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明治座『恋、燃ゆる。』で近松の世界に挑む!東啓介インタビュー

明治座で10月19日に『恋、燃ゆる。~秋元松代「おさんの恋」より~』が初日を迎えた。(11月15日まで)

本作は、近松門左衛門作の浄瑠璃『大経師昔暦』を、劇作家の秋元松代がTVドラマとして書いた『おさんの恋』が原作になっている。その物語を、ミュージカルの演出などで知られる石丸さち子が、上演台本と演出を手がけて舞台化した。

主人公のおさん役は、明治座での座長公演は2018年の『仮縫』以来となる檀れい。その相手役である茂兵衛は若手歌舞伎俳優の中村橋之助が演じている。さらに東啓介、多田愛佳、石倉三郎、西村まさ彦、高畑淳子ら豪華キャストが顔を並べている話題の舞台だ。

物語は京都の大店を舞台に、美人で気立てのよい大経師彩玉堂のお内儀おさんと、おさんに秘かな恋心を抱く手代の茂兵衛が、運命のいたずらから不倫関係を疑われ、追い詰められていく、という悲しくも美しい恋の物語だ。

その作品で、彩玉堂の主人・永心の異母弟、政之助に扮するのが、ミュージカルやストレートプレイで次々に大役を演じている東啓介。二度目となる明治座での時代劇について、また役どころについて抱負を語ってもらった。

京言葉のイントネーションに感情を乗せるのが難しい

──明治座での時代劇は二度目ということですが

昨年、中村雅俊さんの45thアニバーサリー公演『勝小吉伝 ~ああ わが人生最良の今日~』という舞台で、小吉の息子の麟太郎(勝海舟)を演じさせていただきました。武士の役でしたから所作なども難しかったのですが、今回はそれとはまた全然違う京都の商家の話ですから、一から覚えることも多いです。

──言葉がまず大変でしょうね?

京言葉が本当に大変なんです! イントネーションは音楽と同じ感覚でなんとかなるのですが、そこに感情を乗せていくうちに、イントネーションまでおかしくなったり(笑)。普段だったら自然に喋れる会話でも、京言葉を意識した途端にぎこちなくなったりするので、苦労しています。

──演じる政之助という役どころですが、どんな人ですか?

西村まさ彦さんが演じる彩玉堂の主人・永心の弟なのですが、母親が違うこともあって周りからあまり良く思われていないんです。でも仕事はできるので、みんなが認めざるを得ない人で。ただ本人の中にはこの家の正統な跡継ぎではないことでの悔しさとか、兄へのジェラシーもあって、それが政之助を苦しめています。

──この物語はおさんと茂兵衛が悲劇の方向へと導かれていきますが、政之助の役割りとして、そこにどう関わるのでしょうか?

直接的に悲劇に手を貸すわけではないのですが、彼らの運命に揺さぶりをかけて、溝を大きくしてしまう。その意味ではやはり悲劇への1つの要因にはなっていると思います。

──近松の世話物の世界ですから、人間関係とか義理人情とか、いつも出ている作品とは違うでしょうね。

違いますね、すごく新鮮です。今の時代は身分の上下などはありませんが、当時は身分制度があって、その立場を超えて恋をすることは許されなかったり、すごく生きにくい部分もあったのだなと思います。

──そういう近松世界に、東啓介という現代の人間としてどうアプローチしていきたいですか?

僕も兄がいるのですが、政之助のように兄に嫉妬する感情はなくて、それよりもこの世界に入ったことで、同年代の仲間と比べて、自分がうまくいってない時などに感じる気持ちが、たぶん政之助と一緒かなと想像するんです。なんで自分はこうなんだろうとか、どうしたらもっと上に行けるのだろうとか、そういう内面の葛藤みたいなものは、政之助に重ねていけるかなと思っています。結局、人間の心情というのは時代に関係なくいつの時代も同じではないかなと。

──演出が石丸さち子さんで、これで5作目ですから安心感があるのでは?

いえ、これまではミュージカルでしたが、今回まったく違う舞台なので、不安のほうが強いです。自分がちゃんと期待に応えられるか、この作品で成長できるかと。政之助の出番自体があまり多くないので、その中で政之助という人間をどこまで見せていけるか、物語の中での政之助の役割りをどこまで表現できるか、そこが今回の課題だと思っています。

歌と巡り合えたことで今の自分がある

──東さんはミュージカルに次々に出演するだけでなく、一昨年は三島由紀夫原作の『命売ります』に主演するなど活躍中ですが、この世界に入って良かったなと思うことは?

