いよいよ開幕! unrato #6『冬の時代』須賀貴匡・宮崎秋人・壮一帆・池田努 インタビュー
明治も終わろうという時期に起きた大逆事件(幸徳秋水事件・1910年)とその後に行われた、社会主義運動への弾圧。そんな時代を描いた木下順二氏の戯曲『冬の時代』が、演劇ユニットunrato(アン・ラト)とぴあ株式会社によって、3月20日から29日まで、東京芸術劇場シアターウエストで上演される。
舞台となるのは、大逆事件の後。堺利彦は「売文社」をおこし、荒畑寒村と大杉栄は雑誌「近代思想」を発行し、言葉によって世の中を動かそうと尽力し、社会運動だけではなく文化運動にも力を注いだ。
劇中では、堺、大杉、荒畑をはじめ伊藤野枝、高畠素之など実在の人物が名前を変えて登場。大正デモクラシーの波の中で考え、葛藤し、未来へと行動し続ける若き表現者たちを力強く描いている。
そんな作品で、堺利彦がモデルの渋六を演じる須賀貴匡、大杉栄がモデルの飄風に扮する宮崎秋人、渋六の妻である「奥方」の壮一帆。また高畠素之がモデルとなっているノギに扮する池田努、という4人に本作への取り組みを語ってもらった。
明治、大正を駆け抜けた著名な文化人たちが登場
──まず最初に戯曲を読んだときの印象から聞かせてください。
須賀 これは大変な戯曲だなと。明治、大正を駆け抜けた著名な文化人たちが出てくる作品ですから、参加させていただけるのはとても光栄です。ただ単語ひとつとってもわからないことだらけで、辞書を引きながら読みました(笑)。しゃべっている言葉も政治のことや、思想や主義の話が大部分なので、これを噛み砕いてお客様にどう届けるか、そこが大事だなという印象でした。
宮崎 僕も同じで、携帯電話を手にいろいろ調べながら(笑)。でも何度か読んでいるうちに関連する本などをどんどん読みたくなってくるし、自分の役も出てくる人たちもどんどん好きになっていって。今では考えられないような時代だし出来事ばかりなのですが、面白い時代だし素敵な人が沢山いたんだなと思いました。
壮 私も、台本を何度も開いては閉じて開いては閉じで・・・(笑)それだけに立ち向かい甲斐のある作品だと思っています。ただ、皆さんには申し訳ないのですが、私はちょっとラクかもしれません。台詞の量も皆さんよりは少なめですし、話している内容も比較的ライトなので。そのぶん稽古に臨む姿勢はライトではなく、とにかく調べて、突き詰めて、深いところまでやらないといけないなと。それに最初は難しそうに感じても、作品の世界観にダイブしてしまえば、すごく楽しめる作品になる気がするんです。
池田 皆さんと同じで、最初読んだときは音を上げそうでしたが(笑)、こんなふうに難しい作品をあえて上演しようとする主催側の心意気を感じました。そういうのは僕も大好きなので(笑)。分かりやすいものばかりではなく、演劇ってテレビと違って挑戦ができるジャンルですし、これは大きな挑戦だなとワクワクしました。それに、実はこの戯曲は、ワークショップで一度やっていて、そのとき、読むより動いてみると全然わかりやすいなと。面白い戯曲だし、難しいとか悩む必要はないなというのが実感でした。
男性陣が多い座組の中で女性として存在する意味を
──それぞれ自分の演じる役をどう捉えているか伺いたいのですが。須賀さんは売文社社長の渋六役で、社会主義運動の指導者として有名な堺利彦がモデルです。
須賀 実在した人物なので、軽率なことは言えないところもありますが、社会主義という思想などは別にして、言葉とか文字で彼らは世の中と闘っていた。そこは今の時代の僕らが、演劇という表現を通して世の中を変えていきたいとか、何かを伝えていきたいという気持ちとそんなに変わらないのではないかと思います。100年以上前の話ですが、その時代背景ももっと知りたいし、彼の精神を自分のものとしてもっと探っていきたいです。
──壮さんはその妻で、仲間から「奥方」と呼ばれています。
壮 思想家の妻ですから夫の意見や思想に賛同していると思いますし、当時、社会主義的な運動をしていた人たちは、それが最高の思想だと思って行動していたわけですから、そこをいかにリアリティを持って表現できるかが大事だと思っています。そのためには作品を深く理解して、自分の中にそれを根づかせたいですし、男性陣が多い座組の中で、女性としてそこに存在する意味もしっかり出せたらと。先頭を切ってではないにしろ、そういう活動に関わっている女性の強さとか内面を表現できたらと思っています。
──壮さんが男役時代に培った男気的な部分が役に立ちますね。
壮 みんなに言われてます(笑)。そこがうまくシンクロすればいいですね。夫が警察に捕まったら一緒に捕まる可能性もあるので、その覚悟もあるはずですし、肝も据わっていると思います。
ある意味で純粋だから自分を犠牲にしてもそれを貫く
──宮崎さんが演じる飄風のモデルは大杉栄。歴史的にも有名な無政府主義者の運動家です。
宮崎 台本を読んで思うのは、彼はいろいろな人と議論をしますが、どれも自分のためにものを言っているのではなく、国のためとか同志のために言っているんだなと。その中で意見がずれて衝突するのですが、それも自分のためではなく相手のためで、ある意味では純粋だからこそ本当のことを言うし、自分を犠牲にしてもそれを貫く。そういう生き方はカッコいいと思いますが、ちょっとその度が過ぎてるなと(笑)。際限のない人というか、普通の人なら、もうこれ以上行ける道はないし隙間もないと思うところでも、法の隙間を縫ってでもなんとか突き進もうする。だから普通の人間からみたら犯罪者みたいに見える(笑)。ただ芝居の中では、できればそこまで行き着きたいと思っています。
──宮崎さんは昨年の舞台『光より前に~夜明けの走者たち~』で円谷幸吉を演じましたが、どこか純粋が極まって狂気じみた感じさえする人が似合いますね。
宮崎 なんかそういう役が多いですね(笑)。円谷も飄風も方向が違うだけで、自分が信じた道をとことん突き進むという面では同じだし、どちらも自分が見たもの感じたものを信じて、突き進むエネルギーを持っている人間だなと思います。
──池田さんはノギ役で、のちに運動の方向性で立場を分かつ高畠素之がモデルです。
池田 「売文社」に集まる連中は、まだ社会主義についても探っている最中だし、それぞれの主義主張にも迷いがある。理想は高くて志もあるけれど、どこか不安定な集まりなんですよね。ただ、同じ志を持った人間同士が集まると同調圧力というのがあって、仲間になりたがるし、仲間であることにしがみつこうとする。でもノギにはそれにしがみつかない孤高というものを感じます。それはなかなか難しいことだろうなと。ただでさえ孤立している思想家集団の中で、さらに孤立することを恐れないで、俺はこういう考えだと言って闘ったりする。それはきっと自分に執着がないからだし、もしかしたら自分の命にすら執着がないのかもしれない。じゃないとそこまでできないと思いますから。
──大河内直子さんが演出した『受取人不在ADDRESS UNKNOWN』でも政治に翻弄される人間を演じていましたが、通じるところがあるのでは?
池田 やはりあの作品をやったことは大きいです。再演も含めて演出の大河内さんの世界観をどっぷり経験させてもらいました。その経験値が役に立っています。
この時代の息吹と生きた人々の世界観を伝える
──このような個性と主張のある人物たちをまとめていく存在が渋六ですが、須賀さんから見てこの座組はいかがですか?
須賀 それぞれの役と個人個人がクロスオーバーするのを感じますし、このカンパニーで1つの大きなうねりのようなものが出来あがれば、すごく面白い作品になるだろうなと思います。
──「奥方」から見て、この3人の男性たちは?
壮 皆さんすごく大人ですよね。私はこういう本格的なストレートプレイというジャンルでの経験が浅いので、その意味では先輩と言える方ばかりで、すごく頼もしいですし、その中で私は安心して自由にさせていただける。とてもありがたいなと思っています。
──翻訳劇も数多く出ている方ばかりですが、日本が舞台になっているこの作品の面白さは?
須賀 やはり自分の国で起きたことですし、時代劇などもそうですが、歴史や過去にあった出来事を知ることは、俳優としての財産になると思っています。
壮 自分の国の歴史をより深く知ることができて、ありがたいなと思います。とくに私にとっては、今まで舞台で演じたことのない時代なので新鮮ですし、それに、たとえば「社会主義思想」というものについて、なんとなく聞いたことがあっても、具体的にどういう思想だったのかは知らなかったので、それを知る良い機会になったと思います。
池田 難しいなと思うのは、やはり実在の人物ですからね。自分勝手なイメージで作るわけにはいかないので。ある程度忠実に演じることが必要だなと。
──宮崎さんは円谷幸吉を演じたときはいかがでしたか?
宮崎 とにかくプレッシャーがすごかったんですが、どう演じたところで本人にはならないし、結局自分の体を通しての言葉だったりするので、どうやったところで違うわけです。だったら自分は自分のやり方でやろうと覚悟を決めて。「円谷さん、魂をかしてください」という思いでした。今回も覚悟を決めてやるしかないです(笑)。
──最後にそんな作品へかける思いをぜひ。
池田 内容も台詞もなかなか難しい作品です。だからこそ楽しいし、演じ甲斐があります。ぜひ沢山の方に観ていただきたいです。
壮 池田さんが最初におっしゃったように、読んでいるよりも台詞になったほうがわかりやすい作品で、舞台に出来上がったものを受け止めてくださるお客さまは、たぶんまた違う印象を受けられるだろうなと思っています。そこまで昇華できるように、この作品の世界に深く入って演じたいですし、いかにこの時代の息吹を感じていただき、この時代を生きていた人たちの世界観を伝えるかで、自分たちを通してこの作品の面白さをお客さまと共有できるといいなと思っています。
宮崎 覚悟を持って、役者一同、スタッフの方々と一緒に気合いを持って挑みたいです。一見難しそうに思えるかもしれませんが、観に来てくださった方にはきっと沢山のものを感じていただけると思います。大正という時代の匂いを感じていただけるようにがんばります。
須賀 こういう事実が約100年くらい前にあったということ、世の中に向けて闘ってきた人たちがいたということ、それを今、演劇というものを通して、伝えようと思っています。難しい言葉を吐いている俳優たちを温かい眼で見ていただいて(笑)。
全員 (笑)。
須賀 みんなで一生懸命にこの素晴らしい戯曲を届けますので、ぜひ観にいらしてください。
■PROFILE■
すがたかまさ○東京都出身。1999年、舞台『元禄仇討ち裏事情』で俳優デビュー。2002年『仮面ライダー龍騎』に主演し人気を集める。以降、映画・ドラマ・舞台など様々な作品に参加している。主な出演作に映画『魁!クロマティ高校THE MOVIE』、『天国からのラブレター』、舞台『4 four』(白井晃演出)、『ART』(千葉哲也演出)、『かもめ』(鈴木裕美演出)、NHK連続テレビ小説『カーネーション』などがある。映画『下忍 青い影』(山口義高監督)、『RUN! -3films-』(土屋哲彦・畑井雄介監督)が昨年公開。
みやざきしゅうと○東京都出身。2012年、ミュージカル『薄桜鬼』、翌13年舞台『弱虫ペダル』で人気を博す。ドラマ『弱虫ペダル』にも出演。映画に『ちょっと待て野球部』『新宿パンチ』、ドラマに『マジで航海してます。~Second Season~』『つばめ刑事』など。近年の舞台は、『柔道少年』『PHOTOGRAPH51』、『光より前に ~夜明けの走者たち~』、『マニアック』、『HAMLET-ハムレットー』、『阿呆浪士』など、コメディから翻訳劇まで幅広い作品で活躍している。
そうかずほ○兵庫県出身。1996年に宝塚歌劇団に入団し、『CAN-CAN』で初舞台。2012年より雪組トップスターを務め、2014年の退団後は、ミュージカル・ストレイトプレイ・朗読劇など様々なジャンルの舞台に挑戦する一方、ライブ活動も精力的に行っている。近年の出演作に、舞台『細雪』『魔都夜曲』『アダムス・ファミリー』『戯伝写楽 2018』『GEM CLUB』『マリーゴールド』『Le Père 父』『大悲』『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 –case.剥離城アドラ-』、ドラマ『かもしれない女優たち 2016』(CX) 『勇者ヨシヒコと導かれし七人』(TX)など。
いけだつとむ○神奈川県出身。2000年、「21世紀の石原裕次郎を探せ!」で5万人を超える応募者から選ばれ石原プロモーションへ。翌年、ドラマで俳優デビュー。乗馬や古武道を得意とし、ドラマを中心に映画、舞台で活躍中。近年の主な映画に『影を抱いて眠れ』(和泉聖治監督)、舞台に『私は世界』(古城十忍演出)、『天狗ON THE RADIO』(大浜直樹演出)、『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』などがある。画家としても活動しており現在、個展を準備中。映画『Fukushima 50』(若松節朗監督)が公開中。
【公演情報】
unrato#6『冬の時代』
作◇木下順二
演出◇大河内直子
出演◇須賀貴匡・宮崎秋人/壮一帆/池田努・青柳尊哉・池田努・若林時英・結城洋平・山下雷舞・溝口悟光・戸塚世那/小林春世・佐藤蛍/井上裕朗・羽子田洋子・青山達三
●3/20~29◎東京芸術劇場 シアターウエスト
〈料金〉6,800円 学生(当日引換)3,800円 高校生以下(当日引換)2,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉unrato@ae-on.co.jp
〈公式サイト〉 http://ae-on.co.jp/unrato/
【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】
Tweet