう感じていますか?

宝塚には下級生が総力を挙げて舞台を持ちあげている感覚があります。特にトップ娘役を務めさせていただいている時には、周りの方々が私に向けて集中して下さることによって、自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされていったことも多くて。コーラスの厚みもありますし、やはり大人数だからこその華やかさがありました。それが『フローズン・ビーチ』では四人、今回は二人だけの作品になりますが、今、向き合ってお芝居をしている、その方に対しての集中力という意味では、変わらないものを感じていて。

──あぁ、なるほど!

下級生時代にとても大人数でのお芝居の中に入っていた時にも、きっとどこかに必ず私を観ていてくださる方がいらっしゃると信じて、真剣にお芝居に向き合っていましたし、もちろん人数が少なくなれば、その分緊張も高まります。でも、大人数の舞台と少人数の舞台とで、自分として何かを変えているということはあまりないかなと思います。

──お芝居に集中する姿勢は同じと伺えたところで、4月にはミュージカル『エリザベート』宝塚初演から25周年を記念した『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』でエリザベート役を演じられました。大変素晴らしい舞台で感動しましたが、ご自身ではいかがでしたか?

ありがとうございます!このガラ・コンサートにエリザベート役でというオファーをいただいた時には、正直葛藤もあったんです。やはり私としては明日海りおさんのトート、蘭乃はなさんのエリザベートの舞台に対する強い思い出がありましたし、宝塚を退団している私が再び男役さんと対峙することが、果たしてお客様の目にどう映るのだろうかなど、色々な不安もありました。でも小池先生や明日海さん、更に周りの方々も皆背中を押してくださって、挑戦しようと思うことができましたし、やると決めた以上は、少しでも良いものをお観せしたい一心で、稽古に励んでいきました。

──新人公演のエリザベートを拝見して、是非通して演じていただきたいなあと、個人的にもずっと思っていたので、良かったなぁと。

本当ですか?嬉しいです!実際に舞台に立って、私達OGが舞台で再会することをお客様がこんなにも喜んで下さるんだ、という想像できなかったほどの感動がありました。明日海さんと久しぶりにお芝居をご一緒させていただけて、何も言わなくても、お互いのコンディションからどう演じたいかということまでが全て伝わる、その感覚が瞬時に蘇ることにも胸が熱くなりました。特に新人公演でやらせていただいた時には「娘役とは?」を突き詰めていた時期で、宝塚の娘役らしさにどうしたら近づけるのか、柔らかい雰囲気を醸し出して、綺麗に出なければ!ということが、まず一番にあったんです。でも今回のガラ・コンサートではもちろんエリザベートを演じさせていただくのですから、綺麗に出なければいけないのですが、タカラジェンヌではなくなっているからこその、外に出てから培ったものを含めた、OGが集うガラ・コンサートだからできる表現があってもいいんじゃないか?と歴代キャストの皆様もおっしゃっていたので、いまの私が演じるエリザベートとして捉えられたことも大きかったのかなと思っています。私は三日間だけの出演でしたが、生涯忘れられない舞台になりましたし、チャレンジして良かったと思っています。

──本当にまたこれからも、花乃さんの舞台をたくさん拝見したいという気持ちが高まりましたが、ではそんな新しい舞台のひとつとなる『The Last 5 Years』を楽しみにさされているお客様へのメッセージをお願いします。

なかなかコロナ禍が落ち着かないこともあって、皆様にも不安の多い日々をお過ごしではないかと思います。何より、1年半前には、まさか世界がこのような状況になるとは想像できなかったことからも、人の人生ってどこで変化するかわからないんだと痛感しています。そういう時期だからこそ、この『The Last 5 Years』で描かれる男女の5年間の物語はとてもリアルで、「私もこの気持ちを感じたことがある」ですとか「これからこういうことも経験するかもしれない」など、ご自分の人生も重ね合わせながらご覧いただけるのではと思います。皆様の人生に寄り添える作品になったらいいなと思っていますので、一生懸命お稽古を重ねて、この物語をお客様と共に完成させられたら幸せです。是非楽しみに観にいらしていただけたら嬉しいです!

 

かのまりあ○2010年に宝塚歌劇団に入団。宙組に配属後、可憐な容姿と確かな演技力で頭角を現し『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』のヒルダ、『モンテクリスト伯』のメルセデス、『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラなど、新人公演で数々のヒロインを演じる。14年に花組に組替え。『エリザベート』新人公演でエリザベート役を務めたのち、同年花組トップ娘役に就任。『ベルサイユのばら』のマリー・アントワネット、『ME AND MY GIRL』のサリー、『新源氏物語』の藤壺の女御など、宝塚を代表する作品のヒロイン役を歴任した。17年退団後は舞台、テレビで活躍。朝の情報番組『ZIP!』ではレポーターを務めるなど、活動の幅を広げている。近年の主な舞台作品に『フローズン・ビーチ』『Gang Showman』『ELFE─The Musical』等があり、『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』では新人公演以来となるエリザベート役を華麗に務めて話題を呼んだ。

【公演情報】
オフ・ブロードウェイミュージカル『The Last 5 Years』
作詞作曲・脚本:ジェイソン・ロバート・ブラウン
演出:小林香
出演:木村達成×村川絵梨 水田航生×昆夏美 平間壮一×花乃まりあ
●6/28~7/18◎東京・オルタナティブシアター
〈料金〉8.800円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉チケットスペース 03-3234-9999 (平日10:00~12:00/13:00~15:00)
●7/22~25◎大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
〈公式サイト〉http://www.last5years.net
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888 (平日・土曜 11:00~16:00)

【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃 スタイリスト&ヘアメイク/KOBA(PUNCH) 衣裳/ワンピース:ADELLY 靴:ダイアナ】

記事を検索

宝塚ジャーナルの最新記事

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』井上芳雄最終日の写真到着&再演発表!
稲垣吾郎主演舞台『多重露光』追加キャスト決定!
まもなく開幕!ミュージカル『アナスタシア』稽古場レポート&写真到着!
ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人~』のメインビジュアル公開! 
「祭シリーズ」9年ぶりに出演!上口耕平インタビュー

旧ブログを見る

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報