歌と巡り合えたことが大きいですね。僕の歌を良いと言ってくださる、そういう方々に出会えたからここまでやってこられたので。でなかったら僕は19歳くらいでこの世界はやめていたかもしれない。今でこそ身長が高い人が増えてきましたけど、僕が10代の頃は、あまり長身だと映像では使いづらいと言われていました。今はそこも僕にとって生きやすくなりました。それも含めていろいろな面で自分について新しい発見ができているので、この世界に入って良かったなと思います。

──今回はストレートプレイですが、ミュージカル作品とどこが違いますか?

ミュージカルは曲がまずあって全体が構成されますから、音楽を中心に考えていかないといけませんが、ストレートプレイは歌がないことで、台詞や動きの間を自由に使えます。そのぶんリアルな人間らしさが出しやすい気がします。でもどちらの表現も面白いし、それぞれ沢山経験を積んでいきたいですね。

──自分がまだまだだなと思うのは、どんなところですか?

歌も演技も全然まだまだですし、映像もそんなにやっていないのでチャレンジしていければいいなと。舞台も、これまでは1つの思いを伝え続けるという役ばかりでしたので、わりと迷わずに演じてこれたのですが、今回の政之助は心情が複雑で、それに加えて和物で京言葉に所作もあるので、自分にとっては鍛えてもらえる良いチャンスだなと思っています。

この作品で恋というのはこんなにも凄いものだと

──コロナ禍の中でも、いくつか配信の舞台などにも出演していましたが、どんな思いで過ごしていましたか?

5月いっぱいは自宅にずっといました。その期間に自分は何が好きなんだろうとか、本当に芝居を好きなのかな?歌が好きなのかな?とかいろいろ思いながら。そんな時に久しぶりに楽器を触ったんです。ピアノを。そして曲を作りました。それで自分はやっぱり歌が好きなんだなと。お芝居もまだまだ苦手意識もあるけれど、逆にそれだからこそやりたいなと改めて思ったし、そういうことを考える良い時間になりました。

──表現することからは離れなかったのですね。

何かで表現したいという気持ちは絶対になくなりませんね。本当ならリモートで何かやってみる良い機会だったかもしれないのですが、まだそこまではできなかったので、いつかやってみたいなと思っています。

──こういう世の中だからこそ、逆に自分の可能性を広げるチャンスですね。

そう思います。自分で歩き出さないといけないなと。コロナ禍の時期を逆に自分の可能性のためにちゃんと使いたいですね。

──その自粛後の最初の大きな舞台が『恋、燃ゆる。』ですが、劇場に観にきてくださる方へのメッセージをいただけますか。

皆さん不安な思いを抱えて、それを乗り超えて来てくださるのですから、舞台から届けられるエネルギーを持って帰っていただきたいですね。この作品は恋の話で、今、誰かと会うのも不安だと思いますけど、この物語を観て、恋というのはこんなにも凄いものなんだと感じて、生きるための活力にしていただけるといいなと思います。とにかく檀れいさんのおさんと、中村橋之助さんの茂兵衛の恋の想いがとても素敵なんです。2人のシーンが切なくて美しいので、そのシーンを見ていただくだけでも凄く価値があります。

──最後に政之助さんの見どころもぜひ。

その素敵な愛を揺さぶります(笑)。今までと違う東啓介を観ていただけると思いますし、チャレンジしている僕を観ていただければ嬉しいです。

 

ひがしけいすけ〇東京都出身。2013年デビュー。主な出演作品はミュージカル『ジャージー・ボーイズ』ミュージカル『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳』ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』中村雅俊45thアニバーサリー公演 第1部『勝小吉伝 ~ああ わが人生最良の今日~』ミュージカル『マタ・ハリ』ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』等。また、主演作品に『New Musical『Color of Life』舞台『命売ります』Rock Musical『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』がある。コロナ禍での配信作品として、STAGE GATE VRシアター vol.1『Defiled-ディファイルド-』リーディングシアター『緋色の研究』がある。11月28日には東啓介1st Musical Concert『A NEW ME』を山野ホールで開催予定。

【公演情報】
『恋、燃ゆる。~秋元松代作「おさんの恋」より~』
原作:秋元松代『おさんの恋』
上演台本・演出:石丸さち子
出演:檀れい
中村橋之助  東啓介 多田愛佳 石倉三郎
西村まさ彦 高畑淳子
大石継太 妹尾正文 武岡淳一 篠塚勝
みやなおこ 及川いぞう 塚本幸男 中村橋吾
上野哲也 山沖勇輝 百名ヒロキ ほか
●10/19~11/15◎明治座
〈料金〉S席(1・2階席)12,000円 A席(3階席) 6,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉明治座 03-3666-6666(10:00~17:00)
〈チケット予約〉https://www.meijiza.co.jp/sekitori/
〈公式サイト〉https://www.meijiza.co.jp/lineup/2020/10/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